txt:江夏由洋 構成:編集部

4Kのワークフローを支えるのは「ストレージ」

4Kや8Kの撮影はデータサイズとの闘いといっていい。一日の撮影量が1TBを超えることはよくある

4Kによる映像制作はすでに特別なものではなくなった。各社から発売になるあらゆる動画カメラは4Kの解像度を持っているし、ノンリニア編集ソフトも4Kの撮影素材を驚くほど簡単に扱えるようになっている。ノートパソコンでも、あまり4Kを意識しなくても編集や再生が行える時代になった。しかし、本当に盤石な4K映像の制作環境を作るには、まだまだ知識と工夫が必要だと私は考える。

今回の記事では外部ストレージにスポットを当てたいと思う。ここ何年もの間いろいろな4Kや8Kの撮影案件を行ってきたが、正直ワークフローの根幹を支えてくれているのは他ならぬ外部ストレージであると実感している。外部ストレージには様々なタイプのものがあり、使用用途や予算にもよって選択肢があると思うが、何よりも大切なのは「安全」であることだ。

実際に運搬されるストレージになる中、データの損傷などは絶対にあってはならない。構造という面でも、ストレージ個体の信頼性という意味でも物理的なデータの安全性は誰もが求めるところだろう。そして更に4Kや8Kという目的で使うのであれば、無論「スピード」は欠かせない。もっと欲を言うならば大容量のデータを扱うことになるため「容量」も重視されるところだ。

「安全」「スピード「容量」を満たすSonyのPro-Media

実はSonyのPro-Mediaは各所で高い評価を得ている。そのラインアップも非常に充実している
※Sony Webページより引用

この「安全」「スピード」「容量」という条件でストレージを探すと、もちろんいろいろなメーカーの商品が絞られてくるとは思うが、私が選んでいるドライブはSony一択である。過去にはいろいろなメーカーのドライブを使用していたが、2016年にスタートした4Kのテレビ番組制作をきっかけにSony製のドライブを使うようになった。

きっかけはProfessional RAID

Sony Professional RAIDシリーズは、4K/8K制作環境には欠かせない

一番最初に導入したのが大容量のHDDドライブであるProfessional RAIDシリーズだ。このProfessional RAIDシリーズは4TBのPSZ-RA4Tと6TBのPSZ-RA6Tの2種類があるのだが、正に番組の編集ワークフローの骨となっている。USB3.0の帯域をフルに活かした、最大440MB/sの転送速度は外部ストレージの常識を覆すスピードと言っていいだろう。既に60本以降のOAを終えているものの、過酷な撮影現場や編集環境が点々と変わる状況であっても一度の事故や故障もないというのも私が信頼を寄せている理由だ。4TBや6TBという大容量も魅力であると同時に、正に安心とスピードも兼ね備えた理想のドライブだと思っている。

インジェストの様子。XAVCやXAVCSの素材が山のようにあっても、コピーはあっという間だ

番組の撮影はSony PXW-FS7を2台と、αシリーズのミラーレスやアクションカムといったウェアラブルカメラも合わせて、一日大体1TB~1.5TBのデータサイズの収録だ。メディアの種類としてはXQDカードが10枚以上、SDカード、MicroSDカードが合わせて10枚以上を使用するため、そのインジェスト作業は正に悪夢とも言える。ところが転送速度が早いProfessional RAIDをインジェストのターゲットにしているため、なんと全部のコピーの作業は2時間以内で終わってしまうのだから、非常に助かるというわけだ。これがよくあるポータブルなどのHDDだと80MB/s程度しかスピードが得られないため、平気で5時間以上の時間を要することも考えられる。

「人の手による作業」には常に細心の注意が必要だ。短時間でインジェストが終わることで、技術陣がしっかりと睡眠を確保するという意味でもProfessional RAIDは今や絶対に手放せない機材になった。

Professional RAIDを根幹にした4K編集ワークフロー

この撮影データがインジェストされたProfessional RAIDはそのままディレクターに手渡され、一貫してAdobe Premiere Pro CCでオフライン編集からオンライン編集までが行われる。4Kの素材もこのProfessional RAIDから直接編集されるのだが、最大440MB/sというスピードは何らストレスのない再生環境を4Kであっても実現してくれる。

弊社の場合、2台のストライピングで組まれたデスクトップのパソコンの内蔵ディスクよりも速度が安定して出るため、最近はほとんどオンプレの内蔵HDDは使わなくなった。むしろMacやWindowsといったプラットフォームも気にすることなく、データを運べるのは非常に便利であると感じる。USB3.0だけでなくMacでデイジーチェーンとして使用できるThunderboltのインターフェースもついており、自分のスタイルに合わせて様々なスタイルを組むことができるだろう。

ポーターブルストレージの新機種に注目

新しく発売になったポータブルディスクの、PSZ-HC、SCシリーズ

番組で使用する目的だけでも20台以上のProfessional RAIDが現場で活躍しているのだが、実は更にSonyからポータブルストレージの新製品がこの夏に発売になった。ポータブルストレージというと、その名の通り、持ち運びができるサイズであり、電源をつなげることなくUSBケーブル一本でOKという代物だ。しかも新製品はUSBケーブルと本体が一体化されており、綺麗にケーブルを収納できるデザインとなっている。実はSonyのプロ向けポータブルHDDは一昔前からいろいろなタイプが発売になっているのだが、今回ラインアップが一新された。従来のHDDは灰色のシリコンカバーだったのに対し、新製品はProfessional RAIDと同じ黒に統一され、筐体のサイズも少しだけ大きくなっている。

USBケーブルが一体化されたのと、Type-Cのインターフェースが搭載された

大きな仕様の変更はUSB3.1のType-Cのコネクターを搭載したことだ(Gen1)。新しいMacBookで使えるだけでなくWindowsでも新企画コネクターとして注目を集めているType-Cは、これからのUSB規格として注目を集めている。新型のMacBookが従来のUSB3.0やThunderboltのインターフェースを持たないため、いろいろな変換ケーブルを使って外部ストレージを使っている人も多いだろう。またUSB3.0のケーブルが一体化されたためか、ディスクスピードも若干UPしている。公式の仕様では従来のHDDはUSB3.0接続で最大122MB/sだったのに対し、新型のポータブルHDDは同様のUSB3.0接続で138MB/sとなっている。

新旧の比較。筐体が少しだけ大きくなった

4K/8KにはSSDタイプが便利-実際の編集や再生にも問題なし

Tybe-Cを使ってMacBook Proと接続。新しいジェネレーションのマシンでも変換せずにそのまま使えるのが嬉しい

またこのポータブルシリーズで最大のパフォーマンスを持つのが、SSDタイプのものだ。そのスピードはUSB給電だけで430MB/sを誇る。これはほぼProfessional RAIDと同じスピードだ。サイズは480GBと960GBの2タイプから選ぶことができるのもいい。2TBまで容量があるHDDタイプと合わせて、そのラインアップの選択肢はかなり豊富だ。

実際のディスクスピード。ProRes 422 HQの再生であれば4K60pも問題はない

実際にSSDモデルを使って4Kや8K映像の編集をしているが、理想の環境といっていいほどのパフォーマンスだと思う。Type-CでMacBook Pro 15インチRetinaにつなぎ、Adobe Premiere Pro CCでSSD内の素材を編集している。Blackmagic Design社のDisk Speed Testを使うと、WRITEが155MB/sでREADが321MB/sという速さが計測された。4K30pのProRes 422 HQコーデックであれば読み書きがリアルタイムで行えるということになる。再生だけであれば4K60pも問題ない。Premiere Proでの4K/XAVC 30pの挙動は、全くストレスを感じないほどだ。解像度を1/2にすれば、ほぼリアルタイムで4Kの素材が走るため、作業は完璧に行える。8K24pのProRes 422 HQの素材もしっかりと中身を確認できるほどだ。

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2017/11/BackUP_03_012.jpg Premiere Pro CCの様子。直接SSDタイプであるPSZ-SC96から素材を読み込んでいる。4Kはサクサク動いている
※画像をクリックすると拡大します

実質的にProfessional RAIDとスピードは変わらないため、このディスクを使った一貫したワークフローが組める。インジェストも高速で行え、再生もスムーズで、あらゆるプラットフォームで高解像度を活かした編集が行えるシステムだ。筐体の小ささにゆえに、ノートブックとの相性も活かした使用方法を構築できる上、もともとディスク容量の少ないノートパソコンに対して大容量でかつ高速のディスクスペースをプロジェクトに割り当てられるのは嬉しい限りだ。

実際のワークフロー。編集するパソコンは様々だが、一貫してポータブルディスクを中心として作用を進められる

管理アプリを使って、ディスクの状態を確認

またこれらのラインアップは、サイトから無料でダウンロードできる「Memory Media Utility」というアプリを使って、WindowsやMacから個体認識を行うことが可能で、ディスクの健康状態だけでなく、各種フォーマットをしっかりと行うことが可能だ。このアプリは非常に使いやすく、より高いディスクへの信頼性を与えてくれる。

Windowsでしか使わない場合はNTFSを、Macでしか使わない場合はHFS+を、そして両方のプラットフォームで使うときはexFATを選ぶのがいいだろう。なるべくデータ回復しやすいとされるNTFSやHFS+で使用することをお勧めするが、何でも読めるexFATはとにかく便利でもある。ファイルフォーマットにおけるいろいろなパソコンとの相性はよく問題になるため、しっかりと使用する前に確認をして、しかるべきフォーマットをしておく必要がある。

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2017/11/BackUP_03_014.jpg Memory Media Utilityの様子。ディスクの管理簡単に行える。フォーマットもこれで問題はない
※画像をクリックすると拡大します

最終的には「信頼」がすべて

市場にはもっとスピードを得られるようなポータブルディスクも確かにあるのだが、何と言ってもSonyブランドに支えられる信頼性は大きい。このPro-Mediaのシリーズにしてから、もちろん一度のデータ欠損もないし、安定した4K/8Kの編集が行えている。日本の技術力がなせる「いつもちゃんと動く」という当たり前のようで難しいことを、SonyのPro-Mediaはしっかりと実現してくれていると感じる。

耐落下、防塵・防滴の仕様を実現するゴムダンパーが与えてくれる安心感も大切だが、最終的には大切なデータを問題なく運用できることに尽きるのではないだろうか。次世代のワークフローに寄り添ったこれらの製品は、よりクリエイティブなことに集中できる環境を与えてくれていると思う。

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。