txt:小林基己 構成:編集部

フルサイズCMOS、12bit 4K RAW収録が可能なコンパクトミラーレス登場

コンパクトな外観にフルサイズミラーレス、しかもRAW収録可能ということで、かなり気になっていたSIGMA fpを発売直前に数日間、手にする機会を得た。このカメラのために作られたと言ってもよいLマウントのフルサイズミラーレス専用レンズ「45mm F2.8 DG DN」の他にEFマウントの「Art|50mm F1.4 DG HSM」、シネレンズの「50-100mm T2.0」も借りることができた。

そして何より気になってるのがfp独自のディレクターズビューファインダーモード(以下:DVFモード)!これに関しても注目している機能だけに詳細を書いていきたいと思う。

このカメラ、フルサイズCMOSセンサーを搭載しながら、昨今のフルサイズミラーレスの中では群を抜く小ささ。にもかかわらず、8bit、10bit、12bitの4K RAW収録が可能というハイスペックカメラでスチールだけではなくムービーにも力を入れている。今回は自分がムービーのカメラマンということもあって、特にシネ機能を中心にレビューする。

小型のボディにシグマのこだわりを凝縮

SIGMA fpの特長は、フルサイズイメージセンサー搭載でありながら、ボディ単品の市場想定価格は約22万円というコストパフォーマンスの高さだ。現状フルサイズでRAW動画収録できるカメラはムービー一眼レフではもちろん他になく、それを可能にしているのはALEXA、VENICE、MONSTROなどのハイエンドカメラに頼るしかない。それをこの大きさとコストで実現しつつ、ポケットカメラとしての機能も有している奇跡のようなカメラだ。

実際に撮影してみると、ディテールの表現力もあり、低感度で撮影しているという事もあるが暗部のノイズも少なく、カメラのポテンシャルを感じる。

レンズはLマウントを採用。私みたいな50代の人達にとっては「今どきスクリューマウント?」と思ってしまうが、ライカのかつてのLマウントではなく、2014年から使用している全く別のバヨネット電子接点マウントで、去年ライカ、パナソニック、シグマの3社で協業していくことが発表された。老舗ブランドと大手メーカー、両方を味方に付けているのは今後の強みになるだろう。

422g(SDメモリーカード、バッテリー込み)という重さながらズシッとくるボディは、小さい分、密度を感じるからも知れない。スクエアなデザインも好感度が高く、表面処理も高級感を感じさせる。

正面から見るとフルサイズのセンサーがLマウントの中で堂々と存在感を主張し、縦はマウントの高さそのもの、横はその1.5倍ほどと、ミラーレスカメラとして手持ちで使う最小基準を作ってしまった感がある。これ以上小さいと手持ちで撮影するには何かと不便だ。

デザインや表面処理に高級感を感じさせるボディが特長

12bitのCinemaDNG収録に対応

フルサイズをいかした豊かな映像表現もfpの特長だ

唯一、デザイン的な主張は液晶モニターを囲うようにヒートシンクが溝を作っているが、これがあることで液晶がチルトするのではないかという期待を抱かせる。が、固定のままだ。せめて上にチルトできるとモニターを付けない状態での撮影の幅が広がるのだが。45mm F2.8 DG DNとの組合せのコンパクトさは外付けモニターなしで手軽に撮影したいだけに、アイレベルが基本になってしまう固定LCDは次機種では改善してほしいところだ。

本体背面には、固定式の3.15インチモニターを搭載

ボディ前面にはレンズの着脱ボタンのみ、上部にはパワースイッチとムービーのRECスイッチ、スチールのシャッター。そしてフロントからも操作できるダイヤルとちょっと大きめのSTILLとCINEの切り替えスイッチが配置されている。このことからもSTILLとCINEの比重が半々ということを感じ取ることができる。

CINE/STILLスイッチを切り替えて、それぞれの撮影に特化したカメラとして使える

裏面には前述の通り固定式の3.15インチ液晶モニターがありAELボタン、QS(クイックセット)ボタン、多機能ダイヤル、そのセンターに、OKボタン、そしてMENUと縦に並び、液晶下部に、再生、ディスプレイ、TONE、COLOR、MODEと5つのボタンが並ぶ。この少ない操作ボタンのなかにTONEとCOLORの2つを割り当ててることにシグマのこだわりを感じるが、スケーラブルを謳うなら、それをファンクションボタンに割り当ててくれたら、ユーザーそれぞれがカスタマイズしやすくなるだろう(TONEとCOLORはQSで十分だと思っている)。

背面にはトーンカーブを設定する「TONE」と色調、コントラストなどを調整したモードを選べる「COLOR」ボタンがある

今回、操作した限りでは前後のダイヤル2つが絞りとシャッタースピードの割り当てられていて、その2つの切り替えはできるが、他の機能に割り当てることはできなかった。特にセットレンズの45mmはレンズ部分に絞りがついているだけに、ISO感度設定にどれかを割り当てることができればQSやMENUに入ることなくマニュアルの基本操作をこなせるので助かるのだが。

USB3.0接続のポータブルSSDやシネレンズと組み合わせてフルスペックスタイルを実現

さて、今回はボディに45mm f2.8を付け、一番軽装で街中のスナップムービー撮影というスタイルと、シネレンズにビューファインダー、5インチ外部液晶、外付けSSDを身近にあるもので組んでフルスペックのスタイル、という両極端な方向で試してみた。後者のセッティングには付属の「HU-11」というホットシューユニットが大活躍してくれた。今回はテストということで自前のsachtler Aceでどうにかなったが、実際の撮影で使うにはスライドベースにビデオ18クラス以上は欲しいところである。

まず、一番コンパクトなセッティングでの撮影だが、このカメラとレンズの組み合わせは手に持った時の重さや表面の質感が良い。ただ、ストラップなしで持ち歩いているとオプションのハンドグリップが欲しくなる。デザイン的にはこのままの状態がベストなのだが。

曇りの日だったためかLCDも大変見やすく、3インチちょっとの画面もピーキングやマニュアルフォーカス時の拡大機能などがあるためにフルサイズの難しいフォーカスをサポートしてくれた。ただ、収録中は拡大機能は作動しないので(収録中に拡大されても困るが)ピーキング頼みになってしまうが、開放f2.8のレンズなので負担には感じなかった。AFはコントラスト検出方式でムービーの撮影に関してはマニュアル撮影を基本に考えていた方が良いかもしれない。

もちろん収録はSDカード。シグマは、ビットレートと対応メディアには4K cinemaDNG 8bit、23.98fpsはOKと表明しているものの、すべてのメディアについて動作を保証するものではないという。シグマはWebサイトで、CinemaDNG記録に対応する動作確認済のメディアを公開している。

試しに動作確認の一覧に名のないProGrade DigitalのSDXC UHS-II V60タイプを使用したところ、数秒でREC停止してしまった。ちなみにFHDの23.98fpsは止まることなく収録できたが、59.94fpsも数秒でREC停止になる。ボディ内収録で実現するためにはSD UHS-IIならよいというわけではなくV90のスペックは必要なのかもしれない。MOV収録なら4Kも問題ないが、COLORのプロファイルがlogのようなものは用意されてないので、コントラスト高めのセッティングばかりではなく、グレーディングを前提にした設定を追加してほしいところだ。

そして本命のフルセッティング。50-100mmT2.0のシネレンズを付けてSSD収録のfpである。このカメラの外観3Dデータはシグマから公開しているので、近日中にはサードパーティーによるリグなどの周辺機器も揃ってくると思われるが、今のところ頼みの綱はHU-11というホットシューユニットだ。かなりしっかりとした作りで、これが本体付属で付いてきてくれるのは嬉しい。

CinemaDNGの収録にはSamsungの1TBのSSD「Samsung T5」を使用した

そして、ホットシューに5インチモニターを載せ、横に付いている1/4インチのネジ穴を利用してSamsungの1TBのSSD「Samsung T5」を付けた。モニターへのHDMIのケーブルガードが安心感を醸し出してる。SSDへつながるUSB-Cも収録の命綱だけにこれくらいの補強が欲しい。

なんといってもUSB3.0接続のSSD収録になることで4K cinemaDNG 12bitで23.98fpsまでの収録が可能になることが大きい。実際、SDカード時のように途中で止まることもなく問題なく撮影できた。しかし、問題は再生時だった。MOVで収録したものは再生できるのにDNG収録は再生不可なのである(これはSDカード収録でも同じ)。内部SDカードにMOVで平行収録ということもできない。ファームウェアの更新によってcinemaDNGの再生が今後可能になっていくとは言うものの、それまでは今回のようなセッティングで、プレイバックが必要なら、収録機能付きの外部モニターで行うというのが最善の策だろう。

fp独自のディレクターズビューファインダーモードを搭載

さて今回、話題のDVFモードである。この機能の搭載は、かなり私達のような撮影業界の人々をざわつかせた。かなりマニアックな機能でありながら、iPhoneのアプリでも何種類も登場していて、このニッチな市場に踏み入れた勇気を讃えたい。

一番ポピュラーなDVF「Mark V」と。fpが目指しているのはこれよりもレンズ交換式のデジタルアングルファインダーの方だろう

まず、DVFとは何だ。ということから説明すると、ハリウッドで監督が撮影現場のメイキング写真とかに写っている時に持っているアレである。アングルファインダーとも言われている。ハリウッドでは画角の決定権を監督が持っているので、実際に使うことを想定しているレンズをDVFに装着して、ロケ場所を決めたり、用意する美術の範囲を探ったり、使うレンズをチョイスするのに使う。

フィルム撮影だとフィルムの受像面が基準になるので、そんなにバリエーションがなくて問題なかったが、昨今のデジタルシネマ乱立状態にいろいろなセンサーサイズのカメラが登場してきて、折しもラージセンサーブームでフルサイズまで対応できるものが望まれていた。そんな時に登場したのが、この「fp」である。EFマウント用アダプターの次に用意してるのが映画カメラ標準のPLマウント用の変換アダプターMC-31ということからも力の入り方が伝わってくる。

ただし、これはかなりのハイエンドな現場でしか使わない。それだけに選べるカメラのラインナップもALEXA LFの筆頭にREDのMONSTRO、ソニーのVENICEと贅沢なチョイスなんだけど、DCクロップ(APS-Cサイズ)の大きさよりも小さくなってしまうものに関してはリストから外されている。アナモフィックレンズにも対応していて×2、×1.8、×1.5、×1.3、×1.25と伸縮の比率も細かく設定されている。これをそのまま収録できれば申し分ない機能なのだが、それは次のファームウェアで対応予定だ。

上がARRIのALEXA LFの「LF 16:9」を選択した状態。下が一番小さいと思われるREDのMONSTRO 8Kカメラの「4K FF」を選択した状態

これはSuper35mmFILM。画面の外側を半透明に設定(上)と、フル画面に設定(下)が選べる

上がソニーのVENICE 4Kのアナモフィックレンズ×2を選んだ状態。本来アナモフィックレンズを装着していると縦横比の合ったシネマスコープ画面で表示される

4K cinemaDNG 12bit収録とグレーディング

4K cinemaDNG 12bitで収録した素材は連番のDNGファイルになり、一律1フレーム12.6MBになる。23.98fpsで収録したものなら1TBのSSDでさえ約60分という莫大なデータ量だ(FHDのcinemaDNG8bitは1フレーム3.2MBだった)。データ量は重いがiMac ProでSSD接続なら24P再生は問題なく動作していた。

今回は日中外光で撮影していたため、ほとんどの素材はfpの最低感度ISO100を使用して撮影してしまった。しかも逆光のダイナミックレンジが広いシチュエーションが多く「撮影時はとんで真っ白になっているけどRAWだったら残っているだろうな」という読みが外れて、ハイライト部に関してはMOVのデータの同様に情報量のないままグレーになっていた。

上が撮影時を反映させたもの、下がRAWの色域を再現したもの。日の当たっている歩道の奥の飛んだところはRAWのデータでも戻ってくることはなかった

ただ、ISO200で撮影した素材は、撮影時100%を越えていた部分もRAWの映像を見ると残っていたのである。シグマからは推奨感度ISO100と聞いていたが、全くトビのないフラットな映像ならISO100で良いのだろうが、RAWのラティチュードの広さを有効に活用するには2Stop余裕を持ってISO400以上の設定で使うのが安心に思えた。因みにISO2500で撮影した素材でも、そんなにノイズが気になることはなかった。

上が撮影時のデータのまま。下はRAWの画像からグレーディングしたもの。空にかかる電線のディテールも出てるし、色も戻ってくる。これぞRAWの醍醐味だ

どのカメラにもない、個性を解き放つカメラ

最後にここ数日fpを手にして思ったことは、何故かちょっと懐かしい感じがしたのだ。最近のカメラはどれもこれも細部にまで配慮が行き届いて想像を裏切られることはない。その反面、想像を超えてくることもないんだけど。

それらに比べると、このfpはかなりクセのあるカメラだ。特性も使いながら分かっていかなければならないし、ボディとレンズだけではちょっと使いずらい。ただ、どのカメラも持ち合わせていない個性の輝きを放っている。ちょっと前までは、そんなカメラ多かったな~、なんて思い出させてくれた。

fpはこれからファームウェアの更新で少しずつ使いやすくなっていくだろうし、サードパーティー製のリグの登場も楽しみだ。たぶん、俺のfpと君のfpは全く違ったカメラに見えるかもしれない。ただ、使い込むにはかなりの覚悟が必要だけどね。

小林基己
MVの撮影監督としてキャリアをスタートし、スピッツ、ウルフルズ、椎名林檎、リップスライム、SEKAI NO OWARI、欅坂46、などを手掛ける。その他にCM、映画、ドラマと幅広く活躍。noteで不定期にコラム掲載。

機材提供:日本サムスン株式会社/ITGマーケティング株式会社

WRITER PROFILE

小林基己

小林基己

CM、MV、映画、ドラマと多岐に活躍する撮影監督。最新撮影技術の造詣が深く、xRソリューションの会社Chapter9のCTOとしても活動。