txt:岡英史 構成:編集部

2つのレジェンド三脚の提案

三脚というとカメラマンの方々は本当にこだわりが深い。面白いことにそれは低予算の自主映画だろうが、ハイエンドの映画だろうが、その上下はあるが確実に共通点を持っている。それは動いて止まるということだ。この何の変哲も無い動作が出来るかどうかでその映像のクオリティーが全く変わってくるから面白い。この辺の事情はカメラを振って映像を撮らないと解らない事だ。

今年4月に会社名がヴァイテックプロダクションソリューションズとなった同社が取り扱う、三脚メーカーの2トップとも言えるSachtlerとVintenが共同開発した一発目の三脚がこの「Flowtech 75」シリーズだ。

75mmボール最終章?!

ヘッドは全く違うが脚部分は共通部品だ

今回お借りしたのは、Sachtler FSB6 FTMSと、Vinten Vision blue3 FTMSの2セットで、どちらも適正荷重バランスが3~4kg程度なので業務用ハンドヘルドやRIGを組んだDSLR辺りがベストな組合せだ(こう書くとFSB6は最大8kgまで載るはずと思われる方もいるが、カメラの重心位置(重心高)で荷重は変化する物で、それは三脚の性能曲線で出されているのでそこを参考にして欲しい)。

今回は手持ちのカメラでDVX200が丁度良い大きさと重さなので使用してみた。先ずはその結果から書いていこう。どちらのヘッドも流石に三脚ブランドの2トップと言われることはある。間違いない動きをしてくれた。筆者は元々VintenユーザーだったのでSachtlerの段階制のカウンターバランスがどうにも馴染めなかった。ドラッグを閉め込むことなくどこでも手を離せばピタリと止まるVinten以外の三脚はあり得ないと。

今回も同じ感じだと思っていたが、偶々DVX200の重さがFSB6にバッチリはまったのか、カウンターバランスがピタリと決めることができ、両者の比較を出来たのだが正直どちらも同じように良い。ただ、スライドプレートの入れ方の違いから SachtlerはRIGを組んだカメラの方が適正だと感じた。逆にENG系はやはりVintenというのが回答だ。

どちらもヘッド部分は甲乙付けがたく、この辺は実際に触って自分のフィーリングに合った物を選べば良い。余談だがBlueシリーズはイマイチ好きになれない筆者もこの2つのヘッドのどちらかを選ぶならやはりVintenを選んでしまう。

CFRPモノコックの素晴らしさ

Flowtech 75の一番の特徴は初の自社工場によるCFRP(カーボンファイバー)の脚だ。両メーカーともカーボン製の脚は今までにも沢山登場してるが、Flowtech 75は丸パイプをラグで組んだ物ではなくモノコック構造にし完全に内蔵型の形式を取っている。

つまり、今まで両者が採用していたツインチューブではなくモノチューブ構造と見かけは同じだ。丸形パイプを使わずにモノコック構造を採用したため、モノチューブでも格段と捻り剛性が強いのが特長だ。モノチューブはツインチューブに比べると1本のチューブなので捻り方向には弱いが、脚の伸縮性や広がりに関しては使い勝手が良い。その弱い捻れ部分をモノコックを採用している事により完全にCFRPの弱点をクリアしている。

この様な小さい段差から階段の様に変則的な段差までレバーのみで簡単に調整が可能だ

筆者が現場で使ってみたが、ツインチューブの脚と比べても全く剛性の不安感は無い。またモノチューブの利点は段差があるような場所でも確実にグランドレベルを築けると言う事だろう。ほんのちょっとの段差がツインチューブだと致命傷になるが、Flowtech 75はかなりの高低差でも全く問題がない。舞台撮影等で客席から撮るような場合、これは大きな武器になる(Flowtech 75はミッドスプレッダーが上段下部に付いているので付けたままでもある程度の段差はクリア出来る)。なお、Vinten Vision blueとSachtler Ace Lのフローテックシステムにはミッドスプレッダーは付属していないとのこと。

17inchのホイールセンターの高さから190cmの車高よりも高く上げることが可能

しかも上部のレバーによりワンロックで脚の長さを変えることが出来るために従来の下段を伸ばして上段で調整と言うような煩わしさはなく、何も気にすることなく高さを出してロックすればOK!スピードロックにも似ているが上部のレバーは固定位置にあるのでロックを探るような手探り感はない。

また、掃除しやすいのも特長で、モノコック構造の恩恵で手を脚に挟むような事故は完全に無くなったと言える。Libecの脚は縮んだときに指を挟まないようにその分のスペースを取っているがFlowtech 75はそもそもモノコック+モノチューブなので指を挟むようなスペースすらない。これは非常に評価すべき点だ。

ハイハット要らずの脚

また、ミッドスプレッダーは付いているが、これを外してモノチューブと同じ様な使い方をすれば、脚の広がり具合を3段階(20°/46°/72°)に簡単に調整できるので、通常の高さから超ローモードのハイハット要らずの高さまでワンタッチで変更が出来る。逆にENG等で三脚を直ぐに移動するような開閉動作が多いときはミッドスプレッダーを付けた方が取り回しは良い。勿論それによる剛性感は更に増すのでリミット荷重時での振り回しでもしっかりと安定している。今回お借りしたセットには更にオプションとして専用のキャリーハンドルも用意されているので、ちょっとした移動時には中々重宝した事を付け加えよう。

裏技的Tips

Flowtech 75と言うよりもsachtler FSB6のヘッド部分の話だが、ヘッドのボルトはそれなりの知識があれば簡単に外す事が出来る。外すとフラットヘッドになるのでこれをそのままスライダーやミニジブに取り付けてオペレートが出来る。ただし、元に戻すときに閉め込みすぎには要注意だ。この部分が壊れると下椀のASSY交換となることが予想される為、それなりの修理費が飛ぶことを覚悟するべき。

もう一つ気になる部分として特にENGでの利用を考えてる方、ミッドスプレッダーでは上げ下げがどうしてもやりづらいからグランドスプレッダーが欲しいはず。残念ながらFlowtech 75には今のところグランドスプレッダーは用意がない。

また、従来のSachtlerやVintenの脚と先端の爪構造が違うため、ボルトオンでは付かない。筆者はManfrotto製の汎用グランドスプレッダー(Manfrotto SKU 165)を装着してみたが、脚の上げ下げに関してはミッドスプレッダーより確実にやりやすい。だが、専用品では無いために若干の加工とその知識は必要になる。

Flowtech 75はモノチューブ時に使用する3段階のロックが付いているが、グランドスプレッダー装着時にはこの機構をキャンセルしないと上手く使えない。更にモノコック構造で隙間なく作られている脚なので、グランドスプレッダー装着時には脚を閉じると若干違和感がある。純正グランドスプレッダーが発売されると聞いているので、一日も早く出して欲しいと思う。

総評

三脚は各々色んなこだわりがある。それはヘッドの粘りだったり、カウンターバランスだったり、システム全体の軽量さというのもある。しかし全ての共通点は動いて止まる、この2点に集約されると言って良い。

今回のシステムに関して言えばヘッド部分は筆者的にVintenがやはりしっくり来る。それはこの業界に来て一番最初に出会ったまともな三脚だというのが一番強い。三脚はお金で買える唯一の道具と言われている。しかし逆に言えば技術を持ってすれば道具の性能を超すことも出来るのが三脚だ。

そう言う意味では今回の2セットは価格に見合った性能を発揮している。とは言え間違えてはいけないのは、三脚には最大荷重と適正荷重は全く違う重さだ。カメラの重心位置が高ければ高いほど適正荷重の数値は減って行く。この辺を勘違いしている方が非常に多い。また大は小を兼ねるとばかりに無駄に大きな三脚をドラッグを締め込んで無理矢理バランスさせてる方もいるが、三脚の寿命が減るだけ。三脚こそ大は小を兼ね無い適材適所で選ぶべき機材と言う事をよく考えてチョイスしたい。

WRITER PROFILE

岡英史

岡英史

モータースポーツを経てビデオグラファーへと転身。ミドルレンジをキーワードに舞台撮影及びVP製作、最近ではLIVE収録やフォトグラファーの顔も持つ。