txt:オースミユーカ 構成:編集部

金沢21世紀美術館でロケ

NHK WORLD(国際放送)で新しい美術番組「Close to ART」を立ち上げることになった。海外の人に向けて日本の美術館を紹介する番組のパイロット版だ。企画→取材→構成打合せ→ロケハンを経て、やっと二泊三日のロケがはじまった。いわゆる“本番”がやってきたわけだけれど、企画や構成を練っているときの一人旅気分とは大きく違う。

カメラマンや制作スタッフというたのもしい旅仲間とともに、さながら桃太郎が鬼退治に向かうワクワクドキドキの楽しい道中だ。天候やら条件やら過酷なロケだとしても、わかちあえる仲間がいるとそれだけで楽しめるのがロケの好きなところだ。

ロケハンをした一ヶ月前とは金沢の景色も大きく変わっていた。金沢21世紀美術館はガラス張りの建物なので、外の景色がどうみえるかは重要だ。ロケハン時は泥だらけの歩き尽くされた雪が汚くのこっている状態だったが、枯れた芝生が顔をだしていた。物寂しい景色だったけれど、汚れた雪が消えていただけでもありがたかった。

美術館内側からの風景。ガラスの向こうにみえる庭にも作品が並んでいる

撮影はなかなか困難を極めた。季節はちょうど春休み。平日をあえて選んできたのに、さすが大人気の美術館は連日チケットブースに長蛇の列ができるほどだ。しかも訪れているのが卒業旅行の大学生ばかりで、理由を聞くと「インスタスポットとして人気の場所だから」とのこと。わざわざ遠くから友人と写真を撮りにやってきているのだ。作品の前は常にインスタ撮影用の順番待ちをする人であふれ、みなこぞってスマホをみつめている。

21世紀美術館は絵を鑑賞するタイプの美術館ではなく、作品を体験する体験型美術館なので、観客が入ってはじめて作品が成立する。そのため番組で紹介する作品も観客とセットで紹介したいのだが、私たちが作品を映像におさめると同時にもれなくスマホの画面をみている人か、カメラに向かってポージングをする人ばかりが映ってきてしまうというわけだ。なかなかどうして絵的に辛い場面の多い大混雑のインスタ・テーマパーク美術館の中でなんとか隙間をみつけながら撮影をつづけた。

一番人気作品の「スイミング・プール」。水中で浮かんでいるような写真が撮れるため、インスタスポットとして常に行列ができている

もうひとつこの季節の撮影で大変だったのは、人々の着ている服だ。まだまだ冬のジャケットを着ている人が多く、暗い色を羽織っていることが多い。白くて美しい建物を背景にすると、それが重く浮き立ち、映像の美しさが損なわれる。カメラマンの成田さんもわたしもカメラを据えてから強い念を送り(笑)、明るい色のジャケットの人を待っては景色におさめた。

ロケ一日目だけ青空が広がる。絵的に絶対太陽光が必要な作品から撮って行く

美しさと機動性で選ぶ機材

今回のメインカメラは、建築や作品を撮るので重厚感や美しさ、そして機動性を考えて、Sony FS7にした。レンズはキヤノンのEFレンズを使用し、主にFIXでの映像はこのカメラを使った。サブカメラは、α7S。こちらはNebulaというジンバルに乗せて主観映像用カメラとして使用した。5倍のハイスピードにも対応でき、歩きながら一人で撮影しても重すぎない小型軽量のものということで選んでもらった。

そして今回の撮影で出会った超お役立ちアイテムが「SHOGUN」という液晶モニター。実際は液晶モニター搭載の4Kレコーダーという位置づけだが、これが晴天時、素晴らしい働きをみせてくれた。通常、快晴の光の中で映像を確認する場合はフードをかぶってモニターをみるが、SHOGUNは液晶画面がびっくりの明るさで反射もないのでいちいちフードの下に潜り込む必要性がない。

レコーダー機能もあるから、撮影済みの映像をプレイバックしたいときにカメラ側からの再生をいちいち頼まなくても、映像を確認できるのも演出的にはありがたい。難点は、電源の消費がとても早いことだが、晴天時のコンパクトな撮影には今後ぜひ取り入れて行きたいお気に入りアイテムになった。

二日目から雨。滑りやすくなっている屋上からの俯瞰撮影。柵はない。カメラマンは成田伸二さん

金沢21世紀美術館の特徴のひとつは建築のユニークさにある。ガラス張りで開放感のある作りは、美術館としては異例の自然光をふんだんに取り込んだ作りだ。雨の建物内は撮影こそ可能だが、自然光が入らないと映像の魅力は大幅に半減してしまう。今回は三日の撮影中二日間が雨になってしまった。

現場で誰が雨男か雨女かとなすりつけあいながらも、二日目から天気が崩れるとわかっていたので、一日目は光が大事な作品や室内を猛スピードで撮りきった。小さな美術館とはいえ、ドキュメンタリーは移動も多いから、とにかく機動性も大事。最小限のコンパクトなスタッフと考え抜かれた機材でとにかく三日間フルに使ってなんとか撮影を終えた。

海外仕様にあわせた編集

雨も人ごみも厳しい撮影だったけれど、目標としていた素材はすべて撮りきれた。帰って来たらすぐに編集作業にとりかかる。当初、国際放送の編成担当から言われていたのは、欧米のドキュメンタリーを意識した作りにして欲しいということ。日本のドキュメンタリーと大きく違うのはカメラワークと編集だ。欧米はとにかく編集のテンポが早い。

カメラはワークしていることが多く、1カットの秒数は短い。番組のトーンに統一感と思想がきちんとあるので、カラコレはもちろん必須条件だ。言葉をフォローするような無意味なテロップは全くなしで、とにかくビジュアルにこだわった大人の作りを目指して欲しいというのだ。

私にとっても日本のテレビ番組のセオリーには日頃うんざりしているものが多く、なかでもビジュアル面に関しての不満は大きかったので今回の依頼はうれしかった。テロップや効果音など日本であたりまえとされている仕様をすべて排除して、ひたすら高尚な番組作りをこだわれることの幸せといったら…、心底ほっとする。

しかも今回アートディレクターとして入ってもらった大野真吾さんが私を圧倒的に上回るこだわりで映像を美しくしてくれたのも、ありがたかった。カラコレもきちんと時間をとってもらえたので、満足感のある仕上がりになった。

今回は久しぶりにほぼ男性陣しかいないスタッフ。業務過多もあってデザイン面など細かなディレクションをしなかったからゆえに、私らしさが少し抜け、大人向けのハイブローな番組になったのかもしれない。

娘の保育園時代、さいごのお別れ遠足。行事と編集をいったりきたりした3月…

気づけば季節が変わっていた。編集の合間のほとんど寝れていない日々の中に、娘は卒園式を迎えた。感動は二の次で、“とにかくそこにいること”だけが目標になってしまっていた私。そして番組納品直後に娘は新一年生となった。日々作業をこなすことに精一杯でその大切な時間を普通の母親のように味わい尽くすことができなかったのは少し心残りだ。そんな慌ただしい生活の中、悩みながらも出来る限りのベストを尽くしてできあがった新番組「Close to ART」。さて海外の美術好きは喜んでくれるだろうか?

NHK WORLD「Close to ART」
15分番組。こちらからオンラインで全篇視聴可能。

WRITER PROFILE

オースミ ユーカ

CMやEテレ「お伝と伝じろう」「で~きた」の演出など。母業と演出業のバランスなどをPRONEWSコラムに書いています。