Insta360のフラグシップ機TITANと、深圳Arashi Visionの創始者JKことリュウ・ジンキン(Liu Jingkang)氏

シネマティッククオリティーを実現する一体型VRカメラがついに登場

ついに出荷が開始されたInsta360 TITAN

中国・深圳のArashi Visionは、最高で11Kの2D(10560×5280、30fps)、10Kの3D(9600×9600、30fps)360°映像の撮影を可能とするプロ向け一体型VRカメラ「Insta360 TITAN」の出荷を、6月末より開始した。同社のプロシューマーモデルの新フラッグシップ機となる。価格は税込1,880,000円。

9つあるSDカードのスロット

一体型VRカメラとしては最大となるマイクロフォーサーズのイメージセンサーを8基搭載。昨年発売された同社のプロ機Pro2と比較して、レンズの数は6個(200° F2.4 魚眼)から8個(200° F3.2 魚眼)となった。これは3Dのステッチのクオリティーが上がり、立体視が自然に見える視差の配置である。

ストレージは、9枚のSDカードにデータを記録する仕様になっている。使用するSDカードの容量に上限はないが、V30ビデオスピードクラスに対応したものでなければならない。レンズごとの最大のビットレートは180Mbps。画質、ダイナミックレンジが向上し、扱う色深度は8bitから10bitと4倍になり、低照度の場面でもノイズが少なく、豊かな階調の描写が可能になった。

これまでいわゆるシネマティックVRと言った高品質の実写VRコンテンツを制作するためには、複数台のミラーレス機やシネマカメラに、パノラマ用の魚眼レンズを装着し、リグで全方位に向けて保持した装備で撮影するのが定説だった。しかし、機材の取り扱いの手間や同期の問題などが、撮影者には大きな負担となっていた。TITANの登場により、ようやく一体型のVRカメラが、シネマティッククオリティーと呼べるフェーズにまで到達したと言えるであろう。

11Kの素材は、Adobe Premiere Proで扱うことが可能

Insta360日本戦略パートナー・代表代理店の株式会社ハコスコの藤井直敬社長

同製品を取り扱うInsta360日本戦略パートナー・代表代理店の株式会社ハコスコの藤井直敬社長によれば、「価格はPro2の3倍だが、得られる情報量はそれ以上」とのこと。

大きさは直径143mmから228mmへ、重量が1,550gから5,500gとアップしたので、耐荷重に余裕のある安定したスタンドが必要である。しかしながら、基本的な操作性、使い勝手はPro2と変わらないのは良い。

Insta360の強みである手ブレ低減のフローステートや、遠隔からの操作とプレビューを可能にするファーサイトなどの機能は、TITANにも実装されている。手持ち撮影はあまり考えにくい重さであるから、実際には移動撮影の際は、ジブアームやクレーン、スライダーなどを使用することになるであろう。

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2019/07/190729-insta-04-005.png 専⽤ステッチソフトのInsta360 Stitcherに、TITANの11K 2Dや10K3Dの素材を読み込んでみた
※画像をクリックすると拡大します

アップデートされたStitcher 3.0.0 Betaに新たに追加された“Optical Flow Stitching range”と、“Template Stitching range”の項目

TITANで撮影した11Kの素材は、Adobe Premiere Proで扱うことが可能で、ノーステッチ編集(Stitcerの拡張プラグイン)も使用できる。また4K(3840×3840 30fps)の3Dライブ配信が可能(同時に8K 3D動画を録画できる)。マイクは4個で、アンビソニックスに対応している。

ところで、TITANのマニュアルには、オプティカルフローステッチの安全距離は80cmとあるが、JKによれば、3D撮影の場合は1m以上を推奨するという。ファンレスモード は、Pro2が10~15分の作動に対して、TITANは5~7分程度の稼動となる。

11Kによって遠くの看板の文字も鮮明に。実写VRが現実に一歩迫った

今年、4月にNAB ShowのInsta360のブースで、GearVRでTITANの高解像度のフッテージを視聴する筆者

Oculus Rift Sで4KにダウンサイズしたTITANのフッテージを視聴する筆者。元データの素性が良いので、4Kでもこれまでより格段にシャープに表示されている

問題は超高解像度動画を再生するための視聴環境であるが、同社独自のクリスタルビューのテクノロジーを利用すれば、VRゴーグルで視聴する際にも、11Kや10Kの360°動画をスムーズに再生することが可能になる。

その場合は、同梱ソフトであるStitcherを使って、動画をCyrstalView形式(vrbという圧縮形式)に変換して、AndroidとiOSで動作するInsta360 Momentプレーヤーや、GearVRで動作するInsta360 Playerといったアプリにインポートして視聴するのだ(OculusGoの場合は、8K以下の解像度の再生が可能)。スマホデバイスは、SnapDragon 845以上のCPUを搭載しているスマホが推奨され、Arashi Visonからは特にGalaxy S9+GearVRを勧められたが、筆者の見たところ、iPhoneXの方が再生がスムーズな印象だった。

画像は全般的にシャープに表現され、遠くの看板の文字も鮮明に見える。3Dにおける立体感も自然に感じられる。実写のVR動画が現実に一歩、近づいた瞬間と感じられた。

創業者であるJKこと、リュウ・ ジンキン(Liu Jingkang)氏、独占インタビュー

協力:株式会社ハコスコ

このほど、Arashi Vision社のCEOを退任したJK

この7月に、同社の創業者であるJKこと、リュウ・ ジンキン(Liu Jingkang)氏が、深圳より来日。その際に原宿にあるハコスコのオフィスでおこなわれた記者説明会の後、独占インタビューが実現した。出荷が始まったばかりのTITANについて。そして、製品開発の秘話や会社のこれから。また、最近になって、同社のCEOを退いた理由などについて語ってくれた。

――TITANの反響や評判は、いかがですか?

6月末から発送が始まりましたが、概ね好評です。ファンの音については、改善する余地があると思っています。

――今のところ、どの地域で一番売れていますか?

ヨーロッパと日本ですね。その次にアメリカです。中国は、これからというところです。

――TITANの開発に2年掛かったということですが、具体的にはどのような道程でしたか?

構想は随分前からありましたが、具体的には昨年の1月から本格的に準備を開始して、様々なデティールが実際に動き出したのは、去年の3月からですね。初めてマイクロフォーサーズのイメージセンサーを搭載したVRカメラを作るにあたって、レンズについては2017年の第3シーズンから取り組んでいます。

――私は昨年、深圳のArashi Visionの社内でTITANのプロトタイプを拝見しましたが、それは現在の形とは少し異なりますね。

このTITANのプロジェクトは何度か大幅な修正がありました。中でも2つの大きな変更がありましたが、そのうちの1つはストレージに関するものです。当初は収録したデータを1個のSSDに記録する予定でしたが、実際はハードウェアのビットバンドの処理性能が追いつかないので、そのまま走らせると大きなリスクが生じました。

そこで、9枚のSDカードを使用する方式を採用しました。もう一点は、レンズを交換式にしたかったのですが、ユーザーが自分でフォーカスを調整する作業が難しいことから、それは中止しました。その他、様々なチューニングを施していって、最終形に落ち着きました。

――開発で特に難しかった点は、どこですか?

最初はレンズの部分にかなり時間がかかりました。それを解決した後は、9つのSDカードへ記録する形に変更したわけですが、それにはさほど時間が掛かっていません。次に難航したのは新しいチップに変更した点です。マイクロフォーサーズのイメージセンサーにしたことにより、ISP(Image Signal Processing)と呼ばれる画像処理システムが変わりました。最後まで様々な改善を試みていきました。

――今、ようやくTITANが完成したばかりですが、将来、マイクロフォーサーズ以上の大きなイメージセンサーで、一体型のVRカメラを開発する意向はありますか?

フルサイズのイメージセンサーを使えば、4つのレンズで360°カメラをつくることが可能ですが、立体視も成立させようとすると、なかなか大変です。筐体は非常に大きくなってしまうでしょう。

――TITANやPro2、または次世代機でMP4以外の動画フォーマットでの収録を可能にすることを、考えていますか?

今のところは、そのような予定はありません。

TITANについて語るJK

――ところで、ONE-XやEVOなどのコンシューマー機にも、LogやHDRなどのプロ向けの収録モードを搭載しているのは、なぜですか?

ONE-XやEVOのユーザーの中には、プロシューマーもいます。これらのプロ向けの収録モードが、より品質の高い作品を撮ることを実現しているのです。

――空間音声について、研究開発していく予定はありますか?

Pro、Pro2、TITANにはそれぞれ4つのマイクが搭載され、アンビソニックスに対応します。空間音声の機能については重要と考えていますが、今のところ、それ以上の具体的な予定はありません。

――会社のことについて、伺います。現在、社員は何名になりましたか?

320名以上です。その中で、R&D(研究開発部門)が、180名ほどになりますね。

――今回、CEOの座を退いた理由は、なぜでしょうか?

製品の技術開発、デザインなどに専念したいからです。他の仕事をより相応しい者に任せて、会社のコアの競争力を強くしていきたいと考えています。

――今後、Arashi Visionは、どこに向かって進んでいくのでしょうか?

毎年、ターゲット市場で想像を超えた製品をリリースしていきます。そして、360°カメラ市場でNo.1を維持し、これからの2年間でアクションカメラ領域において主要プレーヤーになる。これらの3つの目標があります。

そして、人々がより便利に生活を記録できて、シェアすることを常に考えており、これからもこの方向で頑張っていきます。クリエイティブ能力のある製品と、温もりのあるサービスを提供していくことに力を尽くしたいと思います。

――日本市場において、期待することは何ですか?

日本のユーザーからのフィードバックは我々の勉強と進歩にとって、大切なものです。これからもより便利で、最適なプリセールスサービス及びアフターサービスを、多くの日本ユーザーに提供するように頑張りつづけたいと思います。

――360°やVR180 3Dなど、VR動画の市場は今度どのようになっていくと思いますか?

一体型VRカメラが一般家庭へ浸透し、ユーザーの使用時間が増加するにつれて、コンシューマー向けのVRカメラは、新しい家庭向けのカメラとなるでしょう。プロ向けVR領域においては、レンズ属性で見れば短焦点レンズであるため、シーンを表すことに向いていますが、細かいデティールの描写には向いていません。平面映像と実写VRが結合する新しい創作方法の誕生を期待しています。

複数の360°映像やVR180の3Dビデオを、一括して編集、一つのビデオとして書き出すことができるスマホアプリ「Smart Editing」が、まもなくリリース予定

同社は、「360°カメラを便利に」、「アクションカメラの未来」、「VR撮影を簡単にする」という3つのミッションを掲げている。360°映像やVR180の3Dビデオが混在した状態でも、シンプルな操作によって、1つのビデオとして書き出すことができるスマホアプリ“Smart Editing”を、近日中にリリースする予定だ。

また、Insta360ではこれまで第三世代までのStitcher(ステッチングソフト)を開発してきたが、将来的にはAIによって人やオブジェクトを認識し、その輪郭を尊重した“第四世代”のスティッチを実現するべく、次世代のステッチアルゴリズムの研究開発を進めているという。これが実現すれば、より効率的に、完璧に近いステッチが可能となる日が来るだろう。

Arashi Vision社の創業者のJK(左)と、新社長のレオン・リウ(Leon Liu)氏(右)

WRITER PROFILE

染瀬直人

映像作家、写真家、VRコンテンツ・クリエイター、YouTube Space Tokyo 360ビデオインストラクター。GoogleのプロジェクトVR Creator Labメンター。VRの勉強会「VR未来塾」主宰。