txt:奥本 宏幸 構成:編集部

「配信屋台」という新しいコミュニティースペース

映像ディレクターですが「屋台」を持つことになりました…奥本です。「配信屋台」とは、ざっくりいうとカメラとスイッチャーを搭載してライブ配信ができるミニ中継車+コミュニティースペースです。今回はその制作レポートになります。どうぞゆるーく読んでいただけると幸いです。

「屋台を引いて、人の話を聞きに行きたいんや~」

2019年1月10日、友人と今宮戎に商売繁盛を願い、今年の抱負を話し合っている時に、私はそう言い放った。友人達は「また訳のわからないことを言い出した」と怪訝な顔をしていた。私は大阪で動画クリエーティブ寺子屋という動画の勉強会を開いている。

毎回たくさんのクリエーターが集まり有意義な時間を過ごせているのだが、仕事をしながらなので半年に一回の開催がやっと。そこでその間を埋めるためのコンテンツを作りたいと思い、屋台をつくった。この屋台にクリエーターやものづくりをする人たちを招き、クリエーティブな話をしてもらいコンテンツとして配信したいのだ。

本物の形にこだわった手作り屋台

よく目にするリヤカーに乗っている屋台は新品で約60万円で販売されている。しかも保管に自動車一台分のスペースが必要だ。飲食をやるのが目的なら必要だが配信用には少し値が張るし、大きすぎる。「保管場所は事務所」「事務所のビルのエレベーターに乗る」「一人でも移動させられる」という条件が必須になる。

さらに、「本物の屋台感」を大事にしたかった。そこで、友人の美術スタッフに相談してみるといいアイデアが飛び出した。2段式台車ベースにすれば大きさもちょうどいいし強度もあるということ。早速、制作を依頼した。

数ヶ月後、屋台が完成した。見た瞬間、その完成度の高さにものすごく高揚した。

屋根とテーブルが折りたたみ式なので、ちょうど事務所のビルのエレベーターに乗るサイズに変形する。テーブル下の台車スペースには荷物を入れるスペースが十分にあるので必要機材は乗せたまま移動が可能な仕様だ(ただ、台車の車輪なので凹凸の多い道路には不向きである)。そして、上下は簡単に分解できるのでハイエースなどに積んで遠距離出張も可能だ。

機材構成

配信屋台の機材は配信コミュニティースペース「ヒマスタ」を運営されている株式会社ヒマナイヌ川井さんのブログなどを参考に選定した。湯気越しの人物をボケ感たっぷりで撮りたかったのでカメラは大判センサーのものをと思い、センサーがAPS-Cサイズのソニーのα6000を3台購入した。

電源はLACITA ENERBOXというポータブル電源を購入。容量120000mAh・最大出力400Wで配信機材のみであれば半日以上運用が可能だ。しかし、屋台での「湯気」を出すためにおでん保温鍋を使用している。これが電気をかなり消費するため、実質2時間弱が活動限界になっている。

オペレーションを自動化したい

自分も聞き手として出演するためオペレーションはできるだけ自動化したい。そこでスイッチャーは「オート・ミキシング機能」と「オートスキャン」が搭載されているRoland VR-4HDを選んだ。

オートミキシング機能は複数の入力された音声の大きさを感知して自動的に音声のミックスを行ってくれる。今回はガンマイクで行なったが将来的には人数分のラベリアマイクで運用を考えているのでこの機能はありがたい。そして、オートスキャンは設定した秒数で入力したカメラを順番に自動スイッチングしてくれる。秒数は1秒から120秒まで設定できる。この二つの機能で基本的な操作をせずにトークに集中できる。

足でスイッチング

カメラスイッチングの他にPCの画面を配信にのせるシチュエーションも考えられるのでVR-4HDのアウトとPCのアウトをスイッチングできるようにもう1台スイッチャーとしてRoland V-02HDを用意した。

このスイッチャーはユニークなオプション機能がある。別売りのフットスイッチを接続すれば足でスイッチングなどが可能なのだ。両手がふさがっていたりしていてもスイッチングができる。ペダルが2つあるのでAにはCUT、Bにはフェードというようにそれぞれに機能をアサインできる。静止画を取り込み、表示する機能もアサインできるのでタイトルやふた画を入れておけば突然のトラブル時にも瞬時にふたをすることができる。モザイクエフェクトを仕込んでおいてモザイクをかけるというようなバラエティ的な使い方もできるかもしれない。

屋根や柱に機材を釣れる

カメラやマイクの設置の際、三脚やマイクブームを使わずに屋台自体に設置したいというこだわりがあった。レトロな屋台にデジタル機器が仕込まれている様は和風スチームパンク感がある。屋根や柱が出演者に近いのでガンマイクをかなり近い距離で仕込めたりと、理にかなっているセッティング方法だ。

配信屋台というモバイルコミュニティースペース

屋台にした理由として「湯気の向こう側の顔」を撮りたかったからだ。個人的な感覚であるが、鍋などを囲んで湯気に包まれているとなんだか気持ちが暖かくなって本音の話ができる気がする。そして、屋台という造形物はとにかくなぜかワクワクする。映画やドラマではよく見るが実生活で屋台で飲むことは大阪にいるとあまりない。少しあこがれの部分もあるし、屋外で開放的な気分になるからだろうか?実際に2回ほど配信を行ったが出演者の皆が口をそろえて「屋台だといつもより楽しくてお酒がすすむ」と言っていた。

都会の屋外での使用の難しさ

この配信屋台だが、本物の屋台のディテールを追い求め過ぎて、少々屋外で使用するには少し手間がかかることになってしまっている。それは許可関係だ。

今回テスト配信は公園で行うため、公園事務所に許可を頂くために問い合わせをした。すると、「公園へ大きな構造物を持ち込み設置することはイベントなどを除き基本的には許可をしていない」という返答が返ってきた。商業的な屋台もイベント時にしか許可されていないそうだ(大阪市西区の場合。地域によってルールは異なります)。

本物の屋台に似せてしまったがために、屋台のルールに従わなければいけなくなってしまった(屋台の取り締まりは厳しい。今回の配信も開始早々、警察官に職務質問されてしまった)。

そこで、担当者の方と相談した結果、今回は「撮影をする」ということで撮影許可証をいただいて配信を行うことができた。2時間8040円の使用料が必要となる。そして、飲食は公園の床を汚す恐れがあるので飲み物以外は基本NGとなった(なので、おでん保温鍋にはお湯のみが入っていた)。許可はもらって配信はできるが、毎回使用料を払うのは現実的ではない。

ちなみに、道路を使う場合は警察署に道路使用許可書の申請が必要。こちらも相当な交通整理の計画書などを提出しなければならず現実的ではない。結果、屋台を運用するには「私有地」と「近隣住民の許諾」が必要になってくる。都市部での運用はかなり手間がかかるのだ。作る前に薄々気づいてはいたのだがやはり大変だった。

しばらくは事務所内に設置して運用する。その間に近隣で使用できる私有地を探すことにしようと思う。

WRITER PROFILE

奥本宏幸

TV制作会社・フリーランスを経て映像制作会社のびしろラボを設立。 演出・撮影・編集・モーショングラフィックなどバランスよくこなす。