Vol.125 商業映画とアートフィルムの違い。自身のターミナルを明確にして制作に挑む[東京Petit-Cine協会]

ヨーロッパ4都市で開催される「Fusion International Film Festival」

5月初め、「千年の糸姫」がスペイン・ヴァレンシアで行われた南ヨーロッパ国際映画祭に招待され、行ってきた。正式名称はFusion International Film Festival/South Europeというもので、他にNorth(イギリス・ロンドン)、West(ベルギー・ブリュッセル)、East(ポーランド・ワルシャワ)と行ったヨーロッパの4都市で開催されるもので、今年が第一回目となる。

最近目立つのがこのような複数箇所で行われる国際映画祭で、今のトレンドとも言えるので詳しく紹介しておこうと思う。このように複数都市で行われると言っても、それぞれは独立しており、エントリーも別々に行わなくてはならない。ただ、運営が同じであるために、一つで入選してしまうと他の都市でも入選できる可能性は高いと言える。

実は私の今回の入選は元々応募したわけではなく、最優秀監督賞を戴いた2017年のロンドン・フィルムメーカー国際映画祭がきっかけで、この映画祭もロンドン、ミラノ、ニース、アムステルダム、マドリッド、そしてメキシコシティーと南米にまで広がる同様のFilm Fest Internationalという運営チームが行なっているものだが、そのロンドンの時のスタッフが独立して始めたのがFusion International Film Festival。

まだ1回目で知名度もない映画祭ということもあり作品集めも大変だったのだろう。ロンドンでの受賞作品でもある「千年の糸姫」を招待したいという連絡が直接あったのだ。運営側の視点で見ると、作品集めと選定は大変な作業だろう。特に歴史のない映画祭ならなおさらだ。その映画祭の作品クオリティーを上げる上で、別の映画祭に選ばれた作品というのは手っ取り早い作品探しにもってこいなのだと思う。

こう言った動きは以前からあった。小さな映画祭の運営同士が仲間になり、お互いの作品情報を交換し合うと言った形で、質の高い作品集めに利用しているのだと思う。昨年The Film of The Yearを戴いたWorld Film Awards/インドネシアもそういうケースに当たる。正直なところ、小さな映画祭でも、国際映画祭となると数百の作品は送られてくる。特に長編ともなると、見るだけでも大変で、審査もよっぽどちゃんとした組織がない限り、きめ細かに行えないというのが実情だろう。

実は私が参加した映画祭でも、日本側のプログラマーになってくれないかと頼まれた事がある。私は作り手で、応募する側なのでお断りしたが、彼らにとって予備審査みたいなものはとても助かる事なのだろう。そういう意味では今回のような複数の映画祭を運営するというのはとても合理的で、今後もこう言った形が増えると思われる。

一方、応募側の我々にとっても、そのメリットはある。一度、作品が入選し、何か賞でももらう事ができたら、複数の映画祭から声がかかるチャンスがあるのだから。こう言った映画祭の運営同士が横の繋がりを持っていてくれるのはありがたい事だ。もちろんその映画祭の規模や運営がしっかりしているかなどは自分でしっかり見極めなくてはならないが、映画祭同士の信頼度がある程度の目安にはなるだろう。

個人的な話になるが、「千年の糸姫」に関しては幸運なことに、最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀新人主演女優賞等、主要な賞は既に戴いている。そう言った受賞を重ねて、ポスターにローレルを何十個も並べている作品を目にすることもあるが、個人的には好きではない。それがカンヌやベルリン、ベネチアなどのクラスが違う映画祭ならともかく、同じレベルの映画祭での受賞はもう充分だと考えているし、映画祭に参加するにも費用がかかる。声がかかったからと言って毎回参加していては干上がってしまう。

では何故今回参加したのかというと、ロンドンのスタッフ達が初めて、誘ってくれたというのが大きい。そういう人間関係をしっかりしたものとして手に入れたかった。実際彼らは再会を喜んでくれたし、ロンドンの一回では作れなかった深いコミュニケーションも取れた。「次の作品も必ず出してくれよ!」なんて言葉もかけてもらった。そしてもちろんそこで初めて出会う世界中のクリエイター達との交流にも大きな意味がある。

パーティーはクリエイター同士の親睦を深める貴重な機会

このFusion International Film FesuthibalやロンドンのFilm Fest Internationalでは、一週間と期間は長いが、その間にそう言ったクリエイター同士がコミュニケーションを取り合えるチャンスをたくさん作ってくれるのが特徴だ。一週間も一緒にいると、パーティーで話が弾んだら、翌日にゆっくり食事でもしながら話を深める事も可能だ。

今回は正にそれが目的で参加することを決めたし、実際、一緒に映画を作ろうとか、「お前が映画を作るのなら家を貸してやるから滞在費は気にするな!」なんて約束も、バルセロナとイタリアのシチリア島で取り付けた。

もちろん俳優達も是非使ってくれと言ってくる。それもこれも実際に私の作品を見て、私とコミュニケーションを取った上で話すことなので、確実とは言えないにしてもかなりの信憑性がある。3つあるスクリーニングルームは決して大きな物ではないが、そこで世界から集まった映画関係者が見てくれるというダイナミックな経験は他では得難い。

地元の観客が少なかったのは少し残念ではあったが、スペインで英語の字幕しかない映画では仕方のないことかもしれない。上映は大変好評で、上映後は目を赤くしたままのクリエイター達が次々に話しかけてくれる。そこから話が始まるのだから、いきなり深い話にもなる。こういったレベルの映画祭の醍醐味はこのコミュニケーションにこそあるだろう。

そして他の作品はどうかというと、一言で言ってレベルは非常に高かった。もちろん全ての作品が、という訳ではないし、3つのスクリーニングルームで同時に上映されていたので見逃したものも多いが、とにかく大きな刺激を受けて帰ってきた。このあたりの事と、具体的にこういう映画祭に一度参加するとどれくらいの費用がかかるか等を次回続けて報告しようと思う。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。