txt:稲田出 構成:編集部

放送現場のアイデアから生まれる技術を紹介

2月11~13日の3日間、東京・渋谷のNHK放送センター正面玄関ロビーにおいて全国各地の放送現場などで考案された最新の放送機器などを紹介する「第48回番組技術展」が開催された。

制作現場において必要な機材の開発や創意工夫など制作現場から生まれたもので、実際に番組制作に利用されている実用的なものが集められている。もちろん、ここで紹介されたもの以外にも沢山あるものの一般公開ということもあり、わかりやすいものが多いようだ。今年は時代を反映してかAIを活用したものやネットやIP関連のものが多くなっている。

会場は4K8K関連、番組制作、AI活用、緊急・報道と大きく4つのゾーンに別れており、実際の機器開発に携わったスタッフから開発経緯や実際の運用などの情報も聞くことができるので、メーカーが出展する機器展とは一味違った生の情報を聞けるのが特徴と言えるだろう。魅力的な番組制作のための創意工夫を凝らしたさまざまな放送機器を開発し、放送技術を直接“見て・触れて・知って”が可能なイベントとなっている。

宇宙ステーションからの8K映像(放送技術局 制作技術センター/制作局)
国際宇宙ステーション(ISS)に持ち込まれた8KカメラREDのWEAPON Heliumによる地球の映像を披露。この映像は2018年12月1日のSHV開局特番で使用しましたもので、巨大ハリケーンの渦巻きの様子やアメリカ大陸の地形や雲の流れなどが臨場感あふれる8Kで再現
SHVはやぶさ2可視化システム(放送技術局 制作技術センター)
はやぶさ2が小惑星リュウグウを探査する様子を実際の数値データーに基づきSHVで映像化するシステムで、はやぶさ2から地球に送られてくる複数のデーダーを統合して映像として可視化。これにより、はやぶさ2の宇宙空間での様子をあたかもその場で見ているように再現している
深海8Kプロジェクト(放送技術局 制作技術センター/技術局 開発センター/デザインセンター)
無人探査機に搭載した8Kカメラにより2018年7月に水深約1,300mの小笠原沖の海底の深海生物群や熱水噴出孔などを撮影に成功した。この8Kカメラシステムは国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)と共同で開発したもので、深海用の無人探査機に搭載して撮影が行われた。なお、専用のカメラ用カラーチャートや深海用のLED照明において深海における解像度や色再現性の検証も実施することで、深海の神秘的な映像をNHK BS8Kで放映する

深海撮影カメラの実証実験などで利用された専用のカメラ用カラーチャート

4K HDRドラマ制作技術(放送技術局 制作技術センター)
4K HDRで制作されたコンテンツをハイビジョン放送する場合、色域やダイナミックレンジの調整が必要になる。4K HDRの世界観を損なうことなくSDRに一括変換する手法を開発し、制作の効率化を実現

TVLogicのIS-miniやWonderLook Pro、アストロデザイン8K LUTカラーコンバーターSC-8217を利用することで、あらゆる一括変換コンバータのパラメーターを3D-LUTファイル化し、LUTBOXひとつで、変換結果の視聴環境の統一することが可能

4K一体型カメラ取付型光リンクと収録部集中コントローラー(放送技術局 制作技術センター)
光リンク伝送装置による4K信号、カメラ制御、RET、タリー、TC、電源、各種信号の長距離伝送と各カメラの収録部の一括コントローラーにより、複数カメラの一括制御が可能。これにより、収録とプレビューの同時操作や同期再生が可能となるり、ドラマなどマルチカメラ収録における効率化が実現できる

カメラには光リンクアダプターが装着されている。使用するファイバーケーブルはビデオ業界で使われている一般的なものが使用可能

収録部集中コントローラーにより、収録とプレビューの同時操作や同期再生が可能

立体音響再生技術を使ったオーディオドラマ(放送技術局 制作技術センター)
バイノーラルなどの立体音響再生技術を利用した臨場感のあるラジオドラマ制作において、ダミーヘッドマイクでの録音に加え、近年、開発が進んでいる立体空間を再現するソフトウェアを利用することで、作業時間の削減と新たな音声表現を実現。インターネットサービス「らじる☆らじる」や「radiko」によって、ラジオ番組を手軽に高音質で聴くことができるようになり、こうした状況の中で増加傾向にあるイヤホンやヘッドホンでのリスナーがより楽しめるような制作環境を構築。22.2ch音響との相互変換により、22.2ch音声で制作したコンテンツを、一般のステレオヘッドホンでも豊かな臨場感で楽しむことも可能
ロケミキサー用バッテリーと専用充電器(放送技術局 制作技術センター)
ロケミキサー用バッテリーは専用充電器を必要としていたが、USBによる充電も可能にし、移動中の車などでも手軽に充電ができるようになった。さらに、バッテリーのUSB充電にも対応し、携帯電話などのモバイル機器の充電を行うことも可能

バッテリー単体でバッテリー残量チェックが可能なほか、携帯電話などのモバイル機器の充電を行える

伸縮素材を用いたカメラ用防水カバー(技術局 開発センター)
これまでのレインカバーは手を入れてレンズを操作するための操作口が必要で、そこから雨水が入り込むことがあった。今回伸縮性のある防水素材を操作が必要な部分に使用することで、カバーの上から直接レンズを操作できるようになり、防水性と操作性を両立しながら通常の撮影と変わらない運用性を実現した
遠隔試写システム(遠隔試写実現プロジェクト/情報システム局/技術局 開発センター/放送技術局 制作技術センター)
編集室などからライブストリーミングを通じて、本部や地域放送局などの離れた場所で同時に番組試写に参加することを可能とするシステム。また、アップロードされた編集済み参照動画を、地域放送局や自席、在宅勤務中の自宅、出張先などで確認し、修正点を担当者間で共有することもできる

ライブストリーム試写やクラウドを利用したファイルチェックなども行うことが可能

クロマキーレス背景分離合成システム(松江放送局)
クロマキー合成用の背景の代わりにカメラに装着したセンサーにより生成したキー信号を使った合成システム。撮影時にバック紙などを必要としないため、スペースが限られたスタジオでの使用や背景と同色の衣装などに気を使う必要がない。キー信号は距離情報によって生成されるため、任意の距離にある被写体を抜き出して合成することができる。また、人物の骨格情報を用いて出演者の動きに追従したCG合成も可能なため、視覚的に新たな演出が簡単が可能

合成画像生成の様子。右上が会場で撮影しているリアルタイムの画像で左がその画像と背景のCGを合成した画像。キー信号を生成した対象がピンクの四角で、他にもキーとして使用可能な対象がグレーで示されている

カメラに装着された各種センサー

映音同時伝送IP技術を設定なしで楽して活用(NHKメディアテクノロジー)
通信にIPマルチキャストを利用した音声伝送装置で、汎用の光ケーブルやイーサーネットケーブルを利用可能。これにより、長距離伝送における敷設やコストダウンが可能

SMPTE ST 2110を応用したモニター用映音分配ボックス

小型SDIペイロードチェッカー(NHKメディアテクノロジー)
4K、8K映像は複数本の同軸ケーブルで機器を接続する場合があり、そのときそれぞれの信号に合わせた接続が必要となる。SDIペイロードチェッカーは信号の種類や属性を表示することで、線路の確認を簡単に行う事が可能

信号形式や属性などが表示されたSDIペイロードチェッカー

AIを用いた動画要約システム(青森放送局)
10分程度のリポート動画を、人工知能(AI)を用いて自動要約するシステムで、4分程度にすることができる。操作は、ドラッグ&ドロップのみで簡単に行うことが可能
スピード翻訳システム(国際放送局)
AI音声認識を使用し、英語の番組動画から英語字幕を作成。次に、英語字幕をもとにAI翻訳を行い、多言語字幕を制作。中国語やフランス語、インドネシア語、ポルトガル語、スペイン語などに対応可能で、効率的な多言語字幕制作ができる
AIを利用したスピードガン球速表示システム(熊本放送局)
野球場のバックスクリーン上の球速表示をカメラで撮影し、その数字をAIが読み取って放送に使用するシステム。AIに数字を学習させることで、難しい画像調整を必要とせずに自動的に画像を解析し、球速をデータ化することができる
AI顔ぼかし加工システム(放送技術局 制作技術センター/放送技術研究所/技術局 開発センター)
個人情報保護の観点から配慮が必要な人物の特定ができないように顔にボカシを入れる事がある。放送技術研究所の顔認識AIプログラムを利用することで、配慮が必要な人物の顔を認識して自動追尾を行いボカシ作業を効率的に行うシステム。Avid Media Composerや、さくら映機のPrunusのプラグインとして開発されており、顔認識モデルからシーケンス全体にぼかし加工を適用することも可能
顔認証技術による番組権利情報生成基盤(放送技術局 メディア技術センター/知財センター)
顔認識技術を利用して、映像内容から出演者を抽出・分類し、出演者権利情報データベースを構築することができる。AI技術により出演者権利情報入力業務をサポートできるほか、未知の映像から、出演者の自動抽出が可能

顔認識技術を利用して映像内容から出演者を抽出・分類

番組や素材の映像フレームとリンクした出演者データベースが構築可能

IP伝送モニタリングシステム(札幌放送局)
多数の中継・取材現場からのIP伝送時に受信状態を常時監視し、受信レートが低下した際の映像・音声を簡単に試写できるシステム。LiveUによる画像伝送は複数のキャリアを利用して画像を安定的に送信することを可能にしているが、周辺の環境要因やトラフィックの状態によっては転送レートの低下が生じる。受信レートの低下をアラーム通知することやアラーム時刻の映像・音声をワンクリック再生し、収録中でも追っかけ再生が可能。なお最大8系統のIP伝送の同時監視に対応している

キャリアごとの受信レート低下や受信レートが低下した際の映像・音声の確認など伝送素材の確認がより簡便に、より短時間で実施できる

ロボカメ元気モニター(長野放送局)
天気カメラの制御は携帯電話通信による主流だったが、現在はモバイルルーターによるIP制御ができるようになった。本システムはこのIP制御にカメラの静止画伝送機能を追加することで、放送前の天候確認やカメラ映像の障害監視が可能としたもの。、タイムラプス収録機能による天候の変化や番組の特殊効果も可能
全方位カメラを使用したサーバーシステム(放送技術局 報道技術センター)
全方位4K映像から任意の画角を切り出して生放送できるサーバーシステム。全方位4K映像からリアルタイムで好きな画角を切り出すことが可能なほか、映像を3日分収録することができる。カメラ用のの全天候型ハウジングを開発したことで、屋外でも設置し使用することが可能

全方位カメラからの映像から任意の画角を切り出して使用可能

FPU基地局スピードスター(名古屋放送局)
FPU基地局の制御回線を容易に、かつ即座に構築できるアダプター。災害時・非常時にFPU基地局での利用やロードレースなどの番組での運用が可能

インターネットブラウザだけで各機器の設定・操作が実行可能となっている

公共インフラ不要の遠方監視システム(徳島放送局)
ソーラーパネルと免許不要の特定小電力無線モジュールによる多段リレー中継が可能な中継器を開発し、公共インフラ喪失時においても遠方にある放送所の各種情報を放送会館まで無線伝達することを実現したシステム
放送回線の降雨減衰予測システム(京都放送局)
マイクロによる中継回線の降雨減衰を気象業務支援センターが配信する降雨データを用いて予測し、警報を出すシステム。降雨データは間欠的な配信となっているが、回線周辺の雨雲の動きを推測することで、予測精度向上を図っている。また、システムには放送所周辺に強雨域が接近したことを注意喚起する機能も持たせることで、落雷による停電に備えた自家発電装置の事前起動など、放送の安定確保が担保される
放送局ALLチャンネルモニター監視装置(広島放送局)
民放と設備を共有している放送所において、民放波も含めた放送所の全チャンネルを監視し、異常発生時にアラーム機能で作業者に異常を知らせる装置。アラーム発報閾値は3種類の信号品質(レベル、CN、BER)から個別に設定可能

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