昨年のSIGGRAPH 2019にて(筆者撮影)
取材:鍋 潤太郎 構成:編集部

はじめに

さて、夏である。夏と言えばSIGGRAPHである。今年のSIGGRAPH 2020は、SIGGRAPH史上初めてワシントンD.C.のWalter E. Washington Convention Centerにて7月19日から23日まで開催…のはずだったのだが、ご存知のように新型コロナウイルスの影響によりプラン変更を与儀なくされ、8月17日からバーチャル・コンファレンスという、これまた史上初のスタイルで開催される事になった。

筆者はワシントンD.C.を訪れた事がなく、SIGGRAPHにあわせた久しぶりの米東海岸訪問を個人的にも楽しみにしていたので、夏の楽しい旅行プランがなくなってしまった事は少々残念である。しかしながら、コンベンション自体が「中止」ではなく、バーチャル形式で開催されるというのは、まさにグッド・アイデアと言えるのではないだろうか。

また、考えようによっては夏休みシーズンのバカ高い航空券やホテル代を節約でき、アメリカへ飛ばずとも日本を含む世界中どこからでもオンラインで参加できるのは、おトクかもしれない。また、オンデマンド・コンテンツについては時差に縛られず、オンラインで好きな時に聴講およびストリーミングができるというのも、斬新な試みであり、魅力的でもある。

まぁそんな訳で、今回は、開催目前に迫ったSIGGRAPH 2020の見どころを、予習してみる事にしよう。

初のバーチャル形式での開催とあって不祥な点も多いが、筆者が気になった点は主催者に問い合わせ、得られた回答をベースに最新情報をご紹介しよう。

※このコラムで紹介されている内容は7月後半の情報である。開催内容、内容等が予告なく変更される事も予想されるため、最新情報はSIGGRAPH 2020公式サイトをご参照あれ

※下記でご紹介している日付および時間は、すべて米西海岸時間

おさらい:SIGGRAPHって何?

まずは「シーグラフ(SIGGRAPH)」をあまり良くご存知ない方のために、SIGGRAPHとは何か?を簡単にご紹介しておこう。

SIGGRAPHは、毎年夏にアメリカで開催される、コンピュータ・グラフィックス分野の世界最大級の国際コンベンションである。正確には国際学会および展示会なのだが、連日映像作品の上映やVFXメイキング講演、ユーザー・イベント、パーティ等が開催される事もあり、その楽しさや華やかさから「祭典」的な存在としても知られている。

国際学会の性質にふさわしく、大学の研究者やハリウッドのVFX現場で開発された最新技術の論文発表も行われ、ここで公開された論文が、最新ハリウッド映画やゲームの技術に応用される事例も少なくない。アメリカのCG・VFX界では「情報共有」の考え方が浸透しており、こういった最新技術を惜しげもなく公開し、みんなでシェアしていこうという姿勢が見られる。その姿勢はオープンソース等に代表される業界標準化にも通じるものがある。

SIGGRAPHの歴史は古く、第1回は1974年にコロラド州の都市ボルダーで、参加者わずか600人で開催された。参加者数および出展者数のピークは1997年のロサンゼルス開催で、参加者48,700人に出展社数539。それからは徐々に規模が小さくなったが、ここ数年は参加者15,000人以上、出展社数150~180をキープしている。昨年のロサンゼルスは7年ぶりに参加者が18,000人を超えるなど健闘しているが、近年の開催規模は残念ながら最盛期の3分の1程度に縮小している。しかし、CGの最先端技術の論文発表やVFX作品のメイキング講演、エレトリック・シアターに代表される映像作品の上映など、まだまだ魅力満載である。

SIGGRAPHは、毎年開催地を変えて実施されており、過去にはボストン、シカゴ、フロリダ、ダラス、そしてラスベガス等の全米各都市で開催された事もあった。しかし近年は規模縮小の影響もあってか、CG&VFXが盛んなロサンゼルス近郊やカナダのバンクーバー等で開催される事が多い。そんな中、前述のように今年は初めてワシントンD.C.での開催が予定されていたが、バーチャル形式での開催となった。

SIGGRAPHでは「この場に来ないと見れない、門外不出の映像」が公開される事も少なくなく、文字通り極秘映像の数々を見る事ができる。また例年であれば、SIGGRAPHの会場で憧れの著名人に出会えたり、実際にVFXを制作した著名VFXスタジオのスーパーバイザー等によるメイキング講演を生で聴講できるのは、大変貴重な経験となる。

今回はバーチャル形式という事で、オンラインを介しての閲覧となるため、その場で見られる「ライブ感」が失われるのは残念である。しかしながら、初のバーチャルSIGGRAPHがどのような感じで開催されるのか、非常に興味深い点でもある。

昨年のSIGGRAPH 2019の会場にて(筆者撮影)

開催日程

さて、SIGGRAPH 2020の開催日程だが、下記のスケジュールが予定されている。

8月17日(月)
オンデマンド・コンテンツが利用可能

※オンデマンド・コンテンツは10月27日(火)まで継続して視聴可能

8月24日(月)~28日(金)
コントリビューターとのQ&Aを含む、ライブのインタラクティブセッション

※インタラクティブセッションは、ライブのみの視聴に限定されるものと、映像がアーカイブされ10月27日(火)までオンデマンド・コンテンツとして視聴できるものとに分類されるそう。筆者が主催者に問い合わせ、現在分かっている範囲の情報を下記で紹介しているので、ご参考あれ(ご注意:7月末現在の情報であり、後日変更になる可能性もあり)

チケット&レジストレーション

SIGGRPAH2020のチケット&レジストレーション情報はコチラから見る事ができる。今回はバーチャルという事もあり、例年よりも1/5ほどの安価で、チケットを購入できる。チケットのアクセス・レベルは、下記4種類に分類されている。

●Ultimate Supporter サポーター&全カテゴリー
全25カテゴリーが閲覧可能 $550.00
新型コロナウイルスの影響等によって現在失業中のシーグラフ会員や、学生会員向けのディスカウント・プログラムをサポートする目的の上乗せ料金が含まれており、現在安定収入がある方へ、サポートおよび協力を呼び掛けている

●Ultimate Attendee 全カテゴリー
全25カテゴリーが閲覧可能 $350.00
現在失業中のシーグラフ会員、学生会員向け割引きプラン $150.00 (非会員でも、AMCシーグラフに加入すれば利用可)

●Enhanced Attendee 限定カテゴリー
全25カテゴリー中、18種類が閲覧可能 $200.00
現在失業中のシーグラフ会員、学生会員向け割引きプラン $100.00 (非会員でも、AMCシーグラフに加入すれば利用可)

※ハリウッド映画のVFXメイキングが見れるProduction Sessions等が含まれないのでご注意

●Basic Attendee 機器展
全25カテゴリー中、7種類のみ(機器展、Jobフェアー等)閲覧可能 $50.00

※機器展は割引プラン無し

日本からオンラインで参加するのであれば、ここはやはり旅費が節約できる分、せっかくなら全カテゴリが閲覧できる「●Ultimate Supporter」「●Ultimate Attendee」がおススメである。

SIGGRAPHにはさまざまなイベントや講演があるが、上記のようにチケットのアクセス・レベルによっては閲覧できないカテゴリーもあるので、注意が必要である。詳細については、コチラのリンクで確認した上で、購入するチケットを決めると良いだろう。レジストレーションはコチラから。

別売りチケット(上記には含まれず、ご希望に応じて別途購入)

エレクトリックシアター $20.00

※「エレクトリック・シアターのチケットだけ購入したい」という方もおられるかもしれないが、筆者が主催者に確認したところ、エレクトリック・シアターのチケットは、上記いずれかのアクセス・レベルのチケットでレジストレーションを完了させないと購入できないそう

ドキュメンテーション&プレゼンテーションUSB $100.00

※2020年8月28日までに購入すると、会期終了後に順次郵送される。2020年12月14日月曜日までに発送される予定
※映画やテレビ、ゲーム作品等の動画は、公開日・発売日・著作権などの関係でUSBに含まれない場合もあるそう

今年の見どころ

さて、今年で開催47年目を迎えるSIGGRAPH 2020だが、今年はどんな見どころがあるのだろうか?ひとくちに「見どころ」と言っても、参加される方の専門職種によって着目点が異なると思うが、ここではVFXアーティストの諸兄が興味を持ちそうな分野を、筆者の独断と偏見に基づき、ピックアップしてみた。

※各カテゴリの横に各チケット(上記)で閲覧可能なアクセス・レベルをのように色別で表記してみた

■基調講演(Keynote Sessions)

SIGGRAPH 2020の基調講演は、MITメディアラボのディレクター、NASAジェット推進研究所のクリエイティブ・コンサルタント、Accentureのエクステンド・リアリティ・リードコンサルタント、ニューヨーク市のmagicLabの創設者兼エグゼクティブ・ディレクターのマルコ・テンペスト氏の登壇が予定されている。


■機器展(Exhibition)

機器展を一回りするだけで、今年のトレンドが把握できる(SIGGRAPH 2019にて筆者撮影)

例年であれば、会期中の火水木の3日間に渡って行われるのが、機器展。これにあわせて月曜に現地到着のスケジュールを組む方も多かった。今年はバーチャルなので、いつでも好きな時に覗けるのが利点である。

ここでは、さまざまなCG/VFX関連のソフト&ハードの最新動向を見る事ができる。会期中に一回りするだけで、今年のトレンドや各分野の勢い、そして大人の事情などがひととおり把握できる場でもある。バーチャル形式でどのように&どこまでカバーされるのか興味深々であるが、例年ではDCCツールの各ベンターブースでは最新バージョンのデモや、ユーザー事例のプレゼンテーションなどが行われた。人気ツールのTシャツやバッチ、ノベルティ・グッズなどをゲットするのも楽しみの1つだが、今年はそれができないのが残念!

昨年の出展社は180社だったが、今年はバーチャル形式という事もあり、7月末の時点では80社以上の出展が予定されているという。出展社一覧はコチラ


■エレクトリック・シアター(Electronic Theater)

SIGGRAPH 2019のエレクトリック・シアター会場にて(筆者撮影)

SIGGRAPHの数あるイベントの中で、おそらくVFX屋にとって絶対に外せないのが、このエレクトリック・シアターである。ここでは、短編映画、長編映画、視覚効果、ゲーム、コマーシャル、そしてサイエンティフィック・ビジュアリゼーションなど、文字通り今年のハイライト作品が一堂に上映される。今年は全28本の上映が予定されており、エレクトリック・シアターの場がワールド・プレミアとなる作品が3本含まれているという。著作権の関係でYouTube等では公開されていないような映像も含まれ、まさに必見と言える。

エレクトリック・シアターもバーチャル形式で実施され、全世界からストリーミング可能となる。公開期間は8月24日(月)午後16:30PMから28日(金)20:59PM (ともに米西海岸時間)。

前述のように別売りチケットを20ドルで購入し、「パーソナライズ・コード」をアンロックすると、その瞬間から48時間以内であれば何回でもストリーミングできるという。ただし、「パーソナライズ・コード」を最初に使用してから48時間までという有効期限があるので、ご注意。上映作品のリストおよび詳細はコチラ


■Virtual, Augmented and Mixed Reality-Immersive Pavilion

昨年のImmersive Pavilionにて。連日、開場1時間前から行列ができる人気(筆者撮影)

これは2016年から始まった「VRビレッジ」が、2018年より更に発展させた「没入型パビリオン(Immersive Pavilion)」として生まれ変わった。今年はバーチャル形式で、バーチャルリアリティ(VR)、拡張現実感(AR)と複合現実感(MR)の最先端情報を垣間見る事ができるショーケースとして開催される。Immersive Pavilionの詳細はコチラ


■VR Theater

昨年のVR Theater(SIGGRAPH 2019にて筆者撮影)

VR Theaterでは全10本のVR作品を鑑賞できる。各映像はオンデマンドで8月17日~23日 まで公開され、その後も10月27日まで鑑賞できる予定。VR Theaterの詳細はコチラ


■トークス(Talks)

各分野の舞台裏&アイデアを披露するTalksも、VFX関連の面白いプレゼンテーションが聴講できる。Talksは、Q&Aを含むインタラクティブセッションで行われるため、日程と時間が決まっている。下記はその一例だが、今年もかなり盛りだくさんである。詳細はコチラ

8月24日(月)

  • 11:30am-12pm:Cool FX Stuff-CG Features Q&A
  • 11:30am-12pm:Rendering Q&A

8月25日(火)

  • 8:30am-9am:Cool FX Stuff-Frozen 2 Q&A
  • 10am-10:30am:Character Animation Q&A
  • 10:30am-11am:Crowds Q&A

8月26日(水)

  • 10:30am-11am:Game Technology Q&A
  • 12:30pm-1pm:Cool FX Stuff-VR Features Q&A

8月27日(木)

  • 9am-9:30am:Cool FX Stuff-Live Action VFX Q&A
  • 9:30am-10am:Game Technology in Engineering, Science and Society Q&A
  • 10am-10:30am:Facial Animation Q&A

8月28日(金)

  • 10:30am-11am:Immersive Storytelling Q&A
  • 12pm-12:30pm:Look Dev Q&A

※日時はいずれも米西海岸時間


■プロダクション・セッション(Production Sessions)
© Disney
ハリウッド映画のVFXメイキング講演等が見れるProduction Sessionsは、オススメ(SIGGRAPH 2019でのProduction Sessionsにて筆者撮影)

ここでは、最先端技術をプロダクションに応用したプレゼンテーションが行われ、毎年かなり見応えのあるメイキング講演を聴講でき、まさにVFX屋必見である。

Q&Aを含むインタラクティブセッションで行われるため、日程と時間が決まっている。Production Sessionsの模様はアーカイブされ、オンデマンド・コンテンツとして10月27日(火)まで継続して視聴可能(ただし例外もあり。詳細は下記を)。下記はその中から面白そうなものを抜粋。詳細はコチラ

8月24日(月)

ILMによる「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」メイキング

  • 3pm-4pm:ILM Presents: The Making of Star Wars: The Rise of Skywalker
  • 4pm-4:30pm:Q&A

8月25日(火)

ピクサーによる「2分の1の魔法」メイキング

  • 11:30am-12:30pm:Quest for Magic: The Making of Pixar’s Onward
  • 12:30pm-1pm:Q&A

MPC/The Mill/Method Studiosによるテレビコマーシャルにおける制作事例

  • 2pm-3:30pm:More with Less: The State of the Art of CG In Advertising

※こちらは著作権の関係等でオンデマンド・コンテンツには含まれない予定だったが、9月8日までの期間限定でオンデマンド・コンテンツとして視聴出来る事になった。未見の方は是非!

8月26日(水)

ILMによる「アイリッシュマン」メイキング

  • 12pm-1pm:ILM Presents:Making “The Irishman”
  • 1pm-1:30pm:Q&A

ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオによる「アナと雪の女王2」メイキング

  • 1:30pm-2:30pm:Venturing Into the Unknown-The Making of “Frozen 2”
  • 2:30pm-3pm:Q&A

8月27日(木)

ILMによる「マンダロリアン」メイキング

  • 2pm-3pm:ILM Presents “This is the Way”–The Making of Mandalorian
  • 3pm-3:30pm:Q&A

ブルースカイ・スタジオによる「スパイ in デンジャー」メイキング

  • 3:30pm-4:30pm:Spies in Disguise: the Art of Stealth and Sterling, Lance Sterling
  • 4:30pm-5pm:Q&A

※日時はいずれも米西海岸時間


■ジョブ・フェアー(Job Fair)

海外でのポジションを探すなら、Job Fair(SIGGRAPH 2017にて筆者撮影)

SIGGRAPHでの海外就活やジョブ・リサーチを予定しておられる方は、是非こちらへアクセス。リクルーターとコネクションを築けるチャンスの場でもある。

7月末の段階では、新型コロナウイルスの影響もあり、VFXスタジオやアニメーション・スタジオ各社とも一時的に求人を控えていたり、アメリカの場合は移民局が就労ビザH1-Bの一時的な発給停止を行っているが、Job Fairでコネクションを作っておけば雇用再開後のポジション獲得に結びつく可能性が秘められている。

また、7月末の段階ではアメリカのO-1ビザは発給停止の対象に含まれていないため、ある程度実績を持つ方はO-1ビザによって就労ビザの申請ができる可能性がある。詳細は書籍「ハリウッドVFX業界就職の手引き」をご参照あれ。

おわりに

さて、以上が開催が目前に迫ったSIGGRAPH 2020の見どころ情報である。今回のレポートが、みなさまのご参考になれば幸いである。

最後に、SIGGRAPH 2020のProduction Sessionsのチェア、デリック・ナウ氏(ドリームワークス・アニメーション)より、読者の皆さんにメッセージをいただいたので、ご紹介しておこう。

Derrick Nau-SIGGRAPH 2020 Production Sessions Chair
CG texture&Look Development Artist, DreamWorks

これまでのSIGGRAPHの開催形式は、皆さんと直接お会いし、様々な知識や感動を共感出来るという素晴らしい利点があった反面、日本から参加される皆さんにとっては、高額な旅費や滞在費がハードルになっていたと思います。今回、バーチャル形式になり、皆さんと直接お会い出来ない事は大変残念ですが、SIGGRAPHのコンテンツを見たり、参加したり、学んだり出来る可能性は、大きく広がったと思います。

特に今年のProduction Sessionsにおいては、ILMやピクサーによるメイキング、そしてThe Mill、MPC、Method Studiosによるテレビコマーシャルの制作事例など、エキサイティングで素晴らしいコンテンツのセレクションをご用意致しました。日本の皆さまの奮ってのご参加と、SIGGRAPH2020をお楽み頂ければ幸いです。

Japan, we hope you enjoy our show, thank you for joining us!!!

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。