txt:江夏由洋 構成:編集部

驚きの表現力を纏ったα7S III

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2020/08/DG_vol31_01_small.jpg ミラーレスでありながら、ミラーレスの枠を超えた一台。その表現能力は理想を超えた
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α7S IIIがいよいよ発表になった。世界中のクリエイターが待っていたカメラといっていい。4Kミラーレス機として人気を博したα7S IIの発売から約5年という月日が経ってしまっているものの、新型となるα7S IIIのスペックは正にミラーレス機としては理想の形といっていいのではないだろうか。

フルサイズ機のボディに詰められた圧倒的な機能の数々は、クリエイションの幅を大きく変える可能性を持っている。今回1日という短い時間、試作機で撮影をする機会を得たのだが、その小さなボディが持つ驚きの表現力をお伝えしたいと思う。まずは下記より作品をご覧いただきたい。

美しい4K120fpsに感銘

α7S IIIの一番大きなスペックの特長は、35mmフルサイズセンサーを活かした4K120fpsの撮影ができるということだ。作品ではその撮影のほとんどを4K120fpsで行った。実際はフルサイズセンサーの約10%がクロップされてしまうのだが、素晴らしい表現力を持っていると感じた。従来であれば、ミラーレス機のハイスピード撮影というのはHDにダウンサイズしなければいけなかったりするのだが、しっかりと4K画質で120fpsを捉えられるとなると作品のクオリティに直結する。

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2020/08/DG_vol31_04_small.jpg 動画からの切り抜き。4K120fpsであっても、その美しさは変わらない
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今回のプロジェクトは24pのタイムラインを使用したため、素材は最大で5倍のスローモーションで使うことができる。まず驚いたのは4K120fpsの画質が非常に綺麗であるということだ。4Kならではの解像感はもちろんのこと、肌の質感や髪の毛のディティール、ハイライトのロールオフなど、ハイエンドシネマカメラのハイスピード映像を見ているかと思わせるほどだ。特に女性の表情や、エモーショナルな描写を演出する中で、収録される画の力は圧倒的である。ミラーレス機で撮影したとは思えないクオリティだ。

そして驚きの高感度。ISO16000で撮影

今回のプロジェクトはアイルランド民謡の「Siúil A Rún」をテーマにした。戦場に向かう愛する人との別れを歌った曲だ。気丈に振る舞う女性の姿の裏にある、悲しく、美しいストーリである。4Kという解像度だけでなく120fpsという時間をミラーレス機で演出できるのは夢のようである。

またテーマに合わせるために暗所での撮影を多く設けていた中で、撮影はISO1600をメインに行った。ポストプロダクションでデノイズの作業などは一切なく、さすが最新のα7Sシリーズ、高感度撮影でも圧倒的に高いクオリティを見せてくれた。そして驚きだったのはS-Log3、S-Gamut3.cineのISO16000の撮影だ。私にとっても未知の領域であることに加え、このISO16000の画が常用として使えると言っても誰も信じてはくれないだろう。

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2020/08/DG_vol31_06_small.jpg ISO16000の切り抜き。信じられるだろうか?デノイズはしていない
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ISOを上げていけばノイズレベルがどんどん上がるが、ISO12800に到達した瞬間、一気にノイズレベルが落ちた。シャッタースピードとの関係でさらにISOを上げて16000で撮影したが、現場で確認したISO16000の画が、なんとISO1600とほぼ変わらないことが確認できたので、作品でもあえてISO16000の画を混ぜることにした。ここに切り抜きを付けておくので、デノイズ処理をしていないISO16000の画を見て頂きたい。

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2020/08/DG_vol31_07_small.jpg とにかく高感度。α7Sシリーズの進化は素晴らしい
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なにせ、実際にこのカットを撮影している時、目の前にいるモデルがあまりにも暗くて「本当に撮れているのか?」と心配になるほどであった。おそらく他のカメラであれば、カラーノイズで全く使えない画になるところだが、この暗所での描写能力は新しい可能性を我々に与えてくれると実感した。撮影のスタイル、照明のシステム、あらゆる意味で今までできなかった領域の撮影を可能にしてくれる性能をα7S IIIは持っている。

内部収録で4:2:2 10bit、なんとMP4で記録可能

そして新しいα7S IIIは4:2:2 10bitの収録を内部記録できる。新しい高速メディアであるCFexpress Type Aメモリーカードもα7S IIIに採用されることになった。フルサイズの4K映像を高画質に記録できるとなると、今までのαシリーズではなし得なかった撮影を行えるということになる。従来のαシリーズであれば内部は8bitという制約があったが、4:2:2 10bitとなればもはや外部収録の必要性はなくなるだろう。

またLog撮影も積極的に行って、15Stop以上はあるといわれるS-Log3のカメラの性能を最大限に活かしたワークフローを組むことができる。今回の撮影でもS-Log3のガンマでS-Gmaut3.cineの色域の撮影を行い、ポストでシネマルックのカラーグレーディングを行った。驚きなのは、MP4の形式で4:2:2 10bitの素材を記録できることだ。おかげでAdobe Premiere Proで驚くほど軽快に4K120fpsの画を編集できる。

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https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2020/08/DG_vol31_09_small.jpg カラーグレーディングの様子。諧調破綻が起きないので、面白いように編集が進む
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しかもカラーグレーディングをする中で、諧調の破綻もおこることなく面白いように作業を進めることができ、ミラーレス機で撮影した素材とは全く思えないほどのクオリティであった。見た目はαシリーズそのものの、いつもと同じ筐体なのだが、中身は全く別物の脅威のカメラである。

次世代のAFワークフロー。確実で正確なフォローフォーカス

そして更にα7S IIIの新しい性能に驚かされた。それがオートフォーカスだ。αシリーズはその代を重ねる度にAFの機能を進化させてきている。顔検出だけでなく、瞳AFも大きな特長だ。そしてα7S IIIはファストハイブリッドAFという更に優れたAF性能を実装している。今回の撮影では、ほとんどのカットがAFによるフォーカシングだ。

正直信じられないほどの精度でグイグイとフォーカスが合う。そしてなんとフォーカスを合わせたいところに、背面液晶をタッチすればいい。4Kであっても、その合焦性能はばっちりだ。カメラマンはフォーカスリングを触るのではなく、フォーカスを合わせたいところに指でタッチするだけだ。

タブレットでタッチフォーカス。リモートでフォローフォーカスが軽快に行える。信じられない

さらにタブレットに入れた専用のアプリ「Imaging Edge Mobile」を使えば、リモートでライブビューができるだけでなく、様々なカメラコントロールができるのだが、なんとライブビューの画面でタッチフォーカスができるのだ。カメラマンはカメラワークに集中して、ディレクターがRECを開始し、フォーカスをリモートで行うことができる。多少のレイテンシーはあるものの、慣れれば操作も実に簡単だ。これからはタッチフォーカスの時代がやってくる―あまりにも直感的で簡単、そして正確なフォーカシングは誰もが望んでいた、正に次世代の形であると感じる。

フルサイズで単焦点。これ以上ない極上のシステム

α7S IIIでしか捉えられない世界がある。そう実感した撮影であった

ちなみに撮影では単焦点レンズを積極的に使って、AF性能に頼って、迷うことなく絞りは開放で攻めていった。フルサイズの美しいボケ味を作品に活かすことで、立体的な4K120fpsの世界を演出するのが狙いだ。24mm、35mm、50mm、85mmに加えて、135mmのEマウントの単焦点レンズを使った。特にFE 135mm F1.8 GMの描写力は素晴らしく、ボケ味や空気感など、シネマレンズを彷彿とさせる描写力を持っている。

とにかくどのレンズであってもフルサイズの単焦点が紡ぎだす様々な世界は非日常で、どれも息を飲む美しさがある。これが4K120fpsという解像度によって新しい表現をα7S IIIで作り出すことができる。これは様々なハイエンドのシネマカメラでもなし得ないことだ。もはやこのカメラでないと映すことのできないものがあると感じる。

クリエイティブにさらなる可能性を

懸念である熱問題は全くなかった。終日の撮影でトラブルは一つもなく、4K120fps撮影を断続的、外部給電も使用しながらとはなるものの、計5時間以上の撮影を続けることができた。光学の5軸ボディ内手ブレ補正も頼もしかった。ミラーレスならではの少人数での効率的な撮影が行える。そして正確で確実なワークフローは撮影のスピードを一気に上げてくれる。

今回の撮影では、ほとんどのカットが一発でOKになるため、驚くスピードで収録が進み、クリエイションに集中できる環境が一気に整った。クルーも少ない、機材も軽い、システムもシンプル、それでいてハイエンドの映像を手にできるとなれば「次は何に挑戦しよう」というマインドが自然に現場で生まれるのだ。2台のα7S IIIで撮影を進めたのだが、どの素材も美しく、予定より遥かにクオリティの高い粒ぞろいのものが揃った。

一方で無駄な「失敗カット」が全くないので編集に迷いが生じないのも素晴らしい。ポストプロダクションの作業のスピードも速く、今回の編集は実質1日で終了した。デノイズや破綻の修正などもないので、「思った通りのことが、思ったように進む」という理想のワークフローが撮影時から立てられる。クリエイティブが加速する一台、ぜひ皆さんも体験してほしい。

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。