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[鍋潤太郎のハリウッドVFX最前線]Vol.72 イギリスがEUを離脱した場合、VFX業界に与える影響は

#鍋潤太郎のハリウッドVFX最前線

2016-09-02 掲載

ロンドンの光景から 全ての画像提供:足立英里氏(ロンドン)
取材/文:鍋 潤太郎

はじめに

読者のみなさんもご存知のとおり、イギリスは2016年6月23日、EU(欧州連合)離脱の是非を問う国民投票を実施。その結果、離脱派が残留派を僅かに上回った事で、為替や株価など世界経済に大きな波紋を広げている。イギリスでは、その後も国民投票の再実施を求める動きが出るなど、今後の動向が注目されている。もし最終的にイギリスがEUからの離脱申請を行った場合、ハリウッドのVFX業界にも多少なりとも余波が予測される。

そこで今回は、タイムリーな話題という事もあるので、もしイギリスがEUを離脱した場合にVFX業界に与える影響について、現場レベルの視点から、予測してみる事にしよう。

※当コラムは、VFXジャーナリストとしての独特の視点でお届けしております

なぜイギリスの出来事がハリウッドのVFX業界に影響を及ぼすのか?

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元々イギリスは数多くのハリウッド映画が撮影されたり、イギリス人俳優がハリウッド映画で活躍したり、「ハリー・ポッター」「007」等のイギリス発のフランチャイズ作品が大成功を収めるなど、ハリウッドとの繋がりは深い。また、ハリウッドのメジャー・スタジオがVFXショットを発注する際、昨今は概算で7~8割方がカナダやイギリスに発注されている。これは、カナダやイギリスが実施しているハリウッド・プロジェクトに対する補助金&助成金制度に、ほぼ完全依存したビジネス・スタイルを採っているためである。

その多くはキャッシュバックの利率が高いカナダに発注されており、次いでイギリスにも多くのショットが発注される傾向が強い。筆者が以前の本欄でご紹介させて頂いたように、カナダやイギリスの助成金制度の影響で壊滅的な打撃を受けたアメリカ西海岸の大手VFXスタジオは、LAの規模を縮小してバンクーバーに制作拠点をシフトする等の「生き残り策」に追われ、この状況下で健闘はしているものの以前と比較すると勢いは失っている。西海岸の大手が勢いを失ったところで、ここに来てカナダでのシェアを拡大したのが「ロンドン勢」のVFXスタジオである。

カナダでシェアを拡大している「ロンドン勢」のVFXスタジオ

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現在カナダのバンクーバー、モントリオールでシェアを広げているのは「ロンドン勢」のVFXスタジオが目立つ。もちろん地元カナダのスタジオや、アメリカ資本のスタジオも活躍しているが、筆者の視点ではここ数年「ロンドン勢」のパワーが著しいという印象を受けている。バンクーバーには数多くのVFXスタジオが進出しているが、ケベック州の大規模な助成金の恩恵を受けるべく、モントリオールを選ぶスタジオもある。「ロンドン勢」のスタジオがモントリオールに拠点を持つ利点として、ロンドン本社との距離が近く、時差も少ないのでマネージメント面の利便さがあるという。

我々日本人は、大西洋とはご縁がないのであまりピンと来ない。しかも日本の世界地図は日本を中心にレイアウトされているし(笑)、地図の両端にあるアメリカ大陸とヨーロッパ大陸の距離についてはなじみが薄い。しかしGoogleマップ等で見てみると、なるほど。確かにモントリオールとロンドンは、LAとハワイの距離とそれほど大差ない。そういえば、カナダの紙幣には今でもエリザベス女王のデザインのお札がある。歴史的に見ても、カナダとイギリスの繋がりは深く「ロンドン勢」がカナダに乗り込んでくる事はある意味自然な流れなのかもしれないが…。

まぁそんな訳で、現在カナダはVFXハブと化しており、この場所で「ロンドン勢」が君臨しているとなれば、イギリス本国の動向が多少なりとも影響してくる事は間違いないだろう。

ロンドンのVFXスタジオ

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♪愉快なロンドン、楽しいロンドン♪…筆者の世代では、どうしてもこの懐かしのCMソングが脳裏に浮かんでしまう。そんな楽しいロンドンには、映画のVFXを手掛ける大手VFXスタジオが複数存在している。しかし本社はロンドンでも、インド資本の参入や米大手ポスプロによる買収など、ハリウッド・ビジネスだけに親会社や資本関係はなかなか入り組んでいて複雑である。

ロンドンのVFXスタジオの現場では、EU加盟国出身者のアーティストやエンジニアの比率も高い。つまり、ロンドンのVFX業界の人材プールはイギリスがEUに加入している恩恵を受けている側面がある。なぜなら、EU加入国の人はイギリスで合法的に就労する事が出来るのだ。

これがEU離脱により、イギリスの就労ビザの制約等からEU諸国からの人材が確保しづらくなると、在ロンドンのVFXスタジオは生産性が下がる事になる。すると、必然的に既に拠点を持っているバンクーバーやモントリオールで裁くショット数を増やし、作業をカナダへシフトしていく事も考えられる。つまり、ロンドンの制作拠点を縮小しメインの制作部隊はバンクーバーかモントリオール、そしてトロントという、LAの大手VFXスタジオが陥ったパターンに近い現象が起こる可能性もある。これは「ロンドンで仕事をする事を、こよなく愛する」人達にとっては、あまり好ましい事態とは言えないだろう。

現地で働く日本人アーティストの声は

今回、ロンドンのVFX業界で働くアーティストの方に、簡単なアンケートを実施してみた。2名の方からご協力を頂く事が出来たので、ここでご紹介させて頂く事にしよう。アンケートの質問内容は、下記の5点である。

Q1:イギリスの国民投票でEU離脱が決まった際、率直にどう思われましたか。

Q2:もしイギリスがEUを離脱した場合、ロンドンのVFX業界にはどのような影響が出ると思いますか。

Q3:ロンドン以外のVFX業界(LAやカナダなど)にはどのような影響が出ると思いますか。

Q4:同僚のみなさんの反応はいかがでしょうか。世間話の中で、同僚やご友人のみなさんはEU離脱がVFX業界に与える影響について、どのようなお話をされておられますしょうか。

Q5:ロンドンにはEU諸国から来ているクルーの方も多いと思います。EU離脱が決まると就労ビザなど、様々な面で影響が出てくると思いますが、ご友人や同僚の方から聞いた話など、どのような影響が出るかお聞かせください。

大関聡氏/フリーランスフレーム・コンポジター

1:僕は各国首脳、キャメロン、EUの話の流れを聞いた結果、てっきり残留に行くと思っていたので、決まった時は「ああ、つらい道を選んだのか…」とちょっとショックでした。

2:イギリスはEUを抜けて独り立ちで他国と競争するほどの力はないように思います。持てるとしてもそれまで時間が掛かる事でしょう。一般経済で不況に陥れば自然とVFX系の仕事も保守的になり、こぢんまりとするかなと思います。不況となれば会社の広告費(コマーシャル)も減るでしょうし。一方で最近法人税を今後さらに値下げする方向というニュースも見ましたが。国力がないとしたら外資で生き残るということなのでしょうか。

3:たぶんLAやカナダは今のまましばらくは継続するのではないでしょうか。カナダのVFXは税優遇措置はそのまま相変わらず仕事を受け続けるでしょうし、LAは法人税の問題が解決しないと、以前のような勢いは取り戻せないかなと思います。インド、中国は下請け先以上の立場を得るのは難しいと思います。

4:たまたま選挙の前に担当プロジェクトが終わった事もあり、離脱云々の話は一回もしたことがありませんでした。

5:おそらく、イギリスにある程度の年数滞在してる人には、国が特別措置で引き続き滞在可能なような政策を取るのではと思ってます。現在、EU圏から来てお店を持つなどして商売をしている人達に「帰れ」という事にはならないと思います。

足立英里氏/LOLA postシニア・コンポジター

1:思ってもいない結果だったので、ショックでしばらく何々をするにもボーっとして手がつきませんでした。もともと国民投票にするのがおかしいと思っています。

2:EU市民またはその家族の雇用流出の恐れが出て来ると思います。私自身がこれに当てはまるので(夫がフィンランド人)、他人事ではありません。

3:離脱によりポンドが暴落したら、たとえ一時的にしても、仕事がイギリス(ロンドン)に流れてくる可能性があるのではないかと思いました。

4&5:上記のような話をしています。またVFXというくくりに限らず、専らイギリスの将来についての話や、政治家の話をよくします。

※足立氏には今回のコラムで使用するロンドンの画像までご提供頂いた。ありがとうございました!

今後の動向に注目

イギリス国内の映像業界はEUが実施する補助金&助成金の恩恵を受けている部分もあり、離脱した場合はその影響を受ける事になる。米メディアの記事を読んでいると、これには長所&短所があるそうだが、ロンドンにあるポスプロ業界に悪い影響が出ない事を願うばかりである。前述の大関聡氏からは、下記のようなコメントも頂いた。

大関氏:イギリス自体まだEUに直接離脱を公言しておらず、こちらでニュースを聞いていると未だに残留交渉の話も聞こえてきます。実際にEUに離脱の申請手続きをとっても実際にはそこから2年後に離脱ということになるらしいです。今は新首相の後、労働党のリーダーの選出で連日のニュースはもちきりで、離脱云々の話はまだその先になると思います。実経済も、おそらく議会での結果に追随するのでしょうから、VFX業界に影響が出始めるとしたら、まだ少し先になるかもしれません。

ハリウッド・ビジネスは全世界をマーケットとしており、その制作やVFXを含むポスト・プロダクションも、今や世界中で行われるグローバルな時代に既に突入している。これからの時代のVFXアーティストは、政治動向や経済ニュースにも敏感であるべきなのかもしれない。いずれにせよ、今後の動向が、ますます気になるところである。


WRITER PROFILE

鍋潤太郎 ロサンゼルスを拠点とするVFXジャーナリスト。


[ Writer : 鍋潤太郎 ]
[ DATE : 2016-09-02 ]
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