txt:柏原一仁(銀一株式会社) 構成:編集部

ステディカムと電動ジンバルの違いとは

前回はステディカムのワークショップについて掘り下げ、その扱い方には「トレーニングが大事」という話をした。しかし現代、電動ジンバルの登場を数年前に迎え、制作現場にあっという間に定着し、「電動ジンバルでいいじゃん、なんでそんな練習しないと扱えないようなクラシック特機使ってるんだよ」という話も出てくるだろう。

DJI Ronin 2

ご存知の通り、電動ジンバルはモーターとジャイロによる制御で、誰が持っても水平をしっかりと保つ機材だ。誰でも持った瞬間からがっちりピッタリ水平を出せる。手ブレサヨウナラ。なんて画期的なんだろう。実際電動ジンバルのおかげで、移動するショットが大幅に増えたはずだ。手持ち、カーマウント、小型ジブへの搭載、ドローetc…。ステディカムに載せて運用するという組み合わせも出てきている。

ではステディカムと電動ジンバルは何が違うのだろうか。いくつかのファクターから見てみよう。

まずは、駆動方法だ。ステディカムは重力を利用するが、電動ジンバルはモーターを動かして制御する。電気を使用するので、バッテリーを搭載する必要がある。

次に耐荷重と搭載サイズ。ステディカムはラインナップ内で最大22kgの搭載重量を誇る機材があるが、電動ジンバルは一般的に最大10kg前後のものが一般的。また、構造上カメラサイズに制限が出てしまうことが多い。それを解決するデザインのものも一部あるが、やはり自由度の低さを考えながらカメラ周りを構成する必要があるだろう。

扱いやすさに関しては、前回も述べた通り、ステディカムにはコツみたいなものが必要だが、電動ジンバルは初めて扱っても水平が出る。トレーニングが必要なステディカムに比べて、随分手軽だ。この手軽さが、多くの現場でここまで使われている理由だろう。

そして、装着・オペレーション。アームヴェストタイプのステディカムは身につけて使うが、電動ジンバルは手で持って使うことが一般的だ。アームヴェストは負担を軽減するが、しゃがんだり、手を伸ばして2m超えの位置にカメラを置くようなワークはつなげてはできないことが一般的。電動ジンバルは重さは負担として発生するものの、ワークエリアの広さはアドバンテージだ。

ステディカムと電動ジンバルの組み合わせ

筆者は電動ジンバルは少し触った程度の経験しかないので大きなことは書けないが、ステディカム側から見た電動ジンバルとの違いとして大きいのは、やはり画作りだ。

身体に画作りを教え込まれるのがステディカムの特徴で、指先のコントロールで画を切り取り、そして咄嗟に反応して良い構図を作っていく。やはりどうしてもモーターのコントロールではワンテンポ遅れる印象がある。感度を高くすれば追従性は良くなるものの、ピーキーすぎる印象も出てくる。これがどうもしっくり来ないときが多い。

また、電動ジンバルの場合、ドローンオペレーターのように、移動担当と構図担当に分かれて2名体制で撮影することもあるだろう。これも良し悪しあるだろうが、ステディカムオペレーターとしては自分で画の全てをコントロールできるという部分は、委ねられる腕の見せ所もあり、映像表現の大きな醍醐味だろう。

ステディカムには蓄積されたテクニックとコミュニティがある。「他社(他者)と差別化を図ろう」と、テクニックを自分だけのものにするような風土はなく、ステディカムオペレーターを目指す者は皆、自身の知識やテクニックを教え合い、教わり合う。テクニックのみならず、安全対策、身体を鍛えるトレーニング法、現場での振る舞い方まで、多くのことをシェアしあえるコミュニティを何十年も形成し続けているのは、これからオペレーターになろうとするビギナーにはきっと安心できる環境のはずだ。

電動ジンバルにももちろんコミュニティがあるだろう。同じように育っていくことを期待し、一緒にトレーニングもしたいと個人的に思っている。

小規模な撮影はもちろん、テレビコマーシャル、映画の世界でも電動ジンバルが多く使われており、観ていて、「あ、これ電動ジンバルだな」と思える画に出会うことも多くなった。が、何かどうしても機械的というか、物足りなさを感じるときもある。一方で、ものすごくうまい上に、「これはステディカムでは撮れないな」と唸るようなショットもあるし、こればかりはやはり扱う人の問題なのだ。

電動ジンバルは水平が出て綺麗に撮れる道具ではない。やはりステディカムと同じように、演出する道具。それを忘れて、「ステディカムは難しいけど電動ジンバルは簡単!」と考えなしに本番で使うのではなく、過去多くのオペレーターが撮った美しい映像を参考にしながら、ぜひトレーニングを重ねた上で現場に臨んでほしいと思う。ステディカムも電動ジンバルも、撮りたい画のゴールは同じはずなのだから。

次回は、古き良きステディカムはこの先どうなるのか?最新テクノロジーとステディカムについて話したいと思う。

WRITER PROFILE

柏原一仁

柏原一仁

リリーヒルワークス代表。銀一株式会社にて映像機器・写真用品のセールス・マーケティングを経て独立。好きな食べ物はからあげ。