「猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)」を上映するセンチュリーシティのAMCシアター
取材&写真:鍋 潤太郎

はじめに

アメリカ地方も夏休みに突入し、映画館では話題作が毎週のようにリリースされている。リリース頻度が高いため、すべての作品を網羅するには映画館に頻繁に足を運ばなければらず、トレンドに追いついていくのもなかなか大変である(笑)。さて今回は全米ボックスオフィスを見渡しながら、この夏のVFX&長編アニメーションの動向を、筆者独自の視点から解析してみることにしよう。

この夏のメガヒット作は

公開前の宣伝にもかなり力が入っていた「ワンダーウーマン」

今年5月頃から夏にかけて、文句ナシのメガヒットと言えるのは「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」と「ワンダーウーマン」(日本では8月25日公開予定)の2本であろう。

7月末の段階での全米ボックスオフィスを見てみると「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」は、日本円で約222億円相当(1ドル111円で換算)の制作費VS約430億円相当の売上げと大ヒット。また「ワンダーウーマン」は、約165億円の制作費VS約432億円の売上げという数字を叩き出した。全米だけで300億円を超える売上げを叩き出しているこの2本は、ほかの作品郡を大きく引き離している。

「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」は、1作目がヒットしたこともあり、強気の制作費でVFX制作が進められた。しかし、いかんせん膨大なショット数と作業量、そして求められるクオリティの高さなどから、この作品を担当していたVFXスタジオでは今年の3月~4月頃、追い込みヘルパー要員としてフリーランサーを急遽募集する光景も見られた。各社の担当スタッフは連日残業続きで大変だったそうだが、こうして作品がヒットしたことにより、その苦労が報われたことだろう。また、この作品の売上げは1作目の約369億円を大きく上回り、ビジネス的にも大きな成功を収めた。

ワーナー・ブラザースの「ワンダーウーマン」は、公開前の期待度も大きかったが、正直ここまでヒットするとは筆者も全く予想していなかった。しかし、ダイアナ・プリンスを演じる女優ガル・ガドットの美貌(♪)、見どころ満載のアクション、完成度の高いVFXなど、かなり楽しめるエンターテインメント作品に仕上がっている。

それもそのはず、この作品のVFXスーパーバイザーは、リズム&ヒューズ・スタジオ出身で「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」を始めとする、数々のアカデミー賞受賞作品を担当した経歴を持つビル・ウェステンホファー氏。彼は「VFXの役目は、ストーリー・テリングに、より説得力を与えること」という信条の持ち主だが、それがこの作品にも表れているのではないだろうか。VEXベンダーはWETA、MPC、Double Negative、PIXOMONDO等が参加している。

「スパイダーマン:ホームカミング」も大ヒット

「スパイダーマン:ホームカミング」をIMAXで上映するハリウッドのチャイニーズ・シアター

次いで「スパイダーマン:ホームカミング」(日本では8月11日公開)は、約194億円の制作費VS約279億円の売上げと好調である。ソニー・ピクチャーズとマーベル・スタジオのパートナーシップによって、スパイダーマンはマーベル・シネマティック・ユニバースに参入したが、この作品はソニー・ピクチャーズの配給で公開された。

期待のVFXだが、プレビスがThe Third Floor、VFXベンダーはSony Pictures Imageworks、Method Studios、Digital Domain、Luma Pictures、Trixterなど多くのスタジオが参加しており、見せ場の多い作品に仕上がっている。ステレオ立体視の変換は、Stereo DとLegend 3Dが担当している。

大作フランチャイズ作品の続編が、全体的にやや低調

映画館で見掛けた「トランスフォーマー/最後の騎士王」の告知パネル

7月末の全米ボックスオフィスの売上げで見る限りでは、巨額予算の大作フランチャイズ作品の続編が、この夏は全体的にやや低調に終わっている点が興味深い。

  • 「トランスフォーマー/最後の騎士王」(日本公開は8月4日)
    約241億円の制作費VS約142億円の売上げ
  • 「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」(日本公開は7月1日)
    約255億円の制作費VS約189億円の売上げ
  • 「The Mummy(2017)」(ハムナプトラ・フランチャイズのリブート作品。主演はトム・クルーズ)
    約139億円の制作費VS約88億円の売上げ

もっとも、これは全米だけの売り上げである。ハリウッド映画は海外配給によって北米以外の国でブレイクする例も少なくなく、今後のワールドワイドの興行収入に期待が寄せられるところだろう。

長編アニメーションではミニオンが首位

圧倒的な“強さ”を見せた「怪盗グルーのミニオン大脱走」

さて、この夏の長編アニメーション戦線を見てみよう。ピクサー・アニメーション・スタジオの「カーズ/クロスロード(原題:Cars 3)」(7月15日より公開中)、ミニオン・シリーズ3作目となるイルミネーション・エンターテインメントの「怪盗グルーのミニオン大脱走」(7月21日より公開中)、そして少し前の4月からの公開ではあるが、ドリームワークス・アニメーションの「The Boss Baby」、こちらを加えると全3本のバトルとなった。蓋を開けてみると、7月末の段階での北米ボックスオフィスの売上げを見る限りでは、

  • 「怪盗グルーのミニオン大脱走」 約89億円の制作費VS約237億円の売上げ
  • 「The Boss Baby」 約139億円の制作費VS約194億円の売上げ
  • 「カーズ/クロスロード(原題:Cars 3)」 約194億円の制作費VS約160億円の売上げ

とうとうミニオンが、ピクサー作品のアメリカ国内売り上げを超えてしまった(笑)。また、制作費VS売上げから見る利益率(筆者の概算による)ではミニオンが2.67倍と最も高く、「ワンダーウーマン」の2.61倍よりわずかに高いのは驚異的でもある。

ユニバーサル・スタジオの歴史を振り返ってみると、過去の同スタジオはさほど長編アニメーション作品には力を注いでおらず、ユニバーサル・スタジオ・ハリウッドのテーマパークに行って見かけたキャラクターと言えば、せいぜいウッドペッカーくらいだった。ここに来てミニオンの“増殖”である。ユニバーサルは、キャラクターのマーチャンダイズ面で非常に強力な主力商品を手に入れたことになる。

余談であるが、日本に住む友人によれば、池袋の「ミニオン大脱走CAFE」は入場するのに6時間半待ちの人気だという。日本でもブレイクしている模様である。

「The Boss Baby」のドリームワークス・アニメーションは組織の変革が続き、2015年1月にはPDI/DreamWorksを閉鎖するなど苦難の時が続いたが、2016年8月にNBCUniversalの傘下に入り、現在は「ヒックとドラゴン3」を鋭意制作中である。そんな中、最新作「The Boss Baby」がある程度の成功を収めたことは、良い地盤固めに繋がったのではないだろうか。同作は既に2021年公開を目指し続編が予定されている。

ドリームワークス・アニメーションは在LAの数少ない大手アニメーション・スタジオの1つ。筆者も地元LAのアーティストとして、ドリームワークス・アニメーションには是非とも頑張って頂きたいと切に願うところである。

クリストファー・ノーラン 映画「ダンケルク」70mmフィルムによる公開も

ユニバーサル・シティウォーク・ハリウッドにあるAMCシアターにて

もう1本、この夏の話題作として外せないのが、クリストファー・ノーラン監督の映画「ダンケルク」。第二次世界大戦初期、フランスのダンケルクにおける英仏軍兵士34万人の大撤退作戦を描いた作品である。

この作品は、通常のデジタル上映に加え、クリストファー・ノーラン監督の強い意向により70mm 15PのIMAXフィルム、70mm 5P、そして35mmによるフィルム上映が行われていることも、話題の1つである。70mmフィルムの現像及びプリント、フィルム・スキャン等の一連のポスプロは、現在も70mm部門をフル稼働させているバーバンクの総合ポスプロ、FotoKemが担当している。IMAXのサイトでは、全世界での70mmフィルムによる上映館が紹介されている。

IMAX 70mm15Pフィルムによる上映館の1つ、ユニバーサル・シティウォーク・ハリウッドにあるAMCシアター

大変残念ながら、日本国内のIMAXシアターにおけるフィルム上映の予定はないようだが、SIGGRAPHでLAを訪問される方は、ぜひユニバーサル・スタジオ・ハリウッドのスタジオ・シティにあるAMCシアターで70mm 15PのIMAX上映を体感して頂ければと思う。

おまけ LAの車窓から動画配信サービスのビルボード広告が増加

LAで頻繁に目にするようになった動画配信サービスによる巨大なビルボード広告。「著名な賞に輝いたシリーズが戻ってくる」というコピーと、Netflixのロゴも見える

ところで、全米ボックスオフィスからはやや話がそれるが、昨今のトレンドとして是非ご紹介しておきたいのが、Netflix、Hulu、Amazon等の動画配信サービスの台頭ぶりである。

ロサンゼルスの街を車で走っていると、交差点やフリーウェイの近くなど人目につきやすい場所には、大きなビルボードが立ち並んでいる。これらのビルボードはハリウッド映画の広告、人気テレビ・シリーズの広告で占められるのが通例であったが、最近はNetflix、Hulu、Amazon等の広告に置き換わる例を非常に良く目にするようになった。これは以前は見られなかった傾向で、ロサンゼルスに住んでいる多くの人が、この変化に気づいていると思う。

これらの動画配信サービスでは、VFXを駆使したテレビ・シリーズやオリジナル映画も制作しており、そのVFX制作がLAのVFXスタジオに発注されるケースも見られ、LAのVFX業界活性化に一役買っている。これらのシリーズがエミー賞などの著名な賞を受賞した実績も出ている。また「デスノート」などの日本の作品が動画配信サービス専用のオリジナル映画としてハリウッドでリメイクされるなど、意欲的な作品が続いているのも特長であろう。

これらの動画配信サービスが「今後、映画制作や配給のあり方を変えるのでは」という声も業界からは出ており、今度の動向に注目したいところだ。

おわりに

このように、全米ボックスオフィスのランキングや売上げを見渡しただけで、ハリウッドの傾向やさまざま状況が見て取れることは大変興味深い。筆者はハリウッドの制作現場に身を置く者として、現場目線の「生の情報」を、読者のみなさんにお届けしていければと思う今日この頃である。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。