土持幸三の映像制作101

txt:土持幸三 構成:編集部

被写界深度について知ろう

監督や撮影監督はドラマや映画撮影において、登場人物が、その場面がより印象的になるよう工夫をこらす。場面によっては主人公の孤独感を、またはヒロインはシャープに、背景はボカして画面から浮きだたせ観客の目を惹くよう撮影する。

このようなときに重要な役割をはたすのが被写界深度(Depth of field=DOF)と呼ばれるものである。フォーカスが合う部分を限定し、背景をどれだけボカすかを決める事だ。被写界深度はレンズの種類と絞り(F値)、被写体までの距離、フィルムサイズに大きく左右される。レンズの種類とはワイドレンズ、標準レンズ、望遠レンズのことで、フィルムサイズは35mmや4×5などだが、最近ではフルサイズやAPS-Cサイズなどのセンサーサイズに置き換えられる。簡単に言うと、センサーサイズの小さなカメラでワイドレンズを使い、被写体までの距離を遠めにとり、絞りを絞って(F値の数字を大きくする)撮影すると被写界深度はかなり広くなる。広くなるとは、フォーカスが合う部分、シャープになる部分が広くなるということだ。

ちなみに、すべての被写体にフォーカスが合っている状態をパンフォーカスと呼ぶ。またパンフォーカスは和製英語なので外国では通用しない。ディープフォーカスやラージャーデフスオブフィールドと呼ばれることが多い。逆に人物等をふわっと浮きだたせる、背景をボカしたいときは、センサーサイズの大きなカメラで望遠レンズを使い、被写体までの距離をある程度近くし、絞りを開けて(F値を小さくする)撮影すると被写界深度が浅くなりフォーカスが合う部分が狭く背景はボケる。

小学校で映像を教えるとき、被写界深度の事は教えていないが、引き画と寄り画の情報の質を説明する写真を見せて違いを発見してもらう時に、人物の写真を見せると背景がボケていることを発見する子供が出てきて、「人物が浮き出て見えて視線が釘付けになる」などと大人びた感想を耳にする事もある。

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被写界深度が狭いカットは人物が浮き出て強調される

ただ、被写界深度は人間の目の見え方とは違う。人間の目はパンフォーカスで、選択はするが見えるものすべてにフォーカスが合っている状態だ。だから、すべてにフォーカスが合っている事の方がよりリアルな印象を受ける。ドキュメンタリー作品にパンフォーカスが多用されるのは、カメラの選択も含めて人間で目を意識している部分もあるのだと思う。逆にフォーカスが合う部分を狭くして、観客に見せる部分を選択するという事は演出なのだ。

また、ワイドオープン、レンズの絞りを開放(F値を一番小さくする)で撮影すると一般的なレンズでは解像度が落ちるのと、フォーカスの合う部分が狭すぎて、被写体が動いている時などは合っている部分が明確でないので映像がシャープに見えない。しかし、この方が自然に近く感じる場合もあり、絞り開放での撮影を好む撮影監督も存在する。

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古いレンズには被写界深度が書かれていたものが多かった

では、一般的な被写界深度の使い分け、コントロールの考え方をみてみる。例えばマスターショットのように場面全体をみせる場合、必然的にワイドレンズを使うことになるので被写界深度は深く、その場所全体の様子が知れて複数の人物の動きが良くわかる。ただ広いロケーションを撮影するので、被写界深度を深く撮ろうとすると絞りを絞ることになり光が多く必要になる。室内だと多くの照明が必要とするのでカメラの設定でISOやシャッタースピード(角度)を調整して光の量をコントロールして被写界深度を決める。逆に人物のクロースアップなどで背景をボカしたい時は絞りを開けないといけないので光が多すぎるとNDフィルター等で光を調整し被写界深度を決める。

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被写界深度が広いカットは大勢の人物が出る時に使いやすい

このように被写界深度はレンズの種類等によっても変化していくので難しいと思われるが、フィルム時代のように高価な被写界深度計算機を買う必要もなくスマホのアプリで簡単に計算できるので撮影の際、チェックしてボケをコントロール、演出してみるのも面白いのではないかと思う。

WRITER PROFILE

土持幸三

土持幸三

鹿児島県出身。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。