© Refik Anadol
高さ11メートルの巨大LEDパネルに、印象的なデジタルアート・インスタレーション映像が表示されている。この動画は見事な立体感とディテールを持ち、不思議な印象を与えると同時に、布地や流体のパターンはゆっくりと動き続け、見ていて飽きない(筆者撮影)

txt:鍋 潤太郎 構成:編集部

はじめに

ロサンゼルスにビバリー・センターという巨大なショッピング・モールがあるのをご存知だろうか。ビバリー・ヒルズとウエストハリウッドの中間に位置する8階建ての大規模なショッピング・モールで、地元の日本人の間では「ビバセン」という愛称で親しまれている。古くは、映画「ボルケーノ」(1997)にも登場するなど、LAではお馴染みの場所である。

ビバリーセンター外観。新型コロナウイルスによる自宅待機命令の影響で、平日にも関わらず人通りや車の数もまばらである(2019年4月:筆者撮影)

このビバリーセンターは、2016年3月から500億円相当額の予算と2年間の歳月を掛け、大規模なリノベーション計画を実施。内部および外観の改装工事を経て、2018年夏から秋に掛けて現在の姿に生まれ変わった。1Fには丸亀製麺もオープンし、筆者もたま~に利用させて頂いている。ちなみに、8Fにはユニクロも入っている。

ビバリーセンターの6Fには、Grand Courtと呼ばれる、広いエレベーターホール&イベント・スペースがある。2019年の1月頃だっただろうか、このリノベーション計画の一環として、エレベーター・ホールに高さ10メール級の巨大なLEDパネルが登場。しかも、LEDパネルには、非常に印象的なデジタルアート・インスタレーション映像の動画が継続的に表示されている。

これを見た瞬間、映像ジャーナリスト魂に火がついた。

筆者はさっそくビバリーセンターのPR(広報部)へ連絡を取るべく、あのLEDパネル及び映像について、お問い合わせメールへ質問を投げてみたが、「すみません。誰ひとりとして、分かる人間がおりません」(英語)という、あり得ないお返事(爆)。←まぁアメリカでは良くある話である。

そこでメゲずに、今度は電話番号を調べ、PRマネージャーさんにお繋ぎ頂き、何か情報が入った時点でご連絡頂けるよう、お願いしておいた。そして、しばらく放置され、もう完全に忘れ掛けた2019年の年末のある日、ようやく映像に関するプレス・リリースが送られてきた。

おおおおおおぉこれでようやく記事が成立する。この資料を元に、映像を制作したアーティスト(後述)のPRご担当者様に連絡を取ったところ、「2020年3月まではプロジェクトで多忙を極め、それ以降でしたら。」との事。

そこで本欄4月号の掲載を目標に定め、少しづつ準備を進めていたら、今度は新型コロナウイルスの影響でカリフォルニア州は自宅待機命令が出され、急遽先月のレポートに差し替えをさせて頂く形となった。

…と前置きが大変長くなったが、こうした様々な事情によって、ビバリー・センターに2019年にお目見えした巨大なLEDパネルと、そこに表示されている斬新なデジタルアート・インスタレーション映像の動画について、ようやくレポートをお届けしたいと思う。現時点では、おそらく日本のメディアで紹介されるのは初めてではないだろうか。

高さ11メートル/巨大なLEDパネル

最近は空港やイベント会場等でも大型のデジタルサイネージを目にする機会が増えた。しかし、商業施設における、これだけの大きさのLEDパネルはアメリカ西海岸でも珍しいのではないだろうか。

プレスリリースによると、このLEDパネルはダクトロニクス(Daktronics)製で、大きさは横20フィート×縦35フィート(横6メートル×縦10.6メートル)。また、同社広報への取材によると、このLEDパネルは1ピクセルあたり4ミリで、画面全体の解像度は横1,292X縦2,244だそう。筆者は4Kでは?と推測していたが、2Kであった。しかしながら、充分な解像度とクオリティが得られていた。価格帯についても問い合わせてみたのだが、「規定により、価格は非公表」という事であった。

© Refik Anadol

人物と比較すると、その大きさがわかる。表示されているインスタレーションの動画は、数種類の異なるパターンが用意されている(筆者撮影)

レフィック・アナドル氏による、デジタルアート・インスタレーション

この映像を手掛けたのは、トルコ出身のLA在住メディア・アーティスト、レフィック・アナドル氏(Refik Anadol)。UCLA(カリフォルニア州立大学)出身で、現在は創作活動と並行し、同大のUCLA Design Media Artsでも教鞭を取っておられるそうである。

レフィック・アナドル氏(Refik Anadol)Photo by:Serge Hoeltschi

筆者がビバリーセンターでこの映像を初めて見た時は、「おそらくHoudini等を活用し、流体シュミレーションのベロシティ・フィールドにパーティクルを敷いたり、メッシュ化する事で、パターンを生成しているのでは?」などと推測していた。しかし、実際はもっともっと複雑なようだ。アナドル氏をあなどるなかれ(爆)。アナドル氏の公式サイトでも、様々な作品や、そのアプローチの一部が紹介されている。

これによると、ノードベースのビジュアル・プログラミング言語vvvv向けのオープンソースGPUライブラリFieldTripを駆使、GPUによる処理を実現しているのだそう。

この映像は「Data Paints」「Data Sculptures」と呼ばれ、ここビバリーセンターでは、

  • 第1章「不可能なマテリアル:ファッション」-“Impossible Materials:Fashion”
    ファッションとマテリアルの変容を探究。繊細で豊かな織物の動きを、アルゴリズムで詩的にコントロール
  • 第2章「不可能なマテリアル:アーキテクチャ」-“Impossible Materials:Architecture”
    芸術、建築、技術の共生に焦点を当て、現世界では実現不可能な素材と近未来を推察
  • 第3章「不可能なマテリアル:ネイチャー?」-“Impossible Materials:Nature?”
    カリフォルニア州が持つ海洋文化の、流体運動をシュミレーションとデジタル・ポエムで表現
  • 第4章「不可能マテリアル:ソーシャルデータによる編み物」-“Impossible Materials:Social Data Knitting”
    ソーシャルネットワークを生物に置き換えて分析し、”生きた織物”を継続的に表現

の4つのテーマの動画が公開されている。

筆者がiPhoneで撮影した動画の一部。数パターンの映像が用意されていて、それぞれが大変興味深い動きを魅せている(2019年2月撮影)

アナドル氏の作品や、活動についてご興味をお持ちの方は、ぜひ下記SNSをチェック。

▶︎Website
▶︎Instagram
▶︎Twitter
▶︎Vimeo

おわりに

以上が、ここビバリーセンターで見る事が出来る、巨大なLEDパネルと、印象的なデジタルアート・インスタレーション映像に関するレポートである。ちなみに、ビバリーセンターは新型コロナウイルスの感染防止策の影響により、2020年4月現在、営業を一時休止中である。

一時休止中のビバリーセンター。パーキングのエントランスはブロックされている(2020年4月筆者撮影)

1日も早く新型コロナウイルスの騒動が収束し、日本から海外への渡航及び、ビバリーセンター等の商業施設の営業が再開される日が来る事を願うばかりである。その際は、LA訪問で是非とも訪れてみて欲しい場所である。

ご参考:(2020年4月現在)

  • ビバリーセンター公式サイト
  • ロサンゼルス国際空港からは、車で30分ほど。ビバリーヒルズとウエスト・ハリウッドの中間エリアの、ラ・シェネガ通り沿いにある
  • 目的のLEDパネルに辿り着くには、ビバリーセンターの外壁&通りに面した巨大エスカレーターを6Fまで上がり、建物の中心付近にあるエレベーターホールへ進むと、見つける事が出来る
  • もしビバリーセンター建物内で迷ったら、「ユニクロはどこですか?」と聞けば、エレベーターホールへ簡単に到着出来る(笑)ユニクロはエレベーターホールの横にある。ついでにお買い物もど~ぞ
  • おまけ:丸亀製麺は、ビバリーセンター1Fの道路に面した場所にあるので、ビバリーセンターの中からはアクセス出来ない。一度1Fへ降り、外へ出て、サード・ストリートへ移動すると、建物沿いに見つける事が出来る

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。