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txt:渡辺健一 イラスト:渡辺あやね 構成:編集部

映像において人の声は非常に重要である。だが、撮影場所によっては声を明瞭に録音することが難しい場面もある。そこで今回は雑踏の中で人の声を明瞭に録音する技術を解説する。

雑踏で声を録るのは難しい

雑踏の中でインタビューをしたり、ドラマなどで台詞を録ることは少なくない。しかし、背景の音で声がハッキリ聞こえないというトラブルは非常に多い。編集時に救うことも非常に困難である。

それゆえ、撮影時に最適なマイク操作が必要になるのだ。この連載でも、声が不明瞭になる原因を解説してきたので、軽く復習しておくと、マイクというのは画角とピント範囲というものがあって、それを外すと声が不明瞭になる。一般的には、普通のショットガンタイプのコンデンサーマイクの場合、被写体までの距離は50cm程度が最適なピント範囲であって、それを超えると声がボケてゆく。

ボケの原因は、背景の音が大きく聞こえてくることにある。なぜ背景の音が大きくなるかというと、マイク距離が被写体から離れるとそれだけ被写体の音が小さくなって、背景音の音量に近付くことと、被写体自体の声が周囲に反響してエコー(残響)がかかることだ。

つまり、マイクが離れると、背景音とエコーの2つで声がボケることになる。ちなみに、背景音がなく残響もない場所であれば、マイクは遠く離しても画角の範囲であれば明瞭に録音することができる。詳しくは本コラム第1回を参照頂きたい。

マイク距離を最適にせよ

雑踏の中というのは、背景音が大きい場所と定義することができる。背景音が大きい場所では、その分だけマイクを近付ける必要がある。通常の場所であればマイク距離を50cmから1m程度で明瞭に録音できるが、雑踏の中ではもっと近付ける必要が出てくる。

例えばパーティー会場などでは、50cmでも遠すぎてしまう。25cmまで近付けるとかなり被写体の声が大きくなり、その分だけマイクボリュームを下げられる。マイクボリュームを下げれば、その分だけ背景音が下げられるので、結果的に明瞭な声が録音できるわけだ。

■マイクの近接効果に注意せよ

マイクにはピント範囲があると解説してきたが、実は個々のマイクには最短距離というものもある。概して言えば、マイクが近付くにつれて低音が大きくなる。この低音が大きくなることを近接効果と呼ぶ。マイクによって近接効果の出方が違うのだが、一般的なショットガンマイクの場合には、10cmより近付くと極端に低音が上がってくる。5cmまで寄ると、かなり耳障りになってくる。

低音成分が上がってくる近接効果に対しては、ローカット(低音除去)フィルターを使うことである程度は改善することができる。ローカットフィルターは、カメラの録音設定の中に入っていることが多い。

ローカットフィルターの名称

  1. ローカットフィルター
  2. 風切音防止フィルター
  3. ハイパスフィルター

上記の1~3は違う呼び名だが、同じものだ。フィールドミキサー(フィールドレコーダー)の場合には、低音カットの周波数を調整することができる。テレビの場合には200Hz以下をカットしている。200Hzで切るとどんな場所でもかなり明瞭な声になるが、映画などで被写体(役者)の声質を重視する場合には、100Hzくらいにした方が高級感のある声になる。

さらに、ローカットフィルターを200Hz程度にしておくと、マイクブームを使ったときに生じるハンドノイズ(握り直しやケーブルがぶつかる音)も消せるので、マイク操作が楽になるメリットもある。

余談だが、放送用のフィールドミキサーの場合には、カットしたい周波数だけでなく、どれだけ下げるかという減衰量を調整することもできる。パラメトリックイコライザー(強調もしくは減衰させる周波数と増減量を調整できるイコライザー)も搭載されていて、現場で最適な音を創り出すことができた。ただ、最近のデジタル式フィールドミキサー(レコーダー)には搭載されていない。

ゼンハイザーのMKE600には、ローカットフィルターが搭載されている。ナレーション録音の時以外には常時オンで使ってもいい

どうやってマイクを近付けるか

実際の収録では、マイクを近付けるためにいくつかの方法を用いる。1つはマイクブームを使ってマイクをギリギリまで近付ける方法だ。ただし、これはカメラマン以外に音声マンが必要になるので、ワンマンオペレートの撮影では無理だろう。

■置きマイクを多用せよ

もう1つの方法としては、マイクスタンドを使った置きマイクという手法がある。簡単なマイクスタンドや自立式の一脚を使う方法だ。やり方は非常に簡単で、ケーブルでマイクを延ばして被写体の近くへマイクを置けば良い。マイクはカメラ用のショットガンマイクで大丈夫だ。スタンドへの取り付けは、簡単なマイククリップで大丈夫だ。ショックマウントは必要ない。

置きマイクで距離を近付ける。マイクの距離は背景音の大きさによって変える必要がある

背景音は横から襲ってくるぞ

マイクブームや置きマイクを使うときに留意するのがマイクの向きだ。実は雑踏というのは横方向からやってくる。つまり、マイクを水平に向けると雑踏が一番大きくなるのだ。カメラの上に取り付けた状態というのは、最も雑踏が大きく聞こえる向きであり、インタビューなどには適さない。

マイクブームを使う場合には、マイクを被写体の頭上から差し出しているが、実はマイクを下に向けたときにもっとも雑踏が小さくなる。それを考慮したのがマイクブームによる頭上からの録音なのだ。

置きマイクは上へ向ける。マイクの画角に注意してセッティングする必要がある

置きマイクは上に向け、マイク設置後にカメラの画角を決めろ

置きマイクで頭上からマイクを出すのは、相当長いマイクスタンドでないとできないので、現実的ではない。そこで置きマイクの場合には、被写体の下にマイクを設置して、マイク方向を上に向ける。

マイクを上に向けるだけで雑踏が減るのだが、それでも周囲がうるさい場所ではマイクを近付ける必要が出てくる。最適な音質になるまでマイクを近付けたい。可能であれば、マイクを決めた後でカメラの画角を選ぶといい。

まとめ

雑踏での録音は、いろいろとノウハウや機材選びが必要となる。今回は、その基本となるローカットフィルターと置きマイクを紹介した。次回は、ハンドマイクを使ったインタビューやピンマイク、ヘッドセットマイクの使い方を紹介することにしたい。

WRITER PROFILE

渡辺健一

渡辺健一

録音技師・テクニカルライター。元週刊誌記者から、現在は映画の録音やMAを生業。撮影や録音技術をわかりやすく解説。近著は「録音ハンドブック(玄光社)」。ペンネームに桜風涼も。