当日のチケットより(筆者撮影)
取材:鍋 潤太郎 構成:編集部

はじめに

アカデミー賞でお馴染み、映画芸術科学アカデミー(以下:アカデミー)は、アカデミー賞会員および映画関係者、そして一般枠を対象としたイベントを開催している。その内容はセミナーや上映会など様々だが、中には人生に一度あるかないかというスゴイ内容のイベントも含まれており、「流石はアカデミー」と唸らせるものがある。

先日、VES(米視覚効果協会)から、会員向けのイベント告知メールが届いていた。この告知メールは、けっこう頻繁に届くので、ともすれば忙しさにかまけて開封すらしないでスルーしてしまう事も少なくないのだが、今回は珍しく真面目に開いてみると、こう書かれていた。

VES has a Limited Number of FREE Tickets for ROGUE ONE(2016)&the Original STAR WARS(1977)in 70mm

It has been twenty-two years since the Special Editions of the original STAR WARS trilogy were released, effectively preventing anyone from being able to watch the 1977 theatrical version of that seminal film as it was originally shown.

Join us for chronological screenings of ROGUE ONE:A STAR WARS STORY, relating how the Rebel Alliance took possession of the plans for the dreaded Death Star,followed by the original STAR WARS:EPISODE IV-A NEW HOPE,in which you’ll be among the first in more than two decades to watch Han Solo shoot first!

なんと!!映画「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」&「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」の2本立ての特別上映会が開催されるという。まじかいや&マジかいや。これはもう、例え天地がひっくり返ろうと、何があっても行くしかないだろう。

VES会員向けのチケット数は先着予約制だ。すぐさま登録リンクから申し込みを行ったら、なんとか席を確保出来た。そこで、今回はこの上映会の模様をみなさんに「さっくり」とご紹介する事にしよう。

銀河の遥か彼方で

第1作目の映画「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」が公開されたのが1977年だから、既に40年余りが経過した事になる。ハリウッドのVFX業界でたまに耳にする言葉に、「もし「スター・ウォーズ」が無かったら、VFX業界がここまで発展する事は無かったかもしれない」というのがある。筆者はこれに100%賛成である。

「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」の成功のお陰でILMが存続され、その後ILMではスピルバーグ監督作品を始めとする斬新なSFX(Special Effects)が次々と制作され、作品毎に技術革新が行われ、徐々に大手他社が追従するようになり、93年には映画「ジュラシック・パーク」でデジタル革命が起こり、その辺りから視覚効果は徐々にVFX(Visual Effects)と呼ばれるようになり…という大きな流れがあるのはご存知の通り。

その関係で、ハリウッドのVFX業界に従事する人々にとって、そのルーツとなった「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」を、テレビ画面ではなく、映画館やシアターの大スクリーンで鑑賞出来るという機会は、特別な意味を持つのである。

いざ上映会へ

会場は、ビバリーヒルズのアカデミーの建物の中にある、サミュエル・ゴールドウィン・シアターという大きな試写室である。毎年、アカデミー賞のノミネート作品の発表が行われるのも、ここである。筆者が到着すると、入口には長い列が出来ており、テロを防ぐための金属探知機によるセキュリティー・チェックも厳重に行われていた。

中に入ると、ロビーには、なんと!「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」のために開発されたモーションコントロール・カメラ「ダイクストラ・フレックス」の実物と、ミレニアム・ファルコン号の巨大な撮影用模型が展示されていた。

これらは、アカデミーに寄贈され保存されているものだそうで、ダイクストラ・フレックスに至っては、稼働状態で展示が行われていた(※この日はラップトップが接続され、アームとカメラがゆっくりとファルコン号に近づきながらコマ撮りを行う様子が再現されていた)。

© A.M.P.A.S.

シアターの中に入ると、そこは、映画関係者、VFX関係者、そして”Star Wars”ロゴの入ったTシャツを着たコアな一般ファンなど、かなり濃い~空間になっていた。筆者の知り合いや同僚の顔もチラホラ。

この前夜には、「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」の制作クルーやVFXスーパーバイザー達による講演会も開催されていたようである。

しまった!これが開催されていたのは知らなかった…やっぱり、日頃から小まめにイベント情報はチェックしておくべきである。

© A.M.P.A.S. 前日に行われた講演会の模様から
左から、キリ・ハート(ルーカスフィルム副社長)、リチャード・エドランド、ジョン・ダイクストラ、マーシア・ルーカス、デニス・ミューレン、ジョン・ノールの各氏

全5時間の上映会

この日は、「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」&「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」2本の上映が、30分の休憩を挟んで行われた。事前に届いた「お知らせ」には、

  • 土曜日の朝10時から午後3時までの、全5時間の上映会です
  • アカデミー施設内に食べ物は用意されていません
  • 朝食をガッツリと食べてきてください
  • 休憩中に建物の外に出てしまうと、再入場は出来ません。ご注意下さい

と記されており、ある意味、気合の入った上映会となった(笑)。

当日の様子

まずは「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」の上映。上映前に、この作品の原案&VFXスーパーバイザーであるジョン・ノール氏の挨拶があった。

© A.M.P.A.S.

ノール氏:ルーカスフィルムがディズニーに買収された際、スピン・オフも含め、「スター・ウォーズ」の新シリーズが制作される事になったのはご存知のとおりです。優れたアイデアがあれば、新しいエピソードが作れる可能性を秘めている。これには社内で「ピッチ」があり、アイデアの公募が行われました。

私はその時期、半ば冗談で、「“デス・スターの設計図を手に入れた”くだりを映画にしたら、面白いのが出来るのではないだろうか?」と考えました。ラフな原案を作って、ILMの友人のキム・リブラリーに相談してみたのですが、「すごく良いじゃないか、是非プレゼンしてみたら」と。まぁキムは友人だからという事もあるのですが、すごく褒めてくれたのです。

…人間、褒められると気分が良ろしい♪その後、私がキャス(キャスリーン・ケネディ)に対してプレゼンをする機会が与えられました。キャスとアポイントメントを取り、彼女のオフィスへ行き、1時間半掛けて、プレゼンをしました。終わると、キャスは静かに、「ありがとう。良いプレゼンでした。また、連絡しますね」と、極めて事務的なお返事。ダメだったかな、まぁこんなものかと、すごすご引き上げたのです。

後日、キャスから電話が入り、「このアイデア、もしかしたら映画化出来るかもしれません。もっと詳しく、お話を聞かせてくれませんか?」と。私は、「この機会を逃したら、一生後悔するかもしれない」と思い、その後のミーティングでは一生懸命に頑張りました。こうして、遂に「ローグワン」は映画化される事が決まったのです。

ジョン・ノール氏の挨拶の後、いよいよ「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」が上映された。いつもながら、アメリカ人の観客はリアクションが大袈裟である。主役級のキャストが画面に登場する度に、場内からは、まるでひいきの歌舞伎役者が出てきたかのような(笑)、拍手喝采が湧き起こる。また、アクション・シーンの“決め”では、奇声や拍手でもぅ大変な盛り上がりである。

こういう観客のリアクションが楽しめるのも、映画館やシアターならではである。例によって、後半の戦闘シーンは、大画面で見ると鳥肌ものである。そしてエンディングの盛り上がりと完成度の高さ。いや~~大満足であった。

ここで30分間の休憩が設けられた。休憩中には、「ILM 77-78年」というビデオクリップが流れていた。「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」制作現場の日常の光景を、クルーの誰かが8mmカメラで撮影したと思われる映像で、合成に使用されたオプチカル・プリンターや、ミニチュアの前でポーズを取るリチャード・エドランド、制作クルーの70年代ファッション、パソコン普及前なので事務の基本は紙と鉛筆、オフィスではみんなタバコ吸ってる、など当時の時代背景を含むレアな映像ばかりで、興味深いものがあった。

さて、休憩時間が終わると、ここでアナウンスが。

  • 本日の上映は、1977年の公開当時のオリジナル70mmプリント
  • 1997年の「特別篇(Special Edition)」ではなく、デジタル・エンハンスメントが一切加えられていない、完全なオリジナル版
  • 現存している公開当時のオリジナル70mmプリントは大変希少で、見つける事は非常に難しい
  • 今回はジョージ・ルーカスご本人のお計らいで、特別に70mmフィルムで上映

である事がアナウンスされ、それを聞いた観客の中には、ガッツポーズをして喜んでいる人もおられた。

ここで、「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」(1977)VFXスーパーバイザーを務めたジョン・ダイクストラ氏が登壇し、場内は大拍手で埋め尽くされた。

© A.M.P.A.S.

ダイクストラ氏:この映画のために開発されたダイクストラ・フレックスは、私が中心になって開発したモーション・コントロールカメラでした。このカメラは、ミニチュアの移動撮影を行った際の、ストップモーション独特のフリッカー現象を解消するために開発しました。また、アクション・ショットでは、実写のようなモーション・ブラーが実現出来ました。

同期した12個のステッピング・モーターをプログラムでコントロール可能で、トラック、ティルト、パン、ロール等の動きと、同じ動作を何度でも繰り返す事が出来ました。このシステムはカスタム・デザインで、長いケーブルがついたデジタル・コントローラーを両手で持って、コントロールしていました。今のようにパソコンが普及する前の時代です。

カメラ・ヘッドは、ギア制御でパン/ティルトが可能で、しかもミニチュアにかなり接近出来るので、スピード感やリアリズムが得られました。

ダイクストラフレックスのカメラ・ヘッド部分の近影(筆者撮影)

ダイクストラフレックスの台座部分メカ近影(筆者撮影)

ダイクストラ氏:当時ILMは、LAのバンナイスにあった、倉庫みたいな簡素なスタジオでスタートし、チームは10数人位でした。低予算映画だったので、ソファーやオフィス家具も最低限でした。しかしチームは、若手ばかりで、ヤル気はみなぎっていました。

しかし、映画のアイデアのすべてはジョージ(ジョージ・ルーカス)の頭の中にあったし、僕らは誰も、どんな作品になるのか最後までよく分からなかったし、そして何より、自分達の目の前に積み上がったショットや難易度の高いオプチカル・ワークが「本当に実現出来るのか?」、誰にもわからなかった。こうして作られた作品なのですよ。さぁ、ではご覧ください。

…さて、「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」の上映が始まった。

なにしろ、77年公開当時のオリジナル70mmプリントである。冒頭の20世紀FOXのロゴ及びファンファーレが当時のもので、レトロ感もハンパなく、なんかすごく斬新である。フィルム上映なので、定期的にフィルム・チェンジ用のパンチマークが画面右上に入る。フィルム独特のグレイン感も渋い。いやー、いいなー♪

ルーク、レイア、ダースベイダーなどの主役級が登場すると拍手が起こるのは前述の通りであるが、ハン・ソロの登場シーンはやっぱり拍手の大きさが違う。ハン・ソロの人気ぶりを再認識させる瞬間でもあった。

後の特別篇で変更が加えられ、ファンの間で論争を引き起こした「ハンが先に撃った」シーン、この70mmプリント上映はオリジナル版のため、ハンがグリードを撃った瞬間、場内の観客は大喜びだった。

映画終盤、ルーク達がXウィングでデス・スターに突入するシークエンス。筆者は、周囲の観客の姿を見回してみた。みんな、前のめりになって、画面に引き込まれている。40年前の作品でありながら、今でも観客を引き込むだけのストーリーテリンクを持ち続けるこの作品は、やっぱり我々VFX屋のルーツなのである。

おわりに

アメリカ西海岸、特にロサンゼルスに住んでいると、このような極めて貴重なイベントに参加出来る機会に恵まれる事がある。これは、筆者がVFXプロジェクトが流出しているカナダや他の国へ行かず、ロサンゼルスに残る事にこだわり続けている大きな理由の1つでもある。

今後も、映画&映像関連イベントや最新事情等を、現場目線でお届けしていければと願う、今日この頃である。

「ローグ・ワン/スター・ウォーズ ストーリー」
ディズニーデラックスで配信中

© 2017 & TM Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」
ディズニーデラックスで配信中

© & TM Lucasfilm Ltd.

ディズニーデラックス

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。