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txt:渡辺健一 構成:編集部

タイムコードシンクロによる編集は、テレビスタジオなどでの複数カメラ撮影(マルチカメラ撮影)のためのものと思っている人が多いようだが、実は映像と音をセパレートで収録する現場全てで、その真価を発揮する。YouTubeのような小さな作品から映画のような数万ファイルに及ぶ大規模な作品でも、圧倒的な編集効率アップが図れ、作品の質を向上できるのがタイムコードシンクロだ。今回は、タイムコードシンクロの基本を解説したい。

タイムコードシンクロってなんだ?

音声レコーダーF6。一番下の白い数値がタイムコード。カメラと同期している場合には、カメラにも同じ数値が記録される

タイムコードという言葉はご存知だと思う。タイムラインの位置表示をしている「00:00:00;00」という数字のことだ。左から「時:分:秒;フレーム」を表している。

秒とフレームの間が「;」の場合と「:」の場合があるが、「;」はDF(ドロップフレーム=実際の時間とタイムコード進行が一致する=うるう秒がある)で、「:」はNDF(ノンドロップフレーム=フレーム数を基準にタイムコードが進行する。実際の時間より間延びする)だ。DFとNDFの使い分けは、テレビ番組やテレビCMを納品するときには細心の注意が必要になるが、一般的な映像ではDFで編集すればいい。

このタイムコードは、複数の撮影機材(カメラと音声レコーダー)に対して、特別な時計を用意して、全ての機器の歩調を合わせることに使える。これをタイムコードシンクロとかタイムコード同期という。テレビ局や大きな映画ではよく使われているもので、端的に言えば、タイムコードシンクロをしている撮影では、編集の手間が驚異的に激減する。これはやってみないとわからないだろう。

もうちょっと簡単に説明しておくと、もっともシンプルなタイムコード同期というのは、音声レコーダーの中にあるタイムコードを生成する時計から信号を出して、他のカメラの内部時計(タイムコード専用)を一致させて撮影を行うものだ。タイムコード入力端子というのは、外部の時計の信号を受け付けて、内部の時計を補正するための入力だ。

一眼レフカメラのように外部からのタイムコード信号を受けつけないタイプのカメラの場合には、カメラの音声入力に音のタイムコードを録音して、編集時に音のタイムコード(LTC)を動画ファイルのタイムコード情報に差し替えたり、編集プロジェクトに置き換えたりする。

そこで、実際のLTCのタイムコードシンクロの流れを解説することにしよう。

タイムコード出力機能がある音声レコーダーさえあれば音声ケーブルだけで同期できる

タイムコード出力(LTCアウト)があるレコーダーなら、音声ケーブルだけでカメラとタイムコードシンクロができる

タイムコードシンクロというのは、実は非常に簡単に行うことができる。ZOOM社のF6F8(n)TASCAM社のDR-701Dなど、レコーダーのタイムコード出力をカメラの音声入力(マイク端子)に繋ぐだけでいい。さらにDR-701DではカメラのHDMI出力を本機に繋ぐことでもタイムコードシンクロができる(この場合はカメラ側でタイムコードの設定を行う)。

一眼レフカメラなどの音声入力に接続するタイムコードシンクロについて、もう少し詳しく書いておこう。まず、プロ用の音声レコーダーにはタイムコードの入出力機能があって、2つの仕様が切り替えられるようになっているものが多い。1つはタイムコード入出力端子のGenlock(放送機材向け)、もう1つは音声タイムコードのLTCだ(一眼レフなどのタイムコード入出力端子のないカメラ向け)。

LTC(音声タイムコード)という音声によるタイムコードの入出力機能は、一眼レフカメラのようなタイムコードシンクロ機能を持たないあらゆるカメラで使えるもので、FAXのような「ピ~ピロピロ」という音声信号を用いる。LTC出力がある音声レコーダーがあれば、カメラはなんでも使えるのが利点で、海外ではかなり使われているが、日本ではそれほど普及していないようだ。

実際の接続方法は非常にシンプルだ。レコーダーからのLTC出力をカメラの音声入力端子に繋ぐだけだ。互いの端子形状に合わせた接続ケーブルが必要になるが、数百円の変換コネクターと音声ケーブルで対応可能だ。次回以降で紹介することになるが、マッチ箱サイズのワイヤレス同期システムを使えば、離れた場所のカメラやマイク(F2-BTなど)を同期させることさえできる。

タイムコードの設定は各種あるが、基本を知れば簡単だ

タイムコードの設定だが、タイムコードを出す側(音声レコーダー)でタイムコードの開始値をどうするか選べる。一般的には、撮影の開始時にタイムコードを00:00:00;00に設定するが、実際の時刻(時計の時刻)に一致させるやり方もある。

また、タイムコードの進行は、RecRun(録音時だけ時刻が進む)とFreeRun(電源を切っていても時計が進む)があり、00:00:00;00でスタートさせてRecRunにしておくと、タイムコードの値が撮影した映像の尺に一致するので、どれだけ撮影できたかが重要な現場ではこれを使うことが多い。この場合DFにすると尺が正確になるが、テレビCMではNDF入稿なので、NDFでの撮影になる。

一方、FreeRunは映画のように台本がしっかりしている現場で用いられることが多い。実際の時刻とタイムコードを一致させられるので、OKカットがどれかを台本などに記録(メモしておく)する場合に、腕時計などで時刻を記入するだけいいので簡単だ。イベントの撮影でも、タイムスケジュール表とタイムコードが一致するので、FreeRunは素材を見つけるのが非常に楽になる。

カメラ側の設定もシンプルだ。単に音声レベルを合わせるだけでいい。実際には音声メーターで-12dB程度になるようにマイクボリュームを上げ下げするだけでいい。オートゲインコントロールにするだけでもいい。また、多くの音声レコーダーのLTC出力はマイクレベルとLineレベルの切り替えができるので、お使いのカメラに応じて選ぶことも可能だ。

業務用カメラのように、音声入力が2つある場合には、片方にLTC、空いている方にカメラマイクをつないで実際の音声を同時に録画しておくことも可能だ。一眼レフカメラのような3.5mmステレオジャック入力の場合には、カメラの設定で外部マイク入力(LTCを接続)と内蔵マイクを同時に使える場合もあるので、詳細はお持ちのカメラで確認していただきたい。

3.5mmステレオジャックで入力して通常の音声がカメラに記録できない場合、音声は音声レコーダーにだけしか記録されないのは言うまでもない。ただ、後述するTentacle Sync Eという無線接続のタイムコード管理ユニットを使うと、カメラの音声入力端子がステレオ2ch入力であれば、ユニットに内蔵されたマイクから現場の音を片チャンネル、もう片チャンネルにLTCを出力してくれるので便利だ。つまり、現場の音声とLTCが同時にカメラに記録される(モノラル入力の場合にはLTCだけ)。

実際の撮影は、単にカメラと音声レコーダーをこれまで通りに録画録音の開始と停止をするだけだ。撮影前にタイムコードの設定をしてしまえば、撮影時には何も考える必要はない。

LTCと編集は非常にシンプルだ

撮影ではタイムコードの開始値とモード(RecRunかFreeRunか)を設定してケーブル接続するだけだ。一方、編集では、タイムコード同期の専用アプリが必要になる。代表的なものはTentacle Sync社(ドイツ)のTentacle Sync Studioだ。販売価格で2万円を超えるのでちょっと手を出しにくいが、導入するメリットは非常に高い。

また、同社のタイムコード生成機器であるTentacle Sync Eというマッチ箱サイズの製品を購入すると、Tentacle Sync Studioが無料で使える。1台3万円弱なので、こちらを購入した方が良い。この辺りは次回の連載の中で解説することにしよう。なお、Blackmagic Design社のDaVinci Resolveにはタイムコード同期機能があるので、別途のアプリは必要ない。

Tentacle Sync EとBluetoothでスマホからタイムコードを管理できるLTC対応のタイムコード生成ユニット(3万円弱)を購入すると同期アプリTentacle Sync Studioを無償で使うことができる。2台1セットの商品がお買い得(2台+アプリで5万円程度)。タイムコード生成ユニットは、使うカメラの台数だけ用意するのが基本だ。

タイムコード同期アプリのTentacle Sync Studioの概要を紹介すると、LTCの記録された動画ファイルとタイムコードの付けられた音声ファイル(音声レコーダーのファイル)をタイムコードに従って並べてくれる。マルチカメラやマルチトラック音声のファイルで、同じタイムコードを持つものはレイヤー重ねて多層化してくれる。

そのようにタイムコードで並べられた多層レイヤー(マルチレイヤー)の動画と音声ファイルは、その階層構造を保ったまま動画編集アプリへ渡すことができる。例えばFinal Cut Pro Xの場合では、3種類の形式の素材が自動生成される。1つは、全てのファイルをタイムコードに従ってレイヤー化したFCP Xのプロジェクト形式で、同時に撮影されている複数のカメラや音声が重なったタイムラインが作られる。

もう1つはマルチカムクリップ形式で、通常のマルチカム撮影の素材をFCP Xに読み込んでマルチカムクリップを作ったのと同じように、映像と音が多層化されたマルチカムクリップがTentacle Sync Studioで生成される。

最後は、映像ファイルに音声ファイルを同期した個別ファイルの生成。映像と音声は別々に種録されているが、Tentacle Sync Studioを通すと、まるでカメラに音声を入れたのと同じように映像とレコーダーからの音が1つのファイル(実際には複合クリップ)になる。

Tentacle Sync Studioの同期に要する時間は一瞬だ

Tentacle Sync Studio。LTC同期を行う専用アプリだ。同社のTentacle Sync E(3万円弱)というマッチ箱サイズの無線タイムコード制御機器を購入すると無償で使えるが、単独で買うと25000円程度

FCP Xなどでマルチカムクリップの生成(音声による同期)をやったことがある人は、結構時間がかかっていたのではないだろうか。特にファイルの尺が長かったり、ファイル数が多い場合にはCPUパワーやHDDの速度にもよるが数分くらいかかることもある。散々待たされた後でエラーで終了ということもある。ファイル数や尺が長い場合、音声による同期を行うと多くのメモリーを使うために、上記のようなトラブルが起こるようだ。

一方、タイムコード同期アプリのTentacle Sync Studioは、映像や音声の並べ替えを行うのに、埋め込まれたタイムコードだけを使うので、動作が非常に早く、エラーが起こることも皆無だ(筆者は経験していない)。例えば10分間の2カメラ1音声の同期の場合、同期するのに1秒かからない。90分の3カメラ1音声の場合でも数秒。同じ程度の映像をFCP Xの音声同期でマルチカムクリップにする場合、Macbook Pro retina 15"(2012mid)の場合には5分ほどかかる。

Tentacle Sync Studio操作はドラッグ&ドロップだけでOK

使い方は非常にシンプルで、編集用HDDなどにコピーした素材ファイル(動画と音声)をTentacle Sync Studioにドラッグ&ドロップするだけで自動的にファイルが解析されて同期される。AVCHDなどのフォルダが多層構造になっている動画形式でも、フォルダごとTentacle Sync Studioにドラッグ&ドロップするだけでいい。自動的に中身を解析して動画を並べてくれる。

複数のカメラの場合でも、基本的には自動的にマルチカムとして認識して多層レイヤー化してくれるし、音声も同じように多層化してくれる。F2-BTを複数台使うような場合には、正しくレイヤー分けができないこともあるが、それは簡単な手作業でレイヤー指定をするだけでマルチカムクリップが出来上がる。

Tentacle Sync StudioからFinal Cut Pro XやPremiere Pro形式でプロジェクトを出力できる。編集アプリ側で素材の読み込みは必要なく、非常に軽い操作が魅力だ

一方、Tentacle Sync Studioで構造解析され同期されたものは、前述のようにFCP XとPremiere Pro形式で出力することができる。FCP Xの場合はTentacle Sync Studioから「XML出力」するだけでFCP Xが起動し、すぐに編集が始められるという便利さだ。Premiere Proの場合には、Premiere側からXMLファイルを読み込むことで、FCP Xと同じようにマルチカムクリップなどが用意される。

その他、Tentacle Sync Studioは、映像ファイルに同期された音声を埋め込んで出力する機能などがあり、非常に柔軟で使いやすいツールと言える。

なお、Tentacle Sync StudioとFCP Xを連携した同期から編集を始めるまでの様子は、YouTubeでその様子を公開しているので、そちらもご参照いただければ幸いだ。

WRITER PROFILE

渡辺健一

渡辺健一

録音技師・テクニカルライター。元週刊誌記者から、現在は映画の録音やMAを生業。撮影や録音技術をわかりやすく解説。近著は「録音ハンドブック(玄光社)」。ペンネームに桜風涼も。