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ユーザーファーストのマネジメントモニターBenQ「SW321C」

BenQ「SW321C」は、写真・動画編集向けカラーマネジメントモニターである。今回は執筆タイミングが緊急事態宣言下であったため、いくつかの要素について詳細ではないが、ファーストインプレッションと一通りの検証結果をお伝えしたいと思う。

■検証環境
Windows 10 Pro 1909
CPU Ryzen Threadripper 2990WX
RAM 128GB
GPU TITAN RTX

正確な色再現を可能にするAQCOLOR技術

SW321Cは、通常のPCモニターとは異なり、カラーマネジメントモニターという分類になる。色域としては、Adobe RGB 99%、Display P3 & DCI-P3 95%、sRBG & Rec.709 100%に各種ガンマをカバー。約10億7000万色を表示可能な10-bit IPSパネルに16-bit 3D LUT補正機能を搭載し、Delta E≤2の色再現性を実現した。また、ハードウェアキャリブレーションに対応しており、PANTONE/CALMAN認証を取得している。

特に、我々映像制作者にとって特筆すべきは、パネルがノングレアであること、1080/24Pのサポート、Rec.709(色域/ガンマ)とHLG(ガンマ)に対応していることだろう。

通常のPCモニターとしての評価

SW321CはUHD(3840×2160)解像度の32インチワイドパネルを搭載している。画素密度は137ppiであり、PC側のスケーリングを100~125%にすることで、作業用として理想的なUIサイズを得られる。これは筆者の感覚だが、UHDの作業用モニターとしては32インチがベストサイズだと思っている。27インチでも作業は可能だが、やはりUIスケールは150%がいいところで、UHDである意味を存分に発揮するには32インチあった方が良い。

UHDをUI 100%スケールで使用することで、デュアルモニターでなくても良いと思えるの大きな要素だ。デュアルモニターでなくなることでGPU負荷を抑えることができ、占有面積も24インチx2枚よりは横が短くなる。また、Wacomタブレットの使用能率が大きく向上することも見逃せない。筆者はこの点だけでも、もうデュアルモニターには戻れない身になってしまった。

また、本機は60W充電可能USB Type-C端子を搭載している。普段は編集機との接続のためDisplayPortがあれば良いのだが、たまにノートPCを繋ぐときはこのUSB Type-C接続が便利だった。充電に対応していることもあり、Dock的な運用ができるのはありがたい。

その他に触ってみて良かったポイントとして、応答速度が比較的早かったことが挙げられる。SW321CはGTG(中間階調応答速度)で5msであり、競合より一歩抜きん出ている。スペック上だけの話ではなく、視覚的にも残像感の少ない表示に見受けられた。このあたりはゲーミングモニターも手掛けているBenQのこだわりを感じられた。

Rec.709モニターとしての評価

あくまでもSW321CはPC作業用モニターであるが、ことRec.709については業務用モニターと遜色ない表示が実現できていた。色域的にはRec.709 100%であり、ガンマ2.4での表示にも問題はない。フルHDの信号を入力した際もボケが悪目立ちすることはなく、そこそこしっかりと画を見ることができた。用途によるが、Rec.709については業務用モニター的な扱いをしても構わないと感じた。

なお、この検証はPC直結ではなく、Blackmagic Design Decklink 8K ProからのSDI出力を、同Teranex AV経由でHDMI化して入力する形で行った。

その他面白機能たち

SW321Cには、通常のモニターにはない面白い機能が色々入っている。その中から気になるものをピックアップしてみる。

■3段階のモノクロモード

OSDから、設定の違う3段階のモノクロモードを選択できる。単なる彩度落としとは違い、銀塩写真的な風合いをシミュレートできるため、カラーグレーディング前の構想時などに使えそうだ。

■GamutDuo機能

2種類の色域を左右で横に並べて同時に表示できる。この機能自体は実はシンプルな方法で実現されており、PIP/PBP(ピクチャーインピクチャー/ピクチャーバイピクチャー)機能を使った際、それぞれの入力に異なる色域やガンマ、色温度を設定可能だ。HLG(ガンマ)とRec.709(ガンマ)が同時に成り立つ色を要求された際や、6500kと9300kを両方見たい場合などに有用かもしれない。

■ホットキーパックG2

端的に言えばOSD操作用のリモコンなのだが、まず見た目が面白い。このまま編集ソフトの操作ができてしまいそうな外観だ。本体でのOSD操作感にも特に問題は感じないが、前述のモノクロモードやGamutDuoを多用する場合、ハードウェアリモコンがあった方が良い場面はありそうだ。

■遮光フードを標準装備

遮光フードが標準装備なのは高評価。オプションだと要らないかな…となりがちだが、色を見るために遮光フードは非常に有用だ。もちろん、常に暗室レベルまで照明を落とせるカラーグレーディングスタジオは別だが、本機が置かれる環境はおそらくオフライン、オンライン、グレーディングが入り乱れる多目的スタジオ(または自宅スタジオ)になることが想定される。そんな環境では遮光フードは抜群の威力を発揮するだろう。

■映画編集に最適な1080/24Pに対応

これは非常に便利。リフレッシュレートとして24及び23.976hzを明示的に選択することが可能で、60hzでは感じる微妙な引っ掛かりを全く感じなくなる。案件上それらのフレームレートを多用する筆者としてはかなり有用だった。

■CalMANの3D LUTキャリブレーションに対応

今回時間切れで詳細な検証をするにはいたらなかったが、CalMANによるハードウェアキャリブレーションに対応していることは大きなトピックだ。AQCOLORシリーズとしてはそもそも工場出荷時に既にキャリブレーションが施されていることもあり、今回の検証時にはsRGB/Rec.709の色について特段の問題は見当たらなかったが、仮に稼働時間が嵩んできて色ズレが起きたとしても、映像/CG制作においてメジャーなCalMANでのハードウェアキャリブレーションに対応していることは安心材料と言える。

HDR対応モニターとしての評価

まずスペック上の最大輝度が250nits(cd/m2)であり、1,000nits級のリファレンスモニターと比べるべきものではないことを断っておく。

その上で、250nitsまでの間でHLGガンマが破綻しないことには価値を感じた。大抵のHLGコンテンツは、ほとんどの場合画面の一部が高輝度になるだけであり、全体としてはSDRとそこまで変わらない(というか、画面全体をHDRにしてしまうと、眩しくて見ていられない)ため、破綻していない状態でチェックできることには一定の価値がある。

惜しいのは、色域の選択肢が最大限広くてP3であり、Rec.2020が選択肢にないことだ。ガンマはHLGだが色域はRec.709(またはP3)という状態は、放送用途では片手落ち感が否めない。そもそも世の中にはRec.2020 100%のモニターはまだないのだから、仮に色域カバー率が低くても良いから、カラーマッピングとしてのRec.2020色域に対応してHLGガンマでのBT.2100対応、までは期待したかった。

また、本製品はHDR10に対応しており、PQガンマ自体を扱うことはできるが、規格としてのST 2084には対応していない。HDR10は民生規格という感覚もあり、可能なら正面からST 2084にも対応して欲しかった。

総評

sRGB/Rec.709での色再現には不安がなく、基本的なPCモニターとして使い勝手が良い。用途によっては、ニアリファレンスモニターとしても扱える精度を持っている。遮光フードが標準装備なのも好印象。

HDRについては発展途上なところもあるが、世のPCモニターにおいてHDR10のみ対応がほとんどの中、HLGガンマにも対応してきたことは評価したい。基本的に製品としての完成度は高く、また色がまともなモニターとしては価格が税込25万円前後と、コストパフォーマンスにも優れている。用途に自覚的なプロには価値が見出せるだろう。

岡田太一
Film Editor/Techniacl Director。株式会社スタッド代表取締役。sync.dev所属。
CGからキャリアをスタートし、CM業界において一通りのポスプロ工程を経験。現在はFilm Editor/Coloristで仕事を頂きながら、Unity/UEに傾倒。

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編集部

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。