PIST6に関して前回のコラムを見て頂けると、中継収録とはどんな事なのか?技術者から見た中継収録はどのように成立しているのか?がわかって頂けたかと思う。

今回は特にPIST6を裏から支えている方々のインタビューを中心にまとめてみた。今回の中継で新しい技術を開発協力頂いている方、我々技術チームとのPIST6の橋渡しをして頂いている方、特に競輪選手の生の声は、筆者にとっても素直な言葉として非常に良い参考になった。

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車載カメラシステムと5Gの可能性

まずはPIST6で使用している車載カメラシステムの事をミクシィの鈴木丈之氏に聞いてみた。

――車載カメラシステムについて教えて下さい

鈴木氏:

最近、中継現場で簡易的にLTE回線やWi-Fiで伝送しているものがありますが、それのアプリ版です。システムを採用した経緯から話しますと、自転車に搭載するのにカメラと伝送機器が小型、軽量であることが条件でした。
さまざまな機器を試しましたが、スマートフォンでIP伝送するのが最適という結論に至りました。世界最小クラスのスマートフォンとDejero LivePlus。この組み合わせでPIST6の車載カメラは伝送されています。
Dejeroを採用した経緯は、他社に比べて伝送遅延が少なく、アップコンバート機能を備えていたためです。Dejeroは複数のネットワーク回線を束ねて使用できるので、免許不要の1.9GHz sXGPプライベートLTE回線と5GHz Wi-Fi無線LAN回線を弊社で構築し映像伝送に使っております。

――先日、ローカル5Gも使用されていました。今後は車載カメラにも使用されますか?

鈴木氏

弊社でローカル5G無線局免許を取得し、可搬型カメラで映像伝送を実施しました。今後はローカル5Gで車載カメラの映像伝送を目指しています。ローカル5G対応端末でレース用車両へ搭載できるものが無かったので、弊社に置いて概要設計、専用端末の製造(委託)を行っています。
現状の車載カメラ映像は540p/H.264をアップコンバートしたものなのですが、ローカル5Gを使用し、より低遅延でクオリティの高い映像をお届けしたいと思っております。

なるほど、聞けば聞くほど色んな事が想像できて面白い。今後更にどんな飛び道具が出て来るのか非常に楽しみでもある。

フリーランスというスペシャリスト

この規模の中継番組の場合、ほぼスタッフは、大手の技術会社の社員が出張って来るのが一般的だ。しかし今回はフリーランスが運営を行っている。筆者も最初は同じように感じていたし、今も大丈夫なのか?と自問自答している部分でもある。

フリーランスは自由が効くのと交換にケツ持ちがいない。良い事も悪い事も全て自分で解決しなければならないが、それが数万円単位の話ならいざ知らず、数千万、数億円にもなるギャンブルで失敗した場合のリスクは大きい。厳密には筆者自身もPIST6とは直接取引している訳ではなく、ブレーンズ山本氏から仕事を預かっている身だ。筆者の知る限り最高の技術を持ったフリーランスを集め本番に臨んでいる。

逆に今回フリーランスで固めたことをPIST6サイドの人間はどう考えているのか?株式会社PIST6 競輪事業本部 レース運用企画部 部長の荻原健二氏にその辺の疑問をぶつけてみた。

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演出・審判等の様々な情報をTV室で指示を出す荻原氏

――フリーランスばかりのチームに不安はありませんでしたか?

荻原氏:

正直不安がないと言えば嘘になります。しかし、ある意味フリーランスはクライアントに満足していただけないと次も使ってもらえないので、その厳しい世界を知っていることは何よりも重要と思います。
また、以前違うMTBの中継のお仕事の時に岡さんにお願いしてカメラ位置を変更したら抜群の映像を頂けたので、技術やセンスはもちろん、なんとかなると思っていました。ポジション的に難しい場所が2ヶ所ほどありますが、事前の撮影練習期間を作ればどうにかなると。また昔からお付き合いした時にフリーランスの強さは重々感じていましたので。

――最初に現行競輪とは切り離した映像を作りたいと要望をいただきましたが、その意味を教えて下さい

荻原氏:

まずはギャンブル目線を少しでもスポーツ目線に変えたかった!というのが最大の理由です。現行の競輪はとにかく引きの映像が大事で、お客様は全ての選手に大切なお金をかけていて自分が推しの選手が画面から消えたら「おいっ」となりますよね。しかし、それでは寄りの映像が撮影できません。ロングとアップとあって初めてスポーツにも映像にもリズムが出てくると思っています。

――今後PIST6としてどんな映像を伝えたいですか?

荻原氏:

難しい質問ですね。スポーツ性とギャンブル性のどこにコアを持ってくるかでいつも悩んでいます。しかし、日本が誇る新しいエンターテインメントとして世の中に残せればと思い、やり続けるしかないと思います。
そうなるとマリオカートみたいなサイマル的な映像になるのかなと。エンターテインメントが昔と違い、個々の楽しみ方に変化してきていると思いますので、あなたはこの映像、私はこの映像と取捨選択できるものを作りながらもオリンピックよりは絶対に良いものを作っていきたいですね。

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なるほど、確かにトラックレースとは言えギャンブルであることには間違いない。レース中の一瞬のスイッチングミスでレースの映像が途切れるとそれを見ているベッティングプレーヤーの中には「映像の修正=違反」があったのでは?とレース不成立を訴えてくる方もいると聞く。そんな中だと100%突っ込んだ映像を積み重ねていくのか、80%の安全マージンを撮った映像を積み重ねるのか、中々その判断が難しい所だ。

選手から見た映像演出

さて3人目は現役のレーサーである中村浩士選手に今までの競輪とは全く違った映像演出に関してインタビューをする事ができたのでこの映像をみて頂きたい。

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日本競輪選手会千葉支部長 中村浩士(競輪選手)

IDX製新型Vマウントバッテリー

今回IDXからENGのバッテリーの新製品を提供してもらう事ができた。DUO-C198P/C150P/C98Pの3機種でInter BEE 2021でも展示があったVマウントバッテリーだが、特筆すべきは充電が従来の専用器以外にも、Type-Cから直に充電できることだ。PDにも対応しているので短時間でより大容量の充電が可能となっている。カメラからバッテリーを外さずにそのまま充電できるのは嬉しい。急速充電で昼休憩の短時間の充電でも十分リカバリーできてしまうのだ。

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PIST6の現場は10時半から21時まで稼働しているが、DUO-C198Pの1本でも賄えてしまう感じだ。IDX製のTyap-C充電器もあるが、他のType-C充電器でももちろん問題ない。最近はノートPCの充電もPDを使ったType-Cがあるため、それでも十分可能なところが、このような現場ではマッチしていて使い勝手が良い。海外製品で似たような製品もいっぱいあるが、やはり業務で使うならしっかりとしたメーカーの物が安心できてお勧めだ。

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DUO-C198Pはこの手の現場で非常に使い勝手が良い

カメラマンがテクニカルディレクターやること

コロナが蔓延して3年、この間携わる撮影のあり方が変わった。毎週必ず撮影していたブライダルが1本もなくなったのはこの業界に入ってから初めてのことだった。しかし、代わりにライブ配信系のお仕事を頂けるようになり、一匹狼的な現場でこなしていたところからチームで1つの方向に向かう現場へと変わったことは大きい。その分野で超一流の方とご一緒させてもらう事により自分自身のスキルはかなり高くなったと思う。

そんな中、今回のPIST6ではTD(テクニカルディレクター)という立場を任せて頂けた。正直本当にできるのか?という不安もあったが、それは集まってくれた仲間が全て解消してくれた。

多分この現場を見た方だと「これでTDと言うのは甘いよ」と言われてしまうかもしれないが、一度に何台もの映像を見て瞬時に判断する昔のF3やGPを走っていた頃のレースポジションによく似た興奮を覚える。

PIST6は次のシーズンが始まって色々な演出がまた新たになり、それに合わせて表現もまた変えていかなければならない。非常に面白いポジションではあるがカメラマンから見た映像はどうしても長くなりがちだ。

理由は今捉えているカメラが次に何を撮るのか?このキープした映像からどう広がるのか?それが気になってどうしてももう少し先までと考えてしまう。つまりワンカメでの技量をもっと見たいという感じなのか?

長年SW(映像のスイッチング)をやっている方だと「えっ、そこで?」というタイミングで切るが、全体を見るとそちらの方が断然良い場合が多い。

これも一匹狼とチームでの違いと言えるだろう。TDとしてはまだまだ勉強が足りない。この仕事を預けて頂いた山本可文氏に「ええやん!」って言われるようにするのが今の目標の一つでもある。正直、たまにトラックでカメラを振るとそれはそれでメッチャ楽しいのは内緒だ。

取材協力:PIST6

WRITER PROFILE

岡英史

岡英史

モータースポーツを経てビデオグラファーへと転身。ミドルレンジをキーワードに舞台撮影及びVP製作、最近ではLIVE収録やフォトグラファーの顔も持つ。