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[ココロカメラ]Vol.22 海外向けドキュメンタリー番組の立ち上げ~前編

2018-04-24 掲載

txt:オースミユーカ 構成:編集部

美術館紹介の番組

やっと春がやってきた。慌ただしすぎる年度末を終えて、やわらかい緑の季節を楽しむ余裕も戻って来た。4月に向けた改変期は例年いそがしい。この数ヶ月はNHKの国際放送で流れる新番組のパイロット版を作っていた。いやはや番組をイチから立ち上げる作業は、やっぱりなかなか試練が多い。でも内容が自分の興味とぴったりあっていれば、試練も楽しみにかわる。今回作ったのは日本の美術館を紹介する15分間のドキュメンタリー番組だ。

私は旅に出る時は美術館巡りを一番の目的にするほどの美術館好き。日本はもちろんのこと世界中の美術館をかなりの数訪ねている。だから、どんな内容がみたいのか私自身が厳しい視聴者の目線を持ちつつ、わくわくしながら企画をたてられる。そしてレギュラー化が決まったあかつきには、日本中の美術館を巡って撮影旅行もできる。そんな楽しみも想像すると番組作りの気合いも入る。

今回はNHKでも海外のチャンネルでだけ流れるNHK WORLDの番組なので、全篇英語だし、視聴者も世界中のインテリ層という刺激的な仕事だ。そういえば私、最近子ども向けばっかり作っていた…。きちんとした大人に向けたハイエンドな番組作りなんて制作者としてはありがたい限りだ。

さて、新番組を作るにあたって美術系の番組を思いかえしてみると、名画・画家を紹介したり、いま開催中の企画展を紹介するものはよくあるが、美術館自体にフィーチャーして一館ずつを紹介していくスタイルのものは記憶にない。日本を新たな切り口から紹介するこの番組もオリンピックを見通したインバウンド向け企画のひとつ。

NHKの中には美術班といって、美術系の番組ばかり作っている精鋭陣がいる。今回はその美術班のプロデューサー達と一緒に企画をたて、まずはパイロット版として金沢21世紀美術館を取材先にすることに決まった。日本の美術館の現在を紹介する番組としてはふさわしすぎるチョイスだし、すでに私は3回も訪れている大好きな場所だ。

リサーチのため現地取材

大まかな方針はプロデューサー陣と相談しながら決めて行くが、具体的な番組構成やリサーチはディレクターの仕事。伝統芸能で有名な歴史ある金沢の地になぜ現代美術館を作ったのかをまずは調べることにした。初代館長がどんな想いを金沢21世紀美術館にこめたのか、本や開館当初の文献を読み漁る。そして美術館広報部にあいさつがてら金沢まで遠征して現地の取材も開始した。ロケハンでもなく、取材のためだけに現場に行けるなんて、ありがたすぎる環境だ。

猛吹雪の中10キロ近く金沢の街を歩く。空回りしてはしゃぐ私。プロデューサーは無言…

しかし取材出発前日、東京は大雪。新幹線はなんとか時間通りに出発したけれど、着いた先の金沢は近年まれに見る大雪にくわえて猛吹雪という悪天候…。「なんでこんな日に来たの?」と行く先々で真顔で聞かれる中、街を歩き回った。

吹雪の鈴木大拙館に取材。私の大好きな思索空間がある。谷口吉生建築

当初番組では金沢の街紹介も兼ねようと考えていたため、気になる建物にはロケ地候補として入ってみた。その建物の歴史を知ると金沢という街がみえてくる。こうやって地道に足を運ぶ事で、人との出会いがあり、番組のイメージもなんとなくみえてくる。

2日間の取材を終え、東京に戻ってから構成を仕上げた。何度か打合せを重ね、内容は美術館紹介だけに絞る事に決まった。その街における美術館の成り立ち、建築の魅力、そして展示作品の紹介と作家インタビュー。シンプルで散漫にならずにきちんと美術館と向き合うことで、深く内容の濃い番組ができるはずだ。やっと方向性がみえてきた。

ふと気になって入ってみた教会。その名も聖霊教会。畳敷きの祈りの場があり、和洋折衷の建築がおもしろい

制作体制も整ってロケハンへ

構成が決まったら改めて取材先を選定しつつ、今度はロケハンのために金沢に向かった。美術館のキュレーターとも会い、取材したい作品についての詳細を聞いたり、撮影の段取りを話し合ったりする。やっと制作体制も整ってカメラマンとADも一緒の頼もしい三人旅だ。

屋上から美術館の俯瞰を探る。カメラマンは成田伸二さん

ロケハンでは演出意図を伝えつつ、カメラ機材の選定も話し合う。美術館の中をドローンを飛ばしたいと館スタッフに提案すると、さすが現代美術を扱っているだけあって懐も広く「それはいままでない試みだ。観覧客に迷惑をかけないすいている時間ならありじゃないかな?」と喜んでくださった。

金沢21世紀美術館の建築は今をときめくSANAAが手がけている

そもそも金沢21世紀美術館には、ただ鑑賞するだけの作品はほとんどなく、観覧者が体験することで完成する作品ばかり。そういう意味でも、視聴者がまるで体験しているかのようにみせることが美術館の魅力を伝えることになる。だからカメラもなるべく主観的なステディカムを多用し、作品の中や美術館を歩き回りながら撮影することにした。もちろん美術作品を撮るので美しくかっこいいFIXの画も重要だ。ロケハン用に持ってきてもらったカメラ、OSMOを手に、私たちは美術館の中を泳ぎ回った。

こうして頭の中だけにあった構想がスタッフが増える事で少しずつ目に見える形になっていくと、やっと制作体制に入って来たという安堵とよろこびの時間がやってくる。

後編は実際のロケと編集やカラコレの話とつづきます。

NHK WORLD「Close to ART」
15分番組。こちらからオンラインで全篇視聴可能。


WRITER PROFILE

オースミ ユーカ 映像ディレクター。企画、脚本から演出までジャンルを問わず活動。


[ Writer : オースミ ユーカ ]
[ DATE : 2018-04-24 ]
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