txt:宏哉 構成:編集部

リベンジのチャンス

前回のコラムで「ドローンでクジラを空撮する」というミッションを達成できずに、暗澹たる気持ちになってしまった私…。不可抗力的な側面があるとはいえ「もう少しドローンの飛行位置が違っていれば…」とか「もっと瞬時にクジラとの位置関係を把握できていれば…」などと考えてしまう。

もう一つ言えば、お金の問題だ。昨今の厳しいテレビ制作費の事情は、我々の海外ロケにも大きく伸し掛かっていた。基本的には地上カメラしかないこの番組のロケは、私が担当するときだけ自前でドローンが飛ばせるというアドバンテージもあり、ドローン空撮技術料を別途頂いていた。

そうした事情のある中で「追加費用を払ってドローンを出しても、効果が小さい」と思われてしまうと、ドローンの投入自体が今後見送られてしまうかもしれない。ドローンを持って行くかどうかは、事前にディレクターがプロデューサーに「こういう画が撮れるので、持って行きます」という話をして、費用面でもOKを頂いてから当ラボに発注が来る。

今回は「泳いでいるクジラを間近で空撮できる」ということで、ドローン投入にGOサインが出たようなものだった。だからこそ、目玉であったはずの「クジラの空撮」が上手く行かなかったことは「リスクのあるコスト」と判断されてもおかしくないのだ。

だが、リベンジのチャンスは即座に訪れた!!

翌日。マリンレジャーの取材で別のレジャーボートに乗船。地元の家族連れに海に入って遊んでもらったり、海上からしか行けない観光名所などを船上カメラとドローンで撮影した。撮影の目的が達成できた頃、ボートの船長さんに他の船からの無線連絡が入る。

スタンドアップパドル・サーフィンで遊ぶ家族

観光名所を船と空から収める

どうやら別の船が行っているホエールウォッチングで、今まさににクジラが見つかったそうなのだ。道中、昨日のホエールウォッチングで満足いく撮影ができなかったことを船長には話しており、それで気に掛けてくれていたようなのだ!

ホエールウォッチング船が集まってきていた

我々の船は、すぐさまクジラが出現したポイントへ向かう。陸上での次の取材もあるので、あまり時間を取ることはできない状況なのだが、これは逃せないチャンスだ。船がポイントに近づくと、他のホエールウォッチングツアーの船が沢山集まっていた。間違いなく、このあたりにクジラがいるということだ。

船上でドローンの準備

ドローンの準備をしつつ、肉眼でどのあたりにクジラがいるのかを必死で探す。私にとっては起死回生、千載一遇のチャンスなのだ。

やがて、多くの船が舳先を向けている遙か向こうで、海面から白いモヤが立ちのぼる。クジラが潮を吹いたのだ。周囲の船が一斉にエンジンを掛けて走り出す。クジラは沖合へ泳いで行っている様子だ。

位置が分かればドローンを空に上げる。船長に船を動かすのを少し待ってもらって、まずはドローンを離陸させた。それからは、ドローンを先行させながら船もクジラの方へ向かう。クジラから距離を取って走っている他の船をドローンが追い抜き、一気にクジラに肉薄する。

すると、なんとクジラが2頭併走しながら泳いでいる姿をドローンのカメラが捉えた。交互に尾びれを海面に出し、そして潮を吹いて優雅に泳いでいる。これはドローンでしか撮れない画だ。

2頭のクジラが並んで仲良く泳いでいる

クジラネタ全体としては、昨日の撮影で船上からのカメラ映像は十分に撮れている。ドローン映像の事ばかりを話題にしてきたので、ホエールウォッチング自体が上手く行っていないような印象を与えたかもしれないが、船の上からもなかなかに肉薄した映像は撮っているのだ。

船上からの撮影でクジラには肉薄していた

あとは、ドローンで捉えたクジラの映像だけが足りなかった。それが土壇場でなんとか成立させることができた。

だが、まだ安心はできない。「家に帰るまでが遠足」の様に「着陸させるまでがドローン空撮」だ。ドローンは自船から離れること600mほど。周囲は海。確実に船に帰還させて着陸させないといけない。海へ落ちれば、撮れた映像はおじゃんだ。

飛行残分数は常に意識して飛ばしていて、テレメトリでバッテリー残や距離には留意している。そして残り時間10分を切ったら帰還させる計画でいた。すでに撮れ高は十分である。

と、ここでドローンのバッテリー電圧低下の警告表示が出る。予定通りだ。あとは、映像伝送や制御の電波が途切れることなく、確実に自船を見つけて帰還させられるかだ。600mも離れていると、流石にPhantomサイズのドローンの目視は不可能だ。今までの進行方向に対して真っ直ぐ反対に後退させて、自船との相対距離を縮める。そうしつつ、肉眼でドローンが帰ってくるはずの方向を注視して機体を早期に目視で捕まえる。

予想通り、ドローンは真っ直ぐこちらに向かって後退してきており、即座に目視飛行で自船へと帰還させた。船上からのハンドキャッチでモーターをストップさせるまで、帰還行動開始から約50秒。緊張の時間だった。

ホエールウォッチングは期待以上の撮れ高となった。今朝までの暗澹たる気分は吹き飛び、撮影スタッフの間でも歓喜にも似た満足感が溢れた。私がどれほど胸をなで下ろしたかは言うまでもないだろう。

ドローンによるバギーの空撮

それ以降の取材も、空陸問わず順調に遂行された。特に今回の撮影で楽しんだのが、バギーの走行シーン。ロスカボスの荒れた河原や砂浜をバギーで疾走するアクティビティだ。砂埃が盛大に舞い散るということで、デジをビニール袋で養生して粉塵対策。バギー3台を出してもらい、出演者が搭乗するバギーに併走しながらスピード感のある映像を撮る。

バギー撮影

疾走するバギーとドローン

そして、ドローンによるバギーの空撮が最高に楽しかった。荒れ地を爆走するバギー3台をドローンでデタラメに追走する。まるでバギー対ドローンのレースのように、抜きつ抜かれつしつつ低空で駆け巡る。まさに一人称視点撮影のFPV空撮のごとく、撮影に没頭してしまった。

過去から現在に至るまで、ドローン空撮で最高に美しい風景を撮れたのがインドネシア・フローレス島周辺の撮影で、最高にエキサイティングしたのがこのロスカボスでのバギー空撮だ。

最終日には、宿泊していたホテルを撮影。設備・施設の紹介や海側からドローンでビーチ込みのロングショットを撮ったりと、最後まで充実した取材となった。

スタッフ皆で夕日撮影

海外ロケで大切なこと

スタッフ皆で考え乗り越える海外ロケ

海外ロケは、国内ロケとはまた違ったスキルと経験則が必要になる。言葉の壁や文化の壁、考え方や習慣の違い。地の利の無さ。時間の無さ。日本的なテレビのやりかたを理解してもらえない時もあるし、そもそもビジネスとして考え方が違って、お金の面でトラブルになる事も多い。そうした要素を、スタッフそれぞれが工夫して乗り切ってきた。

「技術スタッフ」として現場に行くカメラマンがすべきは、ディレクターやロケマネージャー、現地コーディーネーターなどが様々な事前準備と策を練って整えてくれた現場で、最高の撮れ高を上げることだ。出国前の機材準備とチェック。現地での整備と安全確認。貪欲な撮影姿勢と確実な撮影手法。そうしたものを現場で提供することが、海外ロケを技術面で支える最低限の勤めとなる。

撮影終了後ホテルから打ち上がる花火を観て癒される

時には、カメラマンであってもディレクターとともに演出を考えたりネタを探したり、コーディーネーターと撮影の段取りを調整したりもしするし、現地の方に直接お願いをしたりもする。その都度都度の海外ロケを、最高に楽しく豊かなものにする努力を厭わないし、そうすることが何よりも面白い仕事なのだ。

条件の厳しい撮影も多いが、終わりよければすべてよしの精神で、スタッフ皆で協力して、最良最善の結果を導いて、明るく帰国できることが最高の海外ロケである。

WRITER PROFILE

宏哉

のべ100ヶ国の海外ロケを担当。テレビのスポーツ中継から、イベントのネット配信、ドローン空撮など幅広い分野で映像と戯れる。