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全仏オープンでの8K制作

8Kデモの様子

テニス4大大会の一つである、全仏オープンが5月21日から6月10日まで開催された。国内注目の大坂なおみ選手は3回戦、錦織圭選手は4回戦で敗退と共に残念な結果に終わったが、女子は世界ランキング1位ながら、これまで4大大会での優勝経験が無いシモナ・ハレプ選手が念願の初制覇を達成。男子はクレーコートの王者、ラファエル・ナダル選手が貫禄を見せ、11回目の優勝を手に入れた。これら熱い戦いの様子は、国際映像の制作と配信をフランステレビジョンが行い、国内ではテレビ東京系列や、WOWOWが中継を行ったのでご覧になった方も多いだろう。

今回お届けするのは、このフランスオープンの最中に、フランステレビジョンが行った「テクノロジーデモ」の模様だ。日本国内ではあまり知られていないが、映像に関する新しい技術のテストやデモを、世界中から集まる放送関係者や、フランステレビジョンと協力関係のある企業に向け、フランスオープンの会場である、ローラン・ギャロスで毎年行っているのだ。2018年となる今年の大会では、8Kの収録再生とライブ送信のデモを行うという事で、取材を敢行した。

Television Zone Media

テクノロジーデモの会場は、“Television Zone Media”と呼ぶ国際映像配信センターを中心とした、各国の放送局が集まる建物のテラス。ここではテレビの歴史に触れる展示から、5G配信のコンセプトや、VRのデモと並行してシャープ製の70型8Kテレビが設置され、同じくシャープ製8Kカムコーダ―で収録されたという映像が再生されていた。

同時に会場では、フランステレビジョンが行っている4K試験放送の映像も展示されており、4K放送の映像と8K映像の比較も可能だった。4K放送は一部HDカメラからのアップコンバートであることや、HEVCによる圧縮率が高く不利な状況ではあることを差し引いても、精細感の差は明らか。動く被写体であるスポーツ系の映像では、高解像度映像の差は少ないと言う向きもあるが、65から70型の大型画面でテニス会場の観客の顔まで見える精細さや、ネット越しの選手の表情まで見える臨場感は8K映像の可能性を垣間見る事ができるものだった。

8Kのテニスの映像は、先に収録したものを編集しHEVCで圧縮、再生機で8Kテレビに映し出していたものだったが、男子決勝が行われた最終日は、センターコートであるフリップ・シャトリエから光ファイバーを使ってライブ送信をした映像を表示していた。オフラインによる編集結果の再生と、ライブ表示の両方とも8Kで実現していた。

今回のデモの構成について、機材協力を行ったシャープ戒能正純氏から話しを伺った。

――8Kデモの機器構成について教えてください。

戒能氏:弊社の8Kカムコーダー8K-B60Aを2台用意し、1台はキヤノンの50-1000mm(CN20)パワーズームレンズとともに、センターコート(フィリップ・シャトリエ)を見下ろせる、観客席より上のコメンタリーブースエリアに設置し、固定カメラとして運用しています。もう1台はキヤノンの17-120mmパワーズーム(CN7)を組み合わせ、可搬性を活かして撮影場所を移動して、色々な場所で撮影しています。

HDWS 8K編集風景

また、撮影後の編集環境も用意しました。8K-B60AがHQXコーデックで収録することもあり、Grass Valleyの編集ワークステーションHDWSの8K版にBraodcomのSASカードを増設。これにアストロデザイン製の転送BOXを接続することで、8K-B60Aで収録したSSDパックの読み込みと編集を速やかに行えます。

編集後の出力も一旦HQXコーデックのファイルとして行い、それをSpin DigitalのHEVCソフトウエアエンコーダーを使って、200Mbpsのストリームに圧縮。このファイルをデモ会場にある8Kテレビに接続された再生用PCにコピーし、こちらもSpin Digitalの再生ソフトを使って再生しています。

200MbpsのHEVCで圧縮された8K50pの映像ですが、70型のモニターで視聴しても圧縮ノイズがほぼ無く、8Kらしい高解像度映像が保たれてるのがこのデモ映像でわかると思います。また、HEVCは再生負荷の高いコーデックですが、こちらもSpin Digitalの再生ソフトにより、既存のPCでコマ落ちなく8K再生を実現しています。

――8Kで撮影から編集、再生までの環境を用意したということですね。実際に使ったクルー(フランステレビジョン)の評判はいかがですか?

戒能氏:カムコーダ―から編集環境まで、既に慣れ親しんだ物と大きな差もなく、普通に使えている。という嬉しい意見を頂いています。今回キヤノンのCN7を装着した移動撮影用のカメラを扱ってくれたのは女性のカメラマンで、普段はENGカメラを使ってニュースの取材をしているそうですが、8Kカムコーダ―を使いこなしてくれました。

移動撮影用カメラ

8K収録ということで、フォーカスがこれまで以上に厳しく、フォーカス操作もマニュアルのみですが、8K映像からHD領域を切り出す拡大フォーカス機能とフルHD有機ELビューファインダーを駆使して、8Kらしい映像を多く撮影して頂きました。

また、編集環境においても、最新のIntel Xeon Goldプロセッサを2個(48スレッド)使い、8K HQXの扱いに特化したEDIUSの特別版をインストールしたHDWS 8Kは、タイムライン上の再生とスクラブの操作感含めて、既存のHD/4K編集環境と全く変わらないレスポンスを見せ、編集作業のストレスは全く感じないとコメントを頂いてます。実は収録したファイルを他の環境で試してみたところ、重くてびっくりした。とまで言われました。

その環境もCPU性能は高いものを使っているとの事でしたので、8Kに特化したEDIUS特別版のソフトウエア含めた性能が効いているのでしょう。Spin DigitalのHEVCエンコーダーは、この環境を使っても1-2fpsの速度でのエンコードとなるため、時間をかなり要してしまいますが、画質劣化は少なくライブ映像との差は僅かでデモの映像は来訪されたお客様に8K映像を見せることができたと高い評価を頂いています。

――最終日に行った、ライブ送信の構成はどうなっていますか?

戒能氏:先ほどご紹介したセンターコート上の固定カメラの設置場所と、このデモ会場の間に光ファイバを2本敷設し、12G-SDI 2系統の伝送を実現する、Eraca社のCam Racerを2セット組み合わせ、4系統の12G-SDIを転送できる環境を用意しました。

これをカムコーダーの12G-SDIクワッドリンク出力に接続し、Cam Racerのレシーバー出力をアストロデザイン製の12G-SDIx4 to HDMI x4コンバーターを介して8Kテレビに接続しています。光ファイバを使った8K非圧縮映像伝送を実現しています。

固定カメラ

こちら、このテクノロジーデモの当初はうまく伝送できていなかったのですが、その後の調べでSDIケーブルを12G-SDIに対応した高品質の物に変更することで動作することがわかり、実現につながりました。カムコーダ―からCam Racerまでの5mという短いケーブルだったので、特に品質に気を遣わなかったのですが、同軸ケーブルの品質が光伝送の結果に影響することは、我々も想像しておらず、今回の実験により知見を得る事ができた次第です。

戒能氏:話しは逸れますが、コメンタリーブースからCN20内蔵のエクステンダーも使い、1500mm相当にズームすると、センターコート反対側の来賓席に座っている、フランステレビジョンのプレジデントが大写しにできたんです。撮影クルーの悪ふざけだったんですが、彼らが驚いたのは隣に座っている人の腕時計の数字まで見えたんです。レンズ性能と8K映像の面白さをフランステレビジョンの皆さんと体験できたと思っています。

シャープの戒能正純氏(左)とフランステレビジョンのBernard氏(右)

テクノロジーデモを主催したフランステレビジョンのBernard Fontaine氏にも話しを伺った。

――テクノロジーデモについて教えてください。ローラン・ギャロスの場を使って毎年取り組んでいると伺いましたが。

Fontaine氏:はい、2004年から全仏オープンと共に革新的な技術の実証の場として毎年行っています。これまで、2004年にIPTV、2006年にHD、2010年にConnected TV、2013年にUHD収録、2014年にUHD 4Kライブ、2015年にIVE VRなど、“ワールドプレミア”実証デモを行ってきました。同様に、今年8Kのワールドプレミアデモに取り組んだわけです。

――日本では主にNHKが取り組んでいる8Kですが、今回フランステレビジョンが関心を持ったきっかけを教えてください。

Fontaine氏:テレビの進化は放送局主導ではなく、品質、フォーマット、フォームファクタなどを向上させてきたテレビセットメーカーの進化によって成し遂げられてきたと考えています。我々テレビ局は、これから来るであろう新しいテレビに対応していく必要があります。これまでも、10年毎に同様の歴史が繰り返されてきました。

2000年代のHD、2010年の4Kに続き、2020年代は8Kの時代となるでしょう。対応の早いOTT(Over The Topコンテンツプロバイダ業者の事)を含めた放送業界全体が、8Kフォーマットをどのように扱うのかを学び、理解する必要があると考えていました。

そんな中、シャープは8Kのテレビをいち早く市場に投入しました。昨年のIFAのシャープブースで8Kの映像とその素晴らしさを体験し、今回のテクノロジーデモのテーマとして8Kを取り上げる事を決心したのです。シャープだけでなく、2018年末から来年にかけて、他のテレビメーカーも、一般向けの8Kテレビをリリースする計画を持っています。まさに8Kが現実になることを認識しています。

衛星放送4K

――フランスではすでに4K放送を開始していますか?

Fontaine氏:フランステレビジョンでは、2013年にUHD 4K収録テストを行い、2014年にUHD 4Kのライブ伝送をテストして以降、毎年デジタルテレビ、IPTVおよび衛星放送に向けて、全仏オープンの様子を4Kで試験放送をしています。毎年の試験放送で、HDR(HDR10、Dolby Vision、HLG等)での配信や、2台の中継車を4Kに対応させるなど、進化を続けていますが、通常の4Kテレビチャンネルはまだ持っていません。

――5G伝送にも関心を持たれていて、今回アンテナの展示などを行っていますが、フランステレビジョンの5G/IP伝送についての考えを教えてください。

Fontaine氏:テレビのすべての進化は、視聴者への伝送ソリューションと共に進化する必要があります。今、コンテンツディストリビューションについては、企業領域としてGAFA(Google/Apple/Facebook/Amazon)とBrodcasters(ここには、NetflixやHuluも含まれます)を共に考慮しなければなりません。技術的には、すべてのデジタル伝送の進化の利点を理解する必要があると考えています。もちろん、5Gもその中の一つです。

4Kについては、OTTはシネマスタジオから家庭を繋ぐ企業として世界的に先行してきました。8Kでも同様に彼らがリードするでしょう。OTTは家庭へのネットワーク性能の進化をいち早く取り込むことができるからです。但し、次の2020年代10年において、5Gはコンテンツ配信に予測不能な進化をもたらし、新しいビジネスモデルが我々配信業者の間で起きるでしょう。

5Gはメディア業界にとって新たな挑戦の場を提供する可能性があります。特に、SIMカードなしで使用できる3GPP Release 14(および、それ以上)は変革をもたらす可能性を感じています。この新しい10年はデジタルコンテンツの新しい時代になるでしょう。我々フランステレビジョンは、この新しい時代においても、コンテンツ配信において、主役の座でありつづけたいと考えています。

※eSIMの事、物理的なSIMカードに縛られることなく、複数の回線業者の契約情報を入れることができる

※今回のテクノロジーデモでは、5G配信のイメージとして、ローラン・ギャロスにある複数のテニスコートでの試合の模様をタブレット端末で視聴者が選択してみる事ができる体験デモを用意していた。5Gのローカルエリア配信を意識したものだ。

――今回の技術デモで、協力された会社についてコメントをお願いします。

Fontaine氏:今年シャープは全仏オープンの2週間、ローランドギャロスで初めての8K収録配信、ライブ送信をフランステレビとの提携で実現しました。 日本(シャープ、キヤノン、Grass Valley)、ポーランド(UMC/シャープのヨーロッパ販売部門)、ドイツ(Spin Digital)、アメリカ(Intel、NVIDIA)、オランダ(Vocas)、フランス(フランステレビジョン)の各々の国にまたがるプロジェクトとして2か月間で組織するのは複雑な課題でした。しかし、誰もがこのプロジェクトの成功に向けて協力し、共同プロジェクトとなることで全仏オープンの期間中、毎日8K映像制作を行いデモを行う事ができました。このプロジェクトを主導し、成功に導いたシャープチームをお祝い致します。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。