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直径32メートルもあるボリューメトリックキャプチャー・ステージ。人物と比較すると、その巨大さが見てとれる(画像提供:インテル・スタジオ)
txt:鍋潤太郎 協力:Intel Studios 構成:編集部

はじめに

昨年のCES2018にて行われたインテルの基調講演で「インテル・スタジオ(Intel Studios)」が発表されて1年余り。今年のCES2019を訪問された方は、インテルのブースで展示されていたVRデモを目にされた方もおられる事だろう。

「あの」半導体のインテルがハリウッドに仕掛けた戦略とは?今回は、インテル・スタジオのご協力により、その詳細をご紹介させていただく事にしよう。

インテル・スタジオとは

ロサンゼルス国際空港から程近い、マンハッタン・ビーチのエリアに、大規模な撮影スタジオ施設「MBSメディア・キャンパス」がある。ここは全16の撮影ステージがあり、映画やテレビドラマ等の撮影が行われている。この撮影ステージのうち1つをインテルがリースし、2018年に正式オープンしたのがインテル・スタジオなのである。

巨大な撮影スタジオ施設MBSメディア・キャンパス(筆者撮影)

インテル・スタジオのトップが語るスタジオの概要

インテル・スタジオがオープンしてから、興味を持った著名映画監督やシンガー、ダンサー、スポーツ選手、エージェンシーなどが相次いでスタジオを訪れており、中には海外からの問い合わせもあるという。

ではここで、インテル・スタジオのトップにお話を伺い、スタジオの概要についてお話を伺ってみる事にしよう。

ディエゴ・プリルスキー氏 インテル・スタジオ / ジェネラル・マネージャー
Diego Prilusky – Intel Studios / General Manager

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――インテルは半導体素子メーカーとして知られています。私の知る限り、インテルはこれまでVFXやXR等の映像関連部門を持っていませんでした。昨年の CES2018で「インテル・スタジオ」の発表が行われたのは記憶に新しいところですが、その概要は意外と知られていません。まず、インテル・スタジオの概要について、お聞かせ頂けますか?

プリルスキー氏:インテル・スタジオは、次世代の没入型メディアを対象とした、大容量コンテンツの制作を専門とする最先端のスタジオです。

ロサンゼルスのマンハッタン・ビーチという、エンターテインメント業界の中心に位置するインテル・スタジオは、世界最大のボリューメトリック・ビデオ・ステージと、インテルの比類のない技術リソースと専門知識、コンピュート・パワー、データセンター処理によって実現されるポスト・プロダクションとコントロール機能を備え、ボリューメトリック・ビデオによる臨場感のある没入型体験を実現します。

キャプチャされたボリューメトリック・データは、全長さ8kmのファイバーケーブルを介して、カスタムのインテル製グラフィックス・ワークステーション、およびサーバーに転送されます。 10秒あたり1TB以上のデータを扱う事が可能です。

インテル・スタジオは、AR/VR/MR、モバイルアプリ、オンラインなど、様々なプラットフォームでコンテンツを使用するための「エンドツーエンド」のボリューム没入型メディアのプロダクションを提供しています。

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スタジオの入り口はこちら(画像提供:インテル・スタジオ)

――インテル・スタジオは、MBSメディアキャンパスと呼ばれる撮影スタジオの中の、大きな撮影ステージを丸々1つ使用しています。ここマンハッタン・ビーチにスタジオをオープンした理由は何でしょうか?

プリルスキー氏:没入型メディアは、「これまでにないような視点から撮影することが出来る」という、新しいストーリーテリングの可能性の世界を開きます。

例えば、監督は、外側から眺めるだけでなく、内側から眺めた視点のように、斬新なシーンを創造することが出来ます。また「観客」は、アクションの途中であっても自由に場所を変えたり、任意の視点から鑑賞する事が可能です。そして最終的に自分が望むような没入体験をコントロールすることができます。

こういった新しいビジョンを実現するために、私たちは大規模なスタジオ・スペースを探す必要がありました。MBSメディアキャンパスの映画撮影用のサウンド・ステージは、まさに私たちが必要としていたものでした。そこで、ボリューメトリック・ビデオのプロダクション、大人数のパフォーマーを1度にキャプチャー出来る次世代のプロジェクトを制作するため、10,000平方フィート、直径32メートルという巨大なドームを持つ、他に類を見ないスタジオを設立したのです。

――PRONEWSの多くの読者の方は、「ボリューメトリック・ビデオ」や「ボリューメトリック・キャプチャ」について、まだあまりお馴染みでないかもしれません。具体的に、どのようなものなのでしょうか。また、既存のモーションキャプチャと異なる点は何でしょうか?

プリルスキー氏:モーションキャプチャ・システムは、センサーの位置情報などのキネマティック・モーションの記録を可能にしますが、ボリューメトリック・キャプチャは3D画像の記録を可能にします。言い換えれば、「光をボクセルデータへ記録する」プロセスです。

ボクセルは、光と色だけを表す平面のグリッドではなく、3次元立体のピクセルのようなイメージで、その構造はX/Y/Z軸上の空間に配置された立方体のようなものです。

ここに記録された情報を基に、マルチ・パースペクティブの3Dバーチャル・シーンをレンダリングする事が出来、見る人はあらゆる角度とパースペクティブから、複合現実感の中で6DoFを体感する事が可能なのです。

――どのようにしてボリューメトリック・キャプチャを行うのでしょうか。

プリルスキー氏:ボリューメトリック・ビデオをキャプチャするためには、様々な手法があります。インテル・スタジオのドームには、これを実現する為、96台という膨大な数のカメラ・センサーが装備されています。また、没入型のインタラクティブな体験を生み出すために、民生用のデプス・カメラも装備しています。

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直径32メートルのドーム上に配置された5Kのカメラ96台が、ボリューメトリック・テクノロジーによって大人数のパフォーマンスを捕らえ、自社開発ツールを介して連番の3Dデータ(ポイントクラウド)に変換される(画像提供:インテル・スタジオ)
――デモ映像や、プロモーション映像等は公開されているのでしょうか?

プリルスキー氏:はい、現在のところ下記の5作品がオンラインでご覧頂けるようになっています。

こちらは昨年インテル・スタジオをオープンする際に、プロモーション用映像として制作したものです。

映画「グリース」(1978)の40周年を記念して、インテル・スタジオとパラマウント映画のコラボレーションにより開発&制作が進められている、最新テクノロジーを使った没入型メディアのメイキング・クリップです。

‘Grease’ at 40: Volumetric Capture at Intel Studios Celebrates Iconic Movie

プリルスキー氏:昨年、インテルとパラマウント映画は、ハリウッドの映画製作における「没入型体験」の可能性を探るための共同開発を行う計画を発表しました。その第1弾として、今年は映画「グリース」をモチーフに革新的な技術を採用した作品を制作中です。私たちは、映画「グリース」という70年代の象徴的な映画に、新しい視点と、ボリューメトリック・キャプチャによる新しい可能性を示したいと考えています。

インテルとパラマウント映画がパートナーシップを組んだ中で最もエキサイティングなポイントは、私たちインテル・スタジオに「没入型メディアの未来を開発する機会が与えられた」という事にあります。私達は、ボリューメトリック・テクノロジーを駆使する事によって、如何に映画のワンシーンを3D空間でキャプチャするか?という新しい次元の表現方法に挑んているのです。

このクリップは、スポーツ分野での応用例になります。普通のカメラで撮影された実写映像と、ボリューメトリック・キャプチャによる3DのVFXとのコンビネーションで構成されています。

YouTube Soul and Scienceチャンネルより

タイロン・ウッドリー(元UFC世界ウェルター級王者)

モー・バンバ(NBA選手)

プリルスキー氏:サンダンス映画祭 2019のニュー・フロンティ・エキシビッションにて初披露が行われた、シンガー/コメディアンのレジー・ワッツによるVR作品「Runnin’ VR」のYouTubeクリップです。このクリップでは、インテル・スタジオの施設や撮影風景、VR映像を見る事が出来ます。

New Frontier: Runnin’ VR

プリルスキー氏:この「Runnin’ VR」は、SXSW2019のフィルム・フェスティバルにおいて、バーチャルシネマ部門/審査員特別賞カテゴリ:インタラクティブを受賞しました。

――今後、どのような市場展開を目指しておられますか。

プリルスキー氏:私たちはXR(AR-拡張現実感、VR-バーチャルリアリティ、MR-複合現実感)分野での新しいコンテンツを目指しています。私達の日常生活の中でもテクノロジーは日進月歩で進歩を遂げていますが、その中でも没入型メディアは革新的と言えるのではないでしょうか。

近年の消費者は、より個人的かつインタラクティブな体験を好み、自分で自由自在にコントロールする出来る体験を求めています。

没入型メディアは、これまでにない視点から映像を捕らえ、現実世界とデジタル・ワールドを融合させて、物理的オブジェクトとデジタルオブジェクトが共存する、革新的な環境とビジュアライゼーションを作り出すことで、ストーリーテリングの新しい可能性と世界を開きます。

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インテル・スタジオのドームでキャプチャーされたポイントクラウドを使用して、VRの体感テストを行うVFXクルー(画像提供:インテル・スタジオ)

ダニエル・リーヴァス・パーペン氏 インテル・スタジオ / ポストプロダクション総括
Daniel Rivas Perpén – Intel Studios / Head Of Post Production

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――インテル・スタジオでは、Houdiniを駆使しているそうですが、 Houdiniを採用した最大の利点は何でしょうか?

パーペン氏:利点は大きく別けて2つありました。

まず1つには、Houdiniは膨大なデータ量のポイントクラウドを扱う能力に優れている、という事があります。

2つ目は、Houdiniはアトリビュートを自由に設定出来るので、様々なアプローチでポイントクラウドを容易にコントロールする事が出来ます。特に、ボリューメトリック・プロジェクトと言う、まだ歴史の浅い分野のR&Dにおいては、Houdiniが持つフレキシブルさが大変重宝しています。

――ポイントクラウドを生成するプロセスは、自社開発だそうですが。

パーペン氏:インテル・スタジオの撮影ステージに設置された、直径32メートルのドーム内に設置された96台のカメラで同時に撮影を行い、この実写映像からポイントクラウドを生成する為の自社開発ソフトウェアと独自パイプラインが開発されました。

こうして生成されたポイントクラウドは、HoudiniやNuke等のVFXツールでポスプロを行った後、ニーズに応じて様々なフォーマットに出力します。

――インテル・スタジオのボリューメトリック・キャプチャの、長所と短所はありますか?

パーペン氏:現時点での長所は2つあります。

まず1つには、少人数のみならず、大人数のグループ(ダンサー、バンド、バスケットボール等のスポーツ選手、俳優、動物など)でのパフォーマンスを一度に撮影し、そこからポイントクラウドでの3D動画データが取り出せる点にあります。生成したポイントクラウドを3Dパッケージに読み込めば、後から自由にカメラの動きをつける事が出来ます。これにより、さまざまなジャンルへの応用が可能となります。

2番目としては、パフォーマンスや動き、そして形状を忠実に記録する事が出来る点です。ポイントクラウドにはパフォーマーの実際の動き、姿、そして色までが忠実に記録されます。

例えばバレリーナのパフォーマンスを撮影してポイントクラウドを生成する際、ダンサーの動きや衣装、そして色が、そのまま膨大なポイントに変換され、3Dのポイントクラウドとして出力されます。モーション・キャプチャのように、撮影前にセンサー等を取り付けたり、パフォーマーの形状や骨格に応じて調整する必要がありません。

撮影する対象が、例えバレーダンサーであっても、私の息子が大好きなアンパンマンやメロンパンナ等の着ぐるみであっても(笑)、その演技を忠実に記録出来ます。

短所は今後改善されていく予定ですが、現時点での最大の制約は、市販されているカメラの規格に大きく依存する点です。

現在使用しているカメラの解像度は5Kですが、ポイントクラウドを生成する細部ディテールが得られるには、まだ限界があります。例えば、大勢のダンサーのパフォーマンスを、直径32mのドーム全体をカバーした5Kカメラで撮影した映像を見ると、それぞれのダンサーの顔は十分に認識出来ますが、画像を拡大して見ると、顔のクローズアップや微細な表情を捉えるには、どうしても情報量がまだ不十分と言えます。これらは、カメラセンサーの性能に依存する制約ですので、より高解像度規格のカメラが市場に出れば、すぐに克服出来ると確信しています。

――パフォーマンスを記録できる秒数はどのくらいですか?また、何ショットくらい撮影出来るのでしょう?

パーペン氏:現時点では、1ショットの長さは約30秒まで、そして1日の撮影で約100ショットがキャプチャ可能です。

――現在対応しているフレームレートや、色深度はどのくらいでしょうか?

パーペン氏:こちらもカメラの規格に大きく依存しますので、30FPS、色深度は8ビット(2019年3月現在)です。しかし、近日中に更にハイスペックなカメラへのアップグレードを予定しており、これによってクオリティが大きく向上する事が期待出来ます。私たちはこの「一歩前進」に大変興奮しています。

おわりに

今回インテル・スタジオを実際に訪問してみて、スタジオ施設のスケールの大きさに驚くとともに、アイデアの斬新な切り口に興味を覚えた。

同スタジオのウリは、なんと言っても大人数を一度にキャプチャ出来る事なので、例えばアイドルグループのパフォーマンスのVR化など、その可能性はいろいろと広がりそうである。「日本からのプロジェクトも、是非お待ちしております」という事なので、興味をお持ちの方は、是非ともチェックされてみては如何だろうか。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。