PRONEWS

  • imgABOUT
  • imgTWI
  • imgFB
  • imgYTU

トップ > コラム > [東京Petit-Cine協会]Vol.88 日本映画のレベルを底上げするために必要なこと

News

[東京Petit-Cine協会]Vol.88 日本映画のレベルを底上げするために必要なこと

2017-10-31 掲載

txt:ふるいちやすし 構成:編集部

映画とは美術であり、文学であり、音楽である

ああ、また残念な映画を観てしまった。それもそこそこちゃんとした映画館で。今日は批判覚悟ではっきり書こう。常々私は自分の作品に対しても突きつけている。映画は美術であり、文学であり、音楽(役者の声やSEも含めて)でなければならないと。そしてその全てにおいて挑戦がなければいけないと考えている。涼しい顔して成立させればそれがプロか?成立の先には納得はあっても感動はない。もちろん挑戦には危険が伴う。頑張っても納得レベルにしか到達しない場合もあるし、最悪の場合はぶち壊しになることさえある。それが怖くて納得レベルを目標に置いていて、それを超えることはまずあり得ない。

世の中には感動は要らないから確実に仕上げなきゃいけない仕事はある。山ほどある。テレビでは時間を守ること、ミスを犯さないことが絶対だし、スタジオ、大人数の職人達のギャラ、有名タレントのスケジュールなんかを考えると1時間で数百万円のランニングコストがかかる撮影もあるだろう。それは映画であっても同じだろうが、せめて自主映画では挑戦を忘れないでいたい。まるで納得の合格点を伺うような作品が多すぎる。

もう一度言うが、美術として、文学として、音楽として、ただの足し算に終わってはいないか?納得を目指していないか?そんなレベルじゃ奇跡は起きないぞ!役者にしてもそうだ。イケメンがかっこいい服着てセリフを言えば、それで俳優になったつもりか?ここの読者には演者は少ないだろうが、そのレベルを設定するのは制作側だ。

オーディションもそうだし、本番でオッケーを出すのもこちら側だ。突き詰めれば全て監督とプロデューサーの責任なんだ。だからこそ大きな権限を与えられていることを肝に銘じなきゃいけない。愚痴を言うのは筋違いというもんだ。だから私は稽古をたくさんする。そこで求めるレベルを設定するのだ。いくら自主制作とは言え、撮影現場での時間は限られている。そこでできることは多くはないし、それ以上のことを言えば単なるイジメになってしまい、人を凹ますだけだ。もっと言ってしまえば作品や役柄が決まってからでは手遅れな場合もある。普段の意識や数年かけて磨いておかなくてはならないこともある。

そんな思いで私も多くはないが時々ワークショップをやる。そういう機会の初期段階で必ず言うのが、それがあくまでふるいちの個人的なセンスだと言うことだ。そこに集まる全ての人に役立つこと、今後のどんな現場でも通用することなんかを意識していては、それこそ納得レベルのことしか言えなくなる。だから本当はワークショップなんかやりたくない。気が鈍る。でも映画には人が必要なんだ。意識レベルを上げなきゃいけない。そのためにできることは何でもやるという一心だ。

演出とは、いろんな意味で引き出すということ

私がやっているワークショップは演出家として演者達に向かうものと、同じ制作者、技術者に向かうものの両方だが、どうにかこの両面を同時に行えないものかといつも思い、ことあるごとに提案している。単純に演者は撮られることを望んでいるし、撮影者は被写体を必要としている。それだけでも一緒にやる価値はあると思うのだが、それ以外にも理由はある。

例えば、私が演者に対して演出をしている時、演出とはいろんな意味で引き出すということで、そのための私なりの言葉や態度を制作者にも見せたいし、その結果として出てくる演者の表情や動きはそのまま撮影アングルやカット割の動機となる。私の演出行為や演者への指導がどういう変化をもたらすか、例えその結果が自分の好みに合わなくても、または明らかにうまくいってなかったとしても、その一部始終を観察することで、必ずプラスになるはずだ。それは私の経験でもある。ご存知の方もいると思うが、私は自分で映画を作り始める前に、助監督などの経験は一切なく、映画学校に通ったこともない。映画との関わりはサウンドトラックを作る音楽家としてだった。言うまでもなく音楽家の仕事は撮影や編集が終わった後に始まる場合がほとんどだ。

ただ、私は音楽家のポリシーとして、撮影現場をできるだけ見に行くことにしていた。最初はビックリされたが、スケジュールさえ教えてくれれば自分で勝手に行って帰るので、交通費も弁当さえもいらないという条件で、そういうことが可能になった。もちろん、撮影現場に音楽家の仕事はない。そもそもその時は将来自分が監督になるとは思ってもいなかった。ただ、音楽を作るために監督や演者の思いを少しでも肌で感じたかったのだ。ところが運命のいたずらで自分が監督として映画を作ることになった時、その見学が大いに役に立った。

前述の監督と演者とのやりとりとその結果やスタッフへの指示とその結果まで、知らず知らずのうちに、おそらく多忙な助監督よりも余裕を持って観察することができていたのだ。同じように例え私がカメラマンに撮影の指導をしていたとしても、その映像表現の意味を自分や他の演者が撮られるのを観察するだけで、自分の役者としての役割を一層理解できるだろう。

間違ってはいけないのは、決して両方の仕事を一人がやるためではない。あくまでそれぞれの仕事を深めるために一同に会する機会があった方がいいと思うのだ。もちろん制作者と演者の出会いから新しい作品が生まれる期待もある。いつかどこかで実現させたいものだ。

ここまで読み返してみると、上から目線に見えなくもないが、わかって欲しい。ここに書いたことは私自身が自分に向けているプレッシャーでもあって、私自身も限りなく磨き続けるためのものだ。ただ、日本映画のレベルを本当に上げるにはもっともっと多くのクリエイターとその作品が必要なのだ。そのチャンスは自主映画にこそある。さあ、挑戦しようじゃないか!

PTC59_02

【千年の糸姫~1000 YEAR PRINCESS】
Amazonプライムにて配信中

製作当初から、今も“恨み”という感情を捨てられず、紛争を続ける国々での上映を目指してきました。そして完成と同時に海外の映画祭への挑戦を始め、同時に日本国内での劇場公開を実現させるべく活動してきました。お陰さまで、今年の二月にはアジア国際映画祭、ロンドン・フィルムメーカー国際映画祭と立て続けに選ばれ大きな賞賛の声をいただき、特にロンドンでは5部門(監督、音楽、主演女優、主演俳優、ヘアメイク)の最優秀賞にノミネートされ、最優秀監督賞(長編外国語映画部門)を獲得することができました。


WRITER PROFILE


[ Writer : ]
[ DATE : 2017-10-31 ]
[ TAG : ]

関連のコラム一覧

[東京Petit-Cine協会]Vol.87 テレビにおける映像表現の拡がり

txt:ふるいちやすし 構成:編集部 多彩になった映像のトーン 最近、テレビのドラマやCMが面白い。映像のトーンが実に多彩になってきたように思う。もちろん、大半は古典的... 続きを読む

[東京Petit-Cine協会]Vol.86 世界配信の成功が教えてくれた新しい道

txt:ふるいちやすし 構成:編集部 映画配給会社を作ってはどうかと考えた幾つかのきっかけ 映画配給会社を作ってはどうかと考えている。おいおい、自分の映画一つもしっかり... 続きを読む

[東京Petit-Cine協会]Vol.85 劇場公開を実現させるために

txt:ふるいちやすし 構成:編集部 劇場で、いい音で見て欲しいという作り手の思い 前回お話ししたように、映画「千年の糸姫」の世界配信はすでに始まっていて、お陰さまでな... 続きを読む

[東京Petit-Cine協会]Vol.84 「千年の糸姫(1000 Year Princess)」の世界配信へ

txt:ふるいちやすし 構成:編集部 千年の糸姫、世界配信へ ついに、ついに始まった。映画「千年の糸姫(英題:1000 Year Princess)」(主演:二宮芽... 続きを読む

[東京Petit-Cine協会]Vol.83 進化する映像の世界で「高画質」を見極めるということ

txt:ふるいちやすし 構成:編集部 沖縄国際映画祭に参加 昨年夏、アメリカ・ワイオミング州で撮影監督を務めたドキュメンタリー作品「TETON~山の声」(浜野安宏監督・... 続きを読む

WRITER PROFILE


Writer

編集部
PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。
小寺信良
業界で噂の新製品を、AV WatchやITmediaのコラムでもおなじみの小寺信良氏がレポート。
raitank
アートディレクター。あまたの海外ソースを読み漁ってHDSLRを独学。国内と海外の情報流通の温度差にモーレツな疑問を感じ、最新の情報を自ら日本語で発信するblogを運営中。
ふるいちやすし
自身で脚本、監督、撮影から編集、音楽までもこなすマルチプレーヤー。
岡英史
バイクレース及びF3レース参戦など、映像とはかけ離れた経歴を持つ異色ビデオカメラマン
江夏由洋
兄弟で株式会社マリモレコーズを設立し、ノンリニアにおける映像技術、映像制作を中心に、最新技術を取り入れたワークフローを提案している。
鍋潤太郎
ロサンゼルスを拠点とするVFXジャーナリスト。
林和哉
映像プロデューサー/ディレクター。入口から出口まで全てのポジションを守備範囲にしている。最新技術が好物で、各種セミナー活動も豊富。
江口靖二
江口靖二事務所主宰。現在デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。
栁下隆之
写真家アシスタント、現像所勤務を経て、撮影機材全般を扱う輸入販売代理店で17年余り勤務の後に、撮影業界に転身。一眼カメラによる撮影を得意し、代理店時代に手がけたSteadicamや、スタビライザー系の撮影が大好物。
猿田守一
企業用ビデオ、CM、ブライダル、各種ステージ記録など撮影から編集まで地域に根ざした映像制作活動やCATV局などへの技術協力なども行っている。
オースミ ユーカ
映像ディレクター。企画、脚本から演出までジャンルを問わず活動。
土持幸三
1970年生。鹿児島県出身。俳優を経て渡米。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。
鈴木佑介
日本大学芸術学部 映画学科"演技"コース卒の映像作家。 専門分野は「人を描く」事 。 広告の仕事と個人ブランドでのウェディングがメイン。 セミナー講師・映像コンサルタントとしても活動中。
松本敦
映像クリエイター。企業VPからスポーツイベント撮影まで幅広く手がける。アクションカムやドローンなどの特殊ガジェット好き。
宏哉
フリーランス2年目の駆け出し映像屋さん。バラエティーから報道や空撮まで幅広い番組撮影をこなすテレビカメラマンであり、ダンスイベントから幼稚園お遊戯会収録まで請け負う街のビデオ屋さん。タイムコード・ラボ代表。Next-Zero.com管理人。
山下大輔
東京オフラインセンタープロダクトサポート所属。個人でもAdobe Premiere ProやAfterEffectsの勉強会を定期的に開催している。
柏原一仁
日本大学芸術学部写真学科卒、銀一株式会社海外商品部勤務。 銀一が世界中から輸入する写真・映像用品ブランドのマーケティング担当。静止画・動画・音声と様々な技術に翻弄される日々。好きな食べ物はからあげ。
井上晃
映像制作会社「有限会社マキシメデイア」代表、制作プロデューサー&キャメラマン。Facebookグループ「ATEM Tech Labo」、「Grass Valley EDIUS ユーザーグループ」を主催して、ATEMやEDIUSの布教に、日々勤しんでおるでよ。
奥本宏幸
大阪を拠点にしているフリーランスの映像ディレクター。演出・編集・モーショングラフィックをバランス良くこなす。フィンランドサウナが好きです。
安藤幸央
無類のデジタルガジェット好きである筆者が、SIGGRAPH ASIAやCESなど海外の注目イベントを紹介。
手塚一佳
CGムービー制作、ネットワークゲーム制作を得意とするデジタルデザイン会社アイラ・ラボラトリの代表取締役。
高野光太郎
Cosaelu株式会社 代表取締役 / 映像ディレクター ミュージックビデオ、番組オープニングタイトル、CM、劇場映画、全てをデスクトップで制作。
ヒマナイヌ
頓知を駆使した創造企業
駿河由知
中央区築地出身。マルチカメラ収録&配信ユニット「LiveNinja」メンバー。2006年より株式会社スタートライン設立。外務省、国連機関、国際NGOなどの国際会議やシンポジウム、企業イベントなどのライブ配信を担当
山本久之
映像エンジニア。フリーランスで映像設備のシステムインテグレーションと、ノンリニア編集に携わる。
ベン マツナガ
未来シネマ/ディレクター。ハリウッドでの大型映像制作、短編時代劇の自主映画制作を経て、現在は、映像を通じて人と人をつなぐことをテーマに様々な映像制作に取り組んでいる
河尻亨一
1974年大阪生まれ。雑誌「広告批評」を経て現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰、企業コンテンツの企画制作なども行う。デザイナー石岡瑛子の伝記「TIMELESS」(http://eiko-timeless.com/)をウェブ連載中。
茂出木謙太郎
株式会社キッズプレート代表。「楽しいInternetコンテンツ」をテーマに活動。現在VRの可能性をまさぐり中。CG-ARTS協会会員
稲田出
映像専門雑誌編集者を経てPRONEWSに寄稿中。スチルカメラから動画までカメラと名のつくものであればなんでも乗りこなす。
黒田伴比古
報道・ドキュメンタリーエディターでありながら、放送機器に造詣が深く、放送局のシステム構築などにも携わるマルチプレーヤー。
ヒラタモトヨシ
ファッションとテクノロジーを繋ぎイノヴェーションを生み出す事をライフワークとし、WEB/ライブメディア/高精細映像表現を追求。
猪蔵
いつも腹ペコ。世の中の面白いことを常に探っている在野の雑誌編集者。
須藤高宏
東京・国分寺市に於いて録音スタジオ「マイクロサウンド」を運営し各種録音編集に携わる傍ら最近では各種イベント配信音声を担当。
林永子
2005年よりサロンイベント「スナック永子」を開催。通称「永子ママ」
ViewingLab
未来の映像体験を考える有志の研究会。映画配給会社、映像作家、TV局員と会員は多岐に渡る
石川幸宏
映像専門雑誌DVJ編集長を経て、リアルイベントを中心とした「DVJ BUZZ TV」編成局長として活躍中。
山下香欧
米国ベンチャー企業のコンサルタントやフリーランスライターとして、業界出版雑誌に市場動向やイベントのレポートを投稿。
岡田智博
クリエイティブクラスター代表。メディアアートと先端デザインを用いたコンテンツ開発を手がけるスーパー裏方。
萩原正喜
米国コロラド州から、米国のデジタル放送事情からコロラドの日常まで多岐に渡るコラムをお届けします。
坪井昭久
映像ディレクター。代表作はDNP(大日本印刷)コンセプト映像、よしもとディレクターズ100など。3D映像のノンリニア編集講師などを勤める。
しらいあきひこ
カメラメーカー、ゲーム開発などの経験を持つ工学博士が最先端のVR技術を紹介。
秋山謙一
映像業界紙記者、CG雑誌デスクを経て、2001年からフリージャーナリストとして活動中。
今間俊博
アナログ時代の事例を通じ、教育関連の最新動向を探る。
金田浩樹
映画・テレビの映像制作を中心に、USTやニコ生等、ライブメディア各分野を横断して活動中。ジャンルや固定概念にとらわれない構成力と発想に定評あり。
伊藤裕美
オフィスH(あっしゅ)代表。下北沢トリウッドでアニメーション特集上映を毎年主催している。
UserReport
業界で話題の商品を実際に使ってみてどう感じたかを、各方面の様々な方々にレポートしていただきました。
System5 Labs
SYSTEM5スタッフが販売会社ならではの視点で執筆します。

トップ > コラム > [東京Petit-Cine協会]Vol.88 日本映画のレベルを底上げするために必要なこと