「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」を上映する、ハリウッドのTCLチャイニーズ・シアター
取材/文:鍋 潤太郎

はじめに

米国時間12月18日、全米で「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(以降、スター・ウォーズ)が公開された。この「スター・ウォーズ」は、全米公開最初の週末3日間(12月18日~12月20日)で$247.9million(日本円にしておよそ300億円相当)を売り上げ、「公開最初の週末売り上げ歴代第1位」の記録を更新した。また、世界同時公開によるワールドワイドな売り上げは$524.9million(635億円相当)に達した。

世界同時公開という事もあり、この映画を既にご覧になられた読者の方が大多数なのではないだろうか。

…さて、今回のコラムは不思議な事に、「スター・ウォーズ」の作品そのものに関した内容ではない。この映画の為に、わざわざ公開の2週間も前から映画館の前に列を作って並んだ戦士達の、愛と勇気とロマン、そして伝統を守り抜いた姿を追ったドキュメンタリーである。

遠い昔、はるか彼方で

遠い昔、はるか彼方のアメリカ地方。ロサンゼルスはハリウッドにある映画館チャイニーズ・シアターを始めとする全米の映画館で、1977年5月、「スター・ウォーズ」が公開された。この映画は大ヒットし、続編である「帝国の逆襲」が1980年に封切られた。この際、チャイニーズ・シアターの前には、公開前から寝袋を持って泊まり込みで並ぶ人々(以降、戦士達)が登場した。それ以来、シリーズが公開される際には、熱狂的なファン達が泊まり込んでキャンプをしながら列を作って公開日を待つという、歴史的な伝統が生まれた。

実は、筆者は「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」が1999年に公開された際、公開の2ケ月も前からチャイニーズ・シアターの前に並び始めた戦士達を取材した事がある(笑)。当時、チャイニーズ・シアターの前には仮設テントの「基地」が作られ、その横にあった公衆電話には、世界中から激励の電話が掛かって来た。そして、電話が掛かってきた国に赤いピンを立てた世界地図が「基地」に張り出される等、それはそれは盛り上がったものである。

そして、時は流れた。時代は2015年となり、インターネットは高速化され、映画館のオンライン・サービスも充実。人類は何時でも何処でも映画のチケットをスマホから予約でき、座席も自分で好みの位置を指定出来るようになった。そう。もはや列を作ってまで、わざわざ映画館の前で公開の何日も前から並ぶ必要が無くなってしまったのである。

しかし、過去30年余り続く歴史的な伝統に基き、過去のシリーズ公開時には必ず行列を作って並んで来た戦士達が、忍び寄るハイ・テクノロジーの波に屈するはずはなかった。彼らは、この伝統を継承すべく、今回はチャリティー募金活動と組み合わせる事で、みんなで必要もないのに敢えてわざわざ泊まり込んでキャンプしながら公開を待つという儀式(?)を、果敢にも実施。彼らは皆、「これは運命だ」とつぶやきながら、その歴史的な伝統を守り抜いたのであった。

公開の12日前から。「並ぶ事に意味がある」「これは運命だ」

NABA_vol65_4783

お話を伺った、デュアン・ディアス氏

今回、筆者が現地に取材に行ったのは12月6日(日)。まず最初に取材に応じてくれたのは、主催者の1人、デュアン・ディアス氏。ディアス氏によれば、この“列”は、筆者が取材した前日である12月5日(土)正午から正式にスタート。この日から12日間、12月17日(木)夜7時にチャイニーズ・シアターで開催されるプレミアに向けて、みんなで交代で並ぶのだという。この日は30人程が常駐し、折り畳み椅子や寝袋などを持参して並んでいた。お話を伺った後、ディアス氏から、主催者代表のスティーブ・ズリック氏をご紹介頂いた。

NABA_vol65_4791

主催者代表のスティーブ・ズリック氏。「公開まで11日」のパネルの前で

ズリック氏:今回の列は登録制で、既に400人余りの方々が登録されています。このイベントは、難病の子供達を支援するチャリティー募金、スターライト「GIVE actually」キャンペーンと組み合わせる形で、3万ドルを目標に募金を集める予定です。我々はプレミア当日のチケットを、劇場の約3/4席分確保しています。募金に協力して、12月5日から公開までの間に通算24時間以上一緒に並んだ人は、このチケットを購入する権利を獲得し、プレミア試写に入場する事が出来ます。

また、今回の「行列」には、史上初めて、TCLチャイニーズ・シアターの劇場側が全面協力してくれています。我々に敷地の一部を公式に提供し、映画スター達の手形で有名なスペースの一番奥に、我々の為の場所を確保してくれました。プレミア当日は、会場の設営や主要キャストが来場する関係で私達は歩道に移動しなければなりませんが、それまではここを「基地」として列を作り、プレミアを待つ事になるのです。

NABA_vol65_4780

チャリティー募金、スターライト「GIVE actually」キャンペーン。1月以降も、日本からでも募金出来るので、みなさんも是非!

Facebook上にもコミュニティを作り、ここで参加や情報交換を行っているのだそう。

こうしてズリック氏にお話を伺っていると、主催者の1人が声を掛けてきた。「君、15年前にも取材に来てなかった?覚えているよ。あの時は、どうもありがとう」。なんと、「エピソード1」の行列を取材した時にお話を伺った事のある、エリック・ムリロ氏であった。スゲ~な、これ。なんと、15年ぶりの思わぬ再会であった。

NABA_vol65_4776

TCLチャイニーズ・シアターの敷地内に陣取って並ぶ人々。右端で携帯電話を手にしているのがエリック・ムリロ氏

NABA_vol65_4795

今回の列をオーガナイズする主催者達は、スタッフ・カードを下げている。これはエリック・ムリロ氏のカード

NABA_vol65_4777

主催者達のTシャツ。「We’re Home」は、今作のハン・ソロのセリフから。列を作って並んだ期間[12/05-12/17]もバッチリ記載されている。「我々に加わるのだ。それが、お前の運命だ。」と、ダース・ベイダーの名セリフになぞらえたコピーも見える。なかなか心意気のあるデザインである

ゆかりのある人物も、列に

主催者代表のスティーブ・ズリック氏からご紹介頂いた人物の中で、筆者が個人的に印象に残ったのは、ビル氏だろう。ビル氏は、なんと、1977年の「スター・ウォーズ」の公開当時、最初の上映の1時間半前に、現像されたばかりのホヤホヤの70mmプリントをチャイニーズ・シアターに運んだ人物だという。「いや、私はあまり表に出たくないので」というご意向で、フルネームを頂く事と、お写真を撮影させて頂く事は叶わなかったが、ビルという名前は載せてOKというお許しを頂いたので、この場でご紹介させて頂こう。

ビル氏:3ピースに分割され、6チャンネルの磁気音声トラックがついた、大きくて重たい70mmフィルムを、両手に下げて苦労して運んだのを昨日のように覚えています。そのプリントは、まだカラー・コレクションもされていない状態で、本当に「今現像が終わったばかり」の状態だったのです。

と嬉しそうにビル氏。そういうスタッフさん達のご苦労もあって、今のスター・ウォーズ人気に繋がっているのだな~、と肌で感じた瞬間であった。

いよいよプレミア前夜

12月16日、プレミアの前夜、筆者は再びチャイニーズ・シアターの前を訪れてみた。時間は夜9時を回っていた。今年のロサンゼルスの冬は、例年よりも寒い。この夜の気温は15℃位であった。チャイニーズ・シアター付近はプレミアの設営準備で付近の入場が制限されており、彼らは隣接するマダム・タッソー・ハリウッドの横に移動、防寒着や寝袋を用意して、陣取っていた。

NABA_vol65_4817

プレミア前夜。チャイニーズ・シアター周辺はプレミア設営の関係でアクセスが出来ない為、この夜だけマダム・タッソー・ハリウッド横に移動し、陣取る人々

NABA_vol65_4815

「ボクも並んでいるんだよ♪」小さいジェダイも頑張ってます(^o^)

プレミア当日

さて。いよいよ12月17日(木)がやってきた。プレミア当日である。

NABA_vol65_LiningUp_for_StarWars_1 いよいよ待ちに待ったプレミア。上映開始直前の模様(主催者提供)
Photo courtesy : LiningUp for Star Wars Hollywood @ Facebook

やっぱりと言うか、当然と言うか、コスプレをした参加者も多く、この日のチャイニーズ・シアター周辺は「スター・ウォーズ」一色で埋まっていた。また、主催者の発表によれば、今回オーストラリアから来て、この列に12日間並んだカップルが、プレミア当日にチャイニーズ・シアターの前で結婚式を挙げた。2人はR2D2のエスコートにより登場、ダース・ベイダーとチューバッカの立ち合いの下、夢の結婚式を挙げた。どうか、お幸せに♪

更に、IMAXシアターでお馴染みIMAXコーポレーションはこの日、このチャリティー募金のスターライトに対して$5000.00(約60万円相当)を寄付。チャリティーに貢献した。かくして、歴史と伝統を守り抜いた数百人の戦士達は、無事にプレミアを迎えたのであった。めでたし、めでたし。

NABA_vol65_LiningUp_for_StarWars_2 ライトセーバーをかざし、記念撮影(主催者提供)
Photo courtesy : LiningUp for Star Wars Hollywood @ Facebook

公開最初の週末ハリウッド大通りで珍事が

さて。プレミアの翌18日(金)より、とうとう全米公開が始まったが、チャイニーズ・シアターが鎮座しているハリウッド大通り(Hollywood Blvd)の公開最初の週末の様子をご紹介しておこう。

チャイニーズ・シアターでは「スター・ウォーズ」が上映されているが、その道路を挟んだ反対側には、ディズニー直営の映画館「エル・キャピタン・シアター」がある。ここは、ディズニー作品を専門に上映する映画館である。

ご存知のように、2012年10月にルーカス・フィルムはディズニー傘下に入り、今回の「スター・ウォーズ」はシリーズ史上、初めてディズニーが配給を行った作品である。その結果、ハリウッド大通りでは、道路の両側、チャイニーズ・シアターとエル・キャピタン・シアターで、全く同じ作品が同時に上映されているという、ハリウッドの映画史上でも、極めて珍しい事態が起こっていた。

果たして、チャイニーズ・シアターで観るのか?それともエル・キャピタン・シアターで鑑賞すべきか?この2つのシアターは、それぞれに甲乙つけ難いセールス・ポイントがあり、どちらで観るのも魅力的である。

■エル・キャピタン・シアター

ディズニー直営の映画館で、ディズニー作品だけを上映する劇場である。ここでは、ドルビー・アトモス・サウンドとドルビー・ビジョン・レーザー・プロジェクションによる臨場感溢れる上映システムが楽しめる。スクリーンはやや小さいが、上映前にはパイプ・オルガンの生演奏、レーザー・ショウなど、ディズニーならではの楽しい演出が盛りだくさんで、特にお子様連れの方にはおススメ。また、上映されている映画のロゴが入った特製バケツに入ったポップコーンも人気で、このバケツはお土産としても重宝する。

NABA_vol65_4825

「スター・ウォーズ」を上映する、ディズニー直営映画館「エル・キャピタン・シアター」

NABA_vol65_4847

エルキャピタン・シアターで、入場を待つ観客の列。公開最初の週末である12月20日(日)撮影

■TCLチャイニーズ・シアター

観光名所という事もあり、ここで実際に映画が観れるという事を知らない観光客は意外と多い。ここは、観客数1,152席を誇る、ロサンゼルスでも最大級の映画館なのである。IMAXレーザー3Dプロジェクションによる、迫力ある大画面のIMAXシアターで鑑賞出来るのが嬉しい。ここでは、歴代のスター・ウォーズ作品(例外として「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」のみ、シネラマ・ドームで上映された)が上映された、歴史的な映画館でもあるのだ。

NABA_vol65_4851

スターの手形でも有名な、TCLチャイニーズ・シアター外観

NABA_vol65_7223

チャイニーズ・シアターの前で「スター・ウォーズ」の入場を待つ、一般観客の列。公開最初の週末である12月20日(日)撮影

NABA_vol65_7225

昨今のテロに対する厳戒態勢が敷かれ、チャイニーズ・シアターに入る前に、観客は全員、空港同様に金属探知機のセキュリティ・システムを通らなければならない。入場に多少時間が掛かるが、その分、安心して鑑賞出来るというものだろう

もし、1月にロサンゼルスを訪問されるご予定の方は、是非この2つの映画館で「スター・ウォーズ」を鑑賞してみては如何だろうか。どうせ道路を挟んだ両側にあるのだから、2館をハシゴしてみるのも、面白いだろう。

ちなみにエル・キャピタン・シアターでは「スター・ウォーズ」を2月7日まで上映予定だそう。TCLチャイニーズ・シアターについては、公式サイトにてご確認あれ。

次回の「列」は2017年

さて。このコラムを読んで、「次回は自分も、ハリウッドで必要もないのに敢えてわざわざ泊まり込んでキャンプしながら、公開を待ってみたい」と考えた、そこのアナタ。2017年に公開される「エピソード8」の公開時には、是非ともこの列に参加されてみては如何だろうか?きっと、夢が広がるはずである。May the Force be with you…

NABA_vol65_4802

チャイニーズ・シアターの正面には大きなビルボードがそびえていた

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。