はじめに

4月6日(火)夜、第19回VESアワード授賞式がバーチャルにて開催された。例年であれば、ハリウッドの映画賞にふさわしい華やかな雰囲気の中で開催される授賞式であるが、今年は新型コロナウイルスの影響でバーチャル開催となった。その模様をご紹介させていただく事にしよう。

VESとは

毎年お馴染みの当レポートではあるが、新しい読者の方や、VESそのものをよくご存知でない方のために、VESとは?を簡単に説明しよう。

VESは、アルファベット3文字を「ヴィ・イー・エス」と呼ぶのが正式な呼び名である。これは「Visual Effects Society」(米視覚効果協会)の略で、米監督協会、脚本家協会、俳優協会等と並ぶ、ハリウッドの映画ギルドの1つである。設立は1997年で、会員はハリウッドを中心とする映画、テレビ、アニメーション、ゲーム等のVFX制作に従事する世界中のプロフェッショナル達で構成される。

現在、米国および世界42ケ国に約4,000人以上(VES発表)という会員数を誇る。もちろん、日本からでも加入が可能である。会員は年々増え続けており、文字通り世界最大規模のVFX業界のギルドである。会員になるには、5年以上の現場経験を有する事が条件とされる他、現役会員2名からの推薦状が必要とされる。そして、年2回行われる理事会の承認を経て、晴れてメンバーになる事ができる。

このようにVESは、「VFX業界の、プロの、プロによる、プロのための協会」なのである。

VESアワード授賞式とは

VESアワードは、「VFX業界のアカデミー賞」のような存在である。その授賞式では、全世界から応募されたVFX作品の中から、映画、TV(ドラマ、コマーシャル)、アニメーション、ゲームなど、全25カテゴリーにおよぶ最優秀作品が、VESの会員投票によって選出される。そして授賞式では、各部門の受賞作品の発表および表彰が行われる。受賞者には、VESアワード名物の「月顔トロフィー」が贈られる。

月顔トロフィー(昨年の授賞式にて、筆者撮影)
©VES/Visual Effects Society

VESアワード授賞式は、ハリウッドのアワード・シーズンである毎年2月に開催される事が多い。今年は、新型コロナウイルスの影響で第93回アカデミー賞授賞式の日程が4月25日(日)と、例年よりも2ケ月ほど後ろ倒しとなった。

各アワード授賞式の開催スケジュールは、「アカデミー賞が"最後の締め括り"となるよう」日程が組まれるため、それに伴いVESを含む複数の映画ギルド授賞式が、後ろ倒しの開催スケジュールへと変更された。

さて、今年で第19回目を数えるVESアワード授賞式だが、その歴史をここで簡単に振り返ってみる事にしよう。

記念すべき第1回授賞式は2003年2月にロサンゼルスのスカーボール・カルチュラル・センターで開催され、それ以降はハリウッドのパラディアム・シアター(2004 第2回~2006 第4回)、ハリウッド&ハイランドのグランドボールルーム(2007 第5回~2008 第6回)、ハイアット・リージェンシー・センチュリープラザ・ホテル(2009 第7回~2011 第9回)と会場を移しながら開催され、2012年の第10回目以降は、ビバリー・ヒルトンでの開催に落ち着いている。

ビバリー・ヒルトンはビバリーヒルズのサンタモニカ&ウィルシャーの交差点に鎮座する由緒正しきホテルである。ここは毎年ゴールデン・グローブ賞授賞式の開場としても使用されており、1,000人以上が出席する、大規模な授賞式である。

そして、前述のように今年の第19回授賞式は、バーチャル形式による配信での開催となった。VESアワード授賞式は、事前にチケットを購入さえすれば「誰でも」入場する事ができる。今年はバーチャルという特例でチケットは無料だったが、例年であればチケット代は1人500ドル(VES会員は割引き価格で250ドル)と高めの価格設定である。

しかし、ハリウッドの著名映画賞の1つで、華やかな授賞式に出席できて、ディナーもついて、VFX業界の著名人やハリウッドのセレブリティを間近で拝む事ができるのだから、そのメリットは非常に大きいと言える。

※ちなみに、過去数年のVESワード授賞式のチケットは、ノミネーションの発表後、3日間で完売してしまったという事で、その人気ぶりが伺える。来年の参加を検討しておられる方は、ノミネーションの発表と同時にチケットを購入されるのが賢明だろう

今年も、司会はこの人

授賞式セレモニーの司会は、ハリウッド映画でもおなじみの人気コメディ俳優のパットン・オズワルトが10年連続で司会を務めた。ピクサー作品「レミーのおいしいレストラン」のレミーの声でも有名なパットン・オズワルトは、今年はバーチャル・スーツを着てデジタル・キャラクターに変身したり、コミカルに語りながらバーチャル空間を歩いたりと、バーチャル授賞式ならではの演出で参加者を楽しませた。

©VES/Visual Effects Society

今年のハイライト

今年はピクサーの長編アニメーション「Soul」が5部門で圧勝。実写映画部門では「The Midnight Sky」が強く、2部門で月顔トロフィーを獲得した。また、テレビドラマ関連部門では「マンダロリアン」が最優秀視覚効果賞 [実写テレビドラマ部門]を含む3部門で受賞。

コマーシャル部門では、大手スーパーマーケットWALMARTのCM、「Famous Visitors」が最優秀視覚効果賞 [コマーシャル部門]に輝いた。そしてゲーム関連部門では、時代劇ゲーム「ゴースト・オブ・ツシマ」が最優秀視覚効果賞[リアルタイム部門]を受賞した。

最優秀視覚効果賞[実写映画部門]を受賞した、「THE MIDNIGHT SKY」
©VES/Visual Effects Society
最優秀キャラクター・アニメーション賞[アニメーション映画部門]テリー/「ソウルフル・ワールド」
©VES/Visual Effects Society
最優秀キャラクター・アニメーション賞[テレビ番組/リアルタイム部門]を受賞した「マンダロリアン」
©VES/Visual Effects Society

特別賞

VESは毎年、VFX業界で優れた功績を残した人物に特別賞を贈っており、その受賞セレモニーもハイライト・イベントとして行われた。

今年の特別賞は、生涯功労賞(Lifetime Achievement)が映画監督のピーター・ジャクソンに、VESクリエイティブ・エクセレンス賞(VES Creative Excellence)がVFXスーパーバイザーのロバート・レガートに、それぞれ贈られた。今回はバーチャル開催だったので、生でお2人の姿を拝見できなかったのは大変残念であった。

「今回は画面越しのご挨拶で、しかもタキシードではなく普段着で、なんだか不思議な気持ちですが(笑)このような素晴らしい賞をありがとうございます。もっとスピルバーグとかキャメロンとか、そういうすごい人がもらう賞だと思ってましたが…」とラフな服装で、しかも裸足(注:監督はホビットのように、常に裸足で生活している事で有名)で、コーヒーカップを片手に、冗談を交えつつスピーチを行うピーター・ジャクソン監督
©VES/Visual Effects Society
「このような賞をいただけて光栄に思います。映画のVFXを作る上で、"No(ノー)"という言葉には不思議なパワーがあると思うのです。脚本を読んで"No。こんなの無理だ、できっこない。"というところからチャレンジが始まり、なんとか完成させ、そして作品毎にVFXのクオリティを押し上げていくパワーの源が、この言葉には秘められているのではないでしょうか」とスピーチする、VFXスーパーバイザーのロバート・レガート
©VES/Visual Effects Society

今年の著名ゲスト

VESアワード受賞式は毎回、VFX作品にゆかりのあるハリウッドのセレブが、賞のプレゼンターとして登場する事でも話題だ。今年は、ピーター・ジャクソン監督の生涯功労賞の受賞に際し、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでゆかりのあるケイト・ブランシェット、アンディ・サーキス、イライジャ・ウッド、ナオミワッツ、そしてイアン・マッケラン等、錚々たる顔ぶれがビデオ・コメントを寄せた。

コメントを寄せる女優のケイト・ブランシェット
©VES/Visual Effects Society
VESアワード授賞式の常連ゲストで、「ロード・オブ・ザ・リング」でゴラム、「キング・コング」ではコング、そして「猿の惑星」シリーズのモーション・アクターを務めた事で名高い、俳優アンディ・サーキス。今回はグリーン・スクリーンの前に座り、王様ファッションでコミカルに登場 ©VES/Visual Effects Society
「キング・コング」でヒロインを演じた名女優ナオミ・ワッツも
©VES/Visual Effects Society
「ロード・オブ・ザ・リング」でフロド・バギンズ役を演じた俳優イライジャ・ウッド
©VES/Visual Effects Society
サーの称号を持つ、俳優イアン・マッケラン
©VES/Visual Effects Society

また、各賞のプレゼンターとして俳優ダニー・デヴィートを始めとするセレブが多数登場するなど、まさにハリウッドの映画賞にふさわしい豪華ゲストの顔ぶれであった。

「さて、最優秀視覚効果賞 [コマーシャル部門]に輝くのは…」と封を開けて発表を行う、俳優ダニー・デヴィート
©VES/Visual Effects Society

ぜひ、日本からもノミネートを!

今年も日本からのノミネート作品がなかったのが残念である。過去のVESアワードでは、日本の作品がノミネートを果たした事があり、ノミネートのみならず、受賞を果たせる可能性も充分に期待できるだろう。来年のVESアワードでも、ぜひとも日本からの奮っての応募を期待したいものである。

第19回VESアワードの受賞作品一覧は下記の通り(受賞作品名およびタイトルは原題のまま)。

■最優秀視覚効果賞[実写映画部門]
Outstanding Visual Effects in a Photoreal Feature
「THE MIDNIGHT SKY」

■最優秀助演視覚効果賞[実写映画部門]
Outstanding Supporting Visual Effects in a Photoreal Feature
「MANK」

■最優秀視覚効果賞[アニメーション映画部門]
Outstanding Visual Effects in an Animated Feature
「SOUL」

■最優秀視覚効果賞[実写テレビドラマ部門]
Outstanding Visual Effects in a Photoreal Episode
「THE MANDALORIAN, The Marshal」

■最優秀助演視覚効果賞[実写テレビドラマ部門]
Outstanding Supporting Visual Effects in a Photoreal Episode
「THE CROWN; Gold Stick」

■最優秀視覚効果賞[リアルタイム部門]
Outstanding Visual Effects in a Real-Time Project
「GHOST OF TSUSHIMA」

■最優秀視覚効果賞[コマーシャル部門]
Outstanding Visual Effects in a Commercial
「WALMART; Famous Visitors」

■最優秀視覚効果賞[博展映像部門]
Outstanding Visual Effects in a Special Venue Project
「THE BOURNE STUNTACULAR」

■最優秀キャラクター・アニメーション賞[実写映画部門]
Outstanding Animated Character in a Photoreal Feature
「THE ONE AND ONLY IVAN; Ivan」

■最優秀キャラクター・アニメーション賞[アニメーション映画部門]
Outstanding Animated Character in an Animated Feature
「SOUL; Terry」

■最優秀キャラクター・アニメーション賞[テレビ番組/リアルタイム部門]
Outstanding Animated Character in an Episode or Real-Time Project
「THE MANDALORIAN; The Jedi; The Child」

■最優秀キャラクター・アニメーション賞[コマーシャル部門]
Outstanding Animated Character in a Commercial
「ARM & HAMMER; Once Upon a Time; Tuxedo Tom」

■最優秀背景賞[実写映画部門]
Outstanding Created Environment in a Photoreal Feature Outst
「MULAN; Imperial City」

■最優秀背景賞[アニメーション映画部門]
Outstanding Created Environment in an Animated Feature
「SOUL; You Seminar」

■最優秀背景賞[テレビ番組/コマーシャル/リアルタイム部門]
Outstanding Created Environment in an Episode, Commercial, or Real-Time Project
「THE MANDALORIAN; The Believer; Morak Jungle」

■最優秀デジタル撮影賞[実写部門]
Outstanding Virtual Cinematography in a CG Project
「SOUL」

■最優秀モデリング賞[実写/アニメーション部門]
Outstanding Model in a Photoreal or Animated Project
「THE MIDNIGHT SKY; Aether」

■最優秀エフェクト&シュミレーション賞[実写映画部門]
Outstanding Effects Simulations in a Photoreal Feature
「PROJECT POWER」

■最優秀エフェクト&シュミレーション賞[アニメーション映画部門]
Outstanding Effects Simulations in an Animated Feature
「SOUL」

■最優秀エフェクト&シュミレーション賞[ドラマ/コマーシャル/リアルタイム部門]
Outstanding Effects Simulations in an Episode, Commercial, or Real-Time Project
「LOVECRAFT COUNTRY; Strange Case; Chrysalis」

■最優秀コンポジット賞[実写映画部門]
Outstanding Compositing in a Feature
「PROJECT POWER」

■最優秀コンポジット賞[実写テレビドラマ部門]
Outstanding Compositing in an Episode
「LOVECRAFT COUNTRY; Strange Case; Chrysalis」

■最優秀コンポジット賞[実写コマーシャル部門]
Outstanding Compositing in a Commercial
「BURBERRY; Festive」

■最優秀SFX部門[実写/アニメーション部門]
Outstanding Special (Practical) Effects in a Photoreal or Animated Project
「FEAR THE WALKING DEAD; Bury Her Next to Jasper’s Leg」

※昨年から新設された、撮影時のプラクティカルなエフェクト(特撮)を対象とした新カテゴリー

■最優秀視覚効果賞[学生作品部門]
Outstanding Visual Effects in a Student Project
「MIGRANTS」

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。