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txt:VISIONGRAPH Inc. 構成:編集部

音楽フェスティバルがオンライン化

2020年、世界中の音楽フェスティバルのほとんどが中止となり、オンライン開催という手段を模索していく中で、それぞれが異なるアプローチで様々な挑戦を行いました。初めは手探りの状態でしたが、次第にコロナ禍の状況に適応した完成度の高いオンラインフェスティバルが開催されるようになりました。そんな状況下で、未来のエンタメの可能性を感じさせる事例が次々と生まれています。今回はそれらの挑戦を振り返ってご紹介したいと思います。

3月:既存のプラットフォームの活用|開催直前に中止となったSXSW

3月に行われる予定だったSXSWの中止が発表されたのは、開催のおよそ1週間前でした。そのため同日程でのオンライン化への切り替えではなく、4月頃から徐々に、予定されていたプログラムの一部をオンラインコンテンツとして発信していく形が取られました。

音楽部門では、出演アーティストのライブ動画を集めたプレイリストを作り、YouTube上で公開。現在264本もの動画がプレイリストに含まれており、このために新たにライブ映像やコメントの動画を公開したアーティストもいます。このように初期のオンライン化の事例は、既存のプラットフォームを活用しての発信が多く見られました。

6月:バーチャル体験の模索|VRで参加できるバーチャルダンスフロアを作り上げたGlastonbury Festival

6月末にイギリスで開催される予定だったGlastonbury Festivalは、3月中旬頃に開催中止を発表しました。Glastonburyは例年BBCによるライブ中継を行っており、今年はオンライン化の試みとして、それらの映像のアーカイブを様々なメディアで公開しています。また、異なる趣のステージが混在するGlastonburyらしく、ステージ毎にそれぞれのファンコミュニティに向けた独自の企画も行われました。

注目すべきは、Shangli-raと呼ばれるエリアが実施した、SansarというVRプラットフォームを使用したオンラインイベント。主催者側はFatboy SlimやCarl Cox等の有名DJがプレイするバーチャルクラブという場所を提供し、参加者はそれぞれ好きなアバターで参加します。ステージでは実在するDJがプレイしながらも、フロアでは架空のキャラクターたちが躍るという、リアルとバーチャルが融合した不思議な空間が作り上げられました。

7月:オンラインならではの表現|現実を超える映像演出で魅了したTomorrowland

ベルギーで開催されるEDMの音楽フェスティバルTomorrowlandは、「Tomorrowland Around the World」と題したオンラインイベントを7月25日と26日の2日間で開催しました。Tomorrowlandの特徴といえば、ファンタジーの世界に迷い込んだかのような豪華で煌びやかなステージデザインですが、オンラインイベントではその特徴がさらに強調され、壮大な8つのバーチャルステージが用意されました。

ジャングルの中の遺跡のようなステージ、宇宙船の内部のようなステージ、何十万もの観客が集まる巨大なメインステージで行われるフェスティバルの映像は、現実を超えたオンラインならではの豪華な体験と言えるでしょう。有名DJや歌手のKaty Perryが出演したパフォーマンスは、グリーンバックのスタジオで事前収録されたもので、バーチャルステージとの合成映像として配信されました。配信チケットを購入する必要のある有料のコンテンツながら、世界中で計100万人以上が視聴したと言われています。

8月:新ビジネスモデルへの挑戦|投げ銭による支援を集めたFuji Rock Festival

8月に開催予定だったFuji Rock Festivalは、同日程で3日間のオンラインイベントを行いました。過去のFUJI ROCK FESTIVALのライブ映像をYouTubeのライブ配信で限定公開するというもので、解散してしまった伝説的なバンドの映像も公開される事で話題となり、最大で約8万人が同時視聴しました。

特徴的だったのは、スーパーチャット機能を使用した視聴者からの投げ銭が活発に行われた点です。配信自体は誰でも視聴可能な無料配信でしたが、ライブ配信で多くの人が同時に見ているという環境を作り出す事で、投げ銭がフェスへのひとつの参加方法として盛り上がったようです。最終的には3日間の配信で600万円近い投げ銭が集まり、国境なき医師団による新型コロナウイルス対策の募金と、日本の音楽業界関係者への支援事業“Music Cross Aid”へと寄付されました。

YouTube上で無料で提供されるコンテンツにも対価を支払うという意識の変化と、それを可能とするプラットフォーム側の進化が、このコロナ禍で加速したように思います。それぞれのフェスティバルやアーティストが持つライブ映像の記録にも、コンテンツとしての高い価値があると気付かされた試みでした。

9月:オーディエンス参加型へ|自ら作り上げるバーチャルフェスティバルBurningman

Burningmanはアメリカ・ネバダ州の砂漠で行われる大規模なお祭りです。その他の音楽フェスとは異なり、有名アーティストがライブをするステージは無く、参加者がそれぞれ多様な自己表現を行う事で、一つの巨大な街を作り上げます。オンラインで開催された今年のBurningmanも、バーチャル空間に集まった参加者が、アート作品やDJ配信等でそれぞれのコンテンツを提供し合うというものでした。

“Multiverse”というテーマのもと、複数のバーチャル空間で異なる企画が同時に展開されており、現実とは異なる別の世界でも参加者の手によって巨大な街が形成されていきました。オンライン化により、誰もがアーティストとして自己表現を行うという、Burningmanの理念により近づいたと言えるかもしれません。

まとめ

今年は多くのフェスティバルが中止となり、代替となるオンラインイベントが開催されましたが、その規模や視聴者の参加方法はそれぞれ異なるものでした。3月の時点では手探り状態で始まったものが、次第にオンラインというフォーマットに合わせた形で進化していき、それぞれがテクノロジーとエンターテインメントとの新たな可能性を示唆している非常に面白い事例になっています。

まだ来年のフェスティバルシーズンがどうなるかはわかりませんが、これまでのような規模でのリアルイベントの開催はしばらく難しいと思われます。一方で、このようなオンライン化の流れは、行ってみたかった海外のフェスティバルを日本にいながら体験するチャンスと言えるかもしれません。コロナ禍によって生まれたオンラインフェスティバルという新たな可能性が、来年に向けてさらにどのような進化を遂げるのか今後も注目です。

VISIONGRAPH Inc.のnoteでは、歴代のSXSWに関してのレポートをmagazine形式でまとめて公開中です。ぜひそちらもご覧ください。

WRITER PROFILE

VISIONGRAPH Inc. / 未来予報株式会社

イノベーションリサーチとコンセプトデザインが強みの未来像をつくる専門会社。SXSW Japan Officeとしても活動中。