開演直前のSIGGRAPH2019 エレクトロニック・シアター。マイクロソフト・シアターにて、筆者撮影
取材:鍋 潤太郎 構成:編集部

はじめに

我々VFX関係者がSIGGRAPHに参加して、外せないのがエレクトロニック・シアターである。ここでは、世界中から応募された数百本の作品の中から、審査員によって選び抜かれた作品だけが特設シアターで一挙に上映される。まさに全世界のCG/VFX業界における「過去1年間のハイライト作品」が拝める場でもあるのだ。エレクトロニック・シアターは、アカデミー賞でお馴染み米国映画芸術科学アカデミーより「アカデミー賞の選考対象となるフィルム・フェスティバルの1つ」として認可されており、1999年以降、このエレクトロニック・シアターで上映された数々の作品が、アカデミー賞の短編アニメーション部門でノミネートや受賞を果している。

今年の傾向

一昨年のLAでは夜2回の開催、昨年のバンクーバーは月・火・水の夜3回が実施されたのだが、今年のエレクトリック・シアターは、なぜだか7月29日(月)18:30からの1回のみの開催であった。

会場は豪華だった。過去のLAでのSIGGRAPHで何度となく使用されたコンベンション・センター内のWestHallではなく、隣接するL.A.ライブの敷地内にあるコンサート・ホール、「マイクロソフト・シアター」がSIGGRAPH2008年以来、11年ぶりに使用され、盛大に行われた。

ここは元々、2014年までは「ノキア・シアター」という名称だったコンサート・ホールで、かのAKB48がAnime Expo 2010に併せてコンサートを行ったり、マイケル・ジャクソンが幻のコンサート・ツアーTHIS IS ITでダンサーのオーディションを行った場所としても知られ、音楽&エンターテインメント界では有名な場所である。

会場となったマイクロソフト・シアター

それだけに、セキュリティー・チェックも厳重に行われ、入り口には金属探知機と手荷物検査という、空港並みのセキュリティー体制が敷かれていた。筆者の知る限り、SIGGRAPHのエレクトリック・シアター会場でセキュリティー・チェックが実施されたのは、おそらく今回が初めてであろう。

コンベンション・センターから隣接するL.A.ライブへ向かう通路には、セキュリティ・チェックが設けられ、長い列が出来ていた

では今年の傾向を、筆者独自の視点から解析してみる事にしよう。今年のエレクトロニック・シアターでは、昨年の上映作品数より1本少ない、全24本が上映された。入選作品を国別に見てみると、

  • アメリカ:11(9)
  • フランス:8(6)
  • セルビア共和国:1(0)
  • ニュージーランド:1(1)
  • 台湾:1(0)
  • ドイツ:1(0)
  • デンマーク:1(0)
※()内は昨年度の本数
※複数の国に拠点があるスタジオは、本社の所在地で国をカウントした

例年もそうだが、今年もアメリカとフランスの作品が圧倒的に多い。昨年はカナダのバンクーバーでの開催という事が多少配慮されていたのか、もしくは単なる偶然か、カナダからの入選作品が4本あったのだが、今年は0であった。

またここ数年、日本からの入選0が続いており、学生作品も含めて、ぜひ来年以降に期待を掛けたいところである。

今年のComputer Animation Festivalのプログラムより(筆者撮影)

入選作品をジャンル別に比較してみると、今年の傾向が見てとれる。

  • 短編アニメーション:5(11)
  • 短編アニメーション(学生作品):10(4)
  • ハリウッド映画VFXメイキング&ブレイクダウン:2(4)
  • ゲーム・シネマティック:1(3)
  • リアルタイム:1(2)
  • サイエンティフィック・ビジュアライゼーション:2(1)
  • 博展映像:1(0)
  • CM&キャンペーン映像:0(0)
  • 長編アニメーション:2(0)

※()内は昨年度の本数

エレクトロニック・シアターはその性格上、短編アニメーション作品の比率が多いが、今年は昨年より1本増の15本が上映された。うち学生作品の短編の本数は昨年より6本も増え10本が入選、学生勢が頑張っている事を伺わせると同時にSIGGRAPH常連校からの出展も目立つ。ハリウッド映画のVFXからの入選は昨年より2本減の2本。リアルタイムは昨年の2本から1本減の1本であった。また、TVコマーシャル作品が1本も入選していなかった。斬新なアイデアやユニークな演出のCM映像が見れるのを楽しみにしていた筆者には、少々寂しかった(笑)。過去3年、長編アニメーション作品からの入選が見られなかったが、今年は2本が入選していた。サイエンティフィック・ビジュアライゼーションの入選が、昨年の1本から2本へと増えていたのは興味深い。

まずは、YouTube上で公開されている、今年のエレクトロニック・シアターのハイライト作品を編集した予告編から。

SIGGRAPH 2019 Computer Animation Festival Electronic Theater

それでは、今年のエレクトロニック・シアターの上映作品を、筆者のひとことコメントを添え、一挙にご紹介してみることにしよう。

※文中では、上映された映像のリンクを可能な限りご紹介しているが、映像が公開されていない作品については、類似したクリップのリンク、もしくは関連リンクをご紹介している

開演直前のマイクロソフト・シアターの様子。なかなかの盛り上がりであった


■”Birth of Planet Earth” Fulldome Excerpt: Photosynthesis in a Chromatophore
イリノイ大学 アーバナシャンペーン校 スーパーコンピューティング応用センター 高度視覚化ラボ / アメリカ
"Birth of Planet Earth" teaser – work in process

Who's attending IPS 2018 Toulouse? We hope you'll make time for Session 64 on Thursday: "Science and Data Visualization". Donna Cox and Robert Patterson from NCSA Advanced Visualization Lab will provide insight on how they go about turning terabytes of big data into beautiful, and more importantly, meaningful visual representations of physical processes, including those seen in our forthcoming "Birth of Planet Earth": the newest of several Spitz-AVL collaborations.Here's a world premiere peek — but don't miss it in fulldome during Spitz's vendor demo!

Spitz, Inc.さんの投稿 2018年6月29日金曜日

今年2本入選したサイエンティフィック・ビジュアライゼーション作品の1つで、「色素胞と呼ばれる、初期の光合成オルガネラのエネルギー収穫プロセス」を視覚化した作品だそう。


■Game Changer
Ringling College of Art and Design / アメリカ

エレクトリック・シアター常連校、Ringling College of Arts and Designの学生作品。アーケード・ゲームの商品キャラの1人であるマッチョ人形は、自分をゲットしようとしている女の子のお客さんを見つけ、彼女がマッチョ人形を獲得するために必要なチケット数を獲得させる為に奮闘する…というコメディ。


■The Bolt Connection
Supinfocom Rubika / フランス

エレクトロニック・シアター常連校、Supinfocom Rubikaの学生作品。ロボット・マフィアのドライバーを務める主人公のロボットは、強盗が失敗した後、偶然にも戦利品として人間の心臓を手に入れることに。出世欲に駆られ、彼は心臓を自分に移植し、「生きている」という感覚を発見する。しかし、この短い人生には大きな代償があった…というお話。


■Old Soldier
ブリザード・エンターテイメント / アメリカ

ハイエンドなゲーム・シネマティックで有名なブリザード・エンターテイメントの作品。「ワールド オブ ウォークラフト」のトレーラーである。


■Hedgehog
GOBELINS, l’école de l’image / フランス

今年のエレクトリック・シアターで複数の作品が入選していた、フランスのフィルム・スクールGOBELINSの作品。学校の友人達に、いつもハリネズミの話ばかりする小さな男の子。それには訳がありました…。ストーリーテリングに長けた、ほのぼの作品である。


■Stuffed
Supinfocom Rubika / フランス

今年のエレクトリック・シアター・アワードで最優秀学生作品賞(Best Student Project)に輝いた作品。エレクトロニック・シアター常連校、Supinfocom Rubikaの学生作品。猫のキャラクターと、とぼけたキリンのキャラクターの出会いを描いた、ゆる系ほのぼの短編アニメ。


■The Making of “How to Train Your Dragon: The Hidden World”
DreamWorks Animation / アメリカ

日本でも12月20日から劇場公開が予定されている「ヒックとドラゴン3」から、VFXクリップ。


Passage
Artrake / セルビア共和国

セルビアのアニメーション・スタジオArtrakeの作品。村人と共に戦火の中を避難し生き延びた少年。彼の仲間の最後の1人が殺害された時、彼はトーテムを作って復習の機会を狙うが…というシリアスなストーリーである。


■Share Your Gifts
Buck & TBWA\Media Arts Lab / アメリカ

最後に企業ロゴが出た時、観客席から「へぇ~~~」という驚きのため息が広がった、印象的なテレビ・コマーシャル作品である。是非、最初から通してご鑑賞を♪


■NASA Surveys Hurricane Damage to Puerto Rico’s Forests
GST, Inc. – NASA/Goddard Space Flight Center / アメリカ

今年のサイエンティフィック・ビジュアライゼーション作品の1つで、NASAの作品。ハリケーン・マリアはプエルトリコの熱帯雨林に影響を与え、林冠に多くの隙間を残した。NASAの科学者は嵐の是後に島の森林を調査し、小型航空機に倒産されたRiderによって森林の3Dビューを可視化。


■Purl
Pixar Animation Studios / アメリカ

今年のエレクトリック・シアター・アワードで最優秀作品賞(Best In Show)に輝いた作品。ピクサー・アニメーション・スタジオによる短編アニメーションである。


■Best Friend
GOBELINS, l’école de l’image / フランス

今年、数本が入選しているフランスのフィルム・スクールGOBELINSの作品。舞台は近未来。孤独な男性は「ベスト・フレンド」と呼ばれる商品にハマり、完璧なバーチャル・フレンドを手に入れようとするが…というストーリー。


■Alita: Battle Angel
Weta Digital / ニュージーランド

Weta Digitalによる、「アリータ:バトル・エンジェル」のVFXクリップより。


■Mayday – Final Chapter
Grass Jelly Studio / 台湾

今年のエレクトリック・シアターの作品群の中で、筆者が個人的にイチオシなのが、この作品である。下記で全編がご覧頂けるので、是非ご鑑賞あれ。


■Expedition Reef for Educators
California Academy of Sciences / アメリカ

カリフォルニア・アカデミー・オブ・サイエンスがプラネタリウム用博展映像として制作した作品。上記リンクでメイキングを見る事が出来る。


■Kinky Kitchen
Filmakademie Baden-Württemberg GmbH, Animationsinstitut / ドイツ

エレクトリック・シアターが始まる前に「大人向け内容のコンテンツも含まれておりますので、ご注意下さい」というお断りが事前にあったので、どんな作品だろうかと思っていたが…コレか。

こちら、古くからのシーグラフ常連校、ドイツのFilmakademie Baden-Wuerttrembergの作品…であるにも関わらず、もう最後にロゴが出るまでFMX2019の告知スポットである事が全くわからない位、まったく意味不明の内容となっている(爆笑)。

いくつかのエピソードに別れた連作になっており、上映の度に場内から笑いが起こっていた。

詳しくはクリップをご覧あれ。


■The Heretic(Part1)
Unity Technologies / アメリカ

今年、リアルタイム系作品で、ただ1本だけ入選していたのが、この作品であった。機器展ブースでも長い列が出来ていたUnity。リアルタイムも、ここまで来たか。


■The Tree
GOBELINS, l’école de l’image / フランス

今年、数本が入選しているフランスのフィルム・スクールGOBELINSの作品。この作品も、なかなか味わい深い内容であった。


■Wild Love
Ecole des Nouvelles Images / フランス

今年は本当にフランスの学生作品が多いなぁ。しかも面白いぞ(笑)。こちらも、かなり笑いを誘っていた。


■ILM 2019 – Behind the Magic
Industrial Light & Magic / アメリカ・カナダ・イギリス・シンガポール(上記国別カウントではアメリカでカウント)

ILMが過去1年間に制作したVFXリールである。見応えあり。


■The Ostrich Politic
GOBELINS, l’école de l’image / フランス

今年、数本が入選しているフランスのフィルム・スクールGOBELINSの作品。ダチョウの世界を、淡々と語るナレーションで綴った、シュールなコメディ。日常の規則や習慣に沿って生活している我々に、何かを問いかけようとする意図が感じられる作品でもある。


■The Stained Club
Supinfocom Rubika / フランス

今年のエレクトリック・シアター・アワードで審査員特別賞(Jury’s Choice)に輝いた作品。

エレクトロニック・シアター常連校、Supinfocom Rubikaの学生作品。体に汚れのある、主人公のフィン。ある日、彼は身体に様々な汚れがある子供達のグループに出会い、これらの汚れは意味を持つという事を理解する。その意味とは…という作品。こちらも何かメッセージ性を持つ作品である。


■Marooned
DreamWorks Animation / アメリカ

2020年4月に公開が予定されている「Trolls World Tour」に併せて上映が予定されている、ドリームワークス・アニメーションの短編アニメーション「Marooned」。月に放置されて、地球に戻る事を切望しているロボット君のお話。

この作品は、6月にフランスのアヌシー国際アニメーション映画祭でのワールド・プレミアを終えたばかりで、まだあまりトレーラーや動画クリップが公開されていない中、今回のエレクトリック・シアターは貴重な上映の場となった。

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■Spider-Man: Into the Spider-Verse
Sony Pictures Imageworks / アメリカ

「スパイダーマン:スパイダーバース」からのクリップ。ご存知、昨年の映画賞を総ナメにした話題作で、今回のSIGGRAPH会期中の行われたProduction Sessionsにおけるメイキング・セッションには大勢の参加者が詰めかけていた。実制作はカナダのバンクーバーにあるソニー・ピクチャーズ・イメージワークスにてプロダクションが行われたのだが、プログラム上の記載では、アメリカからの出展となっていた。


…ああ疲れた(笑)。以上が、今年上映された全24作品のご紹介である。当レポートで、エレクトロニック・シアターの楽しさや雰囲気を少しでも感じ取って頂ければ幸いである。

ちなみに、シーグラフ東京では、10月に開催予定のセミナーで、「SIGGRAPH Traveling CAF 上映会」を予定しているという。10月になったら、ぜひオフィシャルサイトをチェック!エレクトロニック・シアターをご覧になりたい方は、是非ともシーグラフ東京のセミナーに足を運んで頂ければと思う。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。