PRONEWS

  • imgABOUT
  • imgTWI
  • imgFB
  • imgYTU

トップ > コラム > 宏哉 > [宏哉のfrom Next-World]Vol.02 カルネとの戦い

News

[宏哉のfrom Next-World]Vol.02 カルネとの戦い

2017-10-20 掲載

ヴァーツラフ・ハヴェル・プラハ国際空港と思われる(2007年12月撮影)
txt:宏哉 構成:編集部

初めての海外ロケ

最初にお断りしておこう。今回の海外ロケのネタだが、ほとんど写真がない。特にロケ中の写真は皆無だった。よってロケの様子は皆様の想像にお任せする。

さて、急に入ってきた初めての海外ロケ。某大企業の社内向けV製作のためのロケだった。カメラは先方指定でPanasonicのP2HDカメラ“AG-HVX200”。音声はガンマイク1本を持って行った程度。そして照明はパルサーにバッテリーライト。2007年の話だ。まだ撮影用LEDライトなど⼀般的ではない時代。海外球を丁寧に梱包して機材ケースに詰め込んだ。三脚は写真を見返してみると見たこともない三脚だった(笑)。恐らくP2カメラと⼀緒にレンタルしたものだったのだろう。

Panasonic「AG-HVX200」

人員構成はどうだっただろうか?ディレクターはいない。その代わり、クライアントというべきなのか発注元というべきなのか、なんとその某大企業の広報部長さんが直々にお出でになった。なお、技術は私1人。つまり、その方との2人旅だった。部長さんは決して映像制作畑の人ではない。ドバイで10年ほど支社勤務をされて、数ヶ月前に日本に戻ってこられたそうだ。映像に関しては素人さんだ。

私の初めての海外ロケは、映像制作部分に関しては完全に私1人で回さねばならないという、ナイスな現場だったわけだ。ただ、飛行機は完璧だった。国際線から国内線まで全てビジネスクラスである。そりゃ、日本人なら誰でも…いや世界的にも知られている某大企業だ。そこの部長クラスが乗るとなればビジネスクラスだろう。

恐らくアメリカン航空・B777型機(2007年12月撮影)

まずは、ビジネスクラスに乗ってアメリカへ飛んだ。今回のロケは2ヶ国。1つはアメリカ、もう1つがスロバキアだ。アメリカはダラスへ到着して現地支社のビルへ。撮影場所は会議室。V尺自体は全体で30秒ほどで、担当者からカメラ目線でのコメントをもらう。プロンプターなどは無いので極力コメントを覚えて頂いて、さらに部長さんが手書きしたカンペをレンズの横に出して収録した。結局⼀発撮りはできなかったので、文章を幾つかに区切って編集しやすいようにサイズを変えながら収録。さらにインサート映像用として会議をしている様子も撮影した。

とにかく、1日も掛からない撮影だ。恐らく打ち合わせから収録完了まで3時間も必要としなかっただろう。このためにカメラマン雇ってビジネスクラスで世界を飛び回るとは…贅沢なロケだと思った。

ダラスでの撮影が終われば、今度はスロバキアへ飛ぶ。ビジネスクラスで。途中、イギリスとチェコでトランジットを必要とした。しかし、ダラスからイギリスへの国際便が遅延。ロンドンでの乗り換え時間がほとんどなく、広いロンドン・ヒースロー空港を部長さんと走りに走った。搭乗予定客で渋滞していたセキュリティーゲートを「Emergency!Emergency!」と叫びながら、行列を抜かして最前列へ。すると空港職員に「荷物は1人1つまで」とゲートで止められる。通常、機内に持ち込める荷物は“手荷物”と“身の回り品”だ。“身の回り品”というのはハンドバッグやパソコンバッグに収まる物を指す。しかし、空港職員に頑なに1つと制限される。デジカメやパスポートなどの身の回り品を入れた小さめのショルダーポーチをカメラバッグと1つに纏めろと言われた。

いや、入らんし。カメラバッグもビデオカメラとバッテリーとその他でパンパンやし。ってか、急いでんねん。融通気かせや!!と丁寧な日本語で悪態をつきながら、ポーチをカメラバッグに無理矢理押し込む。もはやジッパーの閉まらないバッグを「ほら、これでいいか?」とこれ見よがしに尋ねたら「OK」と鷹揚に頷いたお前を俺は忘れない。

そんな僅かな押し問答の後、ゲートを抜けて更に長い長いターミナルの廊下を走って、もうバッグのベルト千切れるんじゃないかというほどバッグが重かった。

いよいよカルネ・チェック!!

ダラスのホテルで解いた旅装。カメラバッグの傍らに転がっている黒いショルダーポーチが“身の回り品”

なんとかチェコ行きの飛行機に間に合い、ロンドンを後にした。もちろんビジネスクラスで。チェコに到着すると、次の乗り換えまで5時間ほどあったため、ディナーはチェコの街へ出て食べることに。入国審査を済ませタクシーで街へ繰り出した。

季節はクリスマス。街は煌びやかに装飾が施され、マーケットも開かれていた。雰囲気の良いレストランに入り、私はラパンを頼んだ。短い滞在時間だったが、ヨーロッパのクリスマスを初めて目の当たりにして、感激したことを覚えている。なお、次にチェコを訪れたのはそれから丸9年後の2016年12月のクリスマスシーズンであった。

チェコ・プラハのクリスマスマーケット(2007年12月撮影)

さて、いよいよスロバキアへ移動する。荷物はバゲージスルーですでに飛行機への積み込みは終わっている。フライトは1時間程度だったが、こちらもビジネスクラスだった。とはいえ左右2列ずつの小さな旅客機で、ビジネスクラスは機体後方。シートもエコノミーと同じでエリアをカーテンで区切られた簡素なもの。ドリンクサービスがあっただけだった。

そして最終目的地であるスロバキアはコシツェへ。コシツェはスロバキア第⼆の都市。だが、国全体が田舎のようなものだから、第⼆の都市といえども大きくない。コシツェ国際空港に降りたった瞬間、旧東陣営を感じた。飛行機のドアを出ると殺風景な滑走路。凍てつくように冷たい空気。タラップを下りて空港の質素な建物まで歩いた。景色が灰色だった。

建物に入ると、直ぐに入国審査。鋭い目つきで笑い方も知らないような青年職員が、東洋人が珍しいのか何度もパスポートの写真と私の顔を見比べる。特に質問もなく、やがてスタンプを押され無事に入国できた。ちょっと緊張の瞬間だった。

次にカルネだ。バゲージクレームにいた職員を捕まえて、カルネ処理をしたいと伝え、カスタムオフィスまで案内してもらう。その職員は、まだ20代前半ぐらいの若いお兄ちゃん。入国審査官よりは柔らかい表情で話しやすそうな雰囲気だった。⼀旦空港の建物を出て歩いて別棟へ。相変わらず外は寒く「今日は寒いけど、いつもこんな感じ?」と尋ねると「この季節は毎日寒いよ」と教えてくれた。

カスタムオフィスに着くと、職務上の肩書きがありそうな男性と女性が出て来て、カルネ処理の対応にあたった。が、ここからが大変だった。とにかくカルネの書類処理の仕方が分からないらしい。国際空港なので処理ができないはずはないが、頻度は少ないのだろう。書類棚からファイルを見つけ、過去のカルネ書類の控えを引っ張り出し、それを参考にしながら処理を進めていく。

経験がないからだろうか社会主義的東陣営だったからだろうか、カルネに記載された機材をマニュアル通り全てチェックするというのだ。あり得ない。この10年様々な国でカルネ処理を行ったが、全量チェックをされたのは、この時が最初で最後だ。通常のカルネ処理は、カメラの型番とシリアル番号を確認する程度。ごく希に三脚やガンマイクのシリアル番号なども見せろと言われるが、その程度だ。カメラは基本的に機内持ち込みしているので、大した梱包は行っておらず、型番などの確認を求められても容易いが、その他の機材は緩衝材などでパッキングしている。それら全ての梱包を解いて中身を見せろというのだ。

その1つ1つの型番とシリアル番号をチェックするのだから時間が掛かる。そして確認が終わったら、今度は再び機材の梱包作業だ…。もちろん梱包するのは私だ。勘弁して欲しい。

現在、取材で利用中のカルネ(2017年9月撮影・画像処理済)

全量確認と古文書を紐解くような書類処理のため、結果、優に⼀時間もカルネ処理に時間が掛かった。なお、このコラムを書いている今、私はロンドンに滞在しているのだが、先日の入国の際に行ったロンドン・ヒースロー空港でのカルネ処理ではカメラの型番すらチェックされず、約90秒で全てが終わった。さすが国際都市というべきか。これは極端な例だが、大抵の場合は5分もあればカルネ処理は終わるものだ。

不安と不満しかなかったコシツェ国際空港でのカルネ処理を終えると、いよいよ街への移動だ。辿り着いた宿でしっかりと休息を取って、翌日の収録に備える。だが翌朝、スロバキアの山中であのような事故に巻き込まれることを誰が予想しただろうか。スロバキアでのロケはまだ始まってもいなかったのだ。


WRITER PROFILE

宏哉 フリーランス2年目の駆け出し映像屋さん。バラエティーから報道や空撮まで幅広い番組撮影をこなすテレビカメラマンであり、ダンスイベントから幼稚園お遊戯会収録まで請け負う街のビデオ屋さん。タイムコード・ラボ代表。Next-Zero.com管理人。


[ Writer : 宏哉 ]
[ DATE : 2017-10-20 ]
[ TAG : ]

関連のコラム一覧

[宏哉のfrom Next-World]Vol.01 はじめての海外ロケ前夜

txt:宏哉 構成:編集部 ちょっと隣の世界まで テレビのENGの仕事をしていて「せっかくこの業界にいるなら」と、関わってみたい現場が私にはいくつかある。⼀つは刑務所取... 続きを読む

WRITER PROFILE

宏哉 フリーランス2年目の駆け出し映像屋さん。バラエティーから報道や空撮まで幅広い番組撮影をこなすテレビカメラマンであり、ダンスイベントから幼稚園お遊戯会収録まで請け負う街のビデオ屋さん。タイムコード・ラボ代表。Next-Zero.com管理人。


Writer

編集部
PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。
小寺信良
業界で噂の新製品を、AV WatchやITmediaのコラムでもおなじみの小寺信良氏がレポート。
raitank
アートディレクター。あまたの海外ソースを読み漁ってHDSLRを独学。国内と海外の情報流通の温度差にモーレツな疑問を感じ、最新の情報を自ら日本語で発信するblogを運営中。
ふるいちやすし
自身で脚本、監督、撮影から編集、音楽までもこなすマルチプレーヤー。
岡英史
バイクレース及びF3レース参戦など、映像とはかけ離れた経歴を持つ異色ビデオカメラマン
江夏由洋
兄弟で株式会社マリモレコーズを設立し、ノンリニアにおける映像技術、映像制作を中心に、最新技術を取り入れたワークフローを提案している。
鍋潤太郎
ロサンゼルスを拠点とするVFXジャーナリスト。
林和哉
映像プロデューサー/ディレクター。入口から出口まで全てのポジションを守備範囲にしている。最新技術が好物で、各種セミナー活動も豊富。
江口靖二
江口靖二事務所主宰。現在デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。
栁下隆之
写真家アシスタント、現像所勤務を経て、撮影機材全般を扱う輸入販売代理店で17年余り勤務の後に、撮影業界に転身。一眼カメラによる撮影を得意し、代理店時代に手がけたSteadicamや、スタビライザー系の撮影が大好物。
猿田守一
企業用ビデオ、CM、ブライダル、各種ステージ記録など撮影から編集まで地域に根ざした映像制作活動やCATV局などへの技術協力なども行っている。
オースミ ユーカ
映像ディレクター。企画、脚本から演出までジャンルを問わず活動。
土持幸三
1970年生。鹿児島県出身。俳優を経て渡米。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。
鈴木佑介
日本大学芸術学部 映画学科"演技"コース卒の映像作家。 専門分野は「人を描く」事 。 広告の仕事と個人ブランドでのウェディングがメイン。 セミナー講師・映像コンサルタントとしても活動中。
松本敦
映像クリエイター。企業VPからスポーツイベント撮影まで幅広く手がける。アクションカムやドローンなどの特殊ガジェット好き。
宏哉
フリーランス2年目の駆け出し映像屋さん。バラエティーから報道や空撮まで幅広い番組撮影をこなすテレビカメラマンであり、ダンスイベントから幼稚園お遊戯会収録まで請け負う街のビデオ屋さん。タイムコード・ラボ代表。Next-Zero.com管理人。
山下大輔
東京オフラインセンタープロダクトサポート所属。個人でもAdobe Premiere ProやAfterEffectsの勉強会を定期的に開催している。
柏原一仁
日本大学芸術学部写真学科卒、銀一株式会社海外商品部勤務。 銀一が世界中から輸入する写真・映像用品ブランドのマーケティング担当。静止画・動画・音声と様々な技術に翻弄される日々。好きな食べ物はからあげ。
井上晃
映像制作会社「有限会社マキシメデイア」代表、制作プロデューサー&キャメラマン。Facebookグループ「ATEM Tech Labo」、「Grass Valley EDIUS ユーザーグループ」を主催して、ATEMやEDIUSの布教に、日々勤しんでおるでよ。
奥本宏幸
大阪を拠点にしているフリーランスの映像ディレクター。演出・編集・モーショングラフィックをバランス良くこなす。フィンランドサウナが好きです。
安藤幸央
無類のデジタルガジェット好きである筆者が、SIGGRAPH ASIAやCESなど海外の注目イベントを紹介。
手塚一佳
CGムービー制作、ネットワークゲーム制作を得意とするデジタルデザイン会社アイラ・ラボラトリの代表取締役。
高野光太郎
Cosaelu株式会社 代表取締役 / 映像ディレクター ミュージックビデオ、番組オープニングタイトル、CM、劇場映画、全てをデスクトップで制作。
ヒマナイヌ
頓知を駆使した創造企業
駿河由知
中央区築地出身。マルチカメラ収録&配信ユニット「LiveNinja」メンバー。2006年より株式会社スタートライン設立。外務省、国連機関、国際NGOなどの国際会議やシンポジウム、企業イベントなどのライブ配信を担当
山本久之
映像エンジニア。フリーランスで映像設備のシステムインテグレーションと、ノンリニア編集に携わる。
ベン マツナガ
未来シネマ/ディレクター。ハリウッドでの大型映像制作、短編時代劇の自主映画制作を経て、現在は、映像を通じて人と人をつなぐことをテーマに様々な映像制作に取り組んでいる
河尻亨一
1974年大阪生まれ。雑誌「広告批評」を経て現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰、企業コンテンツの企画制作なども行う。デザイナー石岡瑛子の伝記「TIMELESS」(http://eiko-timeless.com/)をウェブ連載中。
茂出木謙太郎
株式会社キッズプレート代表。「楽しいInternetコンテンツ」をテーマに活動。現在VRの可能性をまさぐり中。CG-ARTS協会会員
稲田出
映像専門雑誌編集者を経てPRONEWSに寄稿中。スチルカメラから動画までカメラと名のつくものであればなんでも乗りこなす。
黒田伴比古
報道・ドキュメンタリーエディターでありながら、放送機器に造詣が深く、放送局のシステム構築などにも携わるマルチプレーヤー。
ヒラタモトヨシ
ファッションとテクノロジーを繋ぎイノヴェーションを生み出す事をライフワークとし、WEB/ライブメディア/高精細映像表現を追求。
猪蔵
いつも腹ペコ。世の中の面白いことを常に探っている在野の雑誌編集者。
須藤高宏
東京・国分寺市に於いて録音スタジオ「マイクロサウンド」を運営し各種録音編集に携わる傍ら最近では各種イベント配信音声を担当。
林永子
2005年よりサロンイベント「スナック永子」を開催。通称「永子ママ」
ViewingLab
未来の映像体験を考える有志の研究会。映画配給会社、映像作家、TV局員と会員は多岐に渡る
石川幸宏
映像専門雑誌DVJ編集長を経て、リアルイベントを中心とした「DVJ BUZZ TV」編成局長として活躍中。
山下香欧
米国ベンチャー企業のコンサルタントやフリーランスライターとして、業界出版雑誌に市場動向やイベントのレポートを投稿。
岡田智博
クリエイティブクラスター代表。メディアアートと先端デザインを用いたコンテンツ開発を手がけるスーパー裏方。
萩原正喜
米国コロラド州から、米国のデジタル放送事情からコロラドの日常まで多岐に渡るコラムをお届けします。
坪井昭久
映像ディレクター。代表作はDNP(大日本印刷)コンセプト映像、よしもとディレクターズ100など。3D映像のノンリニア編集講師などを勤める。
しらいあきひこ
カメラメーカー、ゲーム開発などの経験を持つ工学博士が最先端のVR技術を紹介。
秋山謙一
映像業界紙記者、CG雑誌デスクを経て、2001年からフリージャーナリストとして活動中。
今間俊博
アナログ時代の事例を通じ、教育関連の最新動向を探る。
金田浩樹
映画・テレビの映像制作を中心に、USTやニコ生等、ライブメディア各分野を横断して活動中。ジャンルや固定概念にとらわれない構成力と発想に定評あり。
伊藤裕美
オフィスH(あっしゅ)代表。下北沢トリウッドでアニメーション特集上映を毎年主催している。
UserReport
業界で話題の商品を実際に使ってみてどう感じたかを、各方面の様々な方々にレポートしていただきました。
System5 Labs
SYSTEM5スタッフが販売会社ならではの視点で執筆します。

トップ > コラム > 宏哉 > [宏哉のfrom Next-World]Vol.02 カルネとの戦い