デジタルサイネージはDOOH、Digital Out-of-Homeのメディアであり、インターネットを拡張するものである。インターネットの発展の中で、様々なサービスやコミュニケーションが生まれた。これらの多くは能動的でパーソナルなものであり、パソコンやスマートフォンの小さな画面の中だけに閉じたものだ。これに対して、小さなスクリーンから街に飛び出すインターネットとしてのDOOHは、いい意味で受動的であり、いわゆるセレンディピティー、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見することができるメディアである。

ところが、Covid-19によるStay Homeが求められたことで、この出会いの機会が失われ、Out-of-Homeのメディア価値の本質が問われた2年間であったと言えよう。Covid-19によって我々の生活は変化を余儀なくされた。この感染症もいずれ収束していくだろうが、本稿を執筆している1月時点では、日本においてもオミクロン株による感染拡大が危惧され、出口はまだ見えない。

こうした逆境から抜け出すために、改めて新たなデジタルサイネージのビジョンが必要である。それはCivid-19対応だけに限定的なことではなく、より本質的なことであり、今後も繰り返し起きるであろうパンデミックとも共存して行くための指針を示すことが重要だ。

まず重要なことは、デジタルサイネージは、ロケーションバリューからコミュニケーションバリューへの変革が急務であることだ。 時間と場所を特定できるというデジタルサイネージのメディア特性があるが、この「場所」における価値が高い場所は密であることが多い。 そのために場所に紐付いたメディアでありつつも、特定の場所だけに縛られないコミュニケーションに紐づくメディアに移行させて行く必要がある。 これによってパンデミックに強く、従来的な視点では価値が高くはないと思われてきた密ではない場所においても、コミュニケーションできるようにすることで市場を拡大できるはずだ。

最初にここまでの延長線上にある、すでに現在進行形の成長領域や必要なこと指摘してみよう。

オーディエンスメジャメント

日本では2021年にデジタルサイネージコンソーシアムがガイドラインを策定している。今後は広告主や広告会社、関連する他の団体と連携した指標を提示することは責務であり、そのための活動も着実に進んでいる。

センシングサイネージ

非接触検温や3密回避のような「踏み絵モデル」から、実利を示すことが必要である。センシングしてアナライズしてビジュアライズするという流れがこれからも重要だ。

LEDのさらなる普及

超大画面化がもたらす計り知れない変化を捉えるべきだ。ディスプレイで景観を形成するという視点も重要になる。

今回のパンデミックを契機にして、急速に変革が起きる領域も考えなくてはならない。

公共交通

リモートワークやオンライン会議によって、必ずしも必要ではない移動の存在を明らかにした。そのため通勤通学以外の移動に関するデジタルサイネージの利用を考えるべきだ。観光も含めた旅行者、移動者への情報提供はこれまで以上にニーズがある。これはかつての観光バスガイドの進化系のようなもので、アウトプット先は能動的なスマホではないはずだ。電車の窓をディスプレイ化するような試みは、技術的な課題が解決されれば有力な活用法になる。

教育や学習

リモート学習に関することもデジタルサイネージ的に考えたい。これからは自宅学習は勿論、離れているオフラインの教室同士をつなぐことも増えていく。教室の壁に別の教室を映して、2つの異なる空間をマージさせるようなものや、オンラインの学生がオフラインの教室に映し出されるのもあるだろう。後述するメターバースの世界観に近い。

イベントやカンファレンス

ハイブリッド開催におけるオフラインとオンラインの接点としての利用だ。前述の教室の例にも近いものである。例えば日本国内の特定の場所にオフラインで集まって、海外のイベントやセミナーをライブで体験するクローズドなライブビューイングだ。自宅のパソコンで参加するよりも集中しやすい。

最後は、パンデミックとは直接の関連性は高くないが、近未来に急速な拡大が期待される領域を指摘しておきたい。

NFTとメタバース

米国では既にリアルなNFTギャラリーに顕著な動きがある。デジタルサイネージに自分が保有しているNFTを掲載するトレンドも生まれてきており、広告を出稿する権利をNFT化し、NFTの所有証明をした上で広告を掲載する行為は、メタバースやWeb3.0時代における新しいエンタメ体験となっていく可能性を秘めている。当面はこれまでの予約型の広告モデルに近いが、枠売りではなくトランザクションベースのものだろう。

デジタルサイネージは「街に飛び出すインターネット」であるわけだが、これは言い方を変えれば、「リアルな場所においてインターネットを拡張するもの」なのだ。特に若年層においては、電車の中、店舗、場合によっては歩きスマホをしながらでも執拗にネットに繋がろうとしている、これはメタバースがリアルとの融合を求めている何よりの証拠である。メタバースが本格的に普及するかは体験環境(例えばHMD)に大きく依存するだろうが、メタバース空間にこれまでのリアルOOHでのロケーションビジネスを持ちこむことだけに終始させないことである。

Covid-19によるパンデミックによって、デジタルサイネージの本質が見えるようになった。広告、販促、インフォメーションといった利用目的の軸に加えて、リアルな場所でのインターネットを拡張するという観点から、メタバースとの融合をデジタルサイネージは担うべきことである。

WRITER PROFILE

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。