ロサンゼルスには、ACM SIGGRAPHの地方分科会である「LA SIGGRAPH」というものが存在する。日本にもお馴染み「シーグラフ東京」があるが、そのLA版と言えばご理解頂けるだろう。

LA SIGGRAPHでは毎月テーマを設定し、月例会を開催している。この月例会には参加費20ドルを支払えば誰でも参加出来る。会員になって年会費$40.00を納めれば、毎月の月例会の参加費は無料となる。

コロナ禍に入ってからのLA SIGGRAPH月例会は、Zoomを介してのバーチャルで開催されている。

12月の月例会のテーマは、久しぶりにVFXメイキング講演であった。しかも、映画「DUNE/デューン 砂の惑星」のVFXという、タイムリーな内容であった。

今回は、その模様を要約してご紹介しよう。

筆者注:この講演は、各パネラーが用意したメイキング・クリップを再生しながら解説が行われた。その為、多少話が飛んだり、他のパネラーと若干重複したりする箇所もあったが、臨場感を出す為にそのままご紹介している。ただ情報量が多いので要約し、かいつまんでお届けしている。また、「DUNE/デューン 砂の惑星」独特の用語も多数登場するので、分かりづらい箇所もあるかと思う。可能な範囲で補足を入れつつ記述してみたので、ご参考あれ。

LA SIGGRAPH – The VFX of Dune

「DUNE/デューン 砂の惑星」オフィシャルトレーラー

パネラーの顔ぶれ

  • ブライアン・コナー(Brian Connor)/VFX Supervisor DNEG モントリオール
  • トリスティン・マイルス(Tristan Myles)/DENGバンクーバー VFXスーパーバイザー
  • ロビン・リックハム(Robyn Lickham)/DNEGアニメーション・ディレクター
  • ポール・ランバート(Paul Lambert)/VFXスーパーバイザー

ブライアン・コナー(Brian Connor)/VFX Supervisor DNEG モントリオール

「DUNE/デューン 砂の惑星」(以降、「DUNE」)のVFXでは、極めて高いクオリティが要求されました。私はブタペストにある撮影スタジオのバックロットで、砂漠や巨大なセット等をプラクティカルに構築し、撮影しました。

※プラクティカル…この場合、撮影現場に実在している状態を指す。例えばセット、砂、霧、炎、雨など、撮影時に映像に写っている物が含まれる。

オープニングショットでは、膨大な数のハイライナー(宇宙船)が登場します。そして、雨の中シャトルで到着するシークエンスは暗く、ライトが差し込んでいます。

宇宙船はプラクティカルなセットで構築され、撮影時に雨やアトモスフィア(フォグなど)を撮影し、後からこのプレートに完全にマッチするカスタム・エフェクトをVFXで足す必要がありました。 シャトル自体は、他の用途で再利用する事も考え、高いディテールで作られました。 暗いシークエンスなので、コンポジット画像のエクスポージャー(露光)を1〜2ストップ上げて、VFXがうまく馴染んでいるかを、モニター上で必ずチェックしました。

ちなみに、DNEGモントリオールが担当した中で最も難しかったのは、海面から宇宙船が浮かび打ち上がるシークエンスでした。様々なチャレンジがありましたが、特に流体シミュレーションのスケール感を出すのが非常に難しかったです。

スペースポートで到着を出迎えるシーンは、尺が長いショットだったので大変でした。これは、ブタペストのオリゴ・スタジオ(OrigoFilm Studios)の広大なスペースで撮影されました。

また、スペースポートなどのデジタル・アセットは、世界各地にあるDNEGのスタジオで共有されました。

この作品では、伝統的なブルーやグリーンのスクリーンの代わりに「サンドスクリーン」を使用した事が、非常に大きな特徴です。壁と地面は特殊なサンドカラー(砂色)でペイントされました。この結果、すべての反射光が自然に映るのです。「サンドスクリーン」で撮影した画像をネガティブ(反転)にすると、まるでブルースクリーンのような、明確でディテールのあるエッジを持つマスクが得られる事がわかりました。この手法は大変うまくいきました。

また、フォトリアリスティックなVFXを実現する為、コンセプトデザインを沢山用意し、リファレンス映像も沢山準備してVFXアーティストの参考用にしました。特にスペースポートは、様々な部分がコンセプトデザインに起こされました。物量が多いので大変な作業でしたが、フォトリアリスティックにするのに役立ちました。 CGサンド(砂)は実写プレートに写っているプラクティカルな砂と全く同じに見える必要があり、この作業はDNEGバンクーバーが頑張ってくれました。

スパイス・エリアのエンバイロメント(背景)は、DNEGムンバイチームがコンセプト・アートに沿って構築しました。 サンドとスパイスは、ストーリー上とても重要でしたが、砂嵐は大変でした。複雑な砂嵐が必要だったので、VFXスーパーバイザーのポール・ランバートは、フォトリアルに近づけるために、ナショナルジオグラフィックのアフリカの砂嵐の映像をリファレンスとして持ってきました。また、本物のヘリコプターの羽の風で、砂煙が舞い上がる様子を撮影して参考にしました。

ポール・アトレイデスとレディ・ジェシカの飛行シーンはセットで撮影され、後からVFXで羽を追加しています。このセットはジンバル(回転台)になっており、様々なアングルから撮影する事が出来ました。周囲はサンドスクリーンで囲んでいます。ワイドショットはすべてCGでした。

砂嵐は難しいエンバイロメントでした。複雑なパーティクル・シミュレーションが必要とされ、FXチームが頑張ってくれました。砂嵐は外面、内側、上部の動きが異なる為、複数の手法をブレンドして表現し、広大で奥行きが感じられるようにしました。この為にレンダー・ファームも改善され、ディストリビューテッド・レンダリングファームで膨大なパスを処理したほか、FXパイプラインをこの作品の為に書き直しました。結果、複雑なデータのやりとりに対応する事が出来ました。

ポールとジェシカの砂漠へのクラッシュランディング(不時着)のシークエンスは大変でした。リファレンス映像を観察し、リアリティを追求しました。

トリスティン・マイルス(Tristan Myles) DENGバンクーバー VFXスーパーバイザー

主要な撮影がスタートする以前から、コンセプトデザインを準備しました。これらはモデリングのリファレンスとして、とても役立ちました。例えば、砂煙が宇宙船と絡み、タービュランス(乱流)の中で舞うシークエンスも、見た目をコンセプトデザインとマッチさせました。

爆発では、さまざまなFX素材が使用されています。球形の宇宙船が到着するシーンはフルデジタルです。

「DUNE」で特に意識したのは、実写の人物が登場するショットを、背景とシームレスに馴染ませる事にありました。特に砂が絡むショットは、「サンドスクリーン」で撮影された素材を使用する事で、実写と馴染ませるのに一役買っています。

「サンドスクリーン」の利点は、

  • 背景と同じトーンの正しいルミナンスが得られる
  • 人物の正面のライティングが背景と同じ
  • エッジのディテールも背景と同じ

なので、合成した時に馴染みが良いのが特徴でした。

さて、ガーニーとポールのトレーニング・シークエンスは、文字通り1コマ1コマ調整する必要があり、忍耐が要求される作業でした。コックピットのショットでは、ブタペストの野外で油圧コックピットを撮影しました。エンバイロメントは、ヘリやドローンによるフォトグラメトリーによって3Dデータを起こしました。

今お見せしているショットはキャタピラの巨大トラックのシークエンスですが、FXチームは沢山の排気素材を作りました。

また、砂絡みのFXが多く、膨大なサンド・シミュレーションが必要とされました。これらは、スケール感に注意しながら調整が行われました。サンドワームが襲ってくるシークエンスでも、膨大なFXシミュレーションが必要とされました。

ライティングをリアルに見せる為、本物のヘリをクレーンで吊るして撮影し、サンライト(太陽光)がどのように見えるかのリファレンスにしています。サンライトによる「ナチュラルライト」を常に意識し、背景との馴染みを大切にしました。

戦闘シークエンスの爆発は巨大でした。大きなものだと、1キロ程の高さにも及びました。スケール感を出すのに気を使いました。

エンバイロメント・チームの作業量も膨大なものでした。今お見せしているブレイクダウンでは、マーケット・プレイスのセットの複雑さがお分かり頂けると思います。

ロビン・リックハム(Robyn Lickham)DNEG アニメーション・ディレクター

トンボのような形をした、高速で羽ばたくオーニソプターは映画の中で頻繁に登場し、チャレンジの連続でした。オーニソプターのコンセプトはプロダクションデザイナーによるものです。見た目が物理的に不自然にならないよう、そして飛んでいる様子がリアリスティックになるように注意しました。これには、スタジオジブリの「天空の城ラピュタ」に出てくるフラップターのデザインなども参考にしました。

高速で羽ばたくモーションブラーは、サブフレームを11に設定しました。また、調整し易いようにプロシージャル・アニメーションを使いました。また、トンボのスローモーション映像を研究し、羽ばたき速度のテストも繰り返しました。

さて、砂漠には、ネズミのクリーチャーが登場します。大きな耳を持つ種類のネズミのリファレンスを集めて、ヒゲの動き、耳の汗など、細かい部分にも配慮しています。 筋肉の動きはマッスルシステムを設定し、動作が自然に見えるようにしました。

蜘蛛が登場するショットがありましたが、これは俳優が演じた"Humanスパイダー"のパフォーマンスの動きを参考にしました。

戦闘シークエンスは大変でした。ストーリーボードを起こし、コンセプトデザインを起こし、モーションキャプチャーを行いました。この戦闘シークエンスでは、兵士がアーマーベルトを装着しているので、モーションキャプチャーの時にその衣装を着て、動作もそれらしいリアルな動きになるようにしました。

モーションキャプチャーは膨大な作業でした。しかも、収録のなんと1週間前にコロナのパンデミックが起こりました。1回に8〜10人のモーション・アクターを収録出来ますが、コロナ対策をしながらの収録でしたので、苦労しました。自分のキャリアの中で最も大変だったと思います。このモーションキャプチャーは12人のアニメーターが2ヶ月専任で従事し、100のユニーク・アニメーションを収録しました。この映画におけるベスト・シークエンスの1つと言えるでしょう。

巨大な砂虫、サンドワームもチャレンジの1つでした。サンドワームは100メートル級の巨大サイズで、スケール感が重要でした。その動きも、様々なアクションに対して設定図が用意されました。動きをリアルにするため、医療映像やクジラのヒゲを観察し、参考にしました。ヒゲは複雑なアニメーションが必要で、口の動きはリグで細かくコントロール出来るようにしました。サンドワームが地面の下を移動する動きは、クジラが泳ぐ動きを参考に作られています。

サンドワームは砂と絡むため、FXチームと連携を取り、両者の動きのバランスを大切にしました。

ポール・ランバート VFXスーパーバイザー

筆者注:最後に、DNEGのVFXスーパーバイザー、ポール・ランバートが登場。この作品では、DNEG側ではなく、映画スタジオ側のVFXスーパーバイザーを務めている。 ロンドン在住のポール・ランバートは、LAとの時差の関係で朝4時の早朝にも関わらずライブで出演。ポール・ランバートは「ブレードランナー 2049」(2017)、「ファースト・マン」(2018)で2年連続アカデミー賞視覚効果賞を受賞。 また、NukeのIBK Keyerの開発者としても知られ、IBKは氏がデジタルドメイン時代に開発したものである。

おはようございます(笑)

この作品におけるVFXの最大の特徴は、「撮影時に可能な限りの要素をカメラに収める」、プラクティカルなエフェクトだと思います。これらはVFXアーティストが、VFXワークを行う上でリファレンス・ショットとして見た目を合わせていく上でも重要でした。例えば、ハンター・シーカーのシークエンスにおけるホログラム、バトル・シークエンスなど、これらをどのように決断し、プラクティカルなエフェクトを使用したか等について、お話したいと思います。

大前提のアイデアとして「可能な限り、フォトリアルにする」という事がありました。撮影時に、可能な限り必要な絵を得られる方法を考えました。我々は6ヶ月をプリプロダクションに費やし、さまざまテクニックを検討しました。その結果、可能な限りプラクティカルなエフェクトを撮影時にカメラに納めました。

撮影現場では毎日、砂を吹き飛ばしていました。実際に18トンもの砂を使用しました。ポールとジェシカが砂嵐の中を飛ぶシークエンスでは、閉じた空間をセットで作り、SFXスーパーバイザーが砂を吹きとばし、それが照明に反射し、画面の中の俳優が可能な限りオレンジ色に染まるようにしました。

ポールのクローズアップとホログラムの枝のインタラクション(お互いの干渉)のシークエンスでは、DNEGのオンセット・トラッキングのテクニックを使いました。セット上にいるポールの位置をインタラクティブに算出し、彼と接触・交差している位置にある枝のCGアセットをスライスしてポールに投影する事で、ホログラムの光がポールの皮膚に当たり、美しいサブサーフェスが発生する効果を表現しました。これ以外にも、さまざまな方法を試し、最適な方法を選びました。

私にとって、合成ショットは、俳優の正面に見られるライティングと、背景のライティングがマッチしていないと、本当の意味で「正しいビジュアル」とは言えないと考えています。私はコンポジターのバックグラウンドを持つVFXスーパーバイザーでもあります。伝統的な手法ですと、ブルーやグリーンクリーンをバックにスタジオ内で撮影し、屋外で撮影した背景と合成したり、LEDスクリーンで撮影する方法なども考えられるでしょう。

実はプリプロ初期に、LEDスクリーンによる、今トレンドになっているバーチャルプロダクションのテクニックも試したのです。しかし、LEDスクリーンでは太陽光で得られるような十分なブライトネスが得られない事がわかり、選択肢からは外れました。

この作品のVFXで重要な目標だったのは、「太陽の光によって得られるライティングを、如何に正確に撮影するか」という事にありました。背景のプレートと異なるライティング環境でブルーやグリーンスクリーンで撮影された人物を、切り貼り文字のようにハメコミ合成する手法は避けたいと考えたのです。

そんな中、「サンドスクリーン」は、プリプロ中に偶然思いついたアイデアでした。オーニソプターのコックピット内の撮影では、ブタペスト郊外で、高い丘を探して、周りを360°取り囲む「サンドスクリーン」を構築して、太陽光が「サンドスクリーン」に反射して理想的なライトが得られる状態で撮影を行いました。

先程登壇したブライアン・コナーが担当したシークエンスで、サーダーカー(皇帝の軍隊)が屋根からジャンプし、先住民フレメンを攻撃するシーンがありました。スタジオ内で撮影する「ニセの太陽光」ではなく、日中のリアル太陽光を得る為に、どう撮影するかを考えなければなりませんでした。ブタペストでこれを撮影出来そうな場所を探しましたが、理想的な場所は見つけられませんでした。

そこでブタペストにあるスタジオ2つを使用し、2つのスタジオを接続する大きな箱状のセットを作り、上部に穴をあけ、太陽光が床に反射して理想的な反射光が得られるようにしたのです。しかし太陽が動くので、理想的な反射光が得られるには1日に2~3時間しか撮影できませんでした。しかし、この方法によって「Feeling Believable」(信憑性や現実味を持たせる)な映像を撮る事に成功したのです。

おわりに

以上が、この日の月例会におけるメイキング講演の要約である。

映画「DUNE/デューン 砂の惑星」における印象的で独特な絵作りやVFXのアプローチの鍵は:

  1. 可能な限りプラクティカルなエフェクトを使用し、撮影時にカメラに納める
  2. ブルーやグリーンスクリーンに代わる、「サンドスクリーン」の使用
  3. 詳細にわたるコンセプトデザインの準備
  4. リファレンス動画を数多く準備し、深く観察する事でリアリティを追求

の4点と言えそうだ。

みなさまのご参考になれば幸いである。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。