txt:宏哉 構成:編集部

今回も前回に引き続きATAカルネ利用時の海外現地でのトラブルだ。

海外入国(その2):セネガル

セネガル=ダカールの裏路地(2010年11月)

8年程前、アフリカ西海岸のセネガルに取材に行った時の話だ。日本からセネガルの首都ダカールまで30時間かけて移動し、街紹介やグルメ、アクティビティーなどの取材を行った。

セネガルは、国民の95%がイスラム教徒という事らしいが、我々が訪れた11月には街中にクリスマスの飾り付けが施され、女性はカラフルな民族衣装を纏い、街中にコーランが鳴り響くことも無く、ただ、お酒と豚肉は食卓に並ばないという、ライトなイスラム圏だった。

アフリカ圏での取材で見られる傾向は、カメラの前に出て写りたがる人よりも、カメラの後ろに来て液晶モニターを至近距離で覗き込んだりする人が多いこと。子供達が集まったときなんかも、レンズ前よりもカメラマン側に回り込む子が多くて、それこそカメラがブレるぐらい密着される。あれはモロッコだったか、チュニジアだったか……市場を取材中、カメラに寄ってきた子供に不意にカメラのRECボタンを押されたことがあった。インタビュー取材中だったのにRECが止まってしまった頭の痛い記憶が…。無論、どさくさに紛れてのスリなどもあるので、財布やパスポートなどの所持は要注意だ。

ダカールの市場撮影

取材自体は、通常のトラブル範囲(笑)。いきなり街中で祭が始まってロケ車が動けなくなったり、中国人と勘違いされて取材拒否されたり、ちょっとしたお店のインサート撮影でもお金を取られたり…。あ、あとディレクターが黒人の集団にカツアゲに遭っていたな…。それは、また今度。

メインのトラブルはやはり空港で。レオポール・セダール・サンゴール国際空港の税関オフィスは、空港ターミナルから歩いて行ける程度の少し離れた建物にあった。オフィスに通されると、責任者と思わしき男性が処理に当たってくれた。が、街中での取材で散々カネをせがまれた我々は、ここでもカネを要求された。曰く「通常はカルネの処理に1日は掛かるのが当たり前だ。だからカネを払えば、すぐに通過させてやる」。( ゚д゚)ぽかーん。

なるほど、途上国ではよくある事だ。空港職員などは、エリートというのは言い過ぎだが、選民意識のある人間が多い。カネはとにかくとして権限はあるし、それを振るいたくなる。しかし、外の世界を知るほどには賢くも無ければカネも無いので、外の人間から見れば裸の王様状態だ。そして、賄賂も珍しいことではないのだろう。いけしゃあしゃあと、不正規なカネを要求してくるのだ。

幸い、日本円にして千円程度の金額だったので、直ぐに払ってカルネ処理を進めさせた。こんなところでゴネても時間の無駄なだけだからだ。ちなみに、税関でのカルネ処理にお金は掛からない。各国の関税が輸出入に必要な法的根拠・条約に基づく処理として、粛々と対応するのみである。これも空港職員の給料のうちだ。

その後、空港のチェックインカウンターでも一悶着。私の荷物が5kgオーバーで預けられないという航空会社のカウンター職員。それは当然の話だから、だったら他のスタッフの余裕のある荷物に重量オーバー分を振り分けようとしたら、すでに他のスタッフの荷物はベルトコンベアで流されていて、移し替えられない。「流した荷物を戻せ」と言っても応じてもらえず、結局オーバー分は機内持ち込みにすることに。

ただ、機内持ち込みにした物が当時の照明機材に必要だったニッケル水素バッテリーだったので、手荷物検査場のX-rayで引っ掛かる…。バッテリーはX-rayでは真っ黒に写る。慣れた職員だと「バッテリーだな」と気にもしないのだけど、不慣れな職員だとビックリして厳重検査だ。バッテリーだと分かれば問題なく通してくれるので、大人しく提示して、安全無害だと認識させよう。

さらに出国カードのOccupation(職業)の欄になぜかこの時は“Cameraman”と記述してしまって出国審査ゲートで「お前はジャーナリストか?どこの所属だ?何を取材していた?」としつこく聞かれた。「日本のテレビ局だ」と応えると関心を失ったらしく、パスポートと搭乗券を返してくれた。やはりOccupationの欄にはEmployee(会社員)と書いておかないとロクな事がないと実体験した出来事だった。ちなみに、今はフリーランスの身なのでSelf-employed(自営業)としている。

ダカールのグルメ撮影

海外入国(その3):メキシコ・シティ

2018年…つまり今年に入ってからの税関での出来事もひとつ紹介しておきたい。メキシコを取材したときの話だ。私にとっては初めてのメキシコ。取材地は地方のリゾート地だったのだが、入国はメキシコ・シティ国際空港で行った。

メキシコもカルネ利用が可能なので、予めカルネを作成。ただメキシコの場合、カルネが発給されたらメキシコの税関WEBサイトにアクセスして、事前に輸入申請を済ませておく必要がある。これは初めてのパターンだった。詳細は、日本国内でカルネの発給を受ける際に日本商事仲裁協会の方で案内があるので、安心してほしい。

はじめてのメキシコへ。パスポートは増補済み

さて今回、ひとつの不安要素を抱えてメキシコに入国した。それは「ドローン」だ。言わずと知れた「空撮用マルチコプター」であるが、今回ドローンはカルネの機材リストには入れていなかった。ドローンは同じ番組のロケであっても、取材する国や内容によって使うか使わないかがその都度変わるので、いつも海外ロケに持って行くとは限らない。

一方、カルネは一度発給を受けると機材個体が変わらない限りは、1年間有効だ。発給コストも手間も大変なので、できるだけカルネは1年間使い回したい。そのカルネにドローンを入れてしまうと、使用する予定がなくてもロケ先に持って行かなければならないことになる…。その為、ドローンはリストに入れないことにしていた。カルネの使い方の最初にも述べたが、使用機材がカルネに入っていなくても別に違法でもなんでもない。ただ、別途関税が掛かるリスクを自己責任で負うだけだ。実際、税関が厳しいとされるドイツやオーストラリアでも、ドローンの持ち込みに関しては、ノーチェックでスルーだった。

メキシコでのドローン撮影

しかし、今回のメキシコでは税関で捕まった。ドローンがカルネの機材リストに入っていないということで、課税されてしまったのだ。税関でドローンの輸送用ケースを開けさせられ、型式をチェック。「どこで買ったのか?」「購入価格は?」「新品か?中古か?」「メキシコ国内での用途は?」などを聞かれ、最終的に規定の税額を課された。税額は日本円にして2万円弱だ。なかなか痛い。ドローンのメキシコへの持ち込み自体は、違法ではないので関税さえ納めれば、問題なく通関できる。

メキシコに持ち込んだ機材と私物

さて時系列は前後するが、ドローンの課税を受ける前に、もう一悶着あった。空港の税関でカルネ処理をお願いすると、機材リストに関係する機材ケースだけをオフィスに運ばされた。同行者は認められず、カルネ取扱人の私だけ来い…という事だった。

オフィスに入ると、20代後半と思われる女性職員が応対した。とりあえず、リストの上から順にチェックを受ける。面倒くさい「全数チェック」だ。彼女は、次々にリストにある機材を読み上げて、私にケースから取り出させる。大きなテーブルなどがあるわけでは無く、床に機材ケースを開いて、私は這いつくばりながら機材を取り出しては、職員に見せた。

ただ、細かな充電器や撮影アクセサリー類はリストに入れていない。だから、リスト上の機材チェックが終わっても“未開封の梱包”がいくつも残っている状況だった。すると、彼女は「その包みを見せろ」と立ったまま足で、ゆび差す?足差す?…てくる。梱包を解いて中身を見せると「次」という風に、隣の梱包を足で指す。民度?育ちの悪さ?お里が知れる??私はいささか顔を引き攣らせながら、言われるまま梱包を解いていった。

リスト外の機材としてはGH5用の交換レンズなども数本あり、こちらは「撮影アクセサリー!」と言い張ったら「OK」と言われたのだが、7インチの安い液晶モニターだけは「OK」とは言わなかった。もともと、ドローン用のディレクターモニターとして持ち込んだので、ドローン関連機材はリストには入れていない。

料理撮りなどのチェック用モニターとしても使えるので「照明確認用のモニターで、照明アクセサリーの一部だ」と詭辯を弄したが、「NO!」と突っぱねられた。「ですよね~」っと日本語で返しながら、「んで、だから俺にどうしろと?何したらいいの?」と聞き返すと、彼女は特に何も言わずパスポートと機材リストのコピーをしにオフィスの奥に。それら一式を私に返すと、「行って良い」と言い解放してくれた。たぶん、追加課税の手続きがメンドくさかったんだな…。

そんなカルネ絡みでのやりとりがあり、撮影スタッフの元に戻ってみると、先のドローンの件が待っていたのだ。いつもは他のスーツケースに紛れて、ドローンケースも通関してしまうのだが、今回は私を待つ時間もあったので、その間に残ったスタッフもみっちり調べられたようだ。

メキシコ=ロス・カボスでの撮影(2018年1月)

なお、メキシコに入国してからメキシコ国内でのドローンの法規制について聞いてみた。メキシコ国内でのドローン普及率が低いらしく、ドローンを対象とした法律も十分整備されていないそうだ。それはドローンを使って、麻薬を密輸しようとした事件が相次ぎ、海外からのドローン製品の輸入に高額の関税を掛けることで一般市民がドローンを所有しづらくしている為なのだとか…。それもあって、空港税関ではドローンに関しては目を付けられたのかも知れない。それぞれお国の事情というものが見えた瞬間だった。

まとめ

この様に、ATAカルネ利用は税関での煩わしさを解消するツールの1つであるが、同時に厄介事を招き入れる場合もある。その国の税関がややこしい事が想定される場合は、あえてカルネを使わず通関するという選択をした事もある。もちろん、その選択が裏目に出る可能性も考えた方が良いだろう。反対に、ドイツやオーストラリアなどの税関は、正規の手続き自体が厳密で、鋭い目が光っているので、しっかりとカルネを作成して、申告した方が良い。

カルネは絶対に通関に必要な物では無いが、使えるところで正しく使えば、心強いお守りになる。そして、トラブルも含めて良い思い出であり経験だ。是非、海外ロケに出掛ける際には、カルネを作成して使用するという経験をしてみて欲しい。

WRITER PROFILE

宏哉

宏哉

のべ100ヶ国の海外ロケを担当。テレビのスポーツ中継から、イベントのネット配信、ドローン空撮など幅広い分野で映像と戯れる。