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[東京Petit-Cine協会]Vol.79 日本映画、そして世界へ出て行くこと

2016-12-20 掲載

txt:ふるいちやすし 構成:編集部

日本映画の閉塞感と未来とは

今年も様々な映画が話題となり、興行成績がどうだとか観客動員の記録がこうだとか、ワイドショーは囃し立てている。にも関わらず、相変わらずそこかしこから聞こえてくる日本映画の危機という言葉。独自の世界観で映画を作り上げ、世界でも高い評価を得、ついに日本のメジャー映画を手掛けるようになった是枝裕和監督ですら、声高にこの危機的状況を憂いでいる。

そりゃそうだ!と思う。人口が減り、映画館へ足を運ぶ人が減り、そもそも街でデートするカップルが減り、そして小さな映画館は大規模ショッピングモールと同じ経済理論でシネコンと大手配給会社に押しつぶされ、その規模から逆算すると、もうテレビでお馴染みのスターによる、本屋大賞でも取った原作モノで、テレビで大いに囃し立ててもらわなきゃ立ち行かない。そんな論理で作られた映画が世界で受け入れられるはずがない。後はしぼんでゆく国内の需要を食い合い、残ったごく一部の会社だけで終焉を迎える。これは音楽業界が辿った道と同じだ。

悪いが私はそんな泥舟に乗るつもりはない。メジャー映画には何の希望も持っていない。幸運にも今の時代には優れた映像機器があり、小さな規模の作品でも世界に打って出るクオリティーは保てるし、その道もあるように思う。それを模索するのがこのコラムの目的であり、私の進む道なのだ。

そんな中、思いもよらない方法であっさり世界基準映画を作り上げ上映を成功させているのが、前回からお話を伺っている井上雅貴(いのうえまさき)監督だが、今回も引き続き、日本映画をそして世界へ出るという事をどう考えているのかを伺ってみたい。

さらに語る井上流の考え方

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井上監督:日本映画にもちゃんと言いたい事があって、それを表現している映画はあるんですけど、そういうのがなかなか届かないというのはありますね。テレビでは流れないし、そういうのを知らないだけで、知ればきっと楽しめるんでしょうけど、(オーディエンスは)随分損をしていると思います。

もちろん使ったお金は回収しなければならないわけですから、その為に有名な俳優を使ったり、内容に関係なくても誰かの音楽を使ったりなんてことはよくある事です。そのお金が大きければ大きいほどきっとビビっちゃうんだと思うんです。それは映画プロジェクトの体制の問題でしょうね。ただ、(深い意味を持つ映画を)作れないということではないと思うんです。あんまりお金をかけないから、内容に関してはあんまりあれこれ言わないでね、って言えるバランスは大事だと思います。

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井上監督:それはアメリカでも、例えばロバート・ロドリゲスなんかはそういう体制でやってるみたいで、スタジオもわざとハリウッドから離れたところにしてあって、文句言いそうな人がなかなか来れないという環境らしいです。それはいいですよね。ちゃんと体制から考えて作るということが大事なんだと思いますよ。日本の場合は映画の作り方がある程度フォーマット化されちゃってて、体制から変えようとする人は少ないですよね。

実は私も、そのフォーマット化された世界を変えようとは思っていない。それはそれで実際多くの人が楽しんでるわけで、回収や利益を産むシステムとしてはそれでいいんだと思う。ただそこでアートや哲学があまりに希薄になっているような気がして、危機感を覚えるのだ。だからそれはそれとして、せっかく今の機材や技術があるんだから、小規模プロジェクトでこそ、内容のある物を作るべきだと考えている。私はそれがいわゆる日本のエンターテインメント作とは対極にあるように感じているのだが、井上監督はそうは考えていない。

井上監督:やはり、人に解ってもらえないとアートではないでしょ。面白いものじゃないと残らないですよね。ピカソだってダリだって、やっぱり面白いですから。それは“人を楽しませる”という意味では、エンターテインメントですよね。“人を騙して楽しんだ雰囲気にさせる”という事がエンターテインメントではないんです。

人を喜ばせるという意味では(僕が作っている物が)アートであれ哲学であれ、それはエンターテインメントなんです。自分がこういうテーマで作った時間でその中に入ってもらって、何かを体験してもらって、それがエンターテインメントだと思っているんです。そういう楽しみ方を知っている人は、日本にもたくさんいると思いますよ。だって、海外から持ってきた美術作品で美術館が大盛況になってるじゃないですか。

ただ、映画に90分、2時間と費やすには、日本人はきっと忙しすぎるんだと思いますよ。なんでもきっちりやろうとする分、心にゆとりができなくて、ゆっくりそういう物を楽しめる人が少ないというのはあると思います。あと、例えばロシアだと、夜が長いというか、暗い時間が長いので、みんなやることがないから映画や演劇、バレエも含めて劇場に行くんですよ。それは大きなアドバンテージですよね。

いずれにしても、ある種のインテリ層の目を映画に向けてもらわなければならないのだろうか。絵画、彫刻、そして写真まではギリギリ美術として認識されている気がするのだが、映画ではなかなか難しい。とはいえ、タルコフスキーなどのロシア映画は、日本の映画館でもなかなかの人気を博している。井上監督が目を付けているのはむしろそういう面だと言う。そういう映画ファンがいるという事を解った上で、“ロシア映画”を作ろうと思ったらしい。

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私としては日本のアート映画として、ロシアのアーティスト達のやってきた事をうまく昇華させたいと考えているのだが。彼の視点は少し違うようだ。

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井上監督:もちろん、ロシア映画が好きな人がたくさんいるという事は見越して作ってます。更に編集段階でもいろんな人に意見も聞き、みんなが面白いと思える物に変えていったりもしています。そういうマーケティングみたいな事って大事なんです。それは内容だけではなく、例えば上映館にとって受け入れやすいものという視点でも、かなり考えています。もちろんこの作品はシネコン用ではないですけど。シネコンだったら、シネコンで成立する映画を作ります。

聞く所によると、今、日本の映画界に大作を撮れる監督があまりいないらしいんですよ。俺はそういうのを目指したいですね。お金を稼ぐ為だけという意味ではなく、本当の大作を作りたいですね。究極をいうと俺は観客なんです。自分が見たい、面白いと思える作品を作りたいだけなので、そういう意味で観客目線なんです。これからはそうやって、劇場と一緒にやっていく気持ちがないといけないと思いますよ。

先日も、ミニシアターの館主があつまる会に行って挨拶してきたんですけど、そういう所で制作側も興行側と知り合い、一緒になってイベントとして映画を作り上げていく事が、これからは大事だと思います。俺もできるだけ劇場にいるようにしていますし、映画館が人が集まれる場所として、映画に関わる全ての人が一緒になって底上げしていかないとダメですよね。だからそれに合わせた映画を作るというのも大事だと思っています。単純に物語を作るのではなく、体感できる作品を作っているつもりです。それは音のバランスとかも全て計算して作っています。

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完全なアーティスト肌の人だと思って話を始めたのだが、彼のエンターテインメント、お客さんを楽しませるための考え方と体制を作る努力は、人並み外れていると感じた。私が今感じている作り手とオーディエンスの距離感、またその間に立ちはだかる、配給や上映館のハードル。これを取り除かない限り日本映画の未来は危うい。だが、まずそう感じてしまっている自分に問題があるのではないかと、彼と話している内に感じてしまった。彼のようにもっと素直に、作り手として上映館やオーディエンスと共にある感覚が一番大切なことなのかもしれない。今月になって続々と各地での上映も決まっているので、この「レミニセンティア」をぜひ一度“体感”していただきたい。

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【作品詳細】

日本人監督が自主制作で描く日本映画史上初の完全ロシア語SF映画「レミニセンティア」。

レミニセンティア=記憶の万華鏡

忘れたい記憶がありますか?取り戻したい記憶はありますか?あなたの記憶は真実ですか?記憶をテーマに日本人監督がロシアに渡り、ロシアSF感動作を作り上げた。記憶を消すことのできる父と絵が大好きな娘、父は悩める人々の記憶を消し、その記憶で小説を書いていた。しかし、ある日、愛する娘との思い出が消えている事に気づく。忘れたい記憶と取り戻したい記憶、果たして記憶に翻弄される人間の存在とは何なのか?

監督:井上雅貴
出演:アレクサンダー・ツィルコフ、井上美麗奈、ユリア・アサードバ、ほか
2016/日本/89分/STEREO/16:9/ロシア語/配給:INOUE VISUAL DESIGN
公式サイト:http://www.remini-movie.com

横浜シネマリン
2016.12.24(土)~12.30(金)17:00~
2017.1.2(月)~1.6(金)19:30~

大阪第七劇場
2017.2.4(土)~2.17(金)

豊岡劇場
2017年3月公開!!
ほか全国順次公開!!詳しくは公式ホームページ劇場情報で確認してください。

【井上雅貴】
1977年、兵庫県生まれ。日本工学院専門学校、映画科にて16mmの短編映画を製作し始める。卒業後、MVビデオ、CM、TV番組などのディレクターをつとめ、2005年に有限会社INOUE VISUAL DESIGNを設立。映画編集として石井岳龍監督の「DEAD END RUN」「鏡心」に参加。メイキング監督として、「スカイハイ」「最終兵器彼女」「ラフ」「ディアフレンズ」「犯人につぐ」「腑抜けども、悲しみに愛を見せろ」「シャカリキ!」「しあわせのかおり」「きみの友だち」「毎日かあさん」「深夜食堂」など数々の映画作品に参加。映画制作のノウハウを多方面から学ぶ。

アレクサンドル・ソクーロフ監督のロシア映画「太陽」にメイキング監督として参加。3ヶ月ロシアに滞在し、ロシアの映画製作を学ぶ。ロシアでの撮影を決意し、映画企画を進める中、内容、撮影、共に商業映画の企画として難しい為、自主制作を決意。いままで参加した映画の知識をすべて使い映画を完成させる。今回が初長編映画デビュー。


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ふるいちやすし 自身で脚本、監督、撮影から編集、音楽までもこなすマルチプレーヤー。


[ Writer : ふるいちやすし ]
[ DATE : 2016-12-20 ]
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