広告や映画・番組制作、放送・配信など、映像の世界で幅広く事業を展開している東北新社で30年にわたりCM制作を中心に活躍されている山本憲司氏に、オフライン、オンライン共に長年使用しているAvid Media Composerについて、その魅力や使い勝手などについてお話を伺った。

山本憲司

1965年 山口県生まれ
1990年 東京藝術大学大学院修了 東北新社入社
1993年 演出デビュー

・PFF ʼ88 最優秀短編賞
・沖縄映画祭WWL ファイナリスト
・第5回 練馬アニメクリエイターズアワード グランプリ
・第1回 ラジオ日本杉崎智介脚本賞 大賞
・映文連アワード2021 優秀企画賞

――東北新社に入社されてから現在までの経歴について教えてください

山本氏:

1990年に東北新社に入社し、仕事全体の流れや、予算の組み立てなどを理解していないと企画や演出はできないということで、最初はプロダクションマネージャー(PM)の業務から始まりました。そして1991年に企画演出部に入り、中島信也さん(現:東北新社 代表取締役社長)、岡田隆さんなど企画演出部の先輩ディレクターから多くのことを学びました。その後1993年からCMディレクターとして活動しています。

■最近の作品

  • 富士山の銘水 エブリィフレシャス・ミニ「工藤静香、始めました」
  • リエイ 企業「日野皓正・出会い」
  • わかさ生活 ブルーベリーアイ「No.1が100%に」
  • 愛川町 「愛川百年旅SPECIAL『復活の台地』」※映文連アワード2021 優秀企画賞
  • 住友林業 企業「森の価値を、未来に活かす。」

山本氏:

2018年からは社内で新設されたクリエイティブユニット「OND°」に所属しています。OND°はディレクター、プランナー、エディター、カメラマンなどが所属するユニットで、社外のクリエイターも所属しているためマネージメントも行っています。
それまでは東北新社のグループ会社のみでの活動でしたが、OND°に所属することで関連会社以外の様々な仕事に携われるようになり仕事の幅も増えましたし、社内チームの一人という感覚から離れ、外部のチームにディレクター個人として参加する経験のメリットは大変大きいと考えています。

山本憲司氏

――Media Composerに最初に触れたのはいつ頃でしょうか

山本氏:

1990年にPMをしていた頃のメインはシブサンなどのビデオでしたが、とあるフリーの演出家がフィルムに拘りを持っており、ムビオラ、スタインベックを使ったフィルム編集をしていました。それを手伝っていた時にその方が「今度アメリカからフィルム編集のようなことをパソコンでできるシステムが来るんだよ」と言っていました。私も学生時代に8mmで作品を作っていたこともあり楽しみにしており、その年の冬に東北新社が実験的にMedia Composerを導入して初めて見る機会を得ました。
画質については荒いモザイク状態ではありましたが、フィルム編集と同じ「ビン」が画面上にあり、そこに素材のファイルが表示され、それらをタイムラインに追加して切り貼りをしてく。作品の途中に後から素材を割り込ませて追加することも問題なくできて、まさにフィルム編集がそのままパソコンでできている印象でした。当時メインで行われていたビデオテープでの編集ではやはり「割り込む」のが面倒で、その作業がフィルムと同じ感覚でできるのは素晴らしいと感じました。

――実際にMedia Composerを使った編集はいつ頃から始められましたか

山本氏:

1993年からディレクターとして活動を始めましたが、当時は新人でしたしMedia Composerの編集室は数も少なく、エディターについてもらわないと使えないこともあり、機会をみつけて使っていました。エディターと2人で編集する際は、カットがわりのタイミングの指示を出してもどうしても自分の感覚とずれてしまうことがあります。自分で操作すれば一発で決められると思い、何度か見ているうちに使い方もなんとなく分かってきていたのでカットポイントを決める作業やトリムモードでの作業などを自分で操作するようになりました。
1995年頃からは全ての編集作業を自分でやってみたいと思うようになり、エディターには隣に居てもらい、分からないことがあったら随時聞くという形で通しで作業してみたところ、シーケンスを作る、データを書き出す、というような個々の作業の手順を教えてもらえば編集自体はずっと見ていて、多少操作もしていたのでそんなに難しいという印象もなくできました。その後は自分で操作するようになり、エディターには必要に応じてアドバイスをもらうというのが基本の制作スタイルとなりました。
ディレクターには編集作業はエディターに任せる人もいますが、自分は元々8mmを繋いでいましたし「編集こそが映像をつくるということだ」と考えているので、一番楽しい部分は自分でやりたいという思いがあります。とはいえ、完全に自分一人になってしまうと自分が描いたコンテや手間隙のかかった撮影が必要だった素材などに縛られたり拘ってしまう場合もあるので、当時はあえてエディターにまず編集してもらいそれを自分で調整し、それをまたエディターに調整してもらうということもやっていました。人にやってもらうことで頭を整理できたり、思いがけない案が出ることもありますね。

――その後はご自身での編集が基本となったわけですね

山本氏:

2000年にAvid Xpress DV(以下:Xpress)が発売されてノートPCで編集できるようになりました。このことが自分で編集する機会を圧倒的に増やしたと思います。編集環境を持ち歩けるようになったので、海外での撮影でもXpressを持参してビジコンのアウトをキャプチャして編集したりもしていました。
また、会議室にXpressを持ち込んで大きなモニターに映してオフライン試写もしていました。今ではさほど珍しくないですが、当時は会議室でのオフライン試写というのは関係者に驚かれることもありました。

――当時Xpress以外にもノートで動く編集ソフトはありましたが、Xpressに決めた理由はあるのでしょうか

山本氏:

当時他のソフトではディゾルブやテロップなどを追加するとレンダリングが必要でした。Media Composerを使っていたこともあり、それらをリアルタイムで再生するスピード感が欲しかったわけですが、Xpressはそれができていたのが大きいと思います。リアルタイムに結果を見られることや操作がもたつかないスピード感というのは、3時間かかる作業が2時間に短縮されるということではなく「試行錯誤をより多くできる」ということに繋がります。
試行錯誤を多くすることでクオリティを上げていけます。CMの場合15秒という濃い密度の中で1フレ、2フレにこだわって作り上げます。そのための試行錯誤を繰り返すためのスピード感はとても大切だと考えています。

――その他にMedia Composerの良い点がありましたら教えてください

    
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フィルム編集に似たアナログ感

山本氏:

自分がフィルム編集をベースにしているからか、アナログ的な考え方が気に入っています。エフェクトやサブクリップを保存する際、ドラッグしてビンまで持っていくことで保存できたり、ビンでフレーム表示にして各クリップの位置を自由に配置できたりといったところですね。ビンではとりあえず必要のない素材は端によせて、今必要な素材を集めるといったフィルム編集の時と同じようにクリップを「物」として扱っている感じが好きです。
また、タイムラインでイン、アウト間をコピーする場合、その部分を一度ソースモニターに別素材のように取り出してそれを編集するという考え方も自分には合っています。他のソフトではタイムラインで右クリックしてコピー、ペーストという感じですが私にとっては感覚的ではないなと感じています。

タイムラインでのクリップの扱い

山本氏:

これはスピード感という話にも繋がるかと思いますが、Media Composerではタイムラインのクリップを基本触ること(選択する)ができません。不用意にクリップを触れないことで安心して素早く操作できます。他のソフトでは、触れてしまうが故に試写の時には問題がなかったのに書き出したファイルの内容が変わってしまっていたというトラブルをよく聞きます。プロの作業という前提で考えると、この設計思想はとても安心感があります。

タイムラインでのレンダリングキャッシュ

山本氏:

もう1つはタイムラインでのレンダリングキャッシュの考え方ですね。Media Composerではタイムラインの各クリップ毎にレンダリングができるので、複数トラックを使って作られた映像の上にさらに別素材を追加する場合、その部分だけレンダリングすれば良いですし、修正もその部分のみ再レンダリングとなります。他のソフトだと全てのトラック分をレンダリングしなおすことになるので、スピード感という意味でも大切な考え方です。

AAFを使ったPro Toolsとのデータのやりとり

山本氏:

MAを行う場合はほぼPro Toolsを使用しています。それに向けて編集時にもMedia Composerで多少音を調整したりエフェクトを追加する場合もありますが、Media Composerから書き出すAAFではそれら全ての設定がPro Toolsに送られるので、とても便利です。また、他のソフトから書き出されるAAFではカット点のデータなどがずれてしまう現象があるのですが、Media Composerから書き出されるAAFでは一度もありません。

――使用しているプラグインはあるのでしょうか

山本氏:

映像はBoris Continuum、音はAccusonus ERAを使っています。

――今後のMedia Composerへの要望を教えてください

山本氏:

近年はオンラインまで全てこなす作業も増えていてるので、やはり完パケに必要な合成系の機能をより充実して欲しいと思っています。また、オーディオのキーフレームがフレーム単位でしか打てないので、フレーム内でより細かく打てるようになるとMedia Composerだけでオーディオも完結できる機会が増えると思います。さらなる進化を期待しています。

WRITER PROFILE

小池拓

有限会社PST代表取締役。1994年より Avid、Apple、Adobeなどの映像系ソフトのデモ、トレーニングを行っている。