txt:鈴木佑介 構成:編集部

手持ちでシネレンズを使う時代が来た

富士フイルムから、Eマウントで軽量なシネズームレンズが出ると聞いて、まず思いついたことがこれだ。一眼動画やシネマカメラを主軸とする動画軸における、近年のソニーの攻勢は皆さんご存知の通りだと思うが、その中でも、α7S IIやα6500などの一眼カメラに搭載された5軸手ブレ補正と超解像ズームが革新的な機能で、手ブレ補正がないレンズでも、ボディ側で手ブレを抑制してくれる上、全画像超解像ズームはデジタルズームだが解像度が落ちない。

この2つの機能が気に入り、筆者は2015年にカメラ、レンズの撮影機材を全てソニーに、つまりEマウントに入れ替えた。現在EマウントのAPS-C機のフラッグシップモデルである、α6500との組み合わせであれば「手持ち」で使える18-110(約29-175mm)F2.8のシネマレンズになるのだ!

FS7やFS5などのスーパー35mmセンサーの高価なシネマカメラでがっちり構えてシネレンズが使えるのは当たり前だが、一眼で気軽にシネレンズを使えるのであれば是非使ってみたい!と思い、この最強かつ変態とも思える組み合わせで、現場に導入して検証した。

スチルレンズと何が違う?

シネレンズ、と聞いて何を思い浮かべるだろう?筆者は、シネレンズは触ったことがある程度で使用したことはなく、映画やCMで使うもの、描写が綺麗、かっこいい、などポジティブなことから、高級、大きい、重い、サポートロッドやフォローフォーカスが必要、ワンオペじゃ無理、でもいつか使ってみたい、という「憧れ」の存在だった。

ご存知の方もいると思うが、シネレンズはその名の通り、動画(映画)用に設計されている。一部フルフレーム用やマイクロフォーサーズ用もあるが、スーパー35mmセンサー用のものがほとんどだ。大きな特長として、フォーカスはマニュアルとなっており、レンズの筐体にはフォーカスやズームリングにギアが付いていて、スチル用レンズに比べ、フォーカスリングの回転角が広く、フォーカス合わせやフォーカス送りがしやすい。

ズームリングも滑らかで、一般的なビデオカメラのようなクイックズームは難しいが、演出において、じわっとしたズーミングができる。また、フォーカス送りの際にブリージング(ピント調節時の画角変動)が起きず、置きピンができる(被写体に対して望遠でフォーカスを合わせておいて、ズームで画角を変えてもフォーカスがズレない)。絞り(アイリス)の調整も筐体側で調整する。クリックがないので意図的に撮影中に絞りを変える時にもスムーズに変えられる。そのほかに、絞りの表記ががF値(理論上の数値)でなく、T値(実絞り)なことであろう。

MKレンズの特長

今年はシネレンズ(を個人が所有する)元年と言えるほど各メーカーから様々なシネレンズが発売されている。このFUIJNON MKレンズの特長は何だろう?

1:長いけど軽い

長さは約21cm。重量は980gと軽い。一般的な一眼レフの70-200mmあたりのレンズと同等のサイズ感だが、MKレンズの方が軽い。実際持ってみると思いの外バランスがよく、サポートロッドなしでも、マウント部の負担は少ない気がする。小型なので、スチルレンズと一緒に普通のカメラバッグに入る。


2:使いやすい焦点距離

スーパー35mmセンサー用の18-55mm(35mm換算で約29-82mmあたり)T2.9(F値でいうと約F2.8)通しのズームレンズだ。若干広角側が足りない場面もあるが、使い勝手の良い焦点距離だと思う。


3:フォーカスリング類の回転角と重さがちょうどいい

ギアが付いているものの、ほかのシネレンズに比べてズームやフォーカスの回転角と重さ(粘り)がちょうどよく、フォローフォーカスの類を使わずとも手で操作が可能だ。脱着可能なズームリングのレバーが大変使いやすい。


4:マクロ機構

MKレンズにはマクロ機能が付いている。操作が少し特殊でレンズの根元の「MACRO」スイッチを押しながら回すとマクロモードになり、フォーカスを合わせる。

広角で前玉から63cmあたりが最至近撮影距離なのが、このマクロ機構を使うことでおよそ12cmあたりまで寄ることができる。

※テレ端(55mm)側でマクロ機構を使うと前玉面から約48cmが最至近距離


5:ボディ内手ブレ補正は設定が必要

MKレンズは、Eマウントでも電子接点がないため、ボディ内手ブレ補正をきちんと使うにはボディ側で手ブレ補正を効かせる焦点距離を、マニュアルで設定しないといけないことだ。ただ、1mm単位で設定するのはどう考えても面倒だし、撮影中にやっている時間はない。試した結果、この18-55mmを使う時は25mmあたりに設定しておくと、良い感じに手ブレ補正を効かせてくれる。

※90mmなど、望遠側に設定すると、最広角側でもグラグラと揺れてしまうので注意が必要だ。素直に一脚などを使った方が間違いないかもしれないが、同じようにαで手持ちで使おうと思った方は覚えておいて欲しい


6:α7S IIでも使用可能

前述だが、フルサイズセンサーのα7SIIでも使用できるHD撮影時はそのまま(設定によってはメニューからスーパー35mmモードを選択)4K撮影時は四隅がケラれてしまうが超解像ズームで1.4倍~1.5倍くらいにする事で使用できるボディ内手ブレ補正は同じく、マニュアルでの焦点距離の設定が必要になる。


7:レンズ右側には数値が記載されていない

多くのシネレンズはフォーカスマン用に右側にもフォーカスのmやft表記があるが、MKレンズは左側にしか表記がない。ワンマンオペ前提なのだろう。


8:82mmのフィルター径

MKレンズは82mmのフィルターが装着可能だ。内蔵NDを搭載していない一眼で使う場合、可変NDフィルターが使用できるのは嬉しい(安価なNDフィルターは著しく画質劣化を招く可能性があるので注意)。

※角形の専用フードが付いているが、フィルター着用のため不使用


9:やわらかい描写と適応できる撮影環境

MKレンズのテストには、流れを止めずに撮る「テイク」の要素と、こちらでイメージを創って撮る「メイク」の要素を兼ね備えているWeddingでの一眼ダイジェスト動画撮影の現場を選んだ。3組の新郎新婦に協力してもらい、曇天の屋外、スタジオ内、明るい室内など、いろいろな環境下で撮影をしてみた。全体的な印象として、その場の雰囲気をきちんと収めてくれるレンズだと感じた。見た感じのまま、素敵に映し出してくれる。

描写は解放側(T2.9~T4あたり)だと、総じて「ふんわりと柔らかな描写をしてくれる」印象だ。解放で草木などを撮ると、幻想的な感じに描いてくれる解放よりも、F4あたりが丁度よい解像感。T5.6あたりからくっきりとした印象になるが、それでも柔らかさを感じる。敢えてアウトフォーカスさせても雰囲気がよく、逆光表現も悪くなかった。MACRO機構も、小物のアップや指輪のアップなどを撮影する際に便利だった。今回、全ての現場で色温度を5000Kに設定して撮影した。色の方向性としては少し緑に転がるのは、フジの特長だろうか。

前述通り、マニュアルながら、フォーカスもズームも手持ちで使いやすく、解放気味で使えばシネマティックに、絞り気味で使えばビデオライクにもできるのでイメージを創る「メイク」、ドキュメンタリーのように撮る「テイク」の両側面で使えるレンズだと感じた。贅沢を言えば、広角側がもう少し欲しいところ。望遠側は超解ズームがあるのでさほど問題はなかったが、今夏に発売される50-135mmが揃ってこそ、MKレンズの真の実力が発揮される気がする。

※写真は4k動画(PP6)からの切り出し(コントラストと彩度の調整くらいで、色味はいじっていない)

総括

正直言って、シネレンズに「便利さ」はない。自分が行いたい「表現」に必要と感じるのであれば手に入れるべきだと思う。なぜなら、シネレンズは沢山の映画制作の歴史を経て作られ、進化してきた動画撮影用のレンズなのだから。映像制作人口の増加もあって、より刺激的に、本質的に、ただ綺麗に写した映像では通用せず撮る(創る)映像ではないと、いよいよ通用しなくなってきた。

その証拠に最近では自主映画のコンペや、アワードが増えている。機材が出揃った今、Back to Basics(原点回帰)がどんどん進んでいる。原点、その多くは映画だと思う。よく聞く「映画的表現」「シネマティック」のような言葉たちから気づくのは、僕たちのほとんどが自主映画コンプレックスだということ。好きな映画を撮りたくて、自主映画を撮ってみたけど、出来ないことばかりだった昔。2017年の現在、空撮、移動撮影などが気軽にでき、編集やグレーディングが自宅で作業でき、且つシネレンズでさえ気軽に使えるようになってきた。やりたいことが全て叶う時代になったのだ。

そんな風潮の映像制作の世界において、ほとんどの人が同じ機材を使える時代、どこで違いを出すか?作家性なのか、アイデアなのか、描写なのか。仕事とは別に誰もが、自分の表現とは何なのか、遅かれ早かれ向き合わなければいけなくなる。そんなとき我々の「表現」の手助けをしてくれるのが、シネレンズなのだと思う。

レンズ1本が40万円というのは決して安くない買い物だと思うが、フォーカスブリージングもなく、柔らかくも、しっかりと描写してくれるこのMKレンズが15万円のボディでも気軽に使えるという事実に感動を覚えずにはいられない。例えば、動画撮影機材を購入するのに100万円の予算があった場合、70万円のボディと30万円でスチルレンズを数本購入するより15万のボディと40万円のシネズームレンズを2本購入してしまった方がレンズのことであれこれ悩まず、まっすぐに「表現」に打ち込める気がする。

前述だが、今夏にはもう一本のMKレンズ50-135mm(35mm換算で約75mm-203mm)が登場する。この2本があれば大抵の欲しい焦点距離がカバーできる。そしてEマウントなら、α6500、α7S IIやR II、FS5からFS7まで自分のレベルに合わせて様々なボディで使用できるのだ。もちろんセンサーサイズや映像エンジンの差はあるにせよ、正直言ってカメラの描写は「レンズ次第」だと思っている。

ボディが映像を電気信号に変換して記録する機械で、数年ごとに買い換える消耗品だという割り切りで考えると、資産となるのはレンズだと改めて思う。筆者自身もこれからのことを考え、自分の表現を追求すると共にどのシネレンズを導入するのがいいのか、今も頭がいっぱいだ。

WRITER PROFILE

鈴木佑介

鈴木佑介

日本大学芸術学部 映画学科"演技"コース卒のおしゃべり得意な映像作家。専門分野は「人を描く」事。広告の仕事がメイン。セミナー講師・映像コンサルタントとしても活動中。