取材&写真:鍋 潤太郎
取材協力:Leonard Daly/LA Siggraph

はじめに

ロサンゼルスには、ACM SIGGRAPHの地方分科会である「LA SIGGRAPH」というものが存在する。日本にもお馴染み「シーグラフ東京」があるが、そのLA版と言えばご理解頂けるだろう。

LA SIGGRAPHでは毎月テーマを設定し、月例会を開催している。この月例会には誰でも参加でき、会員になって年会費$40.00を納めれば、毎月の月例会の参加費は無料となる。会員でなくても、会場入り口で参加費$20を支払えば入場可能だ。

4月の月例会は、ロサンゼルス国際空港から程近い場所にある美大Otis College of Art and Designを会場に、将来デジタル・メディアの業界を目指す学生およびLA SIGGRAPHの会員を対象とした、キャリア・セミナーが開催された。ちなみにこの大学は、LA SIGGRAPH月例会の会場としてよく使用される場所の1つである。

会場はこちら!

この日のパネラーは在LAの著名スタジオや、映像関連企業のリクルーター達で「ポジションを獲得するには、どのようにすべきか」について熱のこもったパネル・ディスカッションが展開された。今回は、その模様をご紹介しよう。

Careers in Digital Media April 11 at Otis sponsored by LA SIGGRAPH

パネラーの顔ぶれ

(写真右から)
司会&進行:キャスリーン・ミルネス(Kathleen Milnes)
Assistant Chair,Digital Media,The Otis College of Art and Design
ウェミ・オパクニル(Wemi Opakunle)
Sr.Recruiter at Trailer Park+Deep Focus
カミール・エデン(Camille Eden)
Manager,Recruitment/Outreach-Feature Animation at The Walt Disney Company
Walt Disney Animation Studios
スタン・シズマンスキー(Stan Szymanski)
President&Founder of StanleyVision
StanleyVision
フィオナ・シャバク(Fiona Cherbak)
Lead Recruiter,Worldwide Studios at Sony Interactive Entertainment
Sony Interactive Entertainment
サミ・ラムリー(Sami Ramly)
VR Product&Program Lead at Wevr
6:30~7:30PMピザと飲み物で親睦会
7:30~9:30PMパネル

LA SIGGRAPH公式サイト

OTISのキャスリーン・ミルネス女史が司会&進行役を務め、パネラーに質問を投げかけて答えてもらうかたちでパネルディスカッションが行われた。以下は、その要約と抜粋である。

パネル・セッションの模様

――みなさんは、どのようにして人材を発掘されていますか?

カミール:LAのバーバンクにあるWalt Disney Animation Studiosでは、現在900人余りのクルーが働いています。私達は世界中からタレント(=才能ある人材)を採用しています。それぞれの専門分野でタレント・プールを開拓していますので、そのリストに含まれる膨大な数のタレントと密に連絡を取り合いながら、プロダクションのニーズに沿ってポジションを埋めていきます。求めているタレントは、例えばVFXの分野で5年以上の経験を持つアーティストやテクニカルの人などです。

ウェミ:Trailer Parkは、ハリウッドに本社を構えるマーティング・エージェンシーです。NY、ロンドン、サンフランシスコなどを含め600人程のクルーが働いています。人材のリサーチには様々な方法がありますが、おなじみLinkedinは機能性に大変優れたサイトですので、よく活用しています。

もしみなさんが、自分が求めるポジションを獲得したいと思ったら、リクルーターに対して「いかに、自分をうまく売り込むか」「どのようにスキルをプレゼンテーションするか」が大切だと思います。

フィオナ:Sony Interactive Entertainment(SIE)はゲームやインタラクティブ分野の人材を求めています。その関係で、アニメーションやVFXとはジャンルが異なりますが、リクルーティングの面では共通点も多いと思います。SIEでは学校が春休み、夏休み、冬休みの期間にあわせた年3回のインターン制度を実施しており、ここで優れた人材を獲得することもあります。

セミ:WevrはVRのプロダクトを制作しています。大変小規模で、クルーも20人くらいしかいません(笑)人材発掘にはソーシャルメディアを活用する場合もありますが、我々のような小規模のスタジオの場合、知り合いの紹介などのコネクションで人材を見つけてくることも少なくありません。

スタン:私は北米各地にあるVFXクライアントのために、必要な人材確保を請け負う会社を経営しています。モントリオール、トロント、バンクーバーなどにクライアントを持つ関係から、他のパネラーの皆さんとは少々事情が異なります。ポジションの種類も、アーティストを中心に、UnityやVRの開発者、プロデューサー、コーディネーター、マネージャーなど、多岐に渡ります。

――適材を見つけるのが難しいポジションは?

カミール:比較的難しいのは、テクニカルなポジションかもしれません。ディズニーって意外とハイテク企業なんですよ。シュミレーションや社内ツールの開発、パイプラインなど、多くのテクニカルなポジションが存在しますが、適材を見つけることは、時としてアーティストを集めるより難しいことがあります。

また、映画の要となるストーリー・デベロップ、ストーリー・ボードのポジションも、適材を見つけることは難しいです。アニメーターのポジションでは、キャラクターのアクティングやパフォーマンスの表現に長けている人を探していますが、こちらも適材を探すのは大変です。

フィオナ:ご存知のように、コンソール・ゲームの世界は独特です。開発環境が自社開発やオリジナルという場合もありますし、C++のプログラマーなど、さまざまな開発言語のプログラマーを採用しています。将来、ゲーム開発の仕事に興味がある学生さんは、どのゲームが、どのような開発環境でデベロップされているかなどを、学生のうちにリサーチしておくと、就活の際に役立つかもしれません。

ウェミ:プロジェクト毎のニーズにうまくマッチしたアート・ディレクターを見つけることは、なかなか難しいです。経験や専門分野によって、バックグランドも考慮しつつ、適材を探します。

人材発掘という部分では、若手で優秀なジュニア・タレントを見つけて、そこから育てていくこともあります。全体的には、常に「良いストーリー・テラー」を探しています。

また映像編集を行うエディターも、適材を確保するのが難しい場合があります。特にコメディ番組はそうです。LAではドラマを編集するのに長けたエディターは多いですが、コメディの編集で良いセンスを発揮する人を見つけるのは結構難しい。ひとくちに映像をカットするエディターと言っても、専門分野や得意不得意がありますから。

スタン:北米の各都市&地域ごとのニーズに応えるのが課題ですが、これがなかなか難しいです。その意味では、モントリオールでのスタッフィングは、時としてタフさが要求されます。特にシニア・クラスのマネージメントの人材確保などはね。

優秀なマネージメント職の方は、もうどこかの会社に所属していますし、家を持っていたり子供がいたりで、リロケーションを敬遠するケースも少なくありません。

――応募の際に大切なことは?

カミール:大切なことは”Be Kind”だと思っています。この仕事は人と人の繋がりで、スタジオ内ではチームと共同で作業ができなければなりません。

どんなに優れた才能や高いスキルを持ち合わせていても、チームの一員として仕事ができて、スーパーバイザーからのノートやコメントを素直に受け入れられる柔軟な姿勢がないと、プロダクション・ワークは成立しません。これは、学生さんに限らず、プロの皆さんにも言えることなのです。

セミ:確かに。特にうちのような規模が小さな会社では、チームワークは大変重要だと思いますね。

フィオナ:ある程度の経験を積んでスキルを持っている場合、リクルーターに「スキルのディテール」を上手くアピールできないと、それがうまく活かされません。自分に何ができて、問題が生じた際に自分はどのように問題を解決に導いたか、作業にどれ位の時間を掛けたのかなど、そういうディテールをきちんとプレゼンテーションができるのは大切なことなのです。

ウェミ:ポートフォリオを見せる時にも同じことが言えると思います。もし自分の作品に自信があるのなら、制作プロセスや問題解決した部分、何を見せたいか、などをうまくプレゼンテーションできると効果的です。

――膨大な応募が来ると思いますが、うまくリクルーターの目に留まる、秘訣は?

カミール:応募する会社によってカルチャーは異なります。それも考慮した上で、自分の専門分野のスキルをうまく示せることが重要です。例えば、ただ単に「私はジェネラリストです」と言うより、「何ができるか」「何が得意か」を明確に説明できた方が良いでしょう。

フィオナ:私のところには、1日100通のメールが来ます。そして1日50通の応募が届きます。すでにおわかりだと思いますが、この全てに目を通すことは事実上不可能です。そんな中、メールのヘッドラインに、2~3行にまとめた、目に留まり易いアピールを入れると、効果的と言えます。例えば「人気ゲームタイトル○○○を担当しました」「○○スタジオで働いていました」などです。

ウェミ:私は、レゾメは3秒で目を通します。それ以上の時間を割く余裕はありません。その3秒間の間に目に留まるように、そして分かり易く、読み易く工夫してください。リクルーターによって意見は異なると思いますが、私の場合、カバーレターには目を通しません。単純に時間がありません。

スタン:私の場合、様々なオンライン・サイトに求人情報をポストしています。私の投稿を常に注意してチェックするようにしてください。メールを頂く際は、ほかのパネラーの方が述べられたように、メールのヘッドラインに3行で印象に残るアピールを入れてください。

――応募してくる学生に求めるものは?

スタン:私がクライアントから抱えている求人案件の90%は、アーティストのポジションとテクニカルなポジションです。これぞと思ったら、ぜひ応募してください。

セミ:私達が手掛けているVRのプロジェクトは、分野としては新しいジャンルですが、現場で求められているのは、即戦力に成りうる人材です。学生の間にできること、それは自分の中で長期的な目標を設定してそれに向って努力したり、新しいテクノロジーに対して興味を持つことが大切だと思います。

ウェミ:自分の専門分野以外に関わる機会に遭遇した時、それに挑戦してみると、意外にもそこから可能性や新しい道が拓けることもあります。

フィオナ:日々の積み重ねですから、切磋琢磨することが大切です。

カミール:インターンシップやボランティアは自分のスキルを試す大変良い機会ですので、機会があれば積極的に参加すると良いでしょう。

――この業界は日進月歩です。今度、どんな仕事がなくなり、どんな仕事が生まれるでしょう。

スタン:VFXの世界は、同じことの繰り返しではなく、VR&ARなど、新しいことを積極的に学んでいく姿勢も大切です。What’s New? What’s Next?来週には、ここLAでVRLAというコンベンションが開催されますが、コンベンションセンターのウエスト・ホールを1つ埋める位の規模に成長しつつあります。こういうコンベンションを視察してみるのも、良いリサーチになるでしょう。新しいことへのチャレンジという部分では、例えばあなたがレンダーマンのシェーダー開発をしているとしたら、Unityの勉強を始めてみるとか、そういう姿勢が仕事の幅を広げていくことにつながります。

カミール:「2Dのアニメは衰退した」という声も聞かれますが、私個人はそうは思っていません。例えば、ディズニーには強力な2Dアニメーションのチームが健在しています。3Dのアニメーターたちは、2Dのアニメーターから演出を受けたり、動きを学んだりしているのです。また、LAには多くの2Dアニメーション・スタジオが頑張っていますし、その意味ではトラディッショナルなスキルと、テクニカル・サイドのスキルを両方勉強しておくと良いと思います。

セミ:今から5~10年後、テクノロジーはどんどん変わるでしょうし、その意味では未来は誰にもわかりません。今、目の前にある、自分に出来ることを一生懸命こなし、新しいテクノロジーを学びつつ、リスクを恐れずチャレンジしていく姿勢が大切だと思います。

――それでは、お時間ですので、さようなら!

このように、大変興味深い内容のLA SIGGRAPH月例会であった。今回は美大OTISが会場ということもあり、多くの学生が参加していたが、特にこれから就活を控えた学生達は熱心にメモを取っていた。

……そうそう。「キャリア・セミナー」で思い出した。偶然ではあるが、筆者は5月に日本へ行き、5月12日(金)に都内で「ハリウッドVFX業界就職セミナー」を開催予定である。将来、海外への就職を意識されておられる方は要チェック!

鍋潤太郎&溝口稔和ハリウッドVFX業界就職セミナー

日時
2017年5月12日(金)
19:00~21:00(18:30より受付け開始)

会場
デジタルハリウッド大学駿河台キャンパス3階E17教室(お茶の水)

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。