取材&写真:鍋 潤太郎 構成:編集部

はじめに

締め切りに追われながら慌ただしくスケジュールをこなしていたら、本当にあっという間に1年が終わってしまい、新年の幕開けである。今回は2020年のハリウッドVFX業界を筆者の視点で振り返り、心に思い浮かぶよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ってみたいとおもふ。

コービーの急逝

LA市内で見掛けた、アーティストが壁に描いたコービー・ブライアントの追悼画

2020年初頭の衝撃的な出来事と言えば、1月26日に元NBA選手のコービー・ブライアント(以降:コービー)が、ヘリの墜落事故で亡くなったニュースが思い出される。実は1月25日の夜、友人とLA市内を車で運転中、あまりにも濃い霧に驚き、「事故を起こさないように、注意して運転しないと危ないね」と話していたのを覚えている。事故は、その翌朝の出来事だった。

コービーには、アニメーションにゆかりのあるエピソードがある。筆者が、たまたま2017年の本欄でレポートさせて頂いたコラムが、それであった。2017年夏にハリウッドボウルで開催されたジョン・ウィリアムスのコンサート。この時、5分間の短編アニメーション「Dear Basketball」が上映された。

これは、コービーがNBAの2015~2016シーズンを最後に引退した際に発表した「Dear Basketball」(親愛なるバスケットボールへ)というポエムをベースに、「リトル・マーメイド」のアリエルをデザインしたことでも知られる元ディズニーのベテランアニメーターであるグレン・キーンがドローイング&アニメーションを描き、コービーと個人的に親交のあったジョン・ウィリアムズが作曲を担当したアニメーション作品である。

LAフィルによるオーケストラの演奏をバックに「Dear Basketball」が上映され、しかもコービー本人がライブでナレーションを担当。この「プレミア上映」の場に居合わせる事ができたのは、貴重な体験であった。この作品は、2018年3月に開催された第90回アカデミー賞で、短編アニメーション賞を受賞した。コービーのご冥福を、改めてお祈りしたい。

コロナに翻弄された1年

その直後に起こったのが、新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックである。言うまでもなく、2020年はコロナに翻弄された1年間であった。

休止中で静まり返った大手シネコン。大スクリーンで映画が観れる日が戻ってくるのを願うばかりである
ビバリーヒルズにあるアート系映画館。2020年6月撮影

コロナで休止中の、ビバリーヒルズにあるアート系映画館。通常であれば上映中の映画作品名が掲示されるパネルには、「お互いを思いやる気持ちを大切に」の文字(バイリンガルの友人によれば、これは「自分のためだけではなく、相手のためにもソーシャルディスタンスを守り、マスクを付けようね」といったメッセージも隠されている気がします」という事だそう)。また、ジョージ・フロイド氏追悼の文字も見える。左側のショーウィンドウに貼られた板は、抗議デモの一部参加者による破損行為を防ぐためのもの。現在は既に撤去されている。

本欄でも、ハリウッドが受けた影響について、3回に分けてレポートさせて頂いた。

病院近くのバス停にあった広告。ミニオンが、医療関係者の皆様に感謝。2020年6月撮影

ここLAでは、コロナの影響によって閉鎖したVFX関連のスタジオがあった。DNEGのTV市場を対象としたVFX制作部門である、ロサンゼルスのDNEG TV L.A.が2020年4月初頭に閉鎖された。DNEG TV L.A.は2016年8月にテレビ番組向けのVFXを制作する拠点として、ロサンゼルスのバーバンクにオープン。

これまでに、ここで制作されたVFX作品には、CBS All AccessやHBO、Apple TV+等の作品が含まれる。これらは高い評価が得られていたものの、新型コロナウイルスの影響による撮影スケジュールの混乱、および新しい作品のプロジェクト延期等の影響により大きな打撃を受け、閉鎖が決定されたという。今後、DNEGにおけるテレビのVFX制作業務はロンドン本社、そしてカナダとインドで継続するという。

また米メディアの報道によると、2019年4月の本欄でご紹介したインテル・スタジオも2020年11月にひっそりと閉鎖されていた事がわかった。ここは大人数を1度にボリューメトリック・キャプチャーする事が可能な、直径32メートルのステージという大規模な施設が売りであったが、コロナの影響によって大勢の俳優やクルーを集めてのボリューメトリック・キャプチャー収録ができず、カリフォルニア州での感染拡大により終息のメドが立たない事などから、閉鎖の運びとなったそうだ。

インテル・スタジオでは、パラマウント・スタジオとのコラボによる「Grease XR」や、韓国の男性アイドルグループNCT 127の「Superhuman AR」等の斬新なプロジェクトを生み出してきただけに、残念である。

LA市内の大手シネコンにて。2020年11月→2021年5月に全米公開日が延期となった映画「ブラック・ウィドウ」のオリジナル・ポスターがまだ残っていた。「11月公開」の文字が見える

リモートワークの加速

2020年は、VFX業界に限らず、世界的にリモートワークが加速した1年でもあった。このリモートワークによって、VFX業界の「働き方」が変わってきているのを筆者も実感している。まず、通勤の必要が無くなった事。LAの筆者の場合、片道30~40分、事故渋滞等の道路の混雑状況によっては1時間余りを費やしてきた通勤の運転がなくなり、浮いた時間を有意義に使えるようになった。

最も分業制が進むハリウッドのVFX現場は、各建物やフロアに別れ、別の地域にある支社との社内チャットや内線電話、そして時折Skypeミーティング、Zoom会議等を以前から行ってきたカルチャーがある。その関係で、コロナ禍でリモートワークにシフトしても意外と大きな影響もなく、スムーズに移行ができたようだ。「このままコロナが終息しても、自宅勤務か出勤か、自由に選べるようになると良いねぇ」という声が現場から聞こえてくるほどだ。

また、オンライン会議中に、横にワンコが登場したり、ベイビーがゲスト出演したりするのも、またご愛嬌である。リモートワークの難点としては、自分のマシンがフリーズした時にリセットボタンを押せなかったり、IT担当に連絡してもなかなかすぐには対応してもらえなかったりなどがある。また、アパートのインターネットがダウンしてしまい、一時的に作業に入れないアーティストもいた。

また、オフィスで作業をしていた時は、休憩がてらキッチンにコーヒーを入れに行き、途中でコンポジターのデスクに立ち寄って自分のショットのレイヤーについて相談したり、画面を見ながらアイデアを出しあったり、という"顔と顔を突き合わせて"の作業も仕事の楽しみの1つだったが、それができないのは少々寂しい。

リモートワークの興味深い可能性として感じられるのは、「どこにいても仕事ができる」という利点だろうか。例えば、筆者が現在LAで参加している映画プロジェクトでは、毎朝10時からチームでZoom会議があるが、うちのチームは

  • ある人はカナダのモントリオール在住(LAとの時差が3時間で午後13時)
  • ある人はスペインに長期滞在中(向こうは夕方19時でこれから夕食らしい)
  • ある人はカナダのバンクーバー在住(タイムゾーンは同じだか、距離は2,057キロ程離れている)
  • 残り数人が、地元LA

といった顔ぶれで、文字通り「世界各地からのリモートワーク」の多国籍軍である(笑)。これは、リモートになる前はあり得ないというか、不可能なワークスタイルだったかもしれない。みんな世界中にいるのに、オンライン会議での画質も音声もクリアで、距離は全く感じない。逆に、地元LAの同僚に限って、時々映像や音声が途切れてしまったりするのが不思議である(笑)。

今後、リモートワークの浸透によって、もしかしたら日本に居ながら海外のVFXスタジオで「勤務」する事例などが増えてくるのかもしれない。

ただ、カナダのバンクーバーやモントリオールのように、TAXクレジット(ハリウッド産業に対する税優遇と補助金制度)主導でプロジェクトを受注している地域では、カナダ各州の現行法では「現地に居住(=カナダの州で所得税を納めている)でないとTAXクレジットの対象にならない」ため、外国人によるカナダ国外からのリモートワークはオフィシャルには認められていないらしい。カナダのBC州、ケベック州の法律が変わればもう少し幅が広がるのだが、この辺りは今後に期待である。

2021年はどんな1年になるのか

LAの市内を車で走っていると、大きなビルボードが目に入ってくる。そんなビルボードや広告を見ていると、最近の映像マーケットの動向が伝わってくる。

HBOの「ウォッチメン」のビルボード。LA市内にて

以前であれば、新作映画の広告が中心だったのが、コロナ禍に入ってからは、動画配信系の広告やTVネットワークの広告、そしてゲーム系の広告が大半を占めるようになった。

ゲーム「サイバーパンク2077」のバス停の広告。ビバリーヒルズにて

VFX業界も昨年はコロナによって多大な影響を受けたが、これらのプロジェクトに加え、映画作品も少しづつ動き始めている。こういったプロジェクトの恩恵を受けつつ忙しくしているスタジオもあり、今年のVFX業界は苦境を乗り切っていく事を期待したい。

コロナの影響によって、VFXスタジオは各社とも海外からの人材採用を控える傾向が続いていたが、前述のようなリモートワークの浸透によって、よりワールドワイドに仕事ができる可能性が広がる事を期待したいものだ。

最後に、筆者は「ハリウッドVFX業界就職の手引き」という電子書籍を毎年、発刊している。この程発売された新しい2021年度版では、将来海外のVFX業界を目指すにあたり、コロナ禍の間に準備しておく事、デモリールの構成方法、スカイプやZoom面接の対策、そしてジョー・バイデン政権への移行によるアメリカ就労ビザの動向、カナダの就労ビザ最新動向などをご紹介している。コロナ終息後に海外の映像業界を目指してみたいという皆様の、良きご参考となれば幸いである。

それでは皆様、本年もどうかよろしくお願いいたします。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。