土持幸三の映像制作101

txt:土持幸三 構成:編集部

演技指導のワークショップ

今回は、先日ある俳優事務所で講師として演技指導のワークショップを行ったので、そのことを書こうと思う。一般的に俳優は主に映像に出演する俳優と、舞台を中心に演じる俳優がいる。最近はアイドルを巻き込んでの演劇も盛んにおこなわれているが、映像制作の基本と舞台の演技、映像の演技の違いを知ってもらい、各自の演技に活かしてもらおうという主旨でワークショップを行った。

この事務所では過去にも数回、数ヵ月にわたってワークショップを行った経験がある。参加する俳優の中には10年ほど前から知っている参加者も複数おり、実際に、何度か撮影現場でも一緒に仕事をしている。前回、1年前に行ったワークショップでは、引き画と寄り画の演技を撮影して動画編集ソフトで編集するところを見せ、演技に余裕を持たずに、普段しゃべっているようにセリフを言ってしまうと編集できるポイントがなくなることや、当然のように引き画と寄り画で違った演技をすると、これも編集するポイントがなくなり、寄り画、つまりアップを使えなくなることを見てもらった。勿論、これらは撮影方法や演出方法で変わっていくことも説明した。

今回はまず、僕が以前書いたいくつかの台本から1シーン(2、3ページ)を選び、それぞれ俳優の年齢性別に合ったものを渡し、全体のストーリーを創造するところから始めてもらった。彼らのようなセリフが少ない俳優の場合、台本がもらえなかったり、寸前に配役が決まり、なかなか役作りの準備が少なく自分の登場シーンにのみに集中し、全体像を創造することをサボりがちになってしまう。結果、現場で監督のイメージもしくは自分の想像とは全く違うシーンだったことで、必要以上に緊張したり、混乱する場面があることを聞いていたからだ。

自分が想像した事と違うことが多い

台本を細かく読む、という基本的なことが意外と徹底されていないことを理解してもらう上で、1シーンからストーリー全体を想像するという作業は、俳優たちに多くの気づきをもたらしたようだった。台本に書いてあれば、車のエンジンをかけながら煙草を吸い、相手が現れたら煙草を消すのにも意味はあり、登場人物のキャラクターを想像する要素になるのだ。その後ストーリー全体を説明して、2人一組で演じたい登場人物を決め、翌週に簡単な撮影を行った。

自分のクセを知り演技プランを考える

これまた意外にも俳優たちは自分の演技を細かく見ることが少ないので、撮影してすぐ、大きなモニターに映して、大げさに言うと一コマ一コマずつ演技を確認してもらった。ある者はまばたきが多かったり、視線が不安定だったり、自分のクセの確認と、何より自分が「こうだ!」と思って視聴者にわかりやすく表現したつもりでも、伝わってこないことを確認してもらった。それらは視線やセリフの単語と単語の間や言いまわし、言い方の強弱で視聴者の受ける印象は全く変わってくるのだ。

自分の演技は自分が思っているより伝わらないことが多い

ただ、これらの細かいことにばかり注意が行くと段取りだけをこなすことになり、演技として自然な感じやダイナミックな動きはできない。ここが演技の一番難しいところで、舞台上では感情を思いっきり表現しても許されることが多いが、映像ではそうはいかないことが多い。いきなり大声を出して下を向いて泣くことは、音の面でも映像の面でも良くないのだ。音が割れて顔が映らない映像は視聴者に受け入れられないだろう。経験の少ない俳優は、どうしても感情的に演技しがちになってしまう。だからと言って細かく視線や手・足の動きを計算して、その通りに段取りよく演じることがいい演技ではないことも理解してもらった。

この段取りと自然な演技の境界線は明確にあるのだろうか?あっ、これいい演技だな…段取りっぽいな、ということは、やはり理論では説明しがたい。そこも俳優たちには説明した。ただ、きちんと考え、計画して演技したか、感情的になんとなく演技したかの違いは理解してもらえたと思う。俳優へのワークショップでは俳優たちの生の意見を聞け、演出の勉強にもなってありがたいと思った。

WRITER PROFILE

土持幸三

土持幸三

鹿児島県出身。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。