txt:オースミユーカ 構成:編集部

子役のチェックポイント

子どもが主役の撮影仕事が続いている。毎回ドキドキするのは子役選び。たいていはオーディションで選ぶ事になるけれど、役のイメージとぴったりあって、なおかつ現場でうまく立ち振る舞える子を選ぶのはなかなかどうしても難しい。

幼児、小学校低学年の子役たちは一歳年齢が違うだけで理解力や落ち着きがまったく変わってくる。だから小学一年生役なら、小柄で童顔の小学二、三年生が演じた方が演出の理解も深まるし、やりとりもスムーズだ。もちろん気分のムラがある子どもだと限りある時間の中での撮影がより難しくなるので、落ち着いてる子か?集中力はあるか?こちらの言ってる事を理解してお芝居を修正する力はあるか?など短いオーディションの時間の中でチェックポイントがたくさんある。

先日のオーディションでは、“天真爛漫すぎる男の子がお母さんをキレさせてしまう”というお芝居をやってもらった。最終的にはキレた母親をみて悲しい気持ちになって「おかあさんごめんなさい」とつぶやくまでの大きな気持ちの変化を一連でやるので、なかなか難易度の高いお芝居だ。しかも集めている子どもたちは5歳から7歳くらいまで…。う~ん大人だって難しすぎる設定ですまん…。

20人ほどみたけれど、お芝居のうますぎる子は若干鼻につく感じだし、自由すぎるいい感じの子は現場で苦労しそうだし、やっぱり簡単には決まらない。どうしようかと思っているとプロダクションマネージャーの女子に引っ張られて次の男の子が入って来た。完全におふざけモードに入っていて、オーディションを受けているという緊張感など全くない。芝居はなんとかやってみるものの、天真爛漫すぎて落ち着きもない。

こういう子こそ役のイメージそのものだなあと思ってみていたが、あんまりふざけるので「大丈夫だよ、やりたくなければ無理にやらなくてもいいから帰ってもいいんだよ」と声をかけたら急に集中して演技をはじめ「おかあさん、ごめんなさい」の台詞ととともにボロボロと涙を流し始めたのだ。

…むむむ、こ、これはなんなんだ?あやうくこちらまで泣いてしまうではないか。もしかすると本番でもうまく気持ちをもっていけたらこんな感受性豊かな表現ができる子なんだろうか…。あまりにも後ろ髪をひかれたので、ここは普段の彼を知ってる人に聞いてみようと付き添いでやってきていたお母さんだけを部屋によんでもらった。

お母さま曰く「涙を流す芝居はうちでよくやらせてるんで、息子はいつでも泣けるんです。絶対本番でも泣けます」と…。ステージママの言う事は話半分で聞かねばならぬのは世の常。プロマネに「どう思う?」と判断をゆだねたら「あれは芝居じゃないですよ。オースミさんが追い込んだからびびったんですよ。本泣きです。あの子に決めたら撮影がむちゃくちゃ大変になるのでやめてください」と言う。

うーむ追い込んでしまったのかなあ…。でもあの芝居がみられるなら撮影が多少大変になっても、やってみる価値はある…。しかし体が大きすぎて幼稚園児にみえない、などの理由もあって最終的な決め手に欠けた。結局もう一度オーディションを開いてもらって、もっと多くの子役をみてみる事にした。

全ての子役とステージママにリスペクト!

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5分間のショートムービーをCanon EOS 5D、7Dで撮影。撮影はハウススタジオ、幼稚園、河原と二日間に及んだ。カメラマンは松島孝助さん

最終的に、次のオーディションにやってきた演技と子どもっぽさのバランスのいい別の子役に決定した。そもそも子どもらしい子は大人のいうことなんて聞かないもんだし、きちんとできる子はいい子すぎて子どもっぽくないもので、スムーズな撮影のことを考えるとそのバランスのいいところで探っていかざるを得ない。ほんと我ながら選ぶ側の論理も勝手なものだ。でも今回は粘っただけあっていい子役がみつかってほっとした。

前にキャスティングの知り合いから、「娘さん、CMのオーディション受けてみませんか?」と声をかけられたことがある。監督の求めているキャラクターと三歳になる私の娘のイメージがかなり近いのだという。

「お芝居的なことするんですか?」と私。「リビングで家族がテレビを囲んでる設定で、テレビみながら台詞を一言いいます」。…え?決められたタイミングで台詞を言う??「ぎゃ~っ!やだ~!!」途端、撮影現場でごねている娘の映像が鮮明に浮かぶ。

もし仮になにか間違えてオーディションに受かってしまったが最後。私もステージママに変身してなんとしても現場がスムーズ流れるように、タイミングどおりに台詞が出てくるようにと娘を猛特訓させるだろう。

即座に冷静になる私。「う~ん、無理。僭越ながらオーディション辞退させていただきます。ごめんなさい」。子役を選ぶことはなんとかできるけど、子役を育てることは絶対にできない。すべての子役とステージママたちに心から敬意を表します。

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WRITER PROFILE

オースミ ユーカ

CMやEテレ「お伝と伝じろう」「で~きた」の演出など。母業と演出業のバランスなどをPRONEWSコラムに書いています。