今年もこのシーズンがやってきた
取材&写真:鍋 潤太郎 構成:編集部

はじめに

2月のハリウッドと言えば、例年であれば映画のアワードシーズンの最盛期である。しかし、今年は新型コロナウイルスの影響によりスケジュールが2ヶ月ほど後ろ倒しになり、各賞はコロナ禍に対応した様々なルール変更などの対応に追われている。

今月は、今年のアワード(授賞式)シーズンの動向について、筆者独自の"VFX寄り"の独断と偏見に満ちた視点から、ご紹介してみたいと思う。

コロナの影響で開催スケジュールが後ろ倒しに

今年は、コロナの影響もあって第93回アカデミー賞授賞式の日程は、当初の開催予定日だった2月28日から4月25日へと変更された。ちなみに、アカデミー賞の93年間の歴史の中で、何等かの理由により開催日が変更になった事例は、今回が4度目だそう。

さて、ハリウッドの各映画賞受賞式の開催スケジュールは、「アカデミー賞授賞式が、最後のトリとなるよう」日程が調整される。今回のこの変更を受け、

第78回ゴールデングローブ賞 2月28日
第19回VESアワード授賞式 4月6日

等が、例年より2ケ月ほど遅めの開催スケジュールに設定された。

2020年1月末の第18回VESアワード授賞式にて。カリフォルニア州全域に対して自宅待機命令が出される2か月程前であった。1日も早くコロナが収束し、業界関係者が一堂に会しての授賞式が開催される日が戻って来るのを願うばかりである

アカデミー賞の審査ルールが一時的に変更

アカデミー賞のノミネートの対象作品となるには、ロサンゼルス市内の映画館で1週間以上公開された作品に限定されていたが、肝心の映画館が閉鎖状態のため、ルールが暫定的に緩和されている。

劇場での公開がストリーミング公開に切り替わった作品など、物理的に映画館で公開されていなくてもノミネート作品の対象となる。また、ノミネート候補に挙がった映画作品は、AMPAS(米国映画芸術科学アカデミー)のオンライン・スクリーニング・サービスにアップロードされ、アカデミー会員は自宅で候補作品の視聴を行い、審査を行うという。

2020年の第92回アカデミー賞授賞式の前日準備風景の一コマ。授賞式当日は、ドレスやタキシードに身を包んだセレブ達が、カメラに向かって笑顔を振りまく

スクリーナーDVDは今年が最後?

このように、アカデミー賞の審査方法が今年から独自のスクリーニング・プラットフォームへ移行するため、今年は「スクリーナーDVDが許可される最後の年」になるかもしれないという。

通常、アカデミーやVES等の各映画ギルドの会員には、11月頃から映画の「スクリーナーDVD」が届き始める。これは各映画スタジオの「アワード・オフィス」から届く無料のDVDで、中にはまだDVDが発売されていない作品も含まれる。VESの会員になっていると、毎年結構な枚数のDVDが届くため、お得感がある。

これがなくなってしまうとなると少々寂しいが、ストリーミングサービスの扱いに不慣れな年齢層の会員の方も大勢おられるので、DVDプレイヤーに差し込めばいつでも再生出来るお手軽なスクリーナーDVDも、しばらくは残るのでは…というのが筆者の個人的な推測である。

現時点で筆者の手元に届いているスクリーナーDVD。例年よりは少な目である。9枚中5枚がAmazon Studiosの作品で、同スタジオのアワードに対する意気込みが感じられる

このためか、はたまたコロナの影響か、今年は筆者の手元に届くスクリーナーDVDが例年よりは少ないように感じる。その代わり、各映画スタジオのアワードオフィスから、Amazon Prime Video、Disney+、Hulu、HBO Max、Netflix、そしてCBS All Access等の動画配信サービスの無料視聴のアクセスコードがメールで送られてくるようになった。メールを開くと、そこには007の暗号電文のようなアクセスコードが書かれている(笑)。このように、審査方法にも時代の流れが感じられる。

アカデミー賞のVFX部門は選考基準が独特?

2020年の第92回アカデミー賞授賞式の前日準備風景の一コマから。到着するセレブへのインタビューのカメラ・リハーサル中。どうしてもスタッフさんや撮影クルーに目が行ってしまうのは、職業病だろうか

さて。これは、「興味深いので、いつか機会があれば記事の中で振れてみたい」と前々から考えていた事なのだが、今回は良い機会なので、言及してみたいと思う。

みなさんも既にご存知かもしれないが、アカデミー賞のVFX部門(視覚効果賞)の受賞作品の審査基準は、独特である。

アカデミー賞のVFX部門では、我々VFX屋が大興奮するような大作や、「これでもか」と言わんばかりのエフェクト・ヘビーな作品、そして「やってくれたぜ♪」とマニア魂をくすぐるようなコアな作品は、"ほぼ"選ばれないように思う。

これは、過去5年間のアカデミー賞視覚効果賞と、VESアワードの最優秀視覚効果賞[実写映画部門]の受賞作品をそれぞれ比較してみると、その違いが見てとれる。

■アカデミー賞/視覚効果賞
第92回(2020)「1917
第91回(2019)「ファースト・マン
第90回(2018)「ブレードランナー2049
第89回(2017)「ジャングル・ブック
第88回(2016)「エクス・マキナ

■VESアワード/最優秀視覚効果賞[実写映画部門]
第18回(2020)「ライオン・キング
第17回(2019)「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー
第16回(2018)「猿の惑星:聖戦記
第15回(2017)「ジャングル・ブック
第14回(2016)「スター・ウォーズ/フォースの覚醒

ご覧のように、2017年では珍しく「ジャングル・ブック」が被っているものの、アカデミー賞会員の着目点の行き所が、VESアワードとは根本的に"全く異なっている"事がわかる。

いわゆるVFX大作は、完全に見向きもされていない。特に、2016年受賞作品の傾向の違いにいたっては、驚嘆に値するものがある(爆笑)。

アカデミー賞のVFX部門の会員は、視覚効果がVFX(Visual Effects)と呼ばれるようになったデジタル革命の以前から、オプチカル・プリンターによるフィルム合成によってSFX(Special Effects)を仕上げてきた世代層の方々も多い。そのためか、最先端のデジタル・テクノロジーを駆使した映像、難易度が異様に高い力技のVFXよりも、

「映画のストーリーテリングを手助けするという側面で、効果的だった作品」

が選ばれる傾向があるように思う。また、「ヒットした」or「ヒットしなかった」も、ほぼ無関係のようだ。

あくまで「映画の作り手」からの目線として、映画の中で、"ストーリーに説得力を持たせるために、丁寧に作られた視覚効果"がアカデミー賞では評価されている。その意味では、映画スタッフとしての愛情が感じられる評価姿勢と言えるのではないだろうか。

この辺りの、アワード毎の審査基準の違いは、なかなか興味深いものがあると言える。

2020年の第92回アカデミー賞授賞式の前日準備風景の一コマから。授賞式当日は、このレッドカーペットの上をハリウッド・スター達が歩いて、ドルビー・シアターへと入っていく

今年のVFX部門の有力候補は?

LA市内で見掛けた「ワンダーウーマン 1984」の巨大なビルボード。宣伝にも力が入っている事を伺わせる

ハリウッドの各メディアはそれぞれの視点から、今年のアカデミー賞VFX部門のノミネート作品の予測を立てているようだ。これらの報道を見ていると、今年のノミネート作品の有力候補と見られているのは、

  • TENET テネット」(ワーナーブラザーズ)
  • 「ミッドナイト・スカイ」(Netflix)
  • 透明人間」(ユニバーサル・ピクチャーズ)
  • グレイハウンド」(Apple TV Plus)
  • 「Mank/マンク」(Netflix)
  • ムーラン」(ディズニープラス)
  • 「この茫漠たる荒野で」(ユニバーサル・ピクチャーズ)
  • 「ソニック・ザ・ムービー」(パラマウントピクチャーズ)
  • 「ワンダーウーマン 1984」(HBO MaxWarner Bros.)
  • 魔女がいっぱい」(HBO Max/ワーナーブラザース)

等がリストとして挙がっているようだ。実のところ、筆者もまだ未見の作品も多い。

この、ノミネート候補作品のハイライトVFXを一度に観れる機会が、「ベイクオフ」(BAKE-OFF)である。アカデミー賞を主催する米国映画芸術科学アカデミーは、ノミネート作品を選定する為の試写会「ベイクオフ」を毎年開催している。

筆者は毎年、この模様を本欄でレポートさせて頂いているが、今年のベイクオフはアカデミー会員限定でバーチャルで開催される可能性が大である。現在アカデミーのPRに問い合わせている最中であるが、もし筆者も視聴出来るようであれば、また是非レポートさせて頂く予定である。

「ソニック・ザ・ムービー」のノミネートなるか?(2020年1月末、LAのシネコンにて

終わりに

この原稿を書いている1月末の時点でのアカデミー賞VFX部門は、まだこれからノミネート候補作品が決定される段階である。しかしながら、部門によっては、もう既に発表が始まっているカテゴリーもある。

その中の1つ、長編アニメーション部門のノミネート候補作品リストが1月28日発表されたが、その候補の中には「Demon Slayer -Kimetsu No Yaiba- The Movie: Mugen Train(「鬼滅の刃」)」も含まれており、ノミネートされる事を期待したいものである。

本欄では引き続き、今年のハリウッドのアワード関連の話題を、VFX目線からレポートさせて頂く予定である。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。