txt:オースミユーカ 構成:編集部

心の扉を開くのは至難の業

「れいちゃんきらい!」プリプリ怒りながら学校から帰ってくる娘。さっそく私はインタビュアーのごとく何があったかあの手この手で質問をぶつける。仕事ではインタビューの数を重ねているけど、娘の心の扉を開くのは至難の業。小学生になると人間関係がぐっと広がって親の目が行き届かないことも増えた。友達とのコミュニケーションも複雑になっているから何かとシンプルにはいかない。

取材を通じて学んだインタビューの極意

初夏の北海道に行って来た。ロケ地は朝の連続ドラマに湧く帯広。空港から内陸へと1時間車を走らせた北海道のほぼど真ん中、鹿追町にある町営美術館の撮影だ。NHK国際放送の美術館紹介番組ということで、いままで日本を代表するような大きな美術館ばかりとりあげてきた。でも今回は日本ですらあまり名前を知られてないひとりの画家をフューチャーすることになった。

その画家というのが、NHK朝の連続ドラマ「なつぞら」主人公の初恋相手“絵が上手い天陽くん”のモデルこと、神田日勝である。神田日勝記念美術館は、人口五千人の小さな町にそぐわない立派なたたずまいの建物だった。

天気が不安定な初夏の北海道で太陽を待つ。三角屋根は美術館そばの大雪山連峰をイメージしている

日勝は、第二次世界大戦の疎開で8歳のときに北海道に入った。そして原生林を開拓して畑を作り、農民として働きながら絵を描きはじめる。ただでさえ過酷な生活にも関わらず、農作業の合間に描いたその絵はエネルギーに溢れ、みた人の心を捉えて離さない。

来客者にインタビューをすると、日勝の絵に魅せられて何度も美術館に足を運んでいるという人にたくさん出会った。心惹かれる作家と巡り会えた時、キュレーターや美術館を訪れた人にインタビューをするのはとてもワクワクする。知りたがりの私としてはインタビューと称して疑問をぶつけたり、感動をわかちあったりする機会が正々堂々ともらえることがうれしい。

美術館の中でキュレーターインタビューは閉館日を狙う

先日は一人旅を楽しんでいる最中に美術館に立ち寄ったという90歳のおじいさんと出会った。

ずいぶん昔、十勝に観光に来た時にまわりきれなくて思い残した場所をタクシーでまわっているんだそう。「ちょっと贅沢して最後の旅を楽しんでいます」と笑っていた。美術館では、戦後の日勝の時代と、自分が生きた時代を重ねて絵を楽しんだとか。

もう一人、日勝の描いた馬の絵を30分ほどかけてみつめていたお客さんに声をかけた。馬を専門で描いている画家さん。その男性は馬をみるために北海道によく来ていて、エネルギーをもらいに必ず美術館に立ち寄るのだという。

今回は仕事で落ち込むことがあったけれど、日勝の絵をみて明日からまたがんばって描いていこうという気持ちに戻れたことを切々と語ってくれた。カメラを介するからこそ覗かせてもらえる、心の扉の向こう側。

自らスタンドイン。美術館の中ばかりの撮影だったので、北海道らしい馬小屋の前でインタビュー

「きちんと相手の話を聞く」姿勢が会話を繋ぐ

映像の仕事は長くしているけれど、最近までインタビューとは縁がなかった。あるとしたらオーディションで役者さんに「趣味にダンスとありますが、どんなダンスですか?」などと聞くくらい…。テレビ番組に携わるようになったここ5年くらいからインタビューをする機会が増えてあたふたしだした。闇雲に質問をしては失敗を繰り返してばかり。なにしろ想定しているようなコメントがもらえないし、会話も弾まない…。

ふとわたしはインタビューをしている間、次の質問や進行ばかりに気を取られてるということに気づいた。「あれ、なんか想定外の方向に話しがいった」と思っても深堀りせずに、用意していた次の質問にうつる…。それじゃあ望んだ答えなどもらえるはずはない。当然会話は広がらないし、キャッチボールになっていかないから相手の表情もかたいままだ。

失敗を重ねつつやっとわかった大事なことはいたってシンプル。「きちんと相手の話しを聞く」というあたりまえのことだった。

用意した質問リストから脱線する勇気を持ってからは、インタビューがうまく滑り出した。相手が一番しゃべりやすいスタイルで話しができるようにこちらのスタイルを押し付けたりせず、話しに耳を傾け、きちんと乗っかり相づちを打ったり質問したりする、それだけのことで会話が流れて行く。

沈黙を恐れず、相手のペースを大事にすることも学んだ。もちろん被写体やテーマに関してのリサーチは基本的な大前提として念入りに時間をかける。こうしてインタビューのコツをつかんで調子に乗った私も、やっぱり日常生活でその成果をいかすのは難しい。

夜、小さなあかりが灯るベッドの中で「今日はお友達と大丈夫だった?」と娘に聞いてみる。心も落ち着き、時間も経ち、眠りに入るその少し前のやさしい時間にだけ、かたく閉じていた扉がそっと開かれる。批判したり突き詰めたりすることのない、眠りにつく前の安らかな時間にちょっとだけ開く扉。娘は昼間に起こった喧嘩の理由を素直に話し、少しだけ気持ちがラクになってすやすやと眠りにつく。

どんなに近い関係の人とでも心の距離を縮めるのは難しい。でもカメラという鍵を持つことで、普段は閉じている扉を開けてもらえることがある。時としてカメラは武器になって人を傷つけてしまうこともある。しかし鍵となり、人の心を癒す力もある。インタビューの世界はまだまだ奥深い。でも人と話すということはつくづくおもしろいなと思う。

NHK WORLD「Close to ART 神田日勝記念美術館」(15分番組)
番組はこちらから視聴できます(全篇英語)。

WRITER PROFILE

オースミ ユーカ

CMやEテレ「お伝と伝じろう」「で~きた」の演出など。母業と演出業のバランスなどをPRONEWSコラムに書いています。