txt:栁下隆之 構成:編集部

4K画質の真価を問う、レンズに託された課題

まだまだだけどな?という声もチラホラ聞こえてきたりはするが、筆者的には4K解像度による撮影がほとんどとなってきた。もちろん、FHDでの完パケ案件が多いのだが、ポスト処理での融通性を考慮して、とりあえず4Kでということが多いというわけだ。だた、実際に4Kでの撮影を多くこなしていると、レンズによる描写の違いが如実に出てくる。

おおむね、写真用レンズは解像度に優れ、各収差の補正は良好なのだが、性能もマチマチなので事前のテストが欠かせないうえに、フォーカシング時の「ブリージング」や、ズーム時の「フォーカスシフト」に加え、最大の問題である「光軸ずれ」の発生など、動画用途としては不完全な物が多いのが実状である。

レンズ交換式大判センサーカメラを運用する多くのユーザーが、写真用レンズを流用している現状もあるが、その一方で、レンズメーカー自身が写真用レンズの光学系を流用したシネマレンズを数多くリリースし、ユーザーのニーズに応えはじめている。そういった現状でも、手頃な価格のシネマレンズの選択肢はまだまだ狭く、とりわけEマウントネイティブのレンズは数種しかないのが現状である。

Eマウントカメラを取り巻くレンズの悩み

取り回しの良さと機能面から、国内外問わず多くの現場でPXW-FS7シリーズが運用されている現状があるが、レンズに関しては写真用レンズの流用であることが多く、レンズ選択に苦労している様子をよく目にする。今回テストしたFUJIFILM MK18-55mm T2.9が開発された経緯は、まさにその現状に富士フイルムが出した回答だと言える。

完全新規設計の光学系を採用しているが、企画から製品化までは1年半ほどとのこと。これには製品企画が持ち上がった同時期に、業務用機器とコンシューマー機器の商品企画部が統合されたことで加速した現状もあるという。樹脂成形部品の外装による軽量化、18-55mmと50-135mmという2本の画角、Eマウントネイティブという3点からも、従来にはない意欲的な製品だということが受け取れる。

MKレンズについては、EマウントとXマウントが同時に発表されているが、Eマウント製品の企画があがったのちに、同社の4K動画撮影機能を搭載したXマウント一眼カメラ向けの製品企画があがったという。Eマウントありきでの製品企画という点で、かなりチャレンジングであったと感じたのは筆者だけではないはずだ。仮にこれがEFマウントで製品化されていたら、マウントアダプターを介してのレンズ装着となり、FS系やα系のカメラでの軽快な運用というわけには行かなかっただろう。

かつて、2つに分かれていた業務機とコンシューマー機の商品企画部が統合されてからは、社内のリソースを十分に活用できるようになり、MKシリーズのレンズのリリースは、正にその第一弾といえる製品だと聞いている。今後も同様の製品がリリースされて、Eマウントユーザーには嬉しい展開となるに違いない。

製品の特長

1本あたりの重量は1kgを切っており、18mmから135mmをカバーするために2本のレンズを持ち歩いても、合計で2kg以下だ。これはFS7をショルダースタイルで、FS5をハンドヘルドで運用している方たちにとっては大きなメリットだ。1本で高倍率ズームを望むユーザーもいると思うが、運用重量を軽くできる点と、高い光学性能を実現している点で、2本のレンズから必要な画角を選択できることは筆者的に大歓迎だ。

ファーストテストではα6500にリグを組んで装着してみたが、少し長めの写真用レンズほどの大きさで、バランスも丁度良い印象だった。FS系のカメラでは、リグを組まずに運用しても良いし、フォローフォーカス装着に15mmロッドのベースプレートと組み合わせても良いだろう。

フィルター系は82mmで、スクリューインの各種フィルターが装着可能。マットボックスを使わずともフィルターの装着が可能なため、一眼デジタルカメラでの運用にも都合が良い。これも企画担当者がこだわった点だという。

歪曲収差(=樽型歪み)を指摘する声も聞くが、そもそも従来のシネマレンズはそこに重きを置いて開発されていない。MKレンズも当然ながらシネマレンズとしての性能を追求しているので、焦点移動、画角変動(ブリージング)、光軸ずれの3点の抑制を優先しており、この点においては正にFUJINON CINE LENSクオリティを実現している。各リングは適度なトルク感で、滑らかにズームできることは写真用レンズにはない利点だ。

9枚羽根の円形絞りの美しいボケと、高い解像感はさすがという印象で、当然シネレンズならではの操作感は他に変えがたい心地よさがある。ほかのカットは都合によりお見せできないが、髪の毛の質感なども、非常に繊細な印象だった。

運用面の課題

初見で気がついた点として、フォーカス、ズーム、アイリスの指標の位置が挙げられる。レンズの左面水平位置に各指標がプリントされているので、カメラマンがファインダー越しに直視できない。さらに助手が付く場合には、右面に指標が何もないので、レンズ指標を打ち直すことになる。ピントリングには、幸いにもフィートとメートルの2つの指標があるので、どちらかを潰せば良いので運用方法次第で解決できる。この辺りはいくつかの仕様を検討したが、最終的に現在の仕様になったとのことなので、後はユーザーの運用ノウハウに委ねるということなのだろう。本格的なテストはこれからだが、予算感的にも手元に1本欲しいレンズというのが筆者の初感である。後編ではさらに深く掘り下げて行こうと思う。


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WRITER PROFILE

栁下隆之

栁下隆之

写真家アシスタント、現像所勤務を経て、撮影機材全般を扱う輸入販売代理店で17年余り勤務の後に、撮影業界に転身。一眼カメラによる撮影を得意し、代理店時代に手がけたSteadicamや、スタビライザー系の撮影が大好物。