土持幸三の映像制作101

txt:土持幸三 構成:編集部

ニューヨークを感じる

tsuchimochi101_18_3

昔の雰囲気の残るマンハッタン橋周辺

昨年後半から複数のプロジェクトが動き出しており、企画書・シノプシス・脚本を書くことに時間をとられているが、今回は一つのプロジェクトのシナハンおよびロケハンを兼ねて三日間ニューヨークに行って来たことを書こうと思う。

このプロジェクトは演劇用の原作があって、それを映画用にアレンジして僕が初稿を書いた。主に外観をニューヨークで撮影し、室内シーンなどは極力日本で撮影して予算を抑えようというのが、プロデューサーとの話し合いで決まっていた。実際にニューヨークで撮影するのは三日から五日程度になるのではないだろうか。とはいえ、ニューヨークには行ったことがなく、初稿の段階ではインターネットでの情報を頼りに、演劇用での設定や、現在の状況などを確かめながら想像で書いていたので、細かい雰囲気がわからずストレスを感じていたが、今回のロケハンで街の雰囲気を少し感じ取ることができた。

低予算で製作することが多い僕の場合、自分で脚本を書き、演出することが多い。書いている段階で、撮影場所などもある程度想定して書くことが多く、全く想定せずに書いた今回は、多少の不安が無かったわけではない。ただ、アメリカはある程度の抜け道と言うか、なんとなく、どうにかなるのではないかという安心感が僕にはあり、技術スタッフは豊富にいるので撮影できないというリスクは少ない。

英語でのコミュニケーションはあまり心配ないが、短い時間で効率よく見て回るには現地での協力者が必要で、実際に撮影の時にも現地スタッフが必要になる。コマーシャルや予算の多い映画とは違って、低予算の作品ではその創り方を経験している人が望ましく、なおかつ、ほかのスタッフとの意思疎通ができるよう、日本語が話せる人が必要だ。

今回は知人にお願いして、知り合いの知り合いの、そのまた知り合いでニューヨークで映像制作をなさっているH氏を紹介していただいた。メールで数回やり取りをしただけだったが不思議と不安はなかったので、セントラルパーク近くのビルで待ち合わせることにした。

tsuchimochi101_18_4

定番のセントラルパーク

H氏と無事に会え、まずは脚本にも出てくるセントラルパークを歩いてみた。多くの映画やドラマで撮影される定番のロケーションを見ると同時に、ニューヨークらしさが感じられる場所がないかを重点的に見て回った。緑が多い公園だと、場所はニューヨークでも、樹木に詳しくない限り日本の公園と見た目の違いが少ないので、せっかくニューヨークに来た意味がないからだ。

その後、一番の懸案である主要登場人物が住んでいるアパートを見て回った。アパートの中の撮影は日本でもできなくはないが、やはり家具や冷暖房施設、キッチン家電などの違いは明らかにあるので、それを日本で再現するのは大変だろうとプロデューサーと話していたからだ。脚本での設定はブルックリンにあるアパートで、裕福でないシングルマザーと、その友人がシェアして暮らしている2ベッドルーム。

tsuchimochi101_18_1

イメージと違ったアパート

ブルックリンは、今までいろんな映画で取り上げられている。僕は「フレンチ・コネクション」のカーチェイスシーンにでてくるような殺伐とした、労働者階級が多い場所をイメージしていたが、実際に行ってみるとオシャレなカフェやオフィスが多く、最近では家賃も高騰しているそうである。見たアパートは、少しオシャレ過ぎたのと、カメラを置ける場所が限られていたので、その後で見たクイーンズ地区のアパートの方が良かった。ただ、ブルックリン橋周辺ではニューヨークらしい場所が点在していて、良いロケハンが出来たと思う。短い間に効率的にロケハンができたのでH氏には感謝せねばなるまい。

tsuchimochi101_18_2

ブルックリン橋周辺は撮影場所が多い

初めての場所を舞台にすると、当然ながら脚本執筆時と実際のロケーションや雰囲気の違いがでてくる。そのロケーションと特長をうまくとらえ、予算の制限の中で効率的に撮影する必要性を強く感じると共に、現地スタッフの重要性を再認識するニューヨークロケハンだった。

WRITER PROFILE

土持幸三

土持幸三

鹿児島県出身。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。