JR大阪駅でのインプレッション計測実証実験

txt:江口靖二 構成:編集部

コロナ以降のデジタルサイネージ

デジタルサイネージはアウトオフホームメディア(OOH)である。しかしコロナ以降は、ステイホームが求められている。少なくとも日本においては、幸いここまでは危機的な状況とはいえず、ある程度の通勤や通学、そのほかの経済活動をギリギリ動かせる状況ではあるが、いうまでもなく従来とは全く異なる社会環境になっている。

デジタルサイネージは家以外の場所におけるメディアであるが、できるだけ家にいた方がいいという現在の状況は、デジタルサイネージにとっては致命的ともいえる。こうした状況下において、デジタルサイネージにできること、やらなければいけないことを考えてみる。

問われる交通広告の媒体価値

デジタルサイネージに利用シーンには、広告、販促、インフォメーション、アンビエント&エンターテインメントといったものがある。この中で広告、すなわち屋外広告においては、前述のように外にいる人が減っていることは確実だ。9月3日に出されたJR東日本のニュースリリースによって、交通広告業界に激震が走った。

その「ダイヤ改正における終電時刻の繰り上げなどについて」によると、終電の繰り上げや始発の繰り下げなどが2021年の春のダイヤ改正で予定されているというのだ。問題はダイヤ改正による終電繰り下げなどの根拠として提示されたデータである。

JR東日本「ダイヤ改正における終電時刻の繰り上げなどについて」より

昨年と比較してこの8月の利用状況は、山手線の場合、終日で38%減、朝のピーク時間帯は36%減、最も乗客が多い時間帯で42%減、終電付近は66%減という大幅な減少となっている。この傾向は山手線に限ったことではない。さらにデータこそ公開されていないが、私鉄や地下鉄の状況を見ても、この傾向は変わらないだろうと容易に想像できる。

これまでの交通広告は乗降客数をその媒体価値として位置づけているので、これでは38%媒体価値が減少しているではないか、という論が当然出てくる。出稿量はもちろん、金額交渉に持ち込まれてしまう可能性もある。

筆者が9月1週の首都圏のいくつかの鉄道会社の電車内のデジタルサイネージの出稿状況を実際に乗車して見たのだが、8月よりは改善してはいるものの、自社広告や、おそらく長期的な契約に基づいた出稿のように思われるものも多く、新規のものは少ない。今後のコロナの動向次第ではあるが、テレワークやオンラインの授業などが急速に普及したことで、従来のような乗客数がそう簡単に戻るとは考えにくい。

では交通広告はこれからどうするべきなのか。これは媒体価値を別の視点から再定義することしかないと思う。具体的には日本以外で急速に常識化している、よりリアルなメディア接触状況を可視化することである。そのためには携帯電話などの稼働状況からその場にいる人をより詳しく正確に捕捉をしたり、カメラやセンサーなどで駅や車内の状況を計測すること、あるいはインプレッションベースの広告媒体化することだ。

こうした新たな定義の模索は水面下というか、すでに着実に進行しつつある。JR西日本コミュニケーションズとLIVE BOARDは、デジタルサイネージのインプレッション計測の実証実験を開始している。大阪駅2カ所(大阪駅NGB1階東西通路セット、J・ADビジョンWEST大阪駅御堂筋口セット)の計72面で6月から実施している。またビズライト・テクノロジーが運用しているダイナミックビークルスクリーンは、埼玉高速鉄道内の電車内サイネージで同様のサービスを開始している。

インプレッションベースの広告配信はインターネットの世界では当たり前のことである。OOHにおいても様々なテクノロジーを利用することで、従来よりも遥かに精緻なデータ取得やインプレッション計測がすでに可能なのである。(一社)デジタルサイネージコンソーシアムでは、デジタルサイネージの新しい指標のあり方について、「OOHオーディエンス・メジャメント標準化検討ワーキンググループ」において昨年から検討を開始しており、年内を目処に一旦取りまとめを行う予定である。

3密回避にデジタルサイネージ

広告以外でも、やはりテクノロジーを駆使すれば、デジタルサイネージには追い風が吹いている。カメラやセンサーを設置することで、そのロケーションの混雑状況を把握し、デジタルサイネージやスマホでそれを可視化することだ。

VACANの提供している混雑状況の可視化サービスは商業施設などへの導入が進んでいる。同時にサーマルカメラなどを利用した体温の計測(正確には体表面温度)も、多くの場所で普通に行われるようになっている。感染拡大を抑えながら密を回避するというのは、社会的にも強く求められている。

3密回避は、前述のデジタルサイネージの利用としてはインフォメーションの一つといえる。ある時点の混雑状況をリアルタイム、またはそれに近いタイミングで可視化することは有益な情報提供で、もう一つのデジタルサイネージのトレンドであるダイナミックデジタルサイネージ、すなわち動的にコンテンツを変化させることによる新たな価値の提供とも合致する。

WRITER PROFILE

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。