txt:ベン マツナガ 構成:編集部

5年ぶりの邂逅でうまれたこと

今から5年前、東日本大震災のあった年の夏。神奈川県に住む知り合いの中学生達が企画して、原発事故の影響で屋外で遊べなくなってしまった福島県南相馬市の中学生達を神奈川県足柄上郡山北町に招待し、そこにある廃校になった小学校で「あしがら子どもキャンプ」というキャンプイベントを開催した。

この時、僕は中学生達から頼まれて、キャンプの思い出映像を作ることになり、子ども達と一緒にキャンプに参加した。キャンプには、神奈川や福島の中学生に加え、開催地となった山北町に住む地元の小学生達も参加した。夏らしい天気が続いた3日間、みんなで小学校の教室で寝泊まりしながら、山や川で思いっきり遊び、夜にはキャンプファイヤーと大盛り上がりのとても楽しいキャンプだった。キャンプを終えた後、僕は3日間の映像を1つにまとめDVDにしてみんなに送った。

それから5年が経った今年の9月。キャンプに参加していた一人の少年から、突然の連絡をもらった。当時は、まだ小学4年生の山北町に住む少年だった。その少年とはキャンプ以来、一度も会ったことはなかったが、彼のことはよく覚えていた。運動神経が抜群にいい男の子で、キャンプの時も中学生のお兄ちゃん達からスーパーキッズと呼ばれ可愛がられていた。久しぶりの連絡にびっくりしたが、その彼も今では中学3年生。聞けば、ストリートトライアルと呼ばれる自転車競技のプロのライダーを目指して日々練習を重ねているという。中学を卒業する前に、これまでの集大成となるデモ映像を作りたいので、手伝ってもらえないか、ということだった。撮影場所は、5年前にキャンプをしたあの廃校になった小学校。久しぶりに彼に会うのも楽しみだったので、僕は快く引き受けた。

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ロケ地となった山北町にある旧共和小学校は、周囲を山々に囲まれ、校内から富士山も望める絶景の場所。思い出の残るこの場所で、ゆうきくんは思う存分ライドした

少年の名前は、ゆうきくんという。小学校での撮影許可がとれたということで、早速ロケハンに向かい、小学校で久しぶりに彼と再会した。今回の撮影スタッフは、ディレクターの西窪さん、スチル撮影のなおきさん、それと、ゆうきくんの友達とかわいい弟達。お母さんも手作りの料理を用意して現場に立ち会い、僕はカメラマンとして参加した。

mitaicinema03_1 © Naoki Morita
スポーツフォトグラファーのなおきさんもゆうきくんを応援している一人。どの写真もめちゃかっこいい
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撮影の準備にゆうきくんの弟もお手伝い。フォトグラファーのなおきさんは、制服を手渡され、中学生役としても出演

ディレクターをつとめる西窪友海さんは、ストリートトライアルのライダーでもあって、2016年の全日本チャンピオンでもあるすごい人。以前からゆうきくんを応援していて一緒に練習したり、西窪さんが出演するパフォーマンス・ショーにゆうきくんも誘って共演したり、尊敬できるお兄さんという感じの人。GoProからもスポンサードを受けている西窪さんは、ビデオグラファーとしても活動していて、今回は、これまで撮影したゆうきくんのライディング映像に、新たに撮影する学校でのシーンを追加して、1本のデモ映像を作るということだった。

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難易度の高いトリックに挑むゆうきくんに声をかける監督の西窪さん。撮影に高さが欲しいと言ったら、校庭の隅にあったテーブルがすかさずやってきた

西窪さんとは初対面だったが、とても明るく前向きで、一緒にやっていて楽しい人だった。撮影は、学校の屋上、体育館、校庭と様々な場所でライディングシーンを撮影し、教室では授業風景シーンなども撮影した。授業シーンで登場する先生役は、当初、僕がやることになっていたらしいが(笑)、撮影の当日に、立ち会いとして来てくれた施設の方が元学校の先生ということを知り、急遽お願いして出演してもらった。金八先生の再来とも思わせる名演技をしてくれた。

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GoProにジンバルをつけて撮影する西窪さんとスチルを撮るフォトグラファーのなおきさん。二人ともストリートトライアルを撮り慣れているだけあって、いい瞬間をかっこよく捉える

ライディングシーンのメインカメラは、GoPro。授業風景や一部のオープニングシーンを僕がCINEMA EOS C100で撮影し、何ショットかドローンを使った空撮も行った。

ストリートトライアルは、普段自転車で走らないところでトリックを決めるのが、注目を集める要素の1つ。なので、西窪さんやゆうきくんが出すアイデアは奇抜なものばかり。普段の仕事の感覚でいうと、それをまともにやろうとすると結構手間がかかったり、準備が必要だったり、ついつい余計なことを考えてしまうことも多いが、彼らは身の回りにあるものを使って、どんどん形にしていく。彼らの自由な発想はとてもいい刺激になった。

世代から世代へ受け継ぐもの

mitaicinema03_2 © Naomi Morita
今回のオールスタッフ&キャスト。アットホームだけど、みんなが真剣でとても楽しかった

今回参加して特に僕が感心したのは、西窪さんのゆうきくんに対する姿勢だった。西窪さんはとにかく明るく前向きな人。現場でネガティブなことは一切口にせず、ゆうきくんの希望を少しでも形にしようと前向きな言葉だけをかけていく。やる技も可能な限り高く設定し、本人が無理だと言えば、すぐに別のアイデアを出してくる。単にかっこいいライディングの映像を作るというよりも、これを元にプロへの布石を作ってあげたいという彼の思いが会話の節々から伝わって来る。

撮影当日、地元タウンニュースも取材に来ていたが、なぜ、今回の映像を作ることにしたのか、という問いに答える西窪さんの言葉がとても印象的だった。“自分もまだ無名だった頃、知り合いが自分の映像を作ってくれたことで、注目を浴び、今の自分がある。自分も頑張っている若い子がいたら、同じことをやってあげたい”。西窪さんが、熱くゆうきくんに向き合っている理由がよくわかった気がした。

実はゆうきくんの家族は、春から海外へ移住することを決めている。子ども達の将来を考えて、お父さんが一大決心をしたのだ。ゆうきくんが地元の学校での撮影にこだわったのもそのためだった。映像はどういう作品であれ、関わった人のいろんな思いがその中に記憶されている。そしてその記憶は、時間と場所と形を超えて、いつしかまた取り出される。今回は、5年ぶりに再会したスーパーキッズからとてもいい時間を取り出してもらった。

12月14日に公開されたゆうきくんのデモ映像「SCHOOL RIDE」。彼らの今後の活躍が楽しみです!

WRITER PROFILE

ベン マツナガ

未来シネマ / ディレクター お米を作りながら、ドキュメンタリーやPVの制作を手がける