福岡といえば、10年ほど前には日本のデジタルサイネージの最先端を走っていたように思う。街ナカに福岡街メディアという端末が多数設置され、福岡市にはデジタルサイネージの専門部署がった、そんな歴史がある。その福岡がここに来て再びユニークな例が多数登場しているので今回は4つの事例を紹介したい。

ナムジュン・パイクのビデオアートが復活

福岡の方々には馴染み深い存在だったサイネージが見事に復活を遂げた。キャナルシティ博多のクリスタルキャニオン南側のガラス壁面に設置されている、世界的なビデオアーチストで、ビデオアートの父であるアーティストナム・ジュン・パイク氏Nam June Paik、漢字表記:白南準(1932-2006)によるビデオアート「Fuku/Luck,Fuku=Luck,Matrix」だ。

整然と並んだブラウン管を180台使用した本作品は、1996年のキャナルシティ博多の開業とともに誕生したビデオアート作品である。正確にはこれはデジタルによるサイネージではなく、アナログ映像によるマルチディスプレイを使用したビデオアートだが、パブリック空間での映像表現としては、いまで言うところのデジタルサイネージの先駆者である。

しかしながら、経年劣化によってブラウン管テレビ次々に故障し、修理するにもブラウン管テレビがもう入手困難ということもあり、2019年より映像の放映を停止していたのだ。普通であればこうしたブラウン管群は撤去され、大型LEDに置き換えられるところなのだろうが、ここではそうではなかったのだ。あくまでもブラウン管でのマルチビジョンを存続させるために、なんと4年にわたる修復作業が完了して開業当時の姿が復活したのである。これは例えば奈良薬師寺の東塔、西塔が大改修されるのと同じで、デジタルのアートであってもやはり原型を留めるということが何よりも大切だという高い意識を、関係する方々が強く認識されていたからこそ実現できたことだと思う。この努力に心から敬意を評したい。これはまさに「デジタルサイネージ世界遺産」だ。

キャナルシティ博多のWEBより作品概要紹介

■概要
作者:ナム・ジュン・パイク(1932-2006),Nam June Paik)
作品名:Fuku/Luck,Fuku=Luck,Matrix
制作年:1996年
サイズ:縦約5.4m×横約10.7m×奥行約2.1m
場所:キャナルシティ博多クリスタルキャニオン南側壁面
放映時間:12:00~13:00、15:00~16:00、18:00~19:00

■作品名の由来と映像イメージ
本作品は、当時来るべき情報化社会を予見して、人生に数多くの「幸福」を詰め込む様相が、当時の最先端CG映像やテレビ放送等の様々な断片映像の連続と繰り返しで表現されています。

古来よりアジアのゲートウェイ都市として繁栄してきた「FUKUOKA」において、東洋の「福」と西洋の「Luck」が対置され、相互に影響しあい。情報が交錯する今日のアジア的なカオスをイメージしています。作品名には、更なる「福岡」の幸せ(発展)への願いが込められています。

西鉄天神駅の大型LEDビジョン「プレミアスクリーンTENJIN」

視認性抜群の大型LEDビジョン

大型のLEDビジョンの設置が日本各地でさらに進んでいる。これは以前に比べると高輝度高解像度のLEDの価格が低下してきたことによるものだろう。先日新たに、大型LEDビジョン「プレミアムスクリーンTENJIN」が福岡の西鉄天神駅に登場した。

動画を見ていただくと、このビジョンの視認性の高さがおわかりいただけると思う。また凹側に湾曲しているので平面設置と比べると没入感とまでは言わないまでも、非常に印象深い映像になる。ビジョンの横幅は14.3メートル、高さは2メートルあり、設置位置も最下部で3メートルほどで、電車を降りて改札に向かうまでの間のおよそ2、30秒間の強制視認性は相当高い。画面解像度はSMD4ミリピッチで3,584×512で、16:9の映像を横に3面表示することも可能。横3,484をフルに活用したコンテンツのインパクトが大きいと思うが、素材の関係で全てがそうなるわけではないだろう。おそらく新宿駅の自由通路に匹敵する、あるいはそれ以上のインパクトある媒体ではないかと思う。

反復性の高い天神駅というロケーションも含めて、コンテンツの工夫、媒体としてのブランディングを行うことで更に強い媒体になる可能性がある。またiPhoneで撮影しても動画にモアレが出ることがなかった点も付け加えておく。ビジョンの詳細はこちらから。

福岡空港の滑走路4Kライブ映像

続いて福岡空港には、滑走路のライブ映像が4Kで見られる大型LEDビジョンが設置された。場所は国内線ターミナルビルの4Fで、横幅が13.5メートル、高さは2.5メートルで前述の天神駅のものと同じくらいのサイズ感である。こちらはSORAGAMIAIR(ソラガ・ミエール)というオープンエアの飲食店の一番奥の壁面に設置されている、店舗内ビジョンという位置づけになる。そのため店舗に入店しないとその全貌は体験できない。

この位置から見ると左がディスプレイ。右側はターミナルビル屋上のオープンスペースで、その向こうがリアルな滑走路だ

このビジョンの特徴は、空港を離発着する航空機のライブ映像を4Kで放映している点だ。またこれは現場に行くとわかるのだが、ターミナルビルの展望スペースにあるので、天候が良いときには滑走路側のドアが開放されていて、ビジョンに映し出される映像とリンクして本物のジェット音が聞こえる臨場感が他にない特色だ。座席からも滑走路は見えるのだが、距離があるので少し見づらい。こうした空港内の環境で、ビジョンに高精細で離発着機が映し出されるという状況は、巨大なライブ会場でスクリーンを見ている感覚に近い。

現場に行くまでは、ライブ映像を放映するのであれば、ターミナルビルのエントランスとか、出迎えゲート付近にあった方がいいのではないかと考えていたのだが、このロケーションであればこれが正解である。一つだけ希望を出すのであれば、離発着機の情報をテロップ表示してくれたら更にリアルな感じになり、最高のコンテンツになるだろう。またロケーション店舗内なので、デジタルサイネージとしても目的が必ずしも広告ではないのだが、ロンドンでのブリティッシュエアウェイズの事例にあるように、航空会社や旅行関係の企業向けに広告化することも十分可能なのではないだろうか。ビジョンの詳細はこちらから。

みやま市の自動運転バスのスマートバス停

電磁誘導線を道路に埋め込む形式の自動運転

福岡市から1時間半ほどの位置にあるみやま市が、自動運転バスの公道走行事業を行っている。これは実証実験ではなく実運用だ。この自動運転の内容については本稿では割愛するが、ここでは電子ペーパーを利用したスマートバス停が設置されているということで、こちらを実際に見てきた。

見た目はごく普通のバス停だ
電子ペーパー部分。視認性は極めて良好だ

バス停のスマート化、インテリジェンス化は今後さらに進んでいくと思われる。しかし電源を確保することが大きな課題になる。

そこで今回の事例では、電子ペーパーを乾電池駆動させることによってこの課題をクリアしている。これであれば、従来のコンクリート製のウエイトの上にポールが立っている形式のバス停にそのまま設置できる。実際に現物を見た感じでは、視認性には何の問題もなくはっきり視認できる。自照式ではないので夜間は暗くて時刻表を読むことは出来ないが、これはこれまでのものでも同様だ。街灯かスマホの明かりで読めばいいので、特段問題はない。自照式にする手間やコストの方が現実的ではないからだ。スマートバス停のメリットの一つは、ダイヤ改正のときの時刻表変更コストの削減だ。このタイプでは通信はLPWAを利用して表示の変更ができる。また乾電池駆動という手軽さもよい。

可能であればユーザー的には電子ペーパー上に運行情報(バス位置情報)を表示してくれたら、バス乗車でのバス待ちのペインを大幅に解決してくれるだろう。スマホでQRコードを読み込んで、WEBで位置情報を確認するということでも十分である。なおこの事例ではバス位置情報には対応していない。問題になるような渋滞が発生しないからだろうが、なにかの理由で運行できないことをバス待ち客に知らせる方法があればよいのではないか。それは赤色LEDが点滅でする程度で十分な気がする。

YE DIGITALのスマートバス停の充実したラインナップ(同社のWEBサイトより)

このスマートバス停は、YE DIGITALのラインナップの一つだ。同社には4タイプのモデルがあり、設置環境などに応じて使い分けをすることができるようになっている。この中でも日本のバス停の大多数は、今回のようなタイプのものが主に必要とされているのだろう。

WRITER PROFILE

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。