txt:千葉孝 写真撮影:三島史子 構成:編集部
カメラを搭載するとこんな具合だ。一番小型のタイプでも想像以上に積載可能

Scout EVOの後継機種であるVoyager EVOが登場

撮影用組み立て式カートで有名なInovativ社からScout EVOの後継機種である「Voyager EVO」が発売された。以前の機種よりも20%以上軽量化されたVoyager EVOは3種類のサイズがリリースされ、使用目的に合った大きさの製品が選択できる。

今回は世界を揺るがすコロナ禍の真っ只中に筆者が緊急入手したVoyager EVOのレビューをしてみよう。

私が入手したのはVoyager EVOでも一番小型の30インチモデル。そのほかには36インチ、42インチの製品がリリースされており、30インチは大体マグライナーMiniとほぼ同程度のサイズだ。

基本パーツで組み立てた大きさの比較

軽量だが非常に頑強に出来ているのは流石である

左が36インチ、右が30インチのタイプ

Voyager EVO一番の特徴は天板を外し、4本の支柱を折り畳むことによりコンパクトな形状になる事だ。Scout EVOも同じように小型化できる機種だが、大きな違いは天板と底板を固定する金具が廃止され、より洗練されたU字型の固定具に変更された点だろう。以前の金具式の場合、フック部分が移動中に邪魔になることも多々あったため、この変更点は大歓迎だ。

U字型のパーツで上下の蓋を固定する

ロック部分はフックタイプになって使い勝手が向上した

タイヤの脱着はとても簡単に出来る

肝心のカート組み立ても非常に簡単だ。天板と底版を分離し、支柱を立てて天板を固定、90°寝かせた状態でタイヤを装着すれば完成だ。メーカーは2分で組み立て完了と謳っているが、実際はタイヤなどのパーツを付属する袋から出したりする手間があるため5分程度は必要だろう。しかし工具類は一切必要としないため、組み立てる手間は想像以上に簡素である。

支柱は折り畳んで収納。工具は一切使わないので非常に便利

支柱を結ぶパーツもアルミ削り出しだ

グリップは工具要らずで簡単に固定できる

またこの手のカートの場合、撮影現場の運用方法としては撮影機材車へそのまま「せーの」で乗っける事が多いと思う。ハイエースクラスの撮影機材車で移動する場合は特にコンパクトにする機会は少ないと思うが、例えば地方出張や海外ロケに於いて飛行機で移動する場合、これまでは撮影カートの使用をあきらめざる得ない場合でもVoyager EVOであれば十分、導入を検討する余地があると思われる(畳んだカートを運搬するための専用バックも販売されている)。

専用のカバーは出張の時に便利

トライポットホルダーは支柱に固定するタイプだ

また、特筆すべきはオプション品としてリリースされている様々なアクセサリーだ。筆者はマグライナーでも定番のトライポットホルダーを注文した。マグライナーと違い、ホルダー自体が折り畳むことが不可能な構造なのでやや利便性に欠けるが、同じくオプション品である三脚ヘッド用ボールマウントと支柱を併用できる構造のため、天板上に置いたハイアットに頼ることなくカメラヘッドを安全に運搬できる(ハイアットを置かない分、スペースにも余裕が出来る)。

天板は絨毯地が張ってあり機材に優しい設計

三脚ヘッド用のボールプレートは150パイの製品もリリースされている(写真は100パイ)

各部品はCNCで頑強な作り

また、モニター専用のアームもオプションでリリースされており、VESAマウントを使用し、モニターを固定する事が出来るので多忙な現場でとても便利だ。

それ以外もフック式のケーブルホルダーや、天板の横に設置する小物入れ、ステディカムのベストを引っかけておくクランプなど、本場ハリウッドで培われた細かなオプション品には感心するばかりだ。

オプションの小物入れは非常に便利

オプションのドリンクホルダー

現場での使用感

現場レベルの使い勝手についても少しふれておきたい。筆者がコロナ禍直前に参加した撮影では、都内のホテル内で36インチのVoyager EVOをライトアップからレンタルして使用した。まず驚いたのは引っ張った時の動きの軽さだ。マグライナーよりはるかに押し引きが軽く感じられたのには大変驚いた。おそらくタイヤ内部のベアリングに低抵抗の高品質ベアリングを使用しているのであろう。本体の軽さだけでなく、カート自体が非常に軽快に感じられたのである。

モニターアームも非常に便利で、現場にてクラシアント用モニターを運搬する手間が省けたのは想像以上に楽であった。

以上いい点だけを述べたが、気になった点についてもいくつか挙げておく。

まず、やはりコンパクトとはいえ折り畳んだ状態の製品はそれなりに重い。私の所有する30インチモデルでも、最大181キロもの機材を運搬できる反面、それ自体で26キロの重さがあり、大人一人でギリギリ持ち上げられる重さだ。オプション品を収納すれば30kgを超えるのは確実だろう。ただし、折り畳んだ状態にすればローラータイヤが底部に付いているので1人でも転がして移動することは容易だ。

折り畳み時はこの2つのタイヤがあるおかげで転がして移動する事が出来る

また、オプション品として購入したトライポットホルダーが金属部分むき出しのため、エッジで三脚を傷を付けてしまう可能性があるのは残念だ。筆者はカーボン三脚を使用しているため、三脚の傷は致命傷になりかねない。そこで筆者は市販されている液体ゴムにて表面をコーティングし、傷が付きにくいプロテクション処理をした。

タイヤ4つとオプションの一部は収納可能だ

30インチモデルの場合、折り畳んだ状態での収納容量は意外と少なく、タイヤを4つ入れたらかなりキツキツになる。モニターアームやトライポットホルダーは残念ながら別途運搬する必要がある。

これもオプションのモニターアーム。VESAマウント対応だ

あと残念なのはVoyager EVOが非常に高価な点だ。品質は素晴らしいのだがマグライナーと比較し、倍以上の価格差があるのだ。レンタルで使用する場合は価格差は気にならないと思うが購入する場合は覚悟が必要になる。なんといっても軽自動車の中古が買えるほどの価格なのだから(RAID社でのVoyager EVO 30インチモデル販売価格は465.000円)。※追記:国内代理店のRAID社によると5月末から定価の値下げがあり、Inovativセールを行うという。

以上、Voyager EVOの機能を中心にレビューした。もしあなたがVoyager EVOを使用したことがなければ、ぜひ一度使って見る事をお勧めしたい。マグライナーには無い素晴らしい使い勝手をぜひ味わってほしいのだ。

スタジオ協力:株式会社ライトアップ

WRITER PROFILE

千葉孝

千葉孝

カメラマン歴33年。ドキュメンタリーからMV、ドラマ、映画、CMまで様々なジャンルで活動している。