txt:手塚一佳 構成:編集部

スチルカメラの金字塔「Leica SL」

RED Digital Cinema創始者ジム・ジャナードが提唱した、デジタルカメラにおけるスチルとモーションの機材的融合「DSMC(デジタルスチルモーションカメラ)」の理想は広がり続け、実用化のレベルに達している。ファッション雑誌にスチルが使われることの多いRED Digital Cinemaのシネマカメラ群のみならず、スチルカメラ側からのアプローチでも例えばPanasonic Lumix GH5などは旧世代のシネマカメラが裸足で逃げ出すほどの性能を誇っている。

そうした数々のスチルシネマカメラの中でも、新しい金字塔が出来上がりつつある。それが、今回紹介するLeica SLだ。もちろん今回も、例によって仕事のために買って中古市場で値段が付かないくらいにバリバリに使い倒している、フル自腹レポートである。

SLを構える筆者(鈴木誠氏撮影)。我ながら楽しそうに撮っている

バージョンアップで見えてきた素晴らしい特性

Leicaは、非常にコンサバティブな印象があるブランドではないかと思うが、実はそうではない。常に最新の技術を取り入れてきているブランドで、だからこそスチルカメラにしては非常に高額な価格でありながら熱烈なファンを抱えるカメラのトップブランドとして君臨している。例えば敢えて動画機能を外してきた最新のライカM10も、そのクラシカルな外見と機能宣伝ながらも実は最新の画像処理チップ(Leica SL同等)とWi-Fiコントロールまで搭載している。

Leicaにとってフルサイズセンサーのハイエンド機となるLeica SLも、Cinema4K、世界最高クラスのEVF、10bit Log外部収録などなど、非常に多彩な機能を搭載している。いや、多彩な機能を搭載しているというのは実は間違いだ。日本の電子部品や、もちろんメーカー本拠のあるドイツのレンズ技術など、世界最高のパーツをその資金力とブランド力を元にかき集めて作り上げた、人類最高のスチルカメラの一つがLeica SLなのである。その結果として、当然にそうした機能は搭載されているのだ。

多くのスチルシネマカメラ特有の問題も、このLeica SLにはほとんどない。例えば当然に動画収録中もEVFは使えるし、なんとちゃんと4Kのピントが見える高性能だ。標準レンズもズームさえ行わなければ充分に映像に耐えられるレベルのものだ。そのため、スチルシネマカメラに必須の大がかりなRIGもそこまで必須ではなく、状況に応じてレンズサポートと外部収録機程度で済む。

フルHDであれば120Pまでのライカ判フルセンサーを生かしたいかにもLeicaらしいボケの強い美しい映像が、4Kであれば24PのSuper35mmの映像が得られる。内部記録は4:2:0 8bit。外部出力は驚くべき事にHDMI1.4を利用した4:2:2 10bit。必要充分な性能だ。

このカメラが2016年夏頃のファームアップで動画機能を大幅に向上させたことで、我々動画系ユーザーの注目を集めることになったのは、当然のことと言える。

APS-Cサイズでの比較

では早速その実写性能を追いかけてみよう。とはいえ、情報に敏感なPRONEWS読者諸賢はすでにLeica SLの写真比較など見飽きたことだろう。話題のカメラだけに敏感な人は必ず調査をしているはずだから、当然のことだ。かといって膨大なレンズ群の数だけの動画を見る読者はいないし、そもそも動画では比較がしにくいので、それもまた現実的ではない。そこで今回、筆者は一計を案じてAPS-Cでのサンプル写真を撮ってみることにした。

Leica SLの場合、HDであればライカ判フルセンサー撮影も可能なのだが、4KではAPS-Cサイズの上下を切った感じのセンサー利用となる(もちろんHDでもAPS-Cセンサーサーズに指定すれば4Kと同様の画角になる)。

APS-Cサイズということで悩んだ結果、被写体は最近弊社の被写体用に仕入れたドールにしてみた。パラボックス社製の47cmドールだ。まずは使用するレンズの説明から。

アピールポイント:Leica SLマウント標準ズームである。泣く子も黙る圧倒的な光学性能。各社単焦点レンズを含め、Leica現行単焦点以外のほとんど全ての市販スチルレンズよりも光学解像度が高い(恐ろしいことに大規模映画用の一部のシネマレンズを除いた大半のシネマレンズよりも実は高性能だ)。セットレンズにするとLeica SLのレンズにしては安い。ほとんどの撮影がこれ一本で済んでしまう。フォーカスで画角変化しない。AFも手ぶれ補正も優秀。

マイナスポイント:ズームでF値が変わってしまう。ズームの際にカチカチとF値調整のための音が出てしまう。フォーカスリングが回転量とフォーカス値が一致しないため物理的マークでのフォーカス記録ができない。


■ライカ アポ・バリオ・エルマリートSL f2.8-4/90-280mm

アピールポイント:標準望遠ズームである。その性能は、24-90以上に他社レンズを圧倒する。単玉望遠レンズでもこれを上回る性能のレンズはLeica製も含めても本当に少ない。高級シネマレンズでも大抵のものよりはこのレンズの方が上。24-90にあったズームの際の異音はないので動画でズームできなくはない。この性能にしては安い。歴史的名玉になるのは間違いがない。フォーカスで画角変化しない。AFも手ぶれ補正も優秀。

マイナスポイント:ズームでF値が変わってしまう。フォーカスリングが回転量とフォーカス値が一致しないため物理的マークでのフォーカス記録ができない。非常に重い為RIGを組みたいが、フォーカスリングの特性のためにRIGが組みにくい。


■ライカ エルマリート R 28mm F2.8
(標準Mマウントアダプタに無接点のMマウント用Rマウントアダプタを亀の子に重ねて装着)

アピールポイント:かつてのRマウントライカの定番。数が出ているため10万円前後の安価で手に入る。他社現代レンズと比較すると充分に高性能。フォーカスでの画角変化はほぼない。

マイナスポイント:オールドレンズなので解像度はそれなり。マウントが長くなるため扱いが面倒。AFなんてない。


■ライカ バリオ・エルマー R 70-210mm F4
(標準Mマウントアダプタに無接点のMマウント用Rマウントアダプタを亀の子に重ねて装着)

アピールポイント:かつてのRマウントライカの定番ズームレンズ。直進ズームなので体感的に操作できる。他社現行レンズと比べても高い光学性能。

マイナスポイント:オールドレンズなので、ライカの現行レンズには敵わない。直進ズームなのでRIGが組めない。マウントも含めやたらと長大になる。コーティングもへったくれもないのでパープルフリンジも出る。光の回析ドンとこい!直進ズームなのでフォーカスでズーム変化とか考えるだけ無駄。考えるな、感じろ。AFは聞くだけ野暮。


■Canon EF16-35mm F2.8L II USM
(NOVOFLEX SL-EFマウントアダプタを使用)

アピールポイント:EF定番高級ズームレンズ。誰もが持っている一本をマウンタ一つで使えるのは便利だ。AFも使える。インナーフォーカス、インナーズームなのでなんとこのレンズではズーム撮影ができる!動画撮影では重宝する。

マイナスポイント:光学性能はLeicaレンズには当然敵わない。あくまでもシネマズームレンズが手元にない時の緊急用だが、AFが効くズームレンズというのは本当にありがたい。


■Canon EF24-105mm F4L IS USM
(NOVOFLEX SL-EFマウントアダプタを使用)

アピールポイント:EF定番ズームレンズ。このレンズを持ってない人はいないだろう。長大な範囲をカバーできるので大変便利。AFも使える。Leica SL標準ズームの代わりにはならないが予備にはなる。

マイナスポイント:光学性能はLeicaレンズには当然敵わない。全体に白っぽくなってしまう。あくまでも緊急用。スチルっぽい味付けには向く。


■コシナ フォクトレンダー COLOR-SKOPAR 20mm F3.5 SLII N Aspherical
(NOVOFLEX SL-EFマウントアダプタを使用)

アピールポイント:コシナフォクトレンダーの定番単玉。案外綺麗な広角が撮れる。

マイナスポイント:歪みを楽しむレンズ。LeicaのMマウント広角には敵わないがそれも味。


■カールツアイス Distagon T* 3.5/18 ZE
(NOVOFLEX SL-EFマウントアダプタを使用)

アピールポイント:あのDistagon。綺麗な広角が撮れる。Leicaレンズに案外負けてない。動画撮影にも向く。

マイナスポイント:同性能のLeica Mに比べるとマウントアダプタを含め非常に大きくなる。独特の冷たい味がある。

以上がLeica SLでスムーズに動いたレンズとなる。充分に実用に耐えると言える。続いて、工夫次第で動いたレンズ。


■SAMYANG 35MM T1.5 Cine Canon
(標準Mマウンタにノンブランド無接点EFマウンタを装着)

アピールポイント:かなり使える。室内環境ではずば抜けた映り。Leicaレンズとは違う方向性で面白い。Cinema系のギアが付いているので扱いが楽。

マイナスポイント:まずマウンタがNOVOFLEXが使えない。無接点のものを特別に探す必要がある。現代レンズにしてはコーティングが甘いらしく、今回は紹介してないがライティングをコントロールしてない環境、特に屋外環境ではフレアやゴーストの多い写りになる。

続いて、マウントアダプタ経由だと少々不安定でLeica SLでの実用にはお勧めできないレンズ。動かないこともあると割り切れば使える。


■SIGMA 35mm F1.4 DG HS
(NOVOFLEX SL-EFマウントアダプタを使用)
上:SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM
下:SIGMA 35mm F1.4 DG H

アピールポイント:かなり発色が良い。Leicaレンズに迫る。費用対効果抜群。AFも使えなくはない。

マイナスポイント:動作が不安定になるときがある。その場合にはカメラ本体の再起動が必要。Leicaの35mmを持っていたら付けるかどうかは悩むところ。

■SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM
(NOVOFLEX SL-EFマウントアダプタを使用

アピールポイント:この価格でこの映り。充分です。費用対効果抜群。Leica SL標準ズームよりもズーム映像は撮りやすい。AFもやや使える。

マイナスポイント:動作が不安定になるときがある。その場合にはカメラ本体の再起動が必要。


■全く動かなかったレンズ

これは悲しみと共に写真だけ掲載しよう。それぞれEFカメラでは充分に実用に耐える素晴らしいレンズたちだけに、Leica SLで動かないことを指摘するのは忍びない。特長としては、20年以上前の古めの設計か、あるいはサードパーティ製で同じく古い仕様のレンズのようだ。

このように、マウントアダプタを介すことで多種多様なレンズに対応することが可能となっている。SLのフランジバックの短さと高性能さ、さらには電子接点がないLeica M系への対応力が生んだ結果だ。Leica SLへの切り替えはレンズ資産が、と心配する向きもあるが、さほどの心配はないことがこれでおわかり頂けたのではないだろうか?

なお、今回テストに利用したNOVOFLEX SL/EOSは他のマウントアダプタ同様、ライカプロショップ東京など、ライカのオフィシャルショップで購入できる。ライカの公式販売品というのはとても安心感がある。


“次頁▶APS-Cサイズ実写テスト”

APS-Cサイズ実写テスト

続いてAPS-Cサイズでの実写テストだ。条件は、完全外光遮光、LEDライト3灯でのドール撮影だ。F=4 ISO=100 1/50に、できる限り統一した。実は筆者はドール趣味者ではないので(なかったので?)かなり苦労したが、コツを掴むと非常に楽しいものであった。


■16mm撮影テスト(ライカ判換算24mm)

Canon EF16-35mm F2.8L II USM

16ミリだとCanon 16-35mmしか撮っていないが、その実力が良くわかる。明るく、これ一枚だけならまあ問題はないクオリティだ。商業大規模シネマは無理でも、それ以外なら商業撮影でも余裕でこなすだろう。電波に乗せたり強く圧縮を掛けたらわからないレベル。


■18mm撮影テスト(ライカ判換算27mm)

カールツアイス Distagon T* 3.5/18 ZE

ご覧の通り筆者の環境ではDistagonしか撮ってないが、発色が美しく破綻もない。本当に素晴らしいレンズだ。


■20mm撮影テスト(ライカ判換算30mm)

コシナ フォクトレンダーCOLOR-SKOPAR 20mm F3.5 SLII N Aspherical

この画角ではカラースコパーしか撮ってないが、特長ははっきり出ている。新品なのに3万円前後で手に入れたレンズだが、充分な画作りを見せつけている。費用対効果が良い。


■24mm撮影テスト(ライカ判換算36mm)

Canon EF16-35mm F2.8L II USM

Canon EF24-105mm F4L IS USM

SAMYANG 35MM T1.5 Cine Canon

ライカ バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.

ここから一気に競争が、と言いたいのだが、標準ズームレンズが圧倒的で言葉も出ない。SLのハイテク機能でレンズのカラープロファイルが自動で適用されているのも大きいが、それ以前にレンズそのものの描写力が全く違う。そんな中、案外SAMYANGが健闘しているのが面白い。回析やパープルフリンジなど光のイタズラもほとんど見られない。室内撮影には向いているレンズだ。

Canon 24-105mmはボケも変だし形も歪んでいるがまあしょうがない。動画用途のレンズではない。Canon 16-35mmは安定して使えている。Leica SL標準ズームに比べると一目で劣るが、単玉であるSAMYANGに迫っている。


■28mm撮影テスト(ライカ判換算43mm)

Canon EF16-35mm F2.8L II USM

Canon EF24-105mm F4L IS USM

ライカ エルマリート R 28mm F2.8

ライカ バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.

同メーカーでも案外画角の目盛りや内部信号と実際の画角が違うのだなあと実感できる焦点距離。とにかくLeica SL標準ズームの切れが目立つ。Leica Rマウント定番のR28は、こんなもんだったかなあ、という描写。もちろんCanonの2本のズームレンズよりは当然に綺麗なのだが。思い出補正か。この焦点距離でのCanonは2本のズームレンズの差が鮮明に残酷に出てしまっている。24-105は、全体に濁った感じにすら見える。Canonズームレンズにおいては価格ランク付けと性能が比例していることがよくわかる。


■35mm撮影テスト(ライカ判換算53mm)

Canon EF16-35mm F2.8L II USM

Canon EF24-105mm F4L IS USM

SIGMA 35mm F1.4 DG HSM

ライカ バリオ・エルマリートSL F2.8-4/24-90mm ASPH.

いよいよ標準焦点距離。Canonズームレンズ2本の角度がちょっとずれてしまっている。NOVOFLEXマウンタの重量分を計算していなかったためで、大変申し訳ない。ここに来て、ようやくCanon 24-105がその実力を発揮し始めてほっとしている。細部を見てもまあ見られるレベルだ。だが16-35はさらにその上を行く。35mmはこのレンズの最広角の筈だが、やはり各社標準領域は気合いが入っていることがわかる。

驚くべきはSIGMA Art 35mm。価格を無視した凄まじい描写力だ。髪の毛や草花はもちろん、画面端の服の布地まで破綻がない。しかし、Leica SL標準ズームレンズはそのさらに上を行っているのがわかる。単玉と平気で渡り合うどころか圧倒する、本当に化け物だ。


■40mm撮影テスト(ライカ判換算61mm)

Canon EF24-105mm F4L IS USM

ライカ バリオ・エルマリートSL F2.8-4/24-90mm ASPH.

Canon 24-105とLeica24-90の対決。もちろん価格から行っても当然に勝負にはならないのだが、両レンズの特長がはっきり出ている画角だ。24-105は恐らくこのあたりが最高の写りとなっていて、樽形の歪みはほぼ消えている。全体に濁った感じはまだ少しあるが、それもだいぶ抑えめだ。カメラのおまけに付いてきたズームとはいえ、さすが赤帯Lレンズというところだろう。

対するLeica SL標準ズームは、全く破綻がなく単玉と見まがうばかりだ。画面の端を見ても、全く歪みも妙なボケもない。色合いから見て自動での補正が様々入っていることが予想されるが、無理な引き延ばしによるピクセルの流れや色味の破綻がないところから、それがなくとも相当に綺麗なのではないかと思える。


■70mm撮影テスト(ライカ判換算106mm)

Canon EF24-105mm F4L IS USM

ライカ バリオ・エルマリートSL F2.8-4/24-90mm ASPH.

再びCanon24-105とLeica24-90の対決。望遠領域に入り、またそれぞれの特長が見える。Canon 24-105は、やはりぼこぼこした歪みがあるのが画面右側の窓枠の描写からわかる。それに対してLeica標準ズームは、中央背景に右側に曲がったような歪みが出ているがなめらかな歪みだ。


■90ミリ撮影テスト(ライカ判換算137mm)

Canon EF24-105mm F4L IS USM

ライカ バリオ・エルマリートSL F2.8-4/24-90mm ASPH.

Canon 24-105とLeica 24-90の最終対決。中央の窓の外からのランタンの光を草に透かした部分を見ると、Canon24-105はかなり汚いボケがあるのがわかる。それに対してLeica標準ズームの方のボケも綺麗ではないが、まあ許容できるレベルだ。人形の皮膚の質感描写がLeica標準ズームの方は細かな凹凸まで見て取れる。驚かされるのがこれが標準ズームの最望遠であると言うこと。とてもそうは思えない余裕のある解像感だ。

APS-Cサイズ、望遠テスト

続いて、望遠領域のテストを三脚の距離を変えて行った。条件は同じくAPS-Cサイズ、F=4 ISO=100 1/50。

■望遠70mm撮影テスト
(ライカ判換算106mm)

ライカ バリオ・エルマー R 70-210mm F4

SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM

往年の直進ズーム名レンズと現代最も多用されているであろう望遠レンズの対決。さすがに細部の描写ではライカ R 70-210に分があるが、SIGMA 70-210もなかなか健闘している。やはりというか、パープルフリンジの抑制などでは圧倒していると言って良い。なんだかんだ言って、現代レンズは凄い。これでLeica SLで一発で素直に動いてくれるのであれば何の問題もないのだが。


■望遠90mmテスト(ライカ判換算137mm)

ライカ バリオ・エルマー R 70-210mm F4

SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM

ライカ アポ・バリオ・エルマリートSL f2.8-4/90-280mm

前2本で良いなあ、と思ったところで標準長玉の恐ろしい画質に打ちのめされた。花の繊維や洋服の細かい毛羽までしっかりと解像している。注目すべきは黒いリボンの部分。R 70-210mmでは見事にパープルフリンジが出てしまっているのだが、SIGMA70-200ではそれが消えている。おお、現代技術スゴイ、と思ったところで標準望遠ズームSL f2.8-4/90-280mmのそのあたりを見ると。リボン内の繊維まではっきりと解像しているのに驚く。黒が近い色の黒と分離しているのは大したものだ。このレンズは人の目の解像力を超えているのではないだろうか。


■望遠200mmテスト(ライカ判換算304mm)

SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM

ライカ アポ・バリオ・エルマリートSL f2.8-4/90-280mm

で。この二本の比較。もちろんSIGMA70-200はNOVOFLEXマウントアダプターの対応力の限界で実用と言うには難しい機嫌なのだが、それでもこの愛すべきリーズナブルな現代レンズの能力を見ておきたかったのだ。結果はもちろんライカの標準望遠ズームSL f2.8-4/90-280mmの圧勝。そんな事はわかっている。どこまで迫れるのかが大事だ。案外悪くないと思うのですよ、うん。

さて、個人の思いはさておいて注目すべきは髪の毛の表現。SIGMA70-200の方は髪の毛、特に後れ毛周りにゼラチンのような光の筒が出来てしまっている。もちろんライカSL F2.8-4/90-280mmにはそんなものはない。どこまでも写実的に世界を切り取っている。


■望遠210mmテスト(ライカ判換算320mm)

ライカ バリオ・エルマー R 70-210mm F4

ライカ バリオ・エルマー R 70-210mm F4の最望遠端の画像も載せておこう。こちらも髪の毛の後れ毛周りにゼラチンのような光の回析が見られる。オールドレンズだからしょうがない。しかし、オールドにしては相当に頑張ったと思う。細部はきちんと描写されているため、こういうコーティングが試される場面でなければ非常に使えると言って良いだろう。しかもなにしろ、体感的なあの直進ズームなのだ。


■望遠280mmテスト(ライカ判換算426mm)

ライカ アポ・バリオ・エルマリートSL F2.8-4/90-280mm

標準望遠ズームの最望遠。さすがにここまで来るとこのハイテクモンスターレンズもフリンジや回析が見られる。しかしそれにしても美麗だ。焦点より向こうでは色々な余分な現象の乱舞だが、焦点前後では大きな問題は起きてない。今回はF4縛りがある為実験していないが、もう少し絞れば望遠末端でも充分に使えると言って良いだろう。これで、ライカ判換算で426mmという超望遠だ。素直に拍手を送りたい。

フルHDと4Kの画角の差

さて、延々と静止画を見てきたわけだが、ここで動画を見てみよう。Leica SLはフルHDの場合にはライカ判という大判センサーのボケを生かしたセンサー全面読みだし(APS-Cサイズ指定の場合にはS35切り出し同寸)、4Kの場合にはS35mmの切り出しという仕様で映像を撮ることができる。

もちろん装着するレンズの都合を考えれば、我々映像屋はAPS-Cサイズを常用し、ボケなどを狙った効果としてスチルレンズを装着してライカ判でのフルセンサー撮影をすることになるだろう。しかし、現代では、Angenieux EZ-1/2のように、両センサーサイズ対応のレンズも出てきている。そこでライカ標準ズームレンズライカ バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.を使って、実際に簡単に動画を撮ってみた。画角の違いなどを見て欲しい。

Leica SL標準ズーム4K/24p

Leica SL標準ズームHD60P

いかがだろうか。細かい質感などは横に置いても、ライカの絵そのものが動いているのがとても不思議な感覚ではなかろうか?特に4Kの方は、画角自体はライカらしくない望遠描写なのだが、一目でライカとわかる質感になっている。しかも画角が狭いため、かなりフォトジェニックに作り込める。この映像がこの小さなカメラ単体で撮れるというのは何とも嬉しい。

環境的に完成間近なLog撮影

さて、単体で、と書いたが実はLeica SLはHDMI 1.4を搭載しており、そこから4:2:2の10bit 4K映像を出力することが可能だ。そうなれば、RAWこそ積んでないものの、業務用動画機でもかなり高級機と同じ性能ということになる。PC側の進歩がまだまだ追いついていないためRAWでの長時間撮影があまり現実的ではない現状、非常に楽しみな機能だ。

ただ、筆者が試してみたところ、とりあえず収録自体はできるのだが、実はまだLeica SLのLogに対応したソフトウェアが無く、LUTもまだ提供されていない。素の外部収録映像でも10bitで圧倒的な映像ではあるのだが、折角近々Leicaから公式LUTの提供もあるという話も聞くので、もし出るのであればそれを待って続報したい。ただ、試しに撮ってみるとあまりに圧倒的な画が撮れるので、至急対応をして欲しいところだ。

ATOMOS SHOGUN INFERNO。これを使うことで、10bit Log撮影の世界が開ける(はず)!

さて、長々熱く語ってきたが、こうした夢のあるカメラが、このLeica SLだ。ライカSラインに続く、ライカ版カメラ初めての業務機だが、その性能は充分に卓越している。ライカ=高いという印象もあるが、その性能と比べれば決して高くはない(安くもないが…)。

また、今なら限定でLeica SLと標準ズーム(ライカ バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.)のセットで133万560円という驚異的なディスカウントもやっているのでこれを利用する手もある。業務カメラの価格を考えれば、決して敷居は高くない。是非、この素晴らしい描写の世界に触れて欲しい。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。