カメラマンがテクニカルディレクターに挑戦するまで

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昨年10月に開幕した千葉市が公営競技として主催する新しい自転車トラックトーナメントPIST6 Championship(以下、PIST6)」トラックレースに関わらせて頂いている。本コラムにも度々登場している株式会社ブレーンズ山本可文氏にお声がけを頂き参加したからだ。

今回はカメラマンではなく、TD(テクニカルディレクター)として参加している。PIST6は競輪と同じく公営ギャンブルだが、ショーアップされた新基軸となる。今回はいつものレビューやソリューションの話のほか筆者自身の奮闘記も含め、PIST6映像チームの裏側を紹介したい。

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PIST6とは?

PIST6とはこれまでの自転車競技とは異なり、エンターテインメント要素をもった新しいスポーツエンターテインメントを目指したものだ 選手たちが使用する機材自転車もオリンピック等で使われているカーボン製のトラックレーサーを用いて行われる。そして注目すべきは、競輪がショーアップされた音響と照明演出だろう。

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レースとレースの間はDJが大音響で繋ぎ、その間にはPIST6専属ダンサーであるPSD(PIST6DANCERS)が華麗なダンスを披露する。選手をフィーチャーする登場シーンも用意されている。レース自体もトラックレースの国際ルールに準拠し、競輪とは違い相手選手にブロック等はできないために選手自身の脚力、つまり強い者が勝つと言うシンプルな競技となる。瞬間速度にすれば競輪より軽く時速10kmは速く、筆者が測ってみた数字だとタイムトライアルの瞬間値で時速70km近い数字を出す選手もいる。

さて、筆者は、「瞬きする間も無い」レースの中継をTDとして任せて頂いたと言う事になる。当初の課題は、技術者の確保だった。室内トラックは目の前を選手が走り抜ける。全部で有人カメラはミニクレーン含む5台、更にPTZカメラが5台の計10カメ運用で始めた。もちろんSWとVEも必要なため、最低でも8名を揃えなければ成立しない。そして正月もお盆も関係なく毎週開催される。

つまり毎週この人数を揃え、しかも全員がフリーランスと言うのは中々難度が高い。最初に思いついたのは、コロナ禍で撮影がなくなったブライダルカメラマンだが、実際はうまく集められなかった。新規にスポーツに強そうな方々にお声がけをした。タイトなスケジュールなどの無理難題にも関わらず、殆どのカメラマンが二つ返事で快く受けて頂いたのは本当に感謝している。

そして都内近郊からフリーランスカメラマンとして名前の通っている方を集める事ができた。次は機材の選定だ。

機材構成

機材はFOR-Aのスイッチャー「HANABI」を中心にいわゆるシステムカメラで構築している。競輪の中継は、2カメ前後と言う常識だが、今回のPIST6は10カメを投入して構築している。4Kシステムで全てを揃えず、HDをベースとしている。その他、足りない分を補充しているという方法だ。カメラポジションは以下の図を見て欲しい。

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1カメ/Ikegami HDK-79EXIII

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競輪系の中継ではここのポジションの重要性は大きい。割合的にはひたすらレースの行方をGSで追うのが第一の仕事。最終周だけは先頭からの4車を詰めて行くが、この判断が難しい。4車というのは競輪では1-2-3の順位を予想する枠があるので、何かあった時のプラスワンを考えて最終週のバックストレートで4車を切り詰めるが、この時にルーズ過ぎてもタイト過ぎても駄目だ。

更に4番手5番手の選手が後ろから追い上げる可能性も大きい。その時のサイズを先読みし、更に落車等のアクシデントにもカメラを止める事なく、その雰囲気を伝えなければならない。

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1カメと畠山佳也カメラマン

2カメ/Ikegami HDK-79EXⅢ

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1カメの画を受けて迫力のある映像を作るのがここのポジションだ。望遠レンズのテレ端一杯で常にレースの良い場面を切り取るのが仕事。時にはエクステンダーを入れて選手の表情までをTDから要求される事もある。そんなのチョット場数踏めばできるでしょ?と思われる方もいるかも知れないが、このカメラのレンズがこのシステム唯一の弱点でJ33と言うかなり古いレンズを使っている。

その為にアイリスは解放でのOPをしなければならず、更にゴール前の一番スピードに乗るシーンをド正面からフルアップを狙う事になる。フォーカスのシビアさから言えば群を抜いて厳しいポジションだ。

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2カメと小出真チーフカメラマン

3カメ/SONY HXC-FB80

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フロア周り、特に選手入場とインタビューや表彰式でのメインカメラがこのポジション。1カメ・2カメに比べれば特殊な事はせず唯一台本通りのカット割りがある。ここさえキッチリ守って貰えればPIST6のカメラチームとしては比較的敷居が低い。ただし殆どワンカメショーの部分が多いので基本的なフォーカシング、ズームのワークの差が出やすいポジションだ。

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3カメと酒匂雄平カメラマン

ENG/SONY PXW-400

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PIST6では唯一の遊軍カメラ。フロア周り殆ど全てのリアクションを拾うポジションで、特にPSDのダンスユニット登場の時はこのポジションの独断場となるために、ここだけはワイヤレスを使用している。色々なワイヤレスを実験してみたが、安定感と言う意味でTERADEK Rangerを使用している。

筆者自前のIDX CW-D10も試してみたのだが、このトラックには沢山のWi-Fiが飛んでいるためか、たまに途切れる症例が出たためにレンジャーシステムを使用している。ここの会場は1周250mの木製バンクを含むトラックが作られているが、会場内のどのポジションでも途切れる事はない。またリターン映像は最近色んな現場で使用されているACCSOON CineEye 2 Proを用いてスマホでその映像を見る。競輪に詳しい方なら場内でスマホはNGでは?と思われるが、当にその通りでAndroid端末にSIMは入っておらず競技実施法人から外部通信できない物と認定されたものを使用している。

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ENGと川田弘之カメラマン

クレーン/SONY HXC-FB80

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クレーン本体とリモコン本体はSHOTOKU製のメジャーなものを使用。バックストレート部分の映像を主に担当するが、その他にもダンスシーンや繋ぎのビューティー等PIST6中継チームの中では一番稼働率が多いパート。ココのポジションはできるだけコースに被らないギリギリまでを攻めたが、実際に本番になると一番レースに近い部分でもあるために、画角よりもどれだけ振り回しても絶対にぶつからないポジションかを優先している。

そのためにアームとリモコンも2名体制で行ってきたが、R04年度からはOPにも慣れてきたこともありより、リリカルに動きを出すためにワンマンOPに変更。クレーンを振る現場は中々ないので誰もが初めてというポジションになるが、流石に毎週2日間以上のOPができるので今ではチームの誰もがクレーンワークを習得している。

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クレーンと鈴木鉄男・理英子オペレーター(鈴木氏はステディカムパイロットでもある)

旋回カメラ

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PTZ系のカメラを使いそのシーンごとにメモリーを作ってFIXの映像を作る。ここの中継は基本レースをメインに考えて配置しており、フロアイベントが若干パンチに欠けてしまうため、その部分のサポートも含めて各々のカメラに5ポジションのメモリーが入力されている。操作はVEが担当。

TV中継室

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FOR-AのHANABIをメインに組まれFA10等一般的な中継に必要なものは全てある。各種の録画部分はBMD製品を使いSSDでの収録としコストパフォーマンスを出している。ここにはSW・VEの他にオッズを管理しているPCを本線に載せるOPやスロー担当、アタック映像等のCG担当がマルチビューを見ながら作業をしている。

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HANABI自体は我々フリーランスにとっては中々なじみの少ないスイッチャーだが、一度覚えてしまうと安価な業務用SWではやりくりしなきゃできない事が一発ででき、非常に扱いやすい。バリバリの放送局仕様に比べれば多少見劣りするかもしれないが、少なくとも筆者が扱ったSWの中では一番扱いやすかった。あまりなじみのなかったFOR-Aだがこれを機会に色々と覚えたいと思う。

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HANABIを主軸にした構成。PRONEWSでもおなじみの猿田守一氏もレギュラーメンバーだ

車載カメラ「Dejero」

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迫力ある映像に欠かせないのは車載カメラだ。自動車レースならある程度の小型カメラと伝送を組むスペースがあるが、トラックレーサーにはそのスペースは全くない。まして自転車自体が7kg弱の超軽量車体にキロ単位の物を載せる事は不可能。

そんな中で採用されているのはDejero社製のAndroidアプリ・受信サーバを利用した「車載中継システム」だ この辺の技術を一手に受けているのが実はSNS、アプリでお馴染みのミクシィだ。ミクシィという企業はこの手の開発に強い。Inter Bee 2021にも出展し色々な放送局関係者が相談を持ちかけていたという。

では車載中継システム自体は、大雑把に言えばLTEや5G回線をローカルで占有して使うもの。つまりAndroid端末で撮ったものをそれらの回線で受ける、いわばテレビ電話的なものとでも考えればいいだろうか。

まとめ

今回は筆者のTD奮闘記をお送りした。TD業務は毎回勉強になる。途中から参加したスイッチャーマンは放送局で生番組担当していた方だった。彼からは色々のノウハウを教えてもらい、伝授してもらった。それがなければ今がなかったかもしれない。

余談だが、本当に緊張の連続で10月の開幕戦は初めて胃が痛くなったほどだ。次回はPIST6を見守る人々に話を聞いてみた。

取材協力:PIST6

WRITER PROFILE

岡英史

岡英史

モータースポーツを経てビデオグラファーへと転身。ミドルレンジをキーワードに舞台撮影及びVP製作、最近ではLIVE収録やフォトグラファーの顔も持つ。